バイクの英語

第42回「Angle of the Dangle (アングル オブ ザ ダングル)」

 ご無沙汰しております。
 このコラム、一応は月刊なのですが、先月は締め切りを踏み倒し「余裕ができたら書きます!」と言いながら結局ひと月経ってしまった…と。よってすでに周回遅れなのですが、今月は「モノの角度(アングル)」についてお話ししましょう。

 交通事情と絡めて話をするようになってファンが増えた当コラムですが、交通事情関係での「角度」といえば最近気になってしょうがないのはフォグランプです。ドライビングライト、などという何を示すのかわからない名称がついていたりもしますが、いわゆるヘッドライトとは別に存在する前照灯ですね。最近の車はこれがついている、もしくはオプション設定されているのが多い。そして社外品をつけている人も増えました。

 そもそもヘッドライトですが、車検時に検査するのはハイビームのみ。よってロービームの角度は各車両の設計に任せてあるわけです。車種によってはハイとローの角度にあまり差がないものもあるかもしれませんが、メーカー純正であるならばオオハズレはありませんでしょうから、ハイビームの角度が車検対応であるならロービームの角度もおおよそちゃんとロービームになっているように思います。

 しかしヘッドライトを社外のHIDだかLEDだかに交換している車両は、なぜかロービームでも恐ろしく眩しい。明るくなろうが角度が一緒ならば眩しくなるはずはないと思うのですが、これはいったいどういうことでしょう。

 個人的な推測ですが、そもそもHID系の青白いライトというのは「明るくない」のではないかと思っています。ケルビンが上がっていくと昼間の明かりに近くなるとされていますが「明るい気がしている」だけで本当はよく見えないのだと思います。カメラマンに聞けば色温度だとかいろいろ教えてもらえますが、そういう知識がなくても青と黄色ではどっちが明るく感じるのかはわかると思うのですがいかがでしょう。

 純正品だとちゃんと明るく、そして角度も良いようで後ろにつかれてもルームミラーが眩しくないのですが、社外品だと結局明るさが足りず前が見えないからロービームを上向き気味にするのではないでしょうか。あの青白い光は明るいことがセールスポイントだったはずなのにこれじゃあ本末転倒。バイクでもいますね、やたらに眩しいHIDの人。ユーザーは「青っぽい光、カッケーじゃあん!」と安易に交換するのではなく、本当に明るいのか、安全なのか、他人に迷惑は掛からないのかを検討した方がいいように思います。そもそも車検場でハイビームだけでなくロービームの角度も検査するべきでしょう。

 最初のフォグランプの話に戻りますが、あれも車検の検査対象ではないようですね。だからいくら上を向いていても法的には問題がない(もしくはあっても取り締まられることがない)わけです。ものによってはしっかりハイビームぐらいの角度になっていて眩しいったらありません。それなのになぜかこのフォグランプを常時点灯する人たちが増えているようです。

 あれはいったい何が目的なのでしょう。中にはヘッドライトをつけずにフォグだけつけている人もいます。街灯が充実している都内でもそうなので、けっして「前が見えにくいから」というわけではないのでしょうね。個人的には「そこのけライト」と呼んでいますが、まるで前の車を「どけ!どけ!」と威嚇しているように思えませんか。少なくとも筆者は後ろにそういう車につかれると本当に腹が立ちます。気になってしょうがないから運転も散漫になることを思えば、危険性を生んでいるとも捉えることができるでしょう。こんな威嚇ヘッドライト・脅迫フォグランプがなぜ取り締まりの対象にならないのか不思議でなりません。自分の車の後ろ全面のとてつもなく眩しいリアフォグをつけて、眩しさがいかに腹立たしいかを知らせてやりたいとさえ思いますが、それではさらに危険を生むだけですのでマズいですね。

完全に煽っているようにしか感じません…

完全に煽っているようにしか感じません…
完全に煽っているようにしか感じません…

 ヘッドライトにせよフォグランプにせよドライビングライト(?)にせよ、角度(アングル)さえちゃんとロービームになっていれば問題はないのですけれど。

 もう一つ、角度についてです。
 ちょっと前にニュースになっていましたが、当コラムでも以前から推奨していた「ラウンダバウト」が日本にも導入されましたね。どうも日本の交通社会は変化を受け入れるのが苦手なようで批判的な意見も聞きますが、ヨーロッパ全土で広く採用されアメリカでも増えているラウンダバウトですから、日本の交通社会でもきっとうまくいくことでしょう。信号機と違って適度な譲り合いも必要なシステムですから、もしかしたら日本の交通社会の成熟にもつながるかもしれません。

 よく聞く批判には「日本は土地がなくて狭いから、そもそもラウンダバウトを設置できない」というのがあります。まてまて(笑)、それは都市部限定の意見でしょう。東京から100キロも離れれば土地には余裕があります。なにもラウンダバウトを新宿や銀座に作ろうってわけではないですから。

 もう一つは「日本は交通量が多くてラウンダバウトが正常に機能しない」という意見ですが、これはラウンダバウトがある交通社会を知らない意見でしょう。交通量や道路の幅により、ラウンダバウトは様々な形状をしているのです。住宅地には「ミニラウンダバウト」と呼ばれる、中心の円がせいぜい直径1.5メートルほどしかなく、わずかに盛り上がっているだけというのもありますし、幹線道路には日本の高速道路のインターチェンジぐらいのサイズがあるものもあります。ちゃんと機能するようにケースバイケースで設計されているわけです。

 ちなみに交通量の多い都市部では機能しづらいシステムであるとは思います。ロンドンでは巨大ラウンダバウトの中にさらに信号がある、なんていう全く無意味なものも存在しますし、パリの凱旋門の周りも巨大なラウンダバウトになっていますが完全なるカオスです。いずれも設置された時は今ほど交通量が多くなかったのでしょう。そしてロンドンもパリもそうですが、歴史的建造物が多いので簡単にかえることもできないという事情もあるかと思います。

 そこで将来はラウンダバウト研究家として財を成すつもりでいる筆者から、現在日本に導入されたラウンダバウトについて提言をしたいと思います。

 ニュースで見た現在導入されたラウンダバウトは、まだまだ初期型と言えるでしょう。


図1

このラウンダバウトにはいくつかの問題点があります。
①接続する道が、円に対して垂直となっている。
②横断歩道が円に近すぎる。
③円内走行車優先を明確に。

 まず①ですが(そして今回のコラムテーマである「角度」とリンクしますが)、円に接続する道が直角であると、スムーズな合流が難しく、また間違った右折を誘発しかねません。また現在の日本のラウンダバウトは一時停止してから合流するシステムとなっているようですが、この接続方法では一時停止をしなければ危険だとは思うものの、本来のラウンダバウトは必ずしも停止せずに交差点をクリアできるのが魅力のはず。渋滞緩和や騒音低減、排ガス低減、車への負担低減などスムーズな交通社会に繋がるはずなのです。全方向から一時停止しなければいけないとなると、それまでは1方向が優先道路で、それに接続する道路側のみが一時停止だったのが、結果として双方向で一時停止となったことになります。単純に一時停止する車が倍になるわけですから、むしろラウンダバウトの思想に逆行するでしょう。

 ②も重要な点です。ラウンダバウトでは信号がないため歩行者の保護が課題になります。欧州では横断歩道に歩行者がいれば必ず止まることになっていますので歩行者保護がなされていますが、日本では横断歩道で人が待っていても止まる車は少ないのが現状です。ここは改善しなければいけない点ですね。しかしそれでも、ラウンダバウトに対する横断歩道の位置は重要です。円に近すぎると、円に進入する車は横断者に道を譲れますが、円から出てくる車は円内で停車せざるを得なくなります。そうすると円内が渋滞してしまい、やはりラウンダバウトの意味をなさなくなります。

 そして③ですが、これは通行帯の設定や看板の設置でいくらでも改善できるでしょう。円内の車が優先的に走れ、円に進入する車は必要であれば停車して道を譲らなければいけないという周知を徹底しなければなりません。今回のラウンダバウト導入の前にも日本にはロータリー的なものが存在しましたが、それはあくまで交差点の発展形で、曖昧ではあるものの基本的には左方優先だったために、円内の車が停車して円に進入する車に道を譲ることがありました。正式に「ラウンダバウト」として導入された今、ここは改めなくてはいけないポイントですね。

 さて、これらの問題を一気に解決へと向かわせることができるのが、円に接続する道の「角度」の設定です。


図2

 この図を見ていただければわかるかと思いますが、円に対して各接続路に小さな三角島を足しています。こうすることにより円への進入は明らかに左折しかできず右折はできなくなるため安全性は飛躍的に向上します。また今までの左方優先という感覚も、交差点だと思うから出てくる発想ですので、このような接続路にすれば高速道路の合流と同様に右後方からくる車が本線上の優先車両であり、自分はあくまで接続路にいて道を譲る立場にいることがわかりやすくなるでしょう。また三角島の設置により横断歩道を円から離し、かつ安全地帯を設けることで、横断者は道路を半分ずつ渡れるようになります。

 一時停止についてですが、これは初期は仕方がないかなとも思います。ラウンダバウトというものに慣れるまでは安全のために一時停止をしてから進入するという方式を採ってもいいでしょう。しかしこれはあくまで導入時期の一時的なものとしなければ、そもそも導入した意味がなくなってしまいます。本場欧州のラウンダバウトには「GIVE WAY」という看板があります。これは「止まれ」ではなく「譲れ」という意味です。ラウンダバウトが一般化してきたら、日本にもこの「譲れ」看板を導入するべきでしょう。日本に導入されたラウンダバウトの映像を見ると、すでに一時停止はあまり守られていないようです。というのも、一時停止が必ずしも必要ではないのが利用者にもわかったからでしょう。特に郊外の、大き目で交通量の少ないラウンダバウトならば一時停止は不要なことも多いですし、ややもすると都合よく一時停止違反を取り締まるカモネギポイントにもなりかねません。

 欧州、豪州、米国など、すでにラウンダバウトが一般化している国々で運転してきた経験から、ラウンダバウトのシステムはぜひ日本でも定着してほしいと考えています。そのためにはラウンダバウトの設計も重要なポイントに思います。未完成なシステムを導入して「やっぱり機能しないじゃないか」では宝の持ち腐れ。ある程度の曖昧さや譲り合いも必要なシステムですが、うまく機能させることができれば非常に有意義なのですよ!

 さて、今回の英語「Angle of the dangle」ですが、アングルは角度、ダングルとはぶら下がり、という意味です。ここまで述べてきた前照灯の話もラウンダバウトの話も角度が重要だというのはわかっていただけたと思います。この他、バイク関係でも角度の話はたびたび出てきますね。フォークのキャスター角やスイングアームの垂れ角、エンジンの前傾角や左右のバンク角など、様々なものの角度というのはとても重要なのです。

 よってこの言葉、Angle of the dangleとは物事を説明するのに幅広く使われている表現です。しかし韻を踏むことで面白がっていることからもわかるように、真面目な言葉ではなく軽い会話で出てくる表現ですね。
「なんで転んだの?」「ちょっとAngle of the dangleがね…」
「サスセッティングはどう?」「Angle of the dangleが出ないんだよ」
…などと、必ずしも答えにはなっていないけれど、「なんだか色んな角度の関係でうまくいかなかった」(もしくはうまくいった)などと答えているわけです。

 様々な物事も様々な角度から検討するのが大切に思います。特にラウンダバウトについては多角的に検討し、より良いものにしていきたいですね。

 あ、ダングルの意味ですか? そうですよ、ぶら下がり、という意味です。そう、ぶら下がっている角度によってその日の調子がわかるというわけ。
この表現の語源、男性諸君にはもうお分かりでしょう。


筆者 
フランク・シーン

2ストロークが好きで、スズキ製の2スト125cc、V型4気筒というレアなマシンを1960年代に購入。後にレーサーとして成功する息子に乗らせレーシングキャリアをスタートさせた。フランク本人は道路設計に携わり、英国のラウンダバウトを欧州に紹介した人物とされている。凱旋門のラウンダバウトはかつて接続路車両が優先という渋滞必至の構造だったが、フランクの提言により円内走行車両優先へと切り替わった。日本のラウンダバウト設置担当者様方、ぜひ助言したい! 連絡乞う。


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