バイクの英語

第18回 Jacksy (ジャクシー)

 まー、世の中なんだかんだ言っても結局「自分」でしょう。
いかにいろんなことを発信しても、それが全然伝わらなかったり、わかったと口では言っても全然真意が伝わっていなかったり……

 ある友人の話ですが、彼はもう長いこと50ccのスクーターに乗っています。以前は都内に住んでいたので50ccでも十分といえば十分でした。特にバイクを趣味として捉えていませんし、便利な移動手段として使っていたわけです。この友人、実は大の電車嫌い。電車が嫌いというよりは公共交通機関が嫌いだったんですね。だから電車もバスも極力乗らない人でした。なので、ちょっと遠いだろうという距離でも原チャリで出かけていきました。
 どんな天気でもどんな距離でも原チャリで出かけるその無骨さは、ある意味「バイク乗り」であり、時として度を越しているとも感じさせたけれど、それはそれで一目おかせるほど徹底したものでした。
 ところがこの友人、ある地方都市に転勤となりました。この地方都市はなかなかの「地方」っぷりで、もう完全に車社会です。普通に考えて車がなきゃやっていけないだろうという地方具合です。そうなるとこの友人は当然車を買うだろうと思うでしょ? ……買わなかった! この時点で何でだろうと思いましたよ僕は。だって車がないととてつもなく不便だもの。さらに彼は乗り物が大好きで、僕の車も喜んで運転してさらに運転のセンスもあってなかなかウマイ。バイクだってクラッチ付を乗せたって普通に乗っちゃうし、乗り物を操ることについては明らかに長けている。総合的に見て早々に車を買うか、これを機にバイクの免許をとって高速に乗れるバイクを買うかするだろうと思ってました。
 買わないんだこれが。転勤になって早4年、いまだに原チャリに乗ってる。しかもその原チャリで4時間ぐらいかけて(当然、シタミチで)都内に遊びに来たりする。そのガッツには脱帽するけど、あまりにそれは非生産的だろう。と僕は再三「車買いなよ、軽でもいいからさ」とか「400cc免許とればいいじゃん。バイクだったら置き場所も困らないし、高速乗れるし」とか「少なくとも小型限定AT免許とってアドレスV125にしたら? あれ、ものすごく快適で速いし今の原チャリと使い勝手は変わらないよ」とか言ってきました。
 そのときはね、「そうだよな」とか「いや、俺だって買いてーよ」とか「じゃそーすっかー」などと言うんです。金だって持ってるんだから買ゃーいいじゃんすか。ところが買わない。じゃ原チャリライフに満足してるかといえば、「寒い」とか「遅い」とか「あおられて危険」とか「カッコがつかない」とかブーブー文句を言う。「じゃ車を買えよ! もうチョイ大きなバイクに乗れよ!」と言うでしょ僕は。返ってくる言葉は「そうだよなー」なんですよ。
 もう、彼と何度こんなやり取りをしたか……。最初はただ時期を見計らってるだけかと思ったし、もしくは何か他の理由があるのかとも思いました。もしかしたら原チャリで十分なのかもしれないし。でもそうじゃない。不便は感じてるし、その状況を変えたいとは思ってるけど変えないだけなんですよ。
 一生懸命説得したり、カタログを持って行ってみたり、教習所のパンフレットを持って行ってみたり、腹を立ててみたりしたけれど、とうとう諦めた。買わないったら買わないんだもの。古くからの友人だけど、ここについては通じ合えないと、とうとう諦めました。

 そうなんですよ、人間は結局一人ぼっち。いつだってOn your Jacksyなんです。昔からの仲間だと思ってても、単純なことで分かり合えなかったりするんです。

 さぁ、今回の英語は「On your Jacksy」です。「自分のジャクシーに乗って」と言う意味ですが、なぜこれが「一人で」と言う意味になったのでしょうか。諸説ありますが有力なものを一つ。

※    ※    ※

 これはロンドンの言葉遊びが起源である。ロンドン訛りのことは「コックニー」と呼ばれ、コックニー訛りで話す人は「ロンドンっ子」と言う意味で「アイツはコックニー(ロンドンっ子)だ」と使われる。コックニー訛りの中には、韻を踏んで物事を違う言い方をする遊びがある。日本で言う「業界用語」みたいなものだろう。最近ではこの業界用語を使ったお笑い芸人のコントが記憶に新しく、赤頭巾ちゃんを「ズキアカのチャンネー」と呼んでいた。これもちょっと考えればわかるが、頭を柔らかくしないと意味がわからない。コックニーで韻を踏んで遊ぶのもこのノリであり、これは「コックニーライム」(ライムとは韻を踏むこと)と呼ばれる。

 いくつか例を出そう。

Frog and toad (フロッグ アンド トード) 
フロッグは蛙、トードはガマ蛙。 Toad はRoad と韻を踏んでるから、Let’s hit the Frog 「フロッグを行く」という言い方をする。蛙を行く?? のではなく、道(Road)を行くという意味で使う。

Barnet Fair (バーネット フェア)
フェアとは移動遊園地のような娯楽施設で、バーネットと言う地名でのフェアが有名であった。FairはHairと韻を踏んでいるから Brush your Barnet 「バーネットをとかせ」という言い方をする。地名をとかせるわけはなく、髪をとかせと言う意味だ。

Plates of meat
お皿を意味するPlatesだが、それに続く言葉はMeat。Plates of meat(さらに乗った肉)と言う語源から、足のことをPlatesと言う。足はFeet。Meet と韻を踏む。

Boat Race
船のレースである。使い方はWash your boat(船を洗え)だが、Race はFace と韻を踏むため、Boatとは顔を指す。

Rosie Lee
人名だが、LeeがTeaと韻を踏んでいるため、紅茶を指す。英国でA cup of Rosieと言ってわからない人はいない。

 Jacksyもこの人物繋がりからくる。歌手だったとも運動家だったともいわれているが、Jack Jonesという人物がいた。語源としてはこの人物がなんでも一人でこなす人だった話などがほしい所だが、真実はJonesとAlone(一人)が韻を踏んでいるというだけの話である。
 同じ意味でOn your Todと言うこともある。これはTod Sloanと言う人物からとったもので、こちらもSloanとAloneが韻を踏んでいるからだ。

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 いかがでしたか? 諸説ありませんね、これが真実です。島国イギリスでは言葉遊びが盛んです。実は日本でもちょっとした言葉の引っ掛けで遊ぶことが多いですね。鯛がめでたいのも「めで鯛」からだし、4が縁起が悪いのも「死」だから。色んな伝統の起源を辿ると単純な言葉遊びだったりしますよね。こういったところは島国どうしの共通点なのかもしれません。

 結局とのところ、人間はみなOn your Jacksyである、と言う話でスタートした今回のコラム。そう考えるとバイクは一人で楽しみ、色々と考え事をしたりするにもステキな乗り物ですね。この際、愛車にJackと名づけて、バイクに乗ることと、一人でいることをリンクさせて「On my Jacksy」と使ってみるのもいいかもしれません。ちなみに正確には「ジャクシー」ではなく「ジャクスィー」となります。


 筆者:グレゴリー・ペック
グレゴリー・ペック
英国系の家庭で育ったため、コックニーライムは自然と会得していったが、その真の意味は最近まで知らなかったというカワサキライダー。愛車は最新のZX-10Rで、名前はもちろんJack。よく一人で走りに行くが、前傾がきつくて首が痛くなる。A pain in the Gregory。グレゴリーが痛くなるんですよ。Peck=Neck。ね!
※例によって写真はイメージです。


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