おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第42回 長尾峠・箱根スカイライン


長尾峠は箱根町と御殿場市の間にある峠で、標高は911m。長尾隧道の西側は静岡県道401号線、東側は神奈川県道736号線で、どちらも国道138号線と接続しており、距離は箱根側3.5km、御殿場側7km。双方、タイトコーナーが連続するワインディングだ。また、御殿場側=西側のトンネル出入り口は箱根スカイラインとつながっている。箱スカは静岡県道路公社管理の山岳観光有料道路で延長5km。変化に富んだ道で、見晴らしのいい区間もある。

●靜岡県道路公社公式サイトhttp://siz-road.or.jp/sz/road/hakone//


MAP

 前回、芦ノ湖スカイラインを取り上げたので、今回はそれと接続している箱根スカイラインと、その箱スカとつながっている長尾峠の道について書くことにする。箱スカを最初に走ったのは芦スカと同じ時(70年代半ばに富士五湖及び箱根を巡った旅)だった。そして、芦スカ同様に、80年代から90年代、00年代にかけては、仕事でも遊びでもお世話になった(芦スカほどの頻度ではなかったが、多い年は2月に1回くらいのペースで利用した)。

 靜岡県道路公社の管理で、取材・撮影で使わせてもらう場合、事前に申請しなければならないらしく、申し込みは2週間くらい前に、というような話も耳にしていた。ただ、取材の日程は天候に左右されるし、撮影といっても小規模で済ます程度だったので、ゲリラ的に行うことが多かった(ゴメンなさい)。当然、250円の通行料はちゃんと払いました。ルートとしては、芦スカからそのまま乗り入れて県道401号線で御殿場に抜けることもあり、その逆コースのこともあった。

 距離は5kmと短めだが、道の構成は変化に富んでいて、低速の回り込んだコーナー、中・高速コーナーなどが複雑に組み合わされ、短か目のストレートもいくつかある。そしてセンターラインがイエローの区間とホワイト破線の区間とが混在している。だがコーナリングを充分楽しめる。また、北側にある料金所付近など、富士山を拝めるポイントもいくつかあり、駿河湾を望める場所も。ほぼ中間点と思われるところに芦ノ湖展望公園(九嶽駐車場)があり、芦ノ湖やその向こうにそびえる箱根の山並みを眺望できる。好天時の眺めは最高!

 ただ、芦スカとは異なって、引きがなかったり、背景がいまひとつだったりして走行写真を撮るのに適したコーナーは少ない。だから、走り写真は芦スカで撮り、箱スカではその駐車場などで止まり写真を簡単に撮る、と使い分けていた。バイク仲間との私的なツーリングで走るときは、御殿場ICから国道138号線、県道401号線をつないで箱スカに入ることが多く、距離が短いこともあって箱スカを一気に駆け抜け、芦スカに入ってから一休みしていた。

 長尾峠は芦スカや箱スカとセットで使うことがほとんどだった。80年代の一時期、箱根側から入ってトンネルを抜け、箱スカ~芦スカに向かうこともあり、県道401号線を下って御殿場に行くこともあった。だが、その後は御殿場から国道138号線の「乙女峠入り口」まで行き、そのT字路信号を右折して県道を登り、箱スカ~芦スカ、というルート(その逆のケースもあった)が主になり、トンネルを抜けて箱根側の県道を走ることはなくなった。ただ、トンネルの御殿場側付近で止まり写真を撮ったこともあったなあ。

 そういえば、県道401号線には恥ずかしい、ちょっと苦い思い出がある。80年代前半、当時はバイト先のバイク仲間10人前後でよく日帰りや一泊ツーリングに出かけていた。そのときは伊豆半島に日帰りツーリングに出かけ、御殿場側から401号線に入った。季節は秋で、寒くなり始めた頃だった。中間点を過ぎたあたりのタイトな右コーナーだった。路面が荒れていたのを見て、寝かせていたGS750Ⅱの車体をほんの少し起こした。それでも曲がり切れるはずだった。が、前輪は外側の側溝に落ちた。そこからがちょっと面白い。

 なんとブレーキディスクで少し走り続けてから(側溝手前の荒れ気味のアスファルト路面か、コンクリートの側溝のヘリの部分をディスクで走った)停車。幸い転倒せずにすみ、ディスクをはじめ走行に支障をきたすダメージからも免れた。怪我もしなかった。人数が多かったのでGSの前輪を側溝から路面に戻すのは容易いことだった。苦笑いしながらその場を後にして伊豆スカなどを走り、予定どおりのコースで伊豆の奥石廊まで行き、東京に帰った。

 トンネルを挟んで箱根側には「見晴らし亭」茶屋があり、仙石原などが箱庭のように見渡せる。80年代前半、初めて箱根周辺を取材し(乗り手2人とカメラマン1人)、その茶屋で味噌おでんなどを食しながら休憩したことをよく覚えている。また、個人的なツーリングで長尾峠を通ったときも何度か小休止した。3.11の東日本大震災の影響で建物の安全が損なわれ、現在は営業停止しているようだが、残念だ。御殿場側にも富士見茶屋があったが、こちらも閉店してしまっている。かつてはその茶屋で昼食を摂ったこともあった。

 御殿場側の県道401号線は一部区間で長い裾野の富士山がドーンと真正面に見えるポイントがいくつかある。中間点くらいのところに茶屋があり、そこからの富士山と御殿場市内の景観は素晴らしい。その茶屋でも何度か足を休めたことがある。「おしるこ」などをいただくことができたと思うが、今でも営業しているのだろうか…。高速道路網の充実の陰で、国道沿いのドライブインや峠付近の茶屋が消えていく。そういうケースは日本全国どこにでもある。

 寂しいことである。地方の市や町の商店街とて同じことで、バイパス沿いに繁殖し続ける大手チェーン店に客を奪われてシャッター街になっている。周知のことだが、何もかもがそういう方向に進んでしまっていいのだろうか。そういうことも含めて、アナログ的オヤジの俺としては、昨今の世の中の変わり様を、手放しで喜ぶことができない。というより憂いを抱かずにいられない。



箱根スカイライン


箱根スカイライン
2007年、当時のミスター・バイク誌の撮影風景。長尾峠や箱根スカイラインは通過することは多々あったが、写真は意外と撮っていない……。


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、17年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万3000km。

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