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ヤマハ

 ホイールベース=1440mmという数値は846cm3の排気量から考えると短いけれど、一般的にハイパーネイキッド、ストリートファイターと呼ばれる中では、平均的なもので、全長も競合他社製品と大差はない。だけど、見た目の印象がものすごくコンパクトに見える。その理由はやはり直列3気筒エンジンが小さいからだろう。跨って上から眺めると、4気筒と比べると圧倒的に幅がない。アルミダイキャストフレームも出っ張りがなくスリムさに貢献している。知識がなければ2気筒と言われても信じてしまいそうなほどだ。

 タンク部分が高く、空気取り入れ口のあるシュラウド的な部分の形状、シンプルなリア周り、エッジの効いた面構成、メーターなんて変形した携帯タブレットのような美しさとシンプルさ。ヤマハからネイキッドとスーパーモタードのハイブリッドと説明があった。確かにスーパーモタードの香りはするけれど、それほど強くない。間違いなくこれまでになかったスタイル。

 正直に書くと、単体で外から眺めていた時は、新しさを認めてもこの姿にピンとこない気持ちがちょっとだけあった。ところが試乗が始まって、最初の組(私は2組目)の人たちが跨ってスタート準備をしているのをみて理解した。MT-09は人が乗るとしっくりくる。ライダーと組み合わさるとカッコイイのだ。このへんは、さすがヤマハとGKダイナミックス社のタッグだと思わせる。

 昔話で申し訳ないけれど、この個性的なオートバイを見ていると、80年代ハイパフォーマンスを競ったレーサーレプリカモデル全盛の中でヤマハが発売した、空冷単気筒スポーツのSRX400/600を思い出した。細部に至るまで革新的なデザインとスリムでコンパクトな車体。似ている。

 余談はそのくらいにして、試乗する直前に雨がパラパラと落ちてきたので、セミウェットからウェットに変わる路面状況。気温もそれほど高くない。エンジンの特性を3種類から選べるD-MODEが備わっていて、穏やかな方から「Bモード」「STDモード」「Aモード」とあり、用心して「Bモード」を選択した。

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ライダーの身長は170cm。
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 走り出して最初に感じたことは、前後のサスペンションが良く動くという事。しなやかにストロークする。コーナー進入でセルフステアがさっと入って、クルっと向きが変わる。これは大丈夫だとすぐに判断して「STDモード」に変更。「Bモード」に比べてスロットルレスポンスが良くなり、元気が出てきた。それでも、トルクの出方に唐突な部分がなく、軽く吹け上がって回転が上昇するにつれてパワフルさに拍車がかかる。 

 路面はもうウェットだったが、怖くなく、次第に速度があがり、コーナーで車体が倒れていく。パイプのハンドル位置は高く、確かにモタード風だけど、やはりちょっと違う。シート表面からステップまでの距離が小さいので、身長170cmでもしっかり土踏まずでペグを力強く踏み込むことが出来る。

 このウェットでも怖くなく積極的に運転して、こんなに楽しいのは、どこからくるのかを考えた。やはりこのストロークが大き目でよく動く足廻りとエンジンのおかげだ。動きながらもダンピングがしっかり効いてムチがしなるようにタイヤを路面に押し付けているよう。コーナーリングラインの頂点を過ぎて開けていくとリアサスペンションがグッと入って、旋回が気持よく決まる。この雨でも、ラインの自由度も大きい。どこからでも曲がっていける面白さ。遊び半分でシート外側の角にお尻を持ってきたリーンアウトで、オフロード&スーパーモタード的に足を出しながら乗ってみたけれど、これでも普通に曲がっていけた。まさに自在だ。

 直列3気筒エンジンとなれば、どうしても気になるのがTRIUMPHの3気筒エンジンとの比較だろう。スロットルの開けに対し機敏にレスポンスしガツンと前に押し出すTRIUMPHに比べ、MT-09の方が断然スムーズ。比較すると音も静かだ。ビギナーなら4気筒と説明されても気がつかないかもしれない。それでいてちゃんとパワフル。ワイルドなTRIUMPH、扱いやすさのMT-09。

 扱いやすいからって大人しいワケではない。スーパースポーツも含め大馬力の車両が普通になってきた昨今で110PSの最高出力は、普通に感じるかもしれないが、スペックで判断してはいけない。車体の軽さもあって「Aモード」に入れてフル加速をすると7千回転付近から力が盛り上がって、簡単にフロントが軽くなるほどだ。ブレーキの効きもしっかりしていて制御もしやすい。

 押すときに力が入れやすいハンドル位置、細くコンパクトな車体、軽さ、パワフルながら扱いやすいエンジン、日常でちょっとした買い物でも使いたくなるだろう。MT-09は、見た目以外も同じカテゴリーのライバルとは一線を画すもの。これで90万円を切った価格設定は戦略的だ。本気さがうかがえる。

(試乗:濱矢文夫)

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エンジンは新開発の“クロスプレーン・コンセプト”に基づく3気筒エンジン。“Synchronized Performance Bike”を具現化するため、846cm3の水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ、ダウンドラフト吸気方式を採用したFIエンジンだ。バルブ挟み角を26.5°(吸気13°+排気13.5°)と狭く設定することによりコンパクトな燃焼室を形成し、素早い燃焼による高トルクを引き出している。YCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)、軽量アルミ鍛造ピストン、振動低減を図るバランサー、トルク特性に貢献する不等長吸気ファンネルなどを採用。優れた走行性と燃費性を両立させている。また、ライダーの好みや走行状況に応じて制御マップを3種類から選択できる“D-MODE”を採用、STD モード、シャープなレスポンスを楽しめるAモード、穏やかで扱い易い出力特性を楽しめるBモードが用意されている。
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排気系は、エキゾーストパイプと3段膨張構造サイレンサーを一体成形した3into1タイプ。排気効率、消音効果だけでなくマス集中化による軽快なハンドリングに貢献している。エキゾーストパイプには、変色や錆、汚れ付着の抑止効果のあるナノ膜コーティング処理が施されている。 軽量で強度バランスに優れたアルミ製テーパーハンドルを採用。新設計の小型軽量スイッチ。シンプルながら個性的なメーターデザイン。 新デザインの軽量鋳造ホイール、新設計ラジアルマウント式フロントブレーキキャリパー、前後サスペンション調整機構(イニシャルおよび伸び減衰)、アルミ鍛造ブレーキ&シフトペダル、フットレストを採用。
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“マスフォワードシルエット”による自由に操れる軽快感、どんな方向にも動きやすい“塊”を連想させるマス集中デザイン。ネイキッドとスーパーモタードをハイブリッドさせた“異種交配造形”のイメージがMT-09の特長だ。 テール周りは極力コンパクト&スリムに。テールライトはLED。 前後長約400㎜のメインシートは、タンデム側との段差が少なく自由度のある乗車姿勢を可能としている。シート前端は、マン・マシン一体感を演出するため、グリップ性とフィット感に優れるフロステッドパターンの表皮を採用。ニーグリップ部を大きく窪ませた燃料タンクとともに、スリムなライディングポジションの実現に貢献している。
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●MT-09〈MT-09A〉主要諸元
■全長×全幅×全高:2,075×815×1,135mm■ホイールベース:1,440mm●最低地上高:135mm■シート高:815mm■車両重量:188〈191〉kg■燃料タンク容量:14L■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ■総排気量:846cm3■ボア×ストローク:78.0×59.0mm■圧縮比:11.5■燃料供給装置:フューエルインジェクション■点火方式:TCI(トランジスタ)式■始動方式:セルフ式■最高出力:81kw[110PS]/9,000rpm■最大トルク:88N・m[8.9kgf]/8,500rpm■変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク×油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):120/70ZR17 M/C 58W×180/55ZR17M/C 73W■懸架方式(前×後):テレスコピック×スイングアーム(リンク式)■フレーム:ダイヤモンド
※〈 〉内はMT-09Aのデータ
■車体色:ディープオレンジメタリック8(オレンジ)/ベリーダークバイオレットメタリック1(バイオレット)/マットグレーメタリック3(マットグレー)
■メーカー希望小売価格:MT-09 849,960円(本体価格787,000円、消費税62,960円)、MT-09A(ABS 搭載モデル)899,640円(本体価格833,000円、消費税66,640円)、4月10日発売。


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