湯めぐりみしゅら~ん

第44湯 九州大遠征:大分・熊本編(1日目・別府八湯)

 初夏から初秋にかけて、毎月のアームズマガジン本誌に加えて、並行するかたちでアームズマガジンの別冊の制作があり、忙しさはハンパではなかった。そして、気がつけば夏が終わり、秋が近づいていた。ゴールデンウィーク以来、ツーリングにでかけられず、かなりフラストレーションが溜まっていた。もちろん温泉もご無沙汰だった。そんな中、10月末から年末にかけて、再び殺人的な忙しさが訪れることが予想されたので、ちょっと無理を承知で9月末から10月頭の1週間ほど、遅めの夏休みを取る決意をした。

 決意をしたからには、どこに出かけるかを決めなくてはならない。1週間あるので滅多に行けない北海道か、はたまたバイクで行ったことのない九州か…悩みに悩んだ挙句、かねてからの夢であり、温泉も多い九州に行くことにした。

 そもそも、今まで九州に行けなかったのは、九州への上陸手段が限られているからだ。北九州行きのフェリーか高速道路をひた走る、あるいは大阪まで行ってからフェリーに乗るか…。どれを選んでも上陸するまで丸一日は要する。いろいろ考えた結果、大阪からフェリーに乗り、大分県の別府市に上陸する方法を選んだ。復路も同じく別府からフェリーに乗って大阪まで向かい、自走で東京に帰ることにした。

 出発前日までに何とか仕事を一段落させて、19時55分に大阪南港ATCを出航する「フェリーさんふらわあ」に乗船すべく、余裕を持って7時00分に自宅を出発。東名高速道路、名神高速道路を走り、16時前には大阪南港ATCに到着。乗船手続きを済ませて乗船時間を待つことにした。運賃は割引価格で往復31,100円(ツーリストベッド)。到着した時は数台しかいなかったバイクが、乗船時間が近づくと、土曜日のせいか30台近くになっていた。久しぶりの船旅にワクワクしつつ乗船完了。明朝の7時45分まで約12時間の船旅だ。瀬戸内海を通るためにほとんど揺れのない船内は快適そのものだった。

 翌朝、デッキに出ると目の前に別府湾が見えた。天気は快晴。まさにツーリング日和で九州が私を出迎えてくれた。ほぼ定刻どおりに船は別府観光港に到着。下船時はいつもドキドキ、胸が高鳴る。エンジンをブリッピングさせて下船、大分県に上陸。「ついに来たぜっ! 九州! やったぜ!」と思わずタンクを叩いてバイクに話しかけてしまった。そろそろ走行距離が10万キロに達しようとしている我がジェベル250XCで訪れた都道府県数は36県になった。

 今回の九州大遠征の日程は5日間。第1日目は上陸地である別府温泉を巡ることにした。別府温泉は言わずと知れた日本屈指の温泉地。総湧出量(お湯の出る量)は1日あたり5万トンと日本一。温泉の泉質全11種類のうち、10種類が存在するという。温泉好きには聖地のような場所だ。別府温泉は「別府八湯」と呼ばれる温泉郷に分かれており、共同浴場を中心とした湯巡りが楽しめる。船内で買った「別府八湯 温泉本 2014〜2015年版」(500円)の情報を頼りに、観海寺温泉で入りたいところが12時〜15時と時間が限られており、さらに1日目に湯布院に宿泊する関係から、亀川→柴石→鉄輪(かんなわ)→明礬→別府→浜脇→観海寺→堀田(ほりた)温泉の順で攻略することにした。

 まず下船後に向かったのは、別府観光港から国道10号線をJR亀川駅方面に向けて5分ほど走ったところにある亀川温泉「浜田温泉」。和風の建物は、温泉街のシンボル的存在。朝の8時にもかかわらず地元の方がひっきりなしに来ていた。入湯料は100円。入り口から脱衣場、浴室まで隔てるものがなく、いかにも共同浴場的な作り。ちょっと緑かかったようなお湯は熱め。朝風呂としては最高だったが、朝から汗だくになってしまった。

 次の目的地である柴石温泉に向かう途中、有名な「血の池地獄」を見学。開園直後ということもあって見学者は数人しかいなかった。池には本当に血の色のような朱色のお湯が沸き立っている。地獄とはうまく表現したものだ。

 柴石温泉は血の池地獄から数分のところにある。別府市街からやや離れた静かな山間にある柴石温泉は、共同浴場というより日帰り入浴施設的な作りだ。入湯料は210円。お湯は無色透明で、内湯は熱めとぬるめの2種類、露天風呂のお湯はややぬるめ。ここも朝早くから多くの入浴客が訪れていた。9時30分の段階ですでに2湯入り、なかなか快調なペース。しかし、気温が上がってきたこともあり汗が止まらない。特例(?)ということでジャケットを脱いで別府八湯湯巡りを続けた。

 3湯目は鉄輪温泉。おそらく鉄輪温泉がいちばん別府らしい温泉郷であり、世間一般のイメージする別府温泉ではないだろうか。町中のそこかしこから湯気が立っている。傾斜地に面した温泉街にはたくさんの共同浴場があり、その中から「地獄原(じごくばる)温泉」を選んだ。こぢんまりとした平屋作りの温泉は、まさに共同浴場そのものの佇まい。湯情をそそられる。入湯料は100円。無色透明のお湯は熱め。

 熱いので、いつものように湯船のフチに腰掛けて半身浴していたら、おじいさんに注意された。別府温泉の共同浴場ではフチに腰掛けることはご法度とのこと。それをきっかけにおじいさんとしばし会話になり、同じタイミングで外に出て自分のバイクのナンバーを見るや「多摩か〜、多摩か!」と自分が東京から来たことにいたく感動していた。どうやらおじいさんは若い頃は東芝に勤めていたらしく、定年後の余生をここで過ごしているようだ。「大分の人は運転荒いから、気をつけてな〜」と言い残して、おじいさんは自転車で去っていった。

 地元ルールを教えてくれたおじいさんに別れを告げて、次に向かったのは、鉄輪温泉よりさらに奥にある明礬温泉「明礬山の湯」だ。県道11号線から国道500号線を走り、大分自動車の別府明礬橋のたもとに明礬温泉ある。明礬温泉といえば藁葺きの「湯の花小屋」が建ち並んでいることで知られている。「明礬山の湯」は湯の花小屋はもちろん別府市街も眺められる高台に位置している。入湯料は500円。内湯のみだが、窓からの眺めはよく、無色透明の適温の肌に優しいお湯とあいまってとても心地いい。

 11時の段階で4湯入湯。なかなかいいペースだ。ここからは別府湾に面した市街地にある別府温泉、浜脇温泉に向かう。別府温泉に向かう前に、大分名物の「とり天」を扱うからあげ屋を発見。とり天入りの弁当を買って早めの昼食。

 別府温泉は別府観光港からほど近い別府市の中心街にある。別府温泉の中でもシンボル的存在である「竹瓦温泉」を選んだ。竹瓦温泉の周囲は風俗店などが建ち並ぶ、いわゆる歓楽街だが、建物は風情溢れる唐破風の造り。別府温泉の歴史を感じさせる。入湯料は100円。浴室の天井は高く開放的。内湯のみでやや濁ったお湯は熱め。ここも多くの方が訪れていた。休憩スペースで一服していたところ、昨日御嶽山が噴火したとのニュースがテレビで流れていた。その時点では想像を超える大惨事になっているとは思わなかった。

 竹瓦温泉の次は東別府駅近くにある浜脇温泉。国道10号線から住宅街に入り、スマホの情報を頼りに探すが、共同温泉のような建物が見つからない。「湯都ピア浜脇」と書かれた看板がマンションのような建物にかかっていたので、駐輪場にバイクを置いて探したら、建物の1階にあった。

 市営の共同浴場である浜脇温泉は普通浴のみ、湯都ピア浜脇はジャグジーなどがある多目的温泉保養館という位置づけになっている。入湯料は100円。脱衣場に入って気づいたのだが、別府温泉の共同浴場(内湯)の多くが、脱衣場と浴室を隔てる壁や扉、仕切りがない。つまり脱衣場から浴室が丸見えなのだ。こういう造りは他地域ではあまり見かけない、ちょっとユニークな特徴だ。長方形の大き目の湯船にたっぷり注がれた無色透明のお湯は熱め。長湯するには気合が必要だ。

 浜脇温泉を出たのが13時00分。ほぼスケジュールどおりで観海寺温泉に向かう。観海寺温泉は、別府八湯の中で唯一低料金の共同浴場がなく、入浴時間も限られている。今回選んだのは比較的低料金の「美湯の宿 両築別邸」だ。日帰り入浴時間は12時から15時となっている。入湯料は500円だが、受付で船内で買った本の特別優待入浴券を駆使して無料。この日は内湯(大浴場)が掃除中だったために、離れ風の露天風呂のみとなった。湯船は温泉旅館らしく清潔感があり、風情のある石造り。お湯は無色透明、適温でゆっくりくつろげる。旅館が高台にあるせいか静かで、しばし外の喧騒を忘れさせてくれる。

 観海寺温泉を攻略したところで7湯制覇。あとは堀田温泉のみとなった。堀田温泉は別府から湯布院へ向かう県道52号線沿いの山あいにある日帰り入浴施設だ。入湯料は210円。内風呂、露天風呂それぞれあり、露天風呂はややこぢんまりしている。ちょっと硫黄臭のする、やや濁ったお湯が特徴的だ。内風呂のほうがやや湯温が高かった。

 堀田温泉に入湯したことで、別府八湯を無事攻略。幸先のいい九州大遠征1日目となった。この後は別府温泉をあとにして、湯布院近くにある湯平温泉に入ってから湯布院に向かうことにした。


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大阪⇔別府間は「フェリーさんふらわあ」を利用。ライダー向けの様々な割引メニューが用意されているのが嬉しい。船内も快適だった
大阪⇔別府間は「フェリーさんふらわあ」を利用。ライダー向けの様々な割引メニューが用意されているのが嬉しい。船内も快適だった。
九州上陸後の第1湯目は浜田温泉。しゃっきりとした熱めのお湯を求めて熱めの朝から地元の方たちが訪れていた
九州上陸後の第1湯目は浜田温泉。しゃっきりとした熱めのお湯を求めて朝から地元の方たちが訪れていた。
浜田温泉から柴石温泉に向かう途中にある「血の池地獄」。グツグツと沸き立つお湯はまさに血の色。その様子は地獄のようだ
浜田温泉から柴石温泉に向かう途中にある「血の池地獄」。グツグツと沸き立つお湯はまさに血の色。その様子は地獄のようだ。
別府の市街地から少し離れた山あいにある柴石温泉。日帰り入浴施設ながら入湯料は210円とお手頃なのが嬉しい
別府の市街地から少し離れた山あいにある柴石温泉。日帰り入浴施設ながら入湯料は210円とお手頃なのが嬉しい。
街中から湯気が立ち上る、まさに別府らしい風景の鉄輪温泉。温泉はいっぱいあるが、別府の街の面積はそれほど大きくない
街中から湯気が立ち上る、まさに別府らしい風景の鉄輪温泉。温泉はいっぱいあるが、別府の街の面積はそれほど大きくない。
鉄輪温泉は別府八湯の中で最も共同浴場が多い。その中でも地獄原温泉をチョイス。ちなみに九州地方では原を「ばる」と呼ぶことが多い
鉄輪温泉は別府八湯の中で最も共同浴場が多い。その中でも地獄原温泉をチョイス。ちなみに九州地方では原を「ばる」と呼ぶことが多い。
鉄輪温泉からさらに山あいにある明礬温泉「明礬山の湯」。初秋の日差しが差し込む内風呂からの眺望はバツグンだ
鉄輪温泉からさらに山あいにある明礬温泉「明礬山の湯」。初秋の日差しが差し込む内風呂からの眺望はバツグンだ。
街中で見つけた「ポッポおじさんの大分からあげ」のどか弁A(580円)。大分名物のとり天と塩からあげが入った満足度100%の弁当
街中で見つけた「ポッポおじさんの大分からあげ」のどか弁A(580円)。大分名物のとり天と塩からあげが入った満足度100%の弁当。
歴史のある温泉地に相応しい造りの竹瓦温泉。外観だけではなく浴室も歴史を感じさせる造りとなっている
歴史のある温泉地に相応しい造りの竹瓦温泉。外観だけではなく浴室も歴史を感じさせる造りとなっている。
一見さんではちょっと見つけにくい場所にある浜脇温泉。入湯料100円でたっぷり注がれた熱めのお湯が満喫できる
一見さんではちょっと見つけにくい場所にある浜脇温泉。入湯料100円でたっぷり注がれた熱めのお湯が満喫できる。
八湯の中で唯一共同温泉のない観海寺温泉。「美湯の宿 両築別邸」は入浴時間は限られているものの、500円で入湯できる
八湯の中で唯一共同温泉のない観海寺温泉。「美湯の宿 両築別邸」は入浴時間は限られているものの、500円で入湯できる。
湯布院に向かう県道52号線沿いにある堀田温泉。硫黄臭がする名湯の雰囲気が楽しめる良質なお湯が供されて
湯布院に向かう県道52号線沿いにある堀田温泉。硫黄臭がする名湯の雰囲気が楽しめる良質なお湯が供されている。

ブースカ的温泉評価
浜田温泉 ★★★★
地元の方に愛されている良質なお湯の共同浴場。
柴石温泉 ★★★★★
手頃な入湯料で入れる静かな山あいにある温泉。
地獄原温泉 ★★★★
共同浴場の風情が味わえる鉄輪温泉を代表する温泉。
明礬温泉「明礬山の湯」 ★★★★
眺めのいい内湯と優しいお湯が魅力的の温泉。
竹瓦温泉 ★★★★
別府の市街地にある歴史を感じさせる建物が特徴。
浜脇温泉 ★★★★
多目的温泉施設と併設された別府温泉の名湯。
観海寺温泉「美湯の宿 両築別邸」 ★★★★★
日帰りではもったいない離れ風の露天風呂が特徴。
堀田温泉 ★★★★
低料金で良質なにごり湯が楽しめる日帰り入浴施設。

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は663湯。湯巡りツーリングの相棒はスズキ・ジェベル250XC。ちなみにマイカーもスズキのエスクードというスズキスト。


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