MBHCC A-6

かつてミスター・バイクの誌上を彩った数々のグラビアたち。

あるときは驚きを、またあるときは笑いを、そしてまたあるときは怒りさえも呼び込んだ、それらの舞台裏ではなにがあったのか?

1980年代中盤から1990年代、メインカメラマンとして奮闘した謎の写真技師こと、エトさんこと、衛藤達也氏が明かす、撮影にまつわる、今だから話せる(んじゃないかと思うけど、ホントはまずいのかも)あんな話、こんな話。どんな話?

第38回 闇夜に潜む、宇宙人に夢中

 
 今回は、1990年10月号、FRCで兵庫県氷ノ山に行ったときのお話です。

 
「エトー、これ見てみろ」とサービスサイズの写真の束を渡されました。
「林道の写真じゃないですか。たくさんありますね。これだけあれば、取材に行かなくてもページ出来ちゃいますね」
「なっ。すげーだろ、組めちゃいそーだろ。でもよ、これをそのまんま載せたら、おまんまが食えなくなっちゃうだろ」
「そうですね。それは問題です。まあ、信哉さんは文章を書けばお金になりますが、私は写真を撮らないとお金がもらえません。それは困ります。だから取材に行きましょう!」
「俺様は自分の目で見た物以外は信じねーから、写真だけ見て書かない。行くぞ! それより、この写真よーく見てみろ」と、一枚の写真を差し出しました。特になんてことはない写真です。
「何か変わったところがありますか?」
 ぽかーんと写真を見ていると、「メモが付いてるだろ。読んでみな。俺様は絶対信じねーけど、なっ」
 メモを読んで写真をもう一度見直すと、UFOのような物が写っていることに気づきました。
「これって、もしかしてUFOですか? 凄いですね、行ったら見られるんですかね?おもしろそうですね。絶対行きましょう。楽しみだなー。UFO見られるかなー、撮影できるといいですねー。編集長賞をまた貰えるかもしれませんね」興奮して口に泡をため、まさに十分に泡立ったツバを飛ばす寸前、信哉さんは、何だお前は。そんなに興奮することねーだろうという冷静な顔で言いました。
「俺様はぜってー信じねーよ。そんなことあるわけねーからな。ぜってーにねーよ。ぜってー! 俺様の目で見ねー限り、ぜってー信じねえからな。UFOなんて」と、私と違う意味で興奮していました。
「でも、写真撮れたらおもしろい記事になりますよ。タイトルは『FRCにUFOを見にゆーふぉー(行こうのつもり)!』なんてどうです?」と、さらにひとり興奮していました。私、カニは死ぬほど嫌いですが、どうやらUFOは好きなようです。
 今冷静に考えればUFOとは未確認飛行物体、つまり未確認な飛行物体ですから、UFO=宇宙人の円盤というわけではないのですが、我々の頭の中にあるUFOは、宇宙人の乗った円盤なのです。
「兵庫県だから5〜6時間かかるだろう。夕方前に出発するぞ。それと帰りの駄賃でもう一カ所取材するからな」
「どこ行くんですか?」
「それはだなー、めんどくせーから詳しくは向こうの取材が終わってから話す」と打ち合わせは終わりました。もっともっとUFOの話がしたかったのに……

 
 現地に着いたのは真夜中でした。夜明けとともに取材を開始することにして、周りに何があるかも解らない真っ暗な中、ちょっと広いところで野営することにしました。場所が決まればいつものようにビールです。誰もいない山の中。遠くで虫の声が聞こえるだけの静かな闇の中、空を見上げると無数の星がくっきり見えます。視線を下に動かせば、遠くの山の稜線がくっきり見えます。思い出したように信哉さんは買ったばかりの双眼鏡を取り出しました。
「スッゲーぞ、エトー。天体望遠鏡じゃないけど結構星が見えるぞ。オイ」
 記事には小型の双眼鏡と書いてあるのですが、全長が30センチはある観光地にある100円の観光用双眼鏡を3分の2くらいにしたような大きさで、どうみても小型ではありません。ちょっと借りて覗いてみたら、結構な重さで、2、3分覗くのが限界という、長時間は持てないほどの重さでした。信哉さんにとっては小型の分類なのでしょうか。じゃあ信哉さんにとって大型の双眼鏡とはどのくらいの大きさなんだろうか、とても気になったのですが、こういうディベートが大好きな信哉さんに質問したら、とてもめんどくさいことになるので、ぐっとがまんしました。

 
「すげーぞ、エトー。あれが水星? こっちが火星? じゃあこれは木星?」と興奮度は光速で増加していきます。が、私は星にまるで興味がないようです。無数にある星を見ても何星なんて解るはずもありません。明けの明星と宵の明星くらいは知っていますが、どっちが金星でどっちが火星だったか定かではありません(明星は金星の別名ですから、どっちも金星です……編集部注)しかし、せっかくなので300ミリの望遠レンズをカメラにセットして覗いてみました。赤ハチマキの白レンズ、プロ仕様のF2.8の明るさでも、ファインダースクリーン越しでは暗くてよく見えません。あれ? 何回か覗いていると、星空を遮る物体らしきものがあります。何だろう? 何かおかしいと肉眼で夜空を見上げると、頭上に何か黒い物体が見えるではないですか。なんだこれは!? 
「し、信哉さん、な、何か、変な物体が空中にあるんですけど……見えませんか」
「何だ、どうしたエトー。UFOでも見えたか? そんなものいるわけがねーけどよ」
「いや、信哉さん、何かあるんですよ変な物が空中に。黒い物体が。何でしょうか。UFOですかね?」
「いつも言ってるように、俺様は自分の目で見ないものは信用しねーよ」と、まったく気が付いていません。ほら、あそこですと黒い物体の方向を信哉さんに教えると「ん? 確かに何かあるな。何だ、ありゃ?」と気が付いたようです。
「オタマジャクシみたいな形していませんか? アダムスキー型UFOのフルモデルチェンジ版でしょうか」
「真っ暗でなにも見えねーけどよ、確かにオタマジャクシみたな形に見えるな。でも俺様は信じねーよ。とは言え気になる物体だな。なんでこんな山の中に、空中に浮いている物があるんだ?」
「ゴジラに出て来たヘドラにも似てますよね。もしかするとUFOから私たちを見張ってるんじゃないですか? いきなり窓が開いて光線が出て掠われないでしょうか。ヤバくないですか。早く逃げた方がいいんじゃないですか。宇宙船の中で人体実験されて、火星の方まで連れて行かれたり……でも、ちょっと怖いような、楽しいような。どんな宇宙人なんでしょうね。やっぱりちっちゃいですかね。それとも昔の漫画に出て来たように、足や手が何本もあったりするんですかね。やっぱり金色でしょうか。いや銀色かも。ひょっとして人間と同じ容姿かもしれません。そしたら、すごくきれいな、ボインボインのおねーちゃんもいたりして。うへへ。それとも昔TVドラマであったような、人間のスーツを着たトカゲだったりして。何星から来たんですかね。水星人、金星人、地星人、あっ、これは地球人か。火星人、木星人、土星人。天王星人、海王星人、冥王星人、それとも全然知らない星からきた宇宙人ですかね。なんでしょうね」と、どえらく興奮し、光速で妄想を始めたのです。ビールをたくさん飲んだからか、次から次に妄想が浮かんで止まりません。私はほんとうにUFOとか宇宙人が好きなのです。だから目玉が付いた土星と、もろびとこぞりてでおなじみ、スーパープラネットというパチスロにはまり、NEW F-1ボディ10台分ほど投資して研究した結果、“エトー6千万円打法”なる秘技を編み出したのですが、もろびとこぞりてはまったく流れませんでした。いいのです。お金に目がくらんだのではなく、大宇宙へのロマンからなのです。

 
「オメー、なに一人でそんなに興奮してんだよ。絶対になにもねえんだよ。もしあったらもう、今頃はもう掠われてるかもな」信哉さんは常に冷静です。あの物体の正体を暴くのだと、信哉さんは懐中電灯で照らしたのですが光量が弱く届きません。私はカメラバックからストロボを取り出しました。
「信哉さん、ストロボは一瞬しか光が届きませんから、瞬きしないで見てください」と物体に向かい発光させました。
「エトー、一瞬じゃわかんねえよ。もっと連続で光らせることができねーのかよ」もっともです。「じゃあ、発光量を小さくして、何回か連続で発光してみます」と出力を最低に設定し、高橋名人のごとくタタタタタっとボタンを連打しました。



1990年10月号表紙
1990年10月号。涼しげな表紙の撮影はもちろんエトさん。巻頭特集のタイトルはずいぶんと煽動的。ですが……内容は……まあ、その。


1990年10月号


1990年10月号


1990年10月号


1990年10月号


1990年10月号
今回のネタ元、FRCの記事です。いつもより短め?

 

「ん? ロープみてーな物が見えねーか。もういっぺんやってみろよ」
「でも、もう一度発光して気づかれると、宇宙に連れて行かれますよ。UFOじゃなくて、地球外生物かも知れません。そしたら食べられてしまいます。もうあきらめて逃げましょう。早く決断した方がいいと思うんですが」
「エトーよ、落ち着け。大丈夫だよ。もしそうだとしたら、今頃掠われるか、食われるかして、こんな会話なんて出来ねーだろ。いいから早いとこやれよ」
「はあ……たしかに。小型のストロボなもんで、チャージに時間かかるんですよ。あっ、パイロットランプつきました。じゃあ、やりますよ。よーく見ていてください」と、再び連打連打連打、すると「おおおっ、なんか見えたぞ。あっ、解ったぞエトー! あれはウインチだ、ウインチ」
「ウンチ?」「バカ、ウインチだよ。ウインチ。林業用のウインチだな。山で切り出した木をワイヤーで運ぶやつだ。俺様は何回か見たことがある。明日明るくなったら解るよ。多分この周りは切り出した木材だらけだろうよ。エトー、何かすごく損した気分だぜ。分かったらもう寝ようぜ……ユ−レイだったらよかったのに。あーあ」と、ごろんと寝てしまいました。
「え〜? ほんとですか……つまんないな……UFOだと思ってたのに」と私もぶつぶつ言いながら寝ました。

 
 翌朝目覚めると、信哉さんの言う通りに材木置き場でした。上を見上げるとおたまじゃくしのような形をしたウインチが鎮座していました。夕べのあの興奮がなんだったんだろうか……UFOが絡んだおもしろいページ展開になると期待していたのですが……野望も希望もガラガラと音を立てて崩れていきました。もしかして取材中にUFOと遭遇できるかもと、かすかに本気で期待していたのですが、もちろんそんなことなどあるはずもなく、無事に取材は終わら……なかったようです。記事を読み返すと、朝っぱらから落ちていた130円の所有権のことで、険悪な雰囲気になったようですが、私の記憶には全く残っていません。

 
 今回のお話はここまでですが、実はこの後に帰りの駄賃で行った林道で、隕石クレーターを発見することになるのです。そのお話は次の機会に。

 
 今年も一年、ご愛読ありがとうございました。思い出すネタもどんどん少なくなってきましたが、来年もどうぞよろしくお願いします。


衛藤達也
衛藤達也
1959年大分県生まれ。大分県立上野ヶ丘高校卒業後、上京し日本大学芸術学部写真学科卒業。編集プロダクションの石井事務所に就職し、かけだしカメラマン生活がスタート。主に平凡パンチの2輪記事を撮影。写真修行のため株式会社フォトマスで (コマーシャル専門スタジオ)アシスタントに転職。フリーになり東京エディターズの撮影をメインとしながらコマーシャル撮影を少しずつはじめる(読者の方が知っているコマーシャルはKADOYAさんで佐藤信哉氏が制作されたバトルスーツカタログやゴッドスピードジャケットの雑誌広告です)。16年前に大分県に戻り地味にコマーシャル撮影をメインに活動中。小学校の放送部1年先輩は宮崎美子さんです。全く関係ないですが。


●衛藤写真事務所
「ぐるフォト」のサイトを立ち上げました。グーグルマップのストリートヴューをもっと美しく撮影したものがぐるフォトです。これは見た目、普通のパノラマですが前後左右上下をまるでその場に立って いる様に周りをぐるっと見れるバーチャルリアリティ写真です。ぜひ一度ご覧下さい!

http://tailoretoh.web.fc2.com/ 

  

●webサイト http://www1.bbiq.jp/tailoretoh/site/Welcome.html
●メール tatsuyaetoh@gmail.com

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