順逆無一文

第42回
『軽いことは正義!?』


 先日、某メーカーさんの試乗会で50のスクーターから1800のクルーザーまで、とっかえひっかえ乗る機会がありました。最新の国産ニューモデルの乗りやすさときたら、まったくケチのつけようがないのですが、それでもひとつ気になることがありました。とっかえひっかえ乗る、というよりとっかえひっかえ車両撮影のために押し回していた時間の方が多かったのですが、最近のバイクって、なんて重たいモデルが多いのでしょう。
 
 超弩級クルーザーが重たいのは、まあそれもウリのひとつでしょうから、まあ置いとくとして(個人的にはそのM感覚はちょっと理解できない部分なのですが…)おしなべて、スポーツ・モデルでさえも重くなってはいないでしょうか。
 
 かつて“レーサー・レプリカ”が全盛の頃までは、パワーを追い求めるのと同時に、いかに車体を軽くするか、に腐心していたはず。それが、バイクにとっての冬の時代に突入、細々と命脈を保ってきた間になんだか“安全”と“クリーン”さを手に入れるためなのでしょうか、価格の上昇とともに、デバイスなどもあれこれと追加され、じわじわと重量も増してきてしまった気がするのですが。
 
 そうそう、昔は“パワー・ウェイト・レシオ”という言葉が金科玉条のごとく身近に聞かれた時代がありました。バイク雑誌の新車紹介ページではその数値を大きく表示していたりしましたよね。
 
 たとえパワーがあっても軽くなければそれはスポーツ・モデルじゃなくて“プレミアム・モデル”、スポーツ・モデルでは1kg、1gでも軽いことがまさに正義、の時代があったのです。今じゃ“パワー・ウェイト・レシオ”などという言葉自体、死語になってます。若い方の中には「そんな言葉知らねぇよ」という方もいるのでは。
 
 ちなみに、現在販売されている国内仕様車の半分以上が車両重量200kg以上なんですね。モンキー(68kg)からゴールドウイング(425kg)まで、142車中90台がオーバー200kg組みに入ります。
 
 スポーツモデルの頂点である“スーパー・スポーツ”のCBR1000RRでも202kg(ABS付では212kg)、YZF-R1も212kg。この200kgのボーダーラインをクリアしているモデルを見ると400クラスとそれ以下のマシンばかり。その中でも2台だけありましたオーバー400でありながら200kgを切っているマシンが。
 
 1台は、CBR600RRで189kg(ABS付ではぎりぎり199kgですが)。そしてもう1台が登場したばかりのMT-09。なんと188kg(ABS付でも191kg)です。この重量の数値だけでもとても興味を惹かれますね。
 
 現在の技術をもってすれば、パワー上げるだけならさほど難しい話じゃなく、むしろ燃費やクリーン度を高めるために最高出力は、意図的にほどほどで抑えられている感さえあります。やはり“環境”対応に全力投球されているのでしょう。それと昨今の新車は、絶対出力よりも、出力特性、それも中低速域でのレスポンスだったりトルク特性だったりに焦点が当てられていますよね。特に国内専用車両ではあえて最高出力を抑えてまで低中回転域を充実させる方向でしょう。
 
 すでに軽量化というのはとても金のかかる開発要件となってしまっているのではないでしょうか。素材的に開発の余地があった’70年代や’80年代と違って、今やこれ以上の軽量化をマテリアル面から進めるには相当の費用がかかります。またIT技術の進歩でデザインや構造解析が簡単に、スピーディーにできるようになったおかげで、こちらからの軽量化のアプローチの余地もどんどん限られてしまってきているのでしょう。
 
 そしてなによりも、ユーザーからの要求がほとんど無くなってきているのではないでしょうか? 車重のことなど特に考えたこともない。重量なんて自ずと決まっていくもの。多分こういったユーザーの関心の低さが、軽量化の技術革新が止まってしまっている一番の理由なのでしょう。
 
 環境対策や燃費対策が一段落したら是非とも最新技術を投入して軽量化に本気で取り組んでいただきたい。国内のバイクの利用環境を考えるなら、リッター・クラスでもスポーツ・モデルなら200kg切りが当然でしょう。海外のように一度家を離れれば200km、300kmと一気に走れてしまうような環境では重量よりも性能や快適性が重要でしょうが、どんなに田舎へ行っても信号があり、道幅は狭く、駐車環境の劣悪な我が国のバイク利用状況ではスーパー・スポーツであろうと、超弩級クルーザーであろうと軽ければ軽いほど正義、というものです。それに軽ければそれだけ燃費にも優しいはずですよね。
 
 性能を追い求めた時代の次は、安全・環境の時代でした。グローバル時代にあっても国内市場も重要と考えていただけるメーカーさんなら、国内モデルは今後軽量化に狙いを定めてみてははいかがでしょうか。
 
 リターンライダー達もどんどん高齢化していきます。若い世代にバイクに乗ってもらうのも大切ですが、年寄り世代もまたバイクに乗り続けることを考えるなら、是非とも軽量化を。250kgのゴールドウイングなんて登場したら、まだまだ潜在需要が掘り起こせるはずです。
 
 年寄りライダーの戯言でありました。
 
(小宮山幸雄)
 


●国内モデル重量ランキング

車重ランキング
 

●二輪車増税見直しの署名運動にご協力を


 ニュースのコーナーでもお伝えしたが、<一般社団法人>日本二輪車普及安全協会がWEBサイトで「バイクの税金、軽自動車税引き上げに関する署名活動」を行っている。当コラムでも紹介したが、政府は2014年度の『地方税改正』を閣議で正式決定。特に二輪車では大幅な増税(原付などは一気に倍増)が実施されることになった。そんな二輪車のユーザーの生活を無視した一方的な引き上げの見直しを求める署名というわけだ。たかだか千円が2千円になるだけ(原付一種)などと言うなかれ。駐車場問題といい、この前例のない一気に倍増、などという“暴挙”といい、二輪車ユーザーの生活や意向などまったく無視したかのような姿勢が正されない限り、今後更なる“無理難題”を一方的にバイクユーザーに押しつけてくることは確実。
 
 とにかくどんな形でも良いから、二輪車ユーザーは、常に声を上げるべきでしょう。多少の主義主張の違いはあるかもしれないですが、二輪社会にとって、プラスの分とマイナスの部分を比較してプラスが多ければまずは行動を。
 
■一般社団法人日本二輪車普及安全協会
TEL:03-6902-8190
http://www.jmpsa.or.jp/
 
「バイクの税金、軽自動車税引き上げに関する署名」ページ
https://www.jmpsa.or.jp/voice/signature.html


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 

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