おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第45回 伊勢・志摩の道


伊勢志摩には有名なグッドロードがふたつある。伊勢志摩スカイラインとパールロードだ。前者は延長16.3kmの有料道路(二輪の通行料金880円、125cc以下通行不可)で、後者は後者は通称シーサイドライン=鳥羽市浦村町~志摩市磯部町的矢(延長18.3km)と、通称奥志摩ライン=磯部町的矢~阿児町鵜方(延長5.5km)からなるパールロードである。パールロードも当初有料だったが、シーサイドラインは03年4月から、奥志摩ラインは06年7月より無料開放となり、現在に至る。2本ともに走って楽しく眺望にも優れる道である。


MAP

 最初に伊勢志摩へ走りに行ったのは90年代半ばだったろうか。ある二輪誌のライバル比較試乗のような企画で、グループで出かけ、ワインディングでハンドリングほか走りのインプレを取り、適当なコーナーや広い駐車場などで走り写真や止まり写真を撮影した。鳥羽市街から近いのは伊勢志摩スカイラインで、朝熊ヶ岳(標高555m)をほぼ東西に縦走する山岳ワインディングは、鳥羽側の料金所手前から低中速コーナーが続き、コーナリングを満喫できる。

 ただ、ブラインドコーナーが多く、平日だと交通量はそれほど多くないものの、対向車が時々現れるので、要注意。途中にもいくつか小さい駐車場があるが、もっとも見晴らしがいいのはスカイラインのほぼ中間点にある山頂駐車場だ。北東方向に広がる鳥羽市街や伊勢湾が見下ろせ、渥美・知多半島を望見することもできる。駐車場には売店や山上公苑、展望足湯、などがある。足湯を利用したことはないが、休憩したり、バイクの止まり写真を撮ったりした。

 パールロード(正式名称は三重県道128号鳥羽阿児線というらしい)は日本の道百選などにも選ばれているグッドロードで、眺望のいい区間が多く、コーナリングと美しい景色の両方を堪能できる。シーサイドラインの国崎町・箱田山の山頂にある鳥羽展望台には広大な駐車場があって、360度のパノラマが楽しめる。もちろんレストランや売店もあり、休憩するのに最適だ。この駐車場でもよくバイクの止まり写真を撮った。そういえば確か、鳥羽市出身の演歌歌手・鳥羽一郎と山川豊兄弟の記念碑もあったなあ…。

 一時期、90年代後半から00年代前半にかけては、メーカーが伊勢志摩スカイラインとパールロートがある伊勢志摩で発表試乗会を開催することも結構多かった。東京からだと当然、二輪誌の企画で行くとき同様、泊りがけの取材になるが、ニューモデルの発表が多かった2月前後の冬季でも伊勢志摩は気候が温暖で、道が凍結する心配がない、ということで、メーカーは発表試乗会の開催地に選んだのだと思う。1000ccのVツインモデルや、中型スクーター、リッターSSのそれが開催され4、5回くらい出かけたように記憶する。

 実際、冬場でも比較的暖かく、パールロードほかの道で試乗するのは気持ちがよかった(幸いなことに俺が行くときはいつも好天に恵まれたし…)。その頃はそんな試乗会と前後して、二輪誌の企画で伊勢志摩に行くことが、多いときは年に数回あった。前述したように当然泊りがけで、他の地域も巡って伊勢志摩を巡ることもあり、2泊3日でのツーリング取材、というケースもあった。数回泊まってお世話になった阿児町にある料理民宿が懐かしい。格安料金で豪華な海の幸満載の夕食を出してくれて、いつも大満足だった。

 伊勢志摩といえば有名なのが、志摩スペイン村(志摩市磯部町)だ。パールロード・奧志摩ラインの入口にある的矢湾大橋を渡ればスペイン村で、その名の通り別天地? メーカーの試乗会で的矢湾大橋の手前あたりにあるホテルに一泊させてもらったことがあるが、その折、スペイン村に行ってみたことがあるようなないような…。いや、別の試乗会ではスペイン村のなかにあるホテルに泊まったかもしれない。

 そういえば、奧志摩ラインの終点である阿児町の英虞湾には賢島という小さな島があり、大人が楽しめるレジャー施設があって、夕食後、そこに向かった人もいたような…。伊勢志摩は真珠の養殖、牡蛎の養殖でも名高い。二輪雑誌の企画で、アメリカンモデル複数で取材に出かけた折には、ほぼ取材を終えて帰路に着いてから、シーサイドライン沿いだったと思うが、新鮮な生牡蛎を屋外の施設で、自分で焼いて食べられる店に入った。昼食ではなくおやつ代わりだった。2、3個食べた。とてもうまかったので印象に残っている。

 東京から伊勢志摩に向かう場合、伊勢湾岸自動車道が開通してからは、東名高速~伊勢湾岸自動車道~東名阪自動車道~伊勢自動車道と高速道路をつないで伊勢・志摩地方に赴いたこともあった。だが、それ以前はもとより、それ以後も東名の浜松ICで降りて、国道1号線~国道42号線とつなぎ、渥美半島の伊良湖港まで走って、そこから伊勢湾フェリーを利用して鳥羽港まで(航行時間は1時間弱)というケースの方が多かった。

 いつだったか忘れたが、その日は強風が吹き荒れ、欠航になるのではと心配されたが、結局は運行されて、乗り込んだ。ところが、波浪が高く、船は大いに揺れた。縦に浮き沈みして、乗船客は「大丈夫なんだろうな…」と皆心細そうな顔だった。もちろん、無事、時間通りに鳥羽港に着いて、その後の取材も支障なく進行できた。フェリーは船上で休憩できて海からの眺めも楽しめる。伊勢湾フェリーは料金も手頃だ。5、6年前、知人ふたりと紀伊半島~四国にツーリングに行くときも利用した。そのうち、また伊勢・志摩にも行ってみたい。



パールロード


パールロード


パールロード


パールロード
複雑に入りくむ海岸線をトレースして南下するパールロード。冬でもまず雪は降ることがなく、寒い時期のツーリングにも。●撮影─依田 麗


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、17年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万3000km。

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