バイクの英語

第39回「Where are you from? 
(ウェア アー ユー フロム?)」

 バイクの英語、といいつつほぼバイクに関係なく、かつ交通事情やら交通マナーに対する不満を書き連ねるコラムみたいになってて恐縮です。しかもちょっとお休みしてしまいました。担当編集から催促も来なくなると、こりゃとうとう見捨てられたな、と落ち込むのですが、そもそも自分が書いていないだけで見捨てられたというよりはこちらが裏切った形なので担当編集はどちらかといえば被害者。これがウェブの怖さですね。紙媒体だったら締切ブッチ=空白ページですもの……。

 気になる事項をなんとか英語にこじつけるコラムですが、最近気になっていてかつ英語にこじつけにくいのはBCG注射。かわいい姪っ子がこの注射を受けたのだけれど、いわゆるハンコ注射で上腕部にペッタンとやられる。これって誰も疑問を持たないものなのでしょうか? ましてや女の子だよ?? このハンコ注射の痕って大人になっても残ってる人が多い。キャミソールから伸びる美しい腕にこのハンコがあると残念な気持ちになるのだけど、世の中は平気なのかしら。
 決してモンスターペアレンツ(ってかモンスターアンクル)になるつもりはないけれど、これは配慮が足りないでしょうよ。別にね、保育園でケガして帰ってきたってそりゃ故意じゃなかったり事故だったりで、そんなことに目くじら立てるつもりは毛頭ないのだけど、誰もが受けなきゃいけないハンコ注射はさ、上腕でもせめて目立たない内側にするとか、大腿部やお尻にするなどの優しさがあってもいいでしょう。この話をすると「だってそれが普通だから」みたいな反応をもらってしまって誰もそれを疑問に思っていないようなのだけど、その意識はマズいよ。高速道路の真ん中車線を80キロで走り続けて「だって走行車線だもん」とノタマウ阿呆と同じ。疑問を持たないと!

 さて、今回の英語はそれとはまったく違うんです。出たばかりのCB650F/CBR650Fに触れて感じたことです。
 この新作ホンダCB650の2台も、NCシリーズも、世界に供給される多くの車体はタイで作ってるそうです。でもどちらのモデルも「日本国内向けモデルは熊本で組み立てしています」とのこと。これは僕は大変嬉しく思っていて、ホンダの理念の中にも「需要のあるところで生産する」というのがあるけれど、やっぱりね、HONDAのエンブレムがついてるバイクで日本を走るんだったら国内で作られていてほしいという気持ちがどっかにあるわけです。
 もちろん、海外生産品の品質を怪しんでいるわけではないですよ。しっかりとした品質管理で作られていれば、その生産地域がどこであっても品質は保証されるでしょう。今やトライアンフやBMWだってアジア・南米に工場を持つ時代。大人気のKTM小排気量DUKEシリーズだってインド生産。どこで作られているのかは品質にはあまり関係ないと思っています。だけれどホンダの理念にあるように、需要がある地域で生産すればその地域に労働力を生むことになるわけだし、輸送などに手間や労力や燃料やリスクをかけなくて済むわけだ。農産物では地産池消なんて言われるけれど、農産物だけじゃないでしょう。バイクだって地元の人が作って、地元の人が乗って、地元の人が修理して、地元の人が廃棄すれば地元経済に貢献するわけです。愛着もひとしおでしょう。
 そんなわけで、パーツの多くは海外で作られているのでしょうけれど、それでも最終的な組み立ては国内で行われているCB650やNCが筆者は好きなのです。

※    ※    ※

 今月の英語は、ことわざというわけではないですが、言い回しというか、そんなところ。
 外国人として日本に生きる筆者は、事あるごとに「ナニ人?」と超ぶしつけに聞かれます。これが結構めんどくさかったり腹立たしかったり。だって初対面で4言葉目ぐらいに聞いてくる人が多いんですよ! 失礼でしょういくらなんでも! 普通は初対面だったらちゃんと挨拶を済ませたうえで、共通項目を見つけて会話を発展させて、その上で気を許すというか、もろもろ擦り合わせが済んだ頃に「ところでご出身は?」などと聞くのがマナーでしょう。
 特に筆者はロシア国籍ながら北海道で育ったため、第一言語は完全に日本語。英語は少々、ロシア語はかなり怪しいといった感じ。「ナニ人?」と聞かれて「ロシアです」と言っても、ロシアのことを大して知っているわけでもなく住んだこともないんだからそこから何ら会話が発展することはない。
 日本はまだまだ多国籍ではないせいか、こういった枠組みに入れたがるというか、「こいつはナニ人だからこういう奴」みたいなカテゴライジングをしたがると感じていて、これがまた結構イヤなんですよ、中途半端な外国人としては。「コサックは得意?」とか「ウオッカはどれだけ飲める?」とか。あぁめんどくさい。知らないよそんなの、北海道についてなら何でも聞いてくれ。国籍で「いったいこの僕の何がわかるというのだろう」ってブルーハーツも言っていたじゃないか。
 なので、真面目に答えることはまずありません。
「フランスです。父は宗教画家だったのですが迫害にあってモロッコに逃げて、そこで知り合った女性が母です」
「南アフリカです。金山の鉄道員の息子です。日本から来たバイヤーとの間にできた子供が僕です」
「ギニアです。ニューギニアではない方の、オールドギニア。カレドニアの隣ですね。海洋学者の母がオオトカゲの研究をしていたのを覚えています」
「沖縄です。父は米兵です」
「ローデシアです。キリンの密猟をしていました」
……なんだっていいんですよ、答えさえすれば。素直に「北海道です」って言ったって誰も納得しないんだから。「え? だって見た目外人じゃん。国籍は? お父さんはナニ人? お母さんは?」なんて畳みかけられる。モノスゲー余計なお世話。だいたいそんなぶしつけな聞き方をする人は大した知識もないことが多く、「キルギスです。すでにうちの土地は海底ですが」と言っても「???」であり、会話がそこから発展することなんてないのだから。そうですね、適当に答える時はわざとなるべくカテゴライジングしにくい国名を答えて、聞いた人を困らせるようにしてます。

 西洋社会では「ナニ人」なんて聞くことはまずありません。見た目と国籍が異なることなんていくらでもありますし、○○系○○人みたいのがたくさんいて、カテゴライジングは困難を極めるということが大きいでしょう。出身を聞くときに使われる言葉が、この「where are you from?」です。直訳すれば「あなたはどちらから来たの?」という質問、丁寧な日本語にすれば「ご出身はどちらですか?」ですね。これは国籍を聞いているのではなく、聞いているのはあくまで出身地、すなわち生まれた、もしくは育った土地のことです。なので筆者もロシアに帰った時には「I’m from Japan」と言うわけです。物心がつき、育った地域は日本であって、自分という人間のバックグラウンドにある文化は日本文化だからI’m from Japanなわけで、国籍とは関係ないのです。
 相手もそもそも「what’s your nationality?」(あなたの国籍は?)と聞いているわけではないし、こちらがJapanと答えた時点で、例え見た目が完全にロシア人でも「日本から? へー、日本ってどんなところ?」とそこから会話が始まる。「where are you from?」(ご出身はどちら?)とはさらにこの人のことを知りたいという建設的な質問であり、対する「what’s your nationality?」(ナニ人?)というのはとても堅苦しく事務的で、カテゴライジングするためだけの質問に感じるわけです。

※    ※    ※

 さて、これを踏まえたうえでCB650とNC。いずれもHondaのエンブレムがあるんだから間違いなく「国籍」は「日本」でしょう。しかし同じバイクの海外向け仕様はタイで作られているし、国内向けだって多くの部品はアジア生産でしょう。「where are you from?」と聞いたらなんて答えるかな?
「エンジンは日本で組み立ててからタイにもっていってフレームに積んで、その状態で熊本に戻ります」
「ゴム部品はベトナム製が良いんですよ、耐候性が高くて」
「タイヤはイタリアブランドが良いんですが、最近はそれも中国で生産しているので日本よりタイの方が入手経路が単純なんです」
「締め付けトルク管理など、熊本の機械の方が精度が高くて、完成車ではやっぱり日本国内向けのが一番きっちり仕上がってるような気もしますけどね??」
……なんて言う話が飛び出すかもしれません。
「where are you from?」と聞いた方が話が膨らむでしょう? 「what’s your nationality?」では、答えは「日本車」→「あぁ、じゃ良くできてて壊れないのね」(というイメージにカテゴライジング)というつまらない展開。いかがですか?

 これから日本はますます多国籍な国になり、グローバルな社会になることでしょう。国籍を聞いても発展性はほぼゼロだと認識し、例え見た目が日本出身者に見えずとも、日本出身者が増えてきますし、大きく日本のブランド名が書いてある商品でも海外生産品がますます増えるでしょう。個人が持つステレオタイプなカテゴリーにハマらない、様々な商品や人々がいる社会をうまく楽しみ、かつ非礼の無いように生きたいものですね!


筆者 
ヴィタリー・ホーヴェロフ


CBR650F

 ハバロフスクの生まれながら、幼少時にサハリンに移り、その後母の故郷である留萌で育つ。牧場で運転するトラクターに興味を示し、若くして4輪のレースに参戦。しかしその後オロロンラインの夕日に魅せられハーレーライダーに。199㎝・188kg。見た目は元大関把瑠都。好物は行者にんにく。


[第38回へ|第39回|第40回]
[バイクの英語バックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]