順逆無一文

第46回『ビッグ(ピーピング)データ』


 パチンコ好きなライダーの皆さん、嫁さんに内緒で、はたまた仕事さぼって、ちょっと一箱稼ぐか、なんてやってません? 今後はそんなちょっとした“息抜き”もバレバレになってしまうかもしれません。
 
 毎日新聞がWEBで伝えたニュースが気になりました。それはパチンコ店の駐車場入口に設置されたカメラが、単なる防犯用として活躍しているだけではなく、ナンバープレートを自動的に読み取って、そこから登録情報、つまり車検証に記載された情報を呼び出しデータベース化して、商業利用するというシステムが導入されたのだとか。
 
 最近急激に街中に設置されてきている防犯カメラなどは、万が一、何か事件があった場合に、設置主や警察などが捜査に役立てるという仕組みだと思っていましたが、そんな時代はもう終わろうとしているようですね。今回報道されたこのシステムのように、パチンコ店を利用するだけでクルマのナンバーが記録され、そこから登録情報というプライバシー・データが検索され、利用者情報としてさらにそれらのデータが商業的に利用される時代が始まったというのです。
 
 車検証のデータって個人情報じゃなかったんですね。2006年の道路運送車両法の改正で、さすがに昔みたいに誰でも簡単に登録情報の閲覧ができるってわけじゃなくなりましたが、それでも弁護士などが正規の手続きに則って申請すれば本人の同意などまったく必要なく、あっさり公開されてしまうのだそうです。
 
 またその2006年の改正により、国の審査に通った企業には、自検協(一般財団法人自動車検査登録情報協会)と全軽自協(一般社団法人全国軽自動車協会連合会)を通じて登録情報が有料で提供されているのだそうです。先のパチンコ店のシステムを開発した企業はこの審査を通った企業というわけ。
 
 道路運送車両法によれば、車検証のデータ“自動車登録情報”というのは、原則公開の公証制度で、個人情報保護法の範囲外。不動産の登記簿などと同様、情報を社会が共有し、取引の安全性を高めて個人の財産保護を図ることが目的、と説明されています。
 
 クルマも不動産と同様財産だから公開OK、といわれても何だかちょっと割り切れない思いですね。それに料金を取って情報を売っているのでしたら、その収益は情報の主、我々に還元するべきなのではないでしょうか。一件につきいったいいくらで情報を売り渡しているかまでは調査できませんでしたが、国が勝手に儲けるというのはちょっとおかしくないですか。
 
 今後は、パチンコ店に行っただけで愛車と登録情報がだだ漏れになってしまいます。いや、パチンコ店に限らず、こんなシステムが街中に溢れてしまったら、本人が知らぬ間に、この人はどこそこのコンビニに週3回、この人は先週どこそこの競馬に行きました、この人は某月某日、女性とラブホに、なんて際限なく行動が収集されていってしまうことになるわけです。しかもそれがただ漏れるだけならともかく、どんなところで利用されるのかも分かったものじゃありません。
 
 ちょっとITに詳しい方々が大好きな最近の合い言葉“ビッグデータ”もまさに同じで、氏名情報のみが隠された個人情報の塊なのに、“ビッグデータ”などという訳の分からぬカタカナになると皆さん寛大で、氏名以外の嗜好から行動、購買などといったプロフィールすべてが収集され丸裸にされているというのに、です。あ、顔のデータなんかも同時に収集されてしまいますわな。性別どころか、最新のカメラとプログラムを駆使すればほぼ確実に年代まで判定できるそうです。
 
 さらには、皆さんが大好きな“顔本”や“呟き”に、ご自身が書き込んだ情報もすべて一私企業のサーバーに蓄積されています。最近特に大流行の“線”も気になります。こちらなど日本を目の敵にする某お隣国さん系の企業が絡んでいる上、実際に情報漏洩疑惑を起こしたばかり。
 
 高速道路などでよく目にする“自動ナンバー読み取り装置”。警察が幹線道路などに設置して、通行する自動車のナンバープレートを自動で読み取り、手配車両の追跡に利用したりする通称「Nシステム」などには、極端に拒絶反応を示す方も多いというのに、なんでネットだ流行だ、というだけで個人情報収集システムをそんなにありがたがって利用しているのか、ちょっと理解に苦しみます。それだけネットで誰かとつながっていなければ不安、ということなのでしょうか。
 
「何々が好き」「これこれしました」などとソーシャルメディアに書き込むたびに皆さんのプロファイルがどんどんネット上に蓄積され、反対にプライバシーはどんどん裸にされていき、ネットの中にあなたの像ができあがる。それを元にマーケティングが行われたり、嗜好に合わせた販売に利用されています。これらのデータの使い途で、個人を特定しない利用方法こそがビッグデータなどと呼ばれるものの正体なのですね。
 
 話が飛びました。ちなみにこのパチンコ店のシステム、試験運用時から一切ユーザーには告知されずに稼働していたのだといいます。ご用心を。
 
               ※        
 
 さて、今月も“困ったちゃん”たちの所業を紹介しましょう。
 
 前号に引き続き“誤認取り締まり”の事件から。福島県警が駐車禁止の効力を失っていた規制標識のある市道2ヵ所で、駐車違反を取り締まっていた、と7月24日に発表した。その被害者数何と52人。放置駐車違反で48件、駐車違反で4件、でそれぞれ1万5千円の罰金を徴収していたという。いわき市の現場で駐車違反を取り締まった際に気がつき、県内の規制標識を確認したところ喜多方市でも同様のミスを発見したという。以前に駐車禁止区域を見直した際に、駐車禁止規制標識の撤去を忘れたためという。ちなみに福島県警本部では罰金の返還と点数を抹消、また2名にゴールド免許を再交付すると発表したのみ。
 
 次は交通関連のニュースではないが、あまりに呆れた不祥事に開いた口がふさがらない話題なのでご紹介。大阪府警といえば、調書や証拠品のねつ造など、いろいろと話題の多い警察だが、7月30日に発表された“事件”は前代未聞といえる「嘘は警察の始まり」のニュース。全国の警察署ごとのランキングが時折発表されるが、大阪府警は、2008年から2012年の5年間にわたって、なんと刑法犯の認知件数を合計で8万1千307件も過小報告していたという。都道府県別の刑法犯の認知件数ランキングで栄えある全国1位を続けて来た大阪府が、2010年から2012年には東京都に首位を譲ったとされたのだが、これが何とまったくの嘘。実際にはランキングトップのままだったことが判明したという。そんな警察が存在してりゃ刑法犯数のトップも当然でしょうな。ちなみにこのねつ造事件での処分者は退職者124人をのぞく現職280人。府警の全警察署が関与していたとか。
 
 こちらはひき逃げ犯。8月4日、栃木県警は信号待ちのクルマに追突し、通報もせずそのまま逃げたとして道交法違反の疑いで逮捕した桐生署の巡査部長を、傷害罪の疑いで再逮捕したと発表した。何と、ただ追突して逃げただけではなく、追突されたドライバーが容疑者の巡査部長のクルマの窓に手を掛けた際、そのまま急発進して引きずり転倒させ、約3週間の怪我を負わせた疑いという。ちなみに巡査部長は追突事故からすべて否認。
 
 今月も警察関係車両がスピード違反で取り締まられたニュースが入っている。青森県警の巡査部長が、法定速度60km/hの県道を111km/hで走ったとして交通違反を取締中の八戸署員に摘発された。乗っていたのは県警の捜査用の乗用車で、赤色灯の備えがあったが点灯せず、サイレンも鳴らしていなかった、と赤キップを切られた。巡査部長は戒告の懲戒処分、同乗していたもう一人の巡査部長も本部長注意に。2人は県警本部から八戸署へ出張中で本部へ戻る途中だったという。こちらは警察が正しく機能している例として嬉しいニュースではあるのだが…。
 
 山形県警では8月8日、交通違反の取り締まりに際して虚偽の記載をしたとして、交通課の署員7人を虚偽有印公文書作成、同行使容疑で書類送検している。事件は、一昨年10月“主犯”の警部補が、レーダー式の装置で取り締まりを行った後、測定方法に誤りを発見。実際に行った方法ではなく説明書の方法を記載したため、書類を偽造したとみなされ、この警部補のほか、巡査部長と巡査長ら3人が共謀、ほう助したとされ、警部補ら3人が戒告の懲戒処分、巡査長1人が所属長注意となったもの。この問題を今年3月に把握した県警監察課が引き続き調査をしたところ、同署で、2009年5月から2013年7月までに、別の3人を含む7件で偽造を発見。この3人は本部長訓戒などの処分を受けたという。ただ、測定方法自体は許容範囲内で問題はないとして、違反者に対する反則金などに代わりはないとのこと。ホントでしょうか? 刑事事件などでは違法な捜査が判明した場合、その捜査による証拠は無効になるのではなかったのでは。
 
 神奈川県警では、8月13日、追尾開始直後の白バイが自転車に接触、女性にけがを負わせる事故が発生。市道交差点で速度違反の取り締まりにあたっていた巡査長の白バイが、右から走ってきた自転車と衝突。交差点に信号機はなく、白バイはミニバイクの速度違反を見つけて赤色灯をつけ、追跡を開始した直後だったという。左右を良く確認するのは運転の基本ですが。
 
 8月21日、滋賀県警は、機動捜査隊の警部が、酒気帯び状態で車を運転し、物損事故を起こしながら報告しなかったとして酒気帯び運転、事故不申告容疑で地検に書類送検された。市道で乗用車を運転中、ガードレールに衝突する事故を起こしながら、これを報告せずに運転を続け、さらにその10分後、同市の国道1号で追突事故を起こし、警官による呼気調査で基準値を超えるアルコール分が検出された。この警部は例によって懲戒処分を受け、依願退職。
 
 京都府警の警部補もはしご酒して運転。路上駐車で居眠り、通報されて発覚した。職場の懇親会、ということは警察の懇親会でしょう。飲酒し車を運転した疑いで、府警が捜査中です。路上駐車した車内で寝ているのを府警の警察官に見つかり、飲酒検知でアルコールが検出されたという。この直前に別の場所で迷惑駐車だとして通報されてから現場まで移動しており、府警は酒気帯び運転容疑としている。警察官がこれですもの、飲酒運転が無くならないわけですよね。
 
 締めくくりはちょっと冗談じゃない話題。8月17日の未明、尼崎市で蛇行運転するミニバイクの一団をパトカーが発見。停車指示を出したが無視されたため追跡を開始。数百メートル離れた交差点でミニバイクの1台が転倒。パトカーの署員は交差点の赤信号を無視したとして現行犯逮捕したが、その後ドライブレコーダーを確認したところ、直進の矢印が点灯しており、信号無視の疑いが晴れたという。パトカーの署員による誤認逮捕だったわけで少年に謝罪し釈放したという。
 
 この事件では、たまたまドライブレコーダーの記録に救われたカタチだが、このような警察官の勝手な思いこみによって不快な思いをされたという報告が最近多い。「死人に口なし」事故を無くすためだけじゃなく、こういうケースにも役立つドライブレコーダー、バイクの標準装備品としませんかメーカーさん。
 
 以上、今月も“困ったちゃん”たちが大活躍の1ヵ月でした。
 
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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