順逆無一文

第44回『CBR250R』

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 今月も、このところ通勤マシンとして使っているCBR250R関連の話題です。


 年寄り世代としては「CBR250R」というと、わずか249ccの排気量ながら4気筒エンジン! を採用した量産市販車、’80年代に人気を集めたCBR250Rをどうしても思い出してしまうんですね。


 1986年4月にデビューした時はCBR250Rではなく、4気筒を強調するためか、CBR250FOURという名称での登場でした。RC160やRC161(ホンダの4スト4気筒250レーシングマシン)といった初期のホンダレーシングマシンの活躍の記憶をほぼリアルで持っている世代ですから、CBR250FOURが登場したときは、まさにレーサーレプリカの出現だと興奮したものでした。


 4気筒DOHC4バルブを駆動するのは、レーサーからのスピンアウト技術といえる“カムギアトレーン”で、クロモリ浸炭コンロッドに4連装キャブ、ストレート吸気、などとホンダファンの心をくすぐるハイスペックのてんこ盛りでした。レッドゾーンは驚異の17,000回転。


 CBR250Rの名称となったのは、翌1987年3月。ハーフからフルカウルへと変身、エンジン面でもキャブのボア径アップや排気系の容量アップ、そして吸・排気弁の大径化などが行われ、レッドゾーンはさらに18,000回転へとアップ。ただこの時のリリースでは、CBR250FOURのモデルチェンジ版というわけではなく、あくまでタイプ追加とされていました。


 そして翌年の1988年5月、スタイリングも完全にレーサーレプリカに発展した二代目CBR250Rが登場。デュアルヘッドライトのレプリカカウルに異形五角「目の字」断面構造を持つアルミ製ツインチューブ・フレーム、容量アップのエアクリーナーや、32mm径キャブ、シリンダーヘッド形状の変更などにより、出力こそ45PSと変わらないものの、より幅広い回転域での使い勝手を高めたエンジンなど、完全な新型マシンへと発展しました。


 このように、まるでレーサーの様に毎年のごとくモデルチェンジが許されたのが黄金の’80年代でした。型式も’86年のMC14に始まり、’87年のMC17、’88年MC19と変わってます。ちなみにこの250レーサーレプリカですが、’90年に本気度100%のレプリカとしてCBR250RR(MC22)“ダブルR”へとフルモデルチェンジした後、’94年まで改良されて継続発売されました。
 
        ※


 さて、現代のCBR250Rです。当時のCBR250Rと比べることには、あまり意味はないと思いますが、一応リアルに初代CBR250Rも体験した一ライダーとして思いつくことを書いておきます。


 第一期のCBR250Rですが、想像されるほどに低速が無いと言うことはありませんでした。2スト勢のキレの良さにはまったく敵いませんでしたが、一度走り出してしまえば、とにかく回るエンジンですから、回転を落とさないように回して回して楽しむ、そんなマシンでした。呆れるほどに回る。ライダーの体感的にそろそろレッドか、というところからさらに二回りは回せる、そんなイメージです。


 現代版のCBR250Rのレッドは、わずか10,500rpm。しかし、一昔前のシングルエンジンのイメージはまったくありません。軽々とストレス無く、レッドゾーンまできれいに回ってくれます。排気音と若干の振動をのぞけばシングルか、ツインか分からないレベル。


 そう、それこそがホンダ開発陣の狙いでしょう。現在のホンダはかつてのハイメカ一辺倒から切り替えて、必要な所に必要なメカニズム、を実践してきているように感じます。ニューCBシリーズ、CB400F、CBR400Rに搭載されたツインエンジンもその思想の下に開発されたのでしょう。ツインエンジンでありながら、まるで良くできた4気筒エンジンのごとくストレス無くヒュンヒュンと回り、エンジンの形式など意識することなく気持ち良く走れる。4気筒である必然性がない(CB400Fのエンジンは造形も十分に美しいです…)。


 今年の4月に外観を一新し、各部の熟成を図った新型CBR250Rでは、ホンダのその方向がより顕著になったといえるでしょう。スタイリングは完全に兄貴分達と共通するスーパースポーツスタイルとなりました。そしてパワートレーンはといえば、インレットダクトとコネクティングチューブの形状、バルブタイミングを変更することにより、低中速域のトルクをキープしたままでパワー特性がチューンナップされました。また、それに合わせて専用のギア比を持つミッションが採用されるなど、走りの質が大幅にグレードアップされています。エンジンに求めている要件は、あれこれ語れる型式やメカニズムといったものではなく、あくまでライダーにとっての使い易さ、楽しさということなんですね。


 一部のマニア向けモデルはおいといて、一般的なスポーツモデルのパワートレーンはブラックボックスでいい。必要なパワーをライダーの意志に忠実に提供できさえすれば、そのメカニズムにはこだわらない、ということなのではないでしょうか。NCシリーズなど、その発想の最たる例でしょう。古くからのホンダファンからすれば、NCシリーズのパワープラントはクルーザー用としてなら受け入れられても、スポーツモデルのエンジンとしてはなかなか抵抗感があったのではないでしょうか。はじめからNM4用として開発されたというのであればもっとストレートに受け入れられた気がします。


 好き嫌いはともかく、このままテクノロジーが進化すれば、今後さらに、パワープラントは内燃機関からバッテリー&モーターの時代に切り替わっていくのは確実でしょう。そしてNM4などに示されるように、外観からは一切エンジンの存在が見えなくなるデザインが主流となれば、もはやパワープラントは、エンジンの型式どころか、モーターでも一向に構わない。いかにライダーが気持ち良くパワーを使えるか、にすべてがかかって来ることになる。まさにそういう時代は目前です。


 また別の視点から見れば、今後さらに厳しくなるであろう騒音規制などを考えると、エンジンを裸のままむき出しにしておくなど言語道断。カバーされてしまうなら、もうエンジン型式うんぬんなど単なるオーナーの自己満足、サービスエリアでの会話のネタ程度の役目でしかなくなるのではないでしょうか。


 こんなこと書くとお叱りのメールを頂きそうですね。でも数年の単位でならともかく、数十年のスパンで考えると内燃機関の寿命はすでに見えているのは事実です。さらにライダーにとっては、怖い話題もあります。クルマの世界でどんどん進んでいる“自動運転”です。


 事故を無くす切り札として官民上げてのバックアップで、間もなく正式に導入されようかという勢い。そんな時代に二輪の存在はどうなるのでしょう。二輪も、転倒しない、自動で走ってくれる…なんて技術を導入しなければならない、なんてことになってしまうのでしょうか。いや、危険性の高い二輪など、わざわざ高価な技術を導入などしなくとも、交通社会からはじき出してしまえばことは簡単ってことにも。これまでの数々の二輪無視の施策を行ってきた我が国の歴史を考えればなきにしもあらず、です。50年もバイクに乗り続けていると、見たくないことも見えてきてしまいますね。


 私は、それでも自分の操縦で、そして二輪で走れる限りは、パワープラントが何であれ、走り続けたいと思います。あっ、そんな先まで生きていないか…。


 バイクを思う存分楽しみたいのなら「今でしょ!!」


(小宮山幸雄)
 
   
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■CBR250FOUR(1986年4月25日発売)
250ccクラスで初のカムシャフトをギアで駆動する水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブエンジンを、アルミ製「目の字」断面チューブフレームに搭載して発売。ヘッドライト一体式ハーフカウルを採用。スポーツモデルとして登場。
■CBR250FOUR(特別仕様限定販売車、1986年7月11日発売)
CBR250FOURにアンダーカウル、アルミ風サチライトカバーマフラー、特別車体色のキャンディアリューシャンブルー、そしてスペシャルエディションの文字を車体側面にデザイン。限定2,000台。
■CBR250R(1987年3月20日発売)
フルカウルを採用。軽量高剛性アルミ製リアフォーク、ジュラルミン製ペダル、後輪ディスクなどを採用。エンジンはキャブレターをボアアップ、排気管の容量アップ、吸排気弁の大径化、慣性重量の軽減などを行った新エンジンを搭載。第一期CBR250Rの初代。
■CBR250R(1987年8月発売)
カラー&グラフィック変更。
■CBR250R(1988年5月13日発売)
デュアルヘッドライト装備のフルカウルを採用。大容量エアクリーナー、φ32mmキャブレター、シリンダーヘッドの改良などが行われた新エンジンを異形五角「目の字」断面フレームに搭載。2代目CBR250R。
■CBR250R(1988年7月発売)
カラー&グラフィック変更。
■CBR250R(1989年2月20日発売)
カラー&グラフィック変更。タンクに新たにクリア塗装、前後ホイールに粉体塗装。
■CBR250RR(1990年3月19日発売)
エアクリーナーからキャブレター、燃焼室に至るまでの吸気通路をほぼ一直線に配し、新設計のポート形状と相まって高い充填効率を発揮するニューエンジン。フレームや足周りも「高次元ヒューマン・フィッティング」思想で再開発したスーパースポーツ。
■CBR250RR(1990年6月発売)
カラー&グラフィック変更。
■CBR250RR(1991年1月発売)
カラー&グラフィック変更。
■CBR250RR(1992年5月28日発売)
カラー&グラフィック変更。
■CBR250RR(1994年6月24日発売)
カラー&グラフィック変更。バルブタイミングや排気管の構造変更により中低速域での出力向上。ただしこの第一期CBR250シリーズのラストモデルの最高出力は40PSに抑えられていた。
■CBR250R(2011年3月18日発売)
“Sport Quarter for One World, CBR250R”をキーワードにグローバルモデルとして開発。軽量コンパクトな水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブエンジンを新開発のトラス構造フレームに搭載して登場。第2期CBR250Rの初代。
■CBR250R(2012年11月29日発売)
カラー&グラフィック変更とともにシート両サイドの形状をスリム化。Special Editionを2タイプ設定。
■CBR250R(2014年4月24日発売)
二眼タイプのヘッドライトを採用したニューカウルをはじめボディデザインの変更。エンジンも吸気系やバルブタイミング、マフラー形状などを改良した新型エンジンを搭載するモデルチェンジ。
■CBR250R<ABS>Special Edition(2014年5月20日発売)
CBR250Rのモデルチェンジに合わせてMotoGPで活躍している“Repsol Honda Team”のカラーリングを施した受注期間限定モデルを発売。
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●CBR250R 主要諸元
■型式:JBK-MC41■全長×全幅×全高:2,035×720×1,125mm■ホイールベース:1,380mm●最低地上高:145mm■シート高:780mm■車両重量:161〈164〉kg■燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃費値50.1km/L(60km/h)、WMTCモード値32.4km/L(クラス3-1)■燃料タンク容量:13L■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ■総排気量:249cm3■ボア×ストローク:76.0×55.0mm■圧縮比:10.7■燃料供給装置:フューエルインジェクション(PGM-FI)■点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火■始動方式:セルフ式■最高出力:21kw[29PS]/9,000rpm■最大トルク:23N・m[2.3kgf]/7,500rpm■変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前×後):油圧式シングルディスク × 油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):110/70-17 M/C 54S × 140/70-17M/C 66S■懸架方式(前×後):テレスコピック × スイングアーム(プロリンク)■フレーム:ダイヤモンド
■車体色:ミレニアムレッド、ブラック、ロスホワイト
■メーカー希望小売価格:498,960円(本体価格462,000円)、ロスホワイト、515,160円(本体価格477,000円)、ABSモデルは本体価格で47,000円アップ、4月24日発売。CBR250R<ABS>Special Edition、576,720円(本体価格534,000円)、5月20日発売。


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小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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