おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第43回 籠坂峠・三国峠・道志街道


籠坂峠は富士山の東麓、山梨県と静岡県の県境にある峠で標高は1100mあまり。国道138号線の須走~山中湖畔までの峠道区間の距離は9kmだ。三国峠は山中湖の東南にある峠で、文字通り、神奈川、山梨、静岡3県の境に位置する。山中湖~小山町を結ぶ県道147号線のワインディング区間は10数km。道志街道=道志みちは国道413号線の山中湖~相模原市区間の通称で、距離は約45km。山深い道志村を貫いていて「道の駅どうし」がある。


MAP

 以前、富士山麓の道について書いたが、富士五湖周辺にも景色がよく、走って楽しい道がいくつもある。今回は山中湖の南東部を走る3つの道について記す。

 籠坂峠を初めて走ったのはもう40年近く前の70年代中頃だった。富士五湖周遊のソロツーリングに出かけ、TX500で須走から山中湖まで駆け抜けた。その後80年代前半にも取材で数回訪れた。当時は東富士五湖有料道路が開通する前だったので交通量は多かったように記憶する。ただ、オフシーズンの平日は、それなりにコーナリングを楽しむことができたと思う。

 その後、近年まで何度も走っているが、東富士五胡有料道路が開通して以降は、平日なら空いていて走りやすい。須走から上っていくと、しばらくは直線もあってセンターラインも白破線だが、その後、低中速コーナーが続くワインディングとなる(イエローライン)。印象的なのは峠の手前にあるヘアピンカーブだ。道幅は広いが勾配がきつく、カントが複雑でコークスクリュー的。速度を充分に落として1速で進入しないと、おっとっと、てな感じになる。峠を越えて下りもコーナリングを楽しめるが、距離が短く、山中湖畔まではあっという間だ。

 三国峠、と呼ばれる峠は全国至るところにあるらしい。関東で有名なのは国道17号線の群馬/新潟県境にあるそれだが、山中湖の東南にも三国峠がある。それを知ったのは80年代前半だった。某誌で数年間、ロードガイド的な企画を連載していて、取材で訪れた。籠坂峠を越えて山中湖に至り、右折して湖畔を数km走り、湖東岸の平野というところから右折して県道147号線に入って登って行くと三国峠だ。峠まで低中速コーナーが続き、周囲は林や草山で、峠手前は見晴らしがよく、山中湖が見下ろせて、お天気なら富士山も。

 その取材のときは、寒い時期だったが好天で、あるコーナーで雄大にそびえる富士山をバックに、下から駆け上がってくる2台のバイクの走り写真を撮った。それがその企画ページのトビラに採用された。モノクロだったが、ページ全面に使われたその写真は、手前味噌ながら素晴らしいものだった。撮ったのはカメラマンだし、そこでの撮影を考えたのは編集プロダクションの社長で、新米の俺はただ指示に従って、社長が駆るバイクと並走してコーナリングしただけだったのだが…。1年前、そのバックナンバーも処分してしまい、ちょっと残念。

 道志街道は、俺にとって若い頃は縁の薄い道だった。ただ、身近なバイク好き、ツーリング好きの人たちから、よく耳にするツーリングルートで、それなりに興味は持っていた。初めて走ったのは10年近く前だろうか(それ以前に1度くらいは走っているかもしれないが記憶にない)。仕事で日帰りのツーリング取材に出かけ、山中湖畔から道志みちに入った。その後、ヤビツ峠からこの道に入ったこともある。ついこの間は、車だったが、丹沢の中川温泉に赴き、そこから山中湖~道志みち~宮ケ瀬と回り、厚木から東名高速で帰京した。

 山中湖畔の平野から道の駅どうし、までは15km。平日ならば交通量が少なく、人家のない、森や林の中の低速コーナーが連続する区間が多いので(短めのストレートも散在し、アップダウンはあまりきつくない)、気持ちよくコーナリングできる。信号も数えるほどしかない。ほぼ全線、センターラインはイエローなのでゆったり走行の4輪に前をふさがれると閉口するが、そんなときは臨機応変に…。季節でいくと、紅葉の頃走ったことはないが、新緑に抱かれつつ、適当なペースでコーナーをクリアしながら行けば、清しい気分になる。

 取材のときも、個人的に車で通った時も、道の駅どうしに立ち寄った。山深い道志村の畑で取れた新鮮な野菜や、その漬物なども販売している。俺は安くて瑞々しい何種類かの野菜などを、立ち寄るたびに買い求めている。小腹が空いていれば、軽食を摂ってもいい。それにしても、どこに行っても道の駅は一服するのに最適で、日帰りや一泊で北関東や房総などに出かけたときも道の駅に立ち寄って、野菜はもちろん、現地名産の土産物などを入手することが多い(もっと遠い地域へのロングツーリングの時も必ず利用している)。

 ともあれ、道志にはオートキャンプ場などもいくつかあるし、道志川で川遊びもできる。東京からだと山中湖経由で回ってきても300km前後だと思うので、距離的にも適当だ。また、神奈川県内からは身近だし、埼玉県からでも高速道路をうまく組み込めばそれほど遠くないのではなかろうか。2日確保できるならキャンプしての1泊ツーリングもいいだろう。とにかく、山の中の素朴な田舎道である道志みちはお薦めのツーリングルートだ。

 俺としても、これまで道志みちを走ったのは借りた広報車両やクルマで、17年乗っている自分のサンダーバードではまだ走っていないから、今年の紅葉の頃か、来年の新緑の時期の、お天気のいい日に、出かけてみようと思う。ソロでもいいけど、何人かの連れと一緒のほうが楽しいかな…。



道志街道


山中湖
近年、手軽なツーリングコースとして人気の道志街道。休日は渋滞も。●撮影-舟橋 朗 今回の三つの道の集合点は山中湖。風光明媚な観光地でツーリングスポットでもある。●撮影─依田 麗


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、17年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万3000km。

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