順逆無一文

第45回『形骸化された裁判員裁判』


 今年の7月24日は、我が国の裁判員裁判システムの存在意義が無くなった日として後世に記憶されることでしょう。
 
 裁判員裁判の存在そのものの意味を無くしてしまうことにつながる量刑判断の変更を、最高裁が自ら行ってしまった日なのですから。
 
 これまでも一部の下級審では、“プロ”の裁判官の意見により、裁判員たちの民意に裏付けられた判断は、修正につぐ修正にさらされ、結局は従来の裁判官による前例踏襲判決と何ら代わらぬ判決が誘導されてしまったと思われる判決も多々あったのですが、それでもこれまでは下級審でのこと。今回は、あとの無い最終決定、最高裁においての判断でした。
 
 一審で裁判員たちが議論を尽くして出した判断を「どシロートが導き出した前例無視の感情に流された判決」と歯牙にも掛けず、自分たち“プロ”の世界での常識、旧弊、前例に則った判決に変更してしまったというわけですね。これまで多くの方々が裁判員に選ばれたことで余計な時間、手間、そして熱意を持って活動されてきたことに対して、我が国の司法の頂点は、まったく評価に値しない、と意志表示をしたということ。もはや存在意義を無くしてしまった裁判員裁判システムなど、即刻廃止するべきでしょう。
 
 時間も、費用も、そしてなにより、この日本を良くしたいという国民の誠意をこれ以上無駄にしないためにも。
 
 事件そのものはまた別の論点で語られるべきですが、一応触れておくと、大阪の寝屋川市で起きた“1歳の女児虐待死”事件の裁判。両親が共謀して暴行し死なせるという悲惨な事件でしたが、裁判員たちにより導き出された判決は、従来、このような事件で出されていた2~12年、多くが6年という生ぬるい前例判決とはかけ離れた懲役15年。
 
 常習的な幼児虐待に始まり、そしてついには、傷害致死か殺人かの狭間といえる凶行となった。このような幼子に対する虐待許すまじ、の総意で導き出した裁判員裁判の一審判決が懲役15年という判断だったわけですね。それに対して被告側は上告。二審も裁判員の出した1審判決を支持しましたが、さらに不服として被告側が上告したことにより最高裁に持ち込まれた結果、出された結論が今回の、いわゆる前例主義、右習え方式の懲役わずか10年(母親は8年)だったというわけです。
 
 裁判員裁判制度が始まった趣旨はご存じでしょう。
 
 あまりに民意と乖離してしまった裁判所のプロたちによる“前例至上主義的”な判決を改め、国民から選ばれた裁判員に“民意”に沿った判決を出してもらう、ということだったはず。
 
 真の犯罪者には手ぬるい警察、そして旧態然とした司法。善良な国民が日常的に感じている犯罪者に対する怒りとはあまりにかけ離れた現状を正すべく始まったシステムだったはずでしたが、これですべて終わりました。
 
 さらにいえば、今後もこんな前例主義が通用するようなら、そのプロの裁判官すら必要ない。最新のコンピューター技術を駆使して前例、情状酌量等のデータを蓄積し、それを元にコンピューターが判断し、判決を導き出すシステムを作れば、余計な感情が入り込む余地のある人間など一切介在させずに、プロの裁判官達が大好きな“平等で画一的”な判決が出せるようになるでしょう。
 
 ちなみに今回、裁判員裁判が出した量刑判断を初めて最高裁の立場でひっくり返してしまった第1小法廷の裁判長、白木勇裁判長の名は少なくとも次の「最高裁裁判官国民審査」までは記憶しておくべきでしょう。
 
 それにしても多くのマスコミが、通常の裁判報道程度にしかこの最高裁判断を扱っていないのはどういうことなんでしょうね。ネットユーザーから目の敵にされ始めている「真実を伝えないマスゴミ」に成り下がってしまったというのでしょうか。
 
 バイクとは一見関係のない話題を取り上げたと思われたでしょうが、実は我が国の司法の本性が見えてしまった、とんでもない出来事なのです。好むと好まざるとに係わらず、日常的に道交法などの法律と身近に接して生きなければならないライダーなら是非とも知っておいていただきたい話題、と思った次第。
 
       ※        
 
 それでは今月も困ったちゃん達の所業をお伝えしましょう。
 
 埼玉県警は5月22日、東京外環自動車道で約2400人もの方に車両通行帯違反で誤って反則切符を切っていた、と発表。それが何と2006年1月から今年の4月までの長期間で、いったい警察はその間何をやっていたのでしょう。
 
 県警は反則金の返還や点数抹消の手続きを進めると発表していますが、その中には反則点数の累積で免停や取り消しになった人も約80人もいるという。当然のことながら、免許を取り消されてしまったことで失業した方や、まさか人生を終わらせるという最悪の選択をしてしまった方などはいないのでしょうか。ノルマ達成や勤務成績のためと、いとも事務的にキップを切る警察ですが、切られる側の精神的負担まできちんと認識しているのでしょうか。金を返して点数を復活させれば仕舞い、などという単純な話じゃありません。
 
 5月22日、兵庫県警は、元巡査部長が県警本部の地下駐車場で警察車両10台のタイヤをパンクさせたとして逮捕しました。なにやらいじめのニオイを感じてしまいますが、この元巡査部長、以前に大学の女子トイレをのぞいたとして懲戒免職になっていたのでした。
 
 これまた5月22日のこと、滋賀県警はバイクで飲酒運転し、事故を起こしたとして科学捜査研究所所長の警視を書類送検、懲戒免職に。
 
 車両通行帯違反で誤って検挙、の事件は富山県警でも起きていました。こちらは2003年5月から2009年7月まで。埼玉県警の誤検挙発覚を機に、再調査して判明したもので、能越自動車道で車両通行帯違反で検挙した36件が誤検挙でしたとして発表。精神的な被害などはどう補償するつもりなのでしょうか。そこら辺は埼玉県警も、富山県警の発表でも、反則金と点数の復活以外はまったく触れていません。その他の被害の存在など何も無いかのように。やはり被害者の方々は、集団訴訟してでもきちんと慰謝料まで請求されてしかるべきでしょう。
 
 これまた埼玉県警さん。交通機動隊の巡査が今年3月、職場の歓迎会で酒を飲んで帰宅後、忘れ物に気付いて運転してしまい、同僚に見つかってしまったという。例によって停職処分の沙汰が出たことで依願退職。自分の立場を考えず犯罪を犯す軽さも軽さですが、職に対する考えも軽いのですね。
 
 以前に紹介したでしょうか、鹿児島県警で交通事故の実況見分調書を部下に改ざんさせていたとして元警部が書類送検されていた事件。6月13日に出た判断は、なんと驚きの起訴猶予処分。地検の説明によれば「事実の認定に影響を及ぼすものではなく、懲戒処分を受け依願退職している」というもの。一般国民の感覚からすると、罪を犯せば仕事を無くすなど当たり前のことで、犯罪自体はそれとはまた別にきっちり償うのが当たり前。退職すればすべて水に流してしまうという身内に甘い警察や検察の体質が、次から次へと起こる類似の犯罪を断ち切れない理由のひとつになっているのでは。
 
 6月15日未明、静岡県警のパトカーが誤って県道沿いの店舗兼住宅に突っ込む。犯罪車両を緊急追跡していたなどというわけではなく、ただ単に「ボーッとしてしまった」のだとか。
 
 同じ調書改ざんでも大阪府警の事件では、一応カタチだけでも有罪判決が出ました。6月17日、ひき逃げ事件の被害者調書を改ざんしたとして虚偽有印公文書作成などの罪に問われていた元巡査部長に対して、大阪地裁は懲役1年6ヵ月の判決を下しました。ただ「捜査書類の信用性を損なったが、捜査を誤らせる結果にはつながらなかった」と、執行猶予4年付です。改ざんする警察、ウソをつく警察などあっていいのでしょうか。警察の信頼性、まさに存在意義を揺るがす重大な犯罪だった、という認識があまりに希薄です。
 
 6月19日、静岡県警は交通機動隊の巡査部長を停職6ヵ月の懲戒処分にしたと発表。そしてお決まりの自主退職。この巡査部長は、5月27日に酒気帯び状態で同僚を乗せて昇任試験会場へ向かったという。たまたま同僚が気がつき検挙されてしまいました。前日の深夜まで酒を飲んでいたのだとか。
 
 佐賀県警では、今年1月下旬、県警の警部補が公用車の中で助手席の知人女性に無理矢理キス。減給10分の1の懲戒処分を受けて依願退職。また、2月27日の夜には捜査業務からの帰りに遊技のためパチンコ店に立ち寄り。その間に車の後部座席に置きっぱなしにした捜査書類の入ったかばんを盗まれる。本部長訓戒の処分で済んだらしいのですが。
 
 こちらは大きなニュースになったのでご存じの方も多いかと思いますが、福島県警の幹部ふたりが4月に自殺した問題で、県警はパワハラ行為があったとして6月26日付けで捜査2課長を戒告処分とし、課長から警務部付に更迭したと発表。それだけなのですね。組織としてのけじめはつけないのでしょうか、個人の問題としっぽ切りのカタチに。
 
 次も“意外なニュース”として話題になりました。
 
 京都府警のパトカーが赤色灯を点灯しサイレンを鳴らしながらの緊急走行中、兵庫県内のオービスに速度違反車両として測定され、速度超過の容疑で検挙されてしまったというものです。まさに極めて異例な“事件”なのですが、警察への信頼ということでいえば至極まっとうな対応がおこなわれた、ということかもしれません。
 
 道交法では、違反車両の取り締まりや凶悪犯の追跡時など、警察車両の最高速度超過も例外的に認められているのはご存じの通りですが、検挙した兵庫県警の説明では「現場に早く到達しなければならない緊急性があるなら、他府県警と連携すればよいこと。速度超過の正当性はない」として、3月14日、神戸区検に書類送検。結果的には不起訴処分(起訴猶予)とはなりましたが、検挙された事実はきっちり残りました。縄張りを荒らされたカタチの兵庫県警の意地ととれないこともないですが。赤色灯とサイレンも、黄門様の印籠までのご威光はなかった、ということでしょうか。
 
 山口県警の元巡査部長による不祥事2件は、ともに不起訴処分という結論に。昨年11月に下関市内で酒に酔った状態でクルマを運転し建物の外壁に衝突後、その場から立ち去ったとして書類送検された元巡査部長に対する判決が出ましたが「基準を超えるアルコール濃度を認めるだけの証拠がない」として不起訴処分に。また別の元巡査部長は、今年4月にリサイクルショップから金属製のプレートを盗んだとして窃盗の疑いで書類送検されていましたが、こちらも「証拠不十分」として不起訴に。ま、警察の捜査に対する本気度を表した結果でしょうか。TVドラマの事件なんかと違って捜査の手ぬるいこと。
 
 パトカーがオービスに検挙される事件は岡山でも起きていました。6月下旬、交通関連事件の逮捕状請求のため岡山地検に向かう途中の高速道路上で、岡山県警の覆面パトカー(赤色灯の点灯とサイレンは鳴らしていました)がオービスに40キロオーバーとして測定されてしまいました。県警の判断は「緊急時の最高速度を超える理由はなかった」と、通常の手続き通り赤キップを切ったという。警察内部にも正しい判断ができる方が存在するんですね。
 
 7月8日付の毎日新聞の秋田地方版によれば、秋田県警はこれまでの、検挙しやすいしのぎ場での“ネズミ取り”方式のスピード違反取締りを改め、事故の多発路線や夜間の危険なスポットを中心にした“事故抑止”のための取締りへと方針を変更したという。「速度違反取締りは事故多発区間を重点的に。今月から運用、防止効果に期待」ですって。
 
 昨年の、古屋圭司国家公安委員会委員長の「取締りのための取締りはやめよう」発言に反応したカタチでしょうか。発表通りに事がすすめば嬉しいニュースなのですが、上層部の考えが本当に末端の一人一人の警察官の意識にまできちんと行き渡るかというと、これはまた別の話。そしてこれは何も秋田県警だけではなく、全国の警察が一斉にこれまでの“取締りのための取締り”方針を改めない限り、改革のほどもあまり期待できないということにも。まあ、一歩前進ではありますが。
 
 7月10日夜、栃木県警の巡査部長が当て逃げ。停車中のクルマに追突しておきながら、そのまま逃げた疑いで逮捕。追いかけてきた被害男性をさらにクルマで引きずり怪我までさせている。本人は事故自体を否定しているとか。
 
 7月11日未明、熊本県警のパトカーが道路脇のブロック塀に衝突する物損事故。「うとうとしてしまった」と。
 
 7月18日朝、佐賀県のミニパトカーが通学中で横断歩道を渡っていた小学4年生をはねる。「児童に気がつくのが遅れた」と運転の巡査部長。
 
 長野県警では、証拠品の飲酒検知管をすり替えて酒気帯び運転容疑でドライバーを検挙。ドライバーも飲酒運転を認めてはいたのだが、検知管にひび割れの不備があり、そのままでは証拠にならないと別にねつ造した検知管にすり替えたという。警部ら取締中の4警察官による共謀とか。「ウソは警察」の始まりです。
 
 まあ、次から次へとやってくれてますね。国家公安委員会委員長殿、これが現場の警察官のたちの実態であります。
 
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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