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 かつて東京モーターショーにSHOWAが出展したとき、「SHOWAがショーに出展!?」と、その意外性に驚かされた。ショーの開催早々にSHOWAブースに足を運ぶと「BPF/ビッグ・ピストン・フロントフォーク」という、当時の革新的なフロントフォークが大々的にお披露目され、その自信とともにSHOWAブランドを高めていくぞという、強い意気込みを感じた。

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 今回EICMA出展の一報を聞いたとき、あのときに感じた興奮を思い出した。

 先進国から新興国へ、二輪マーケットの勢力図の変異は驚くほど早く、それにともなうプロダクトの変異や開発方法の進化、そして生産地移管を含む生産やロジスティックスの変化などなど、その加速度たるや、我々の想像を超している。そのなかでMotoGPの“チーム・ゴー&ファン・ホンダ・グレシーニ”やスーパーバイク世界選手権を戦うカワサキ・ファクトリーチーム、またダカールに挑む“Team HRC”など、さまざまなカテゴリーのトップチームを足元から支え、そこで得たノウハウを市販車のサスペンション開発に活かしてきたSHOWAが、再びショーに出張ってくるのだ。

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 今度は、いかなるプロダクトを引っ提げてくるのか。その期待は、ショー会場で受けたプレゼンテーションで、大いに満たされた。トップカテゴリーから大量生産モデルまで、SHOWAのテクノロジーが見事に貫かれ、かつグラデーションされていたからだ。

 そしてEICMA入りしていた副社長であり、二輪・汎用事業本部長である門屋 彰(かどやあきら)氏は力強く語った。

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 「ライバルブランドに対し、今後10年はアドバンテージを得られる高い性能と、それを低コストで生産するための技術革新や生産体制を整えました。これからも我々は、中身で勝負していきます。SHOWAのサスペンションが付いていることでそのバイクの価値が高まるような、そのバイクを選んで頂ける理由になるようなブランドになりたい。そのためにもSHOWAとして技術力とブランド力を高める必要がある。今回EICMAに出展した理由も、ここにあります」

 そしてSHOWA製スペシャルサスペンションを装着した限定バイクの製造も、二輪メーカーに働きかけていきたいと語った門屋氏。その意気込みは本物であり、自信に溢れていた。

 では、その自信の根底となる、EICMAに展示されていた新しいSHOWA製サスペンションを紹介する。
 

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■バランスフリーフロントフォーク

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■バランスフリーリアクッション-ライト

 MotoGPやスーパーバイク世界選手権にも投入されている「バランスフリーサスペンション」に使われている技術を投入した、SHOWAのストリート用ハイパフォーマンスサスペンション。

 具体的な効能は、カートリッジ式を含む既存のダンパーは、車体を切り返したとき/ダンパーから圧が抜け再び圧が掛かるとき、その微少ストローク時にライダーが“ダンパーの遊び”を感じるような、応答性が希薄になる領域があった。それを、バランスフリーテクノロジーを用いることで解消し、サスペンションの応答性を向上させているというのだ。

 サスペンションは奥までストロークしたとき、サスペンション内のピストンの移動によって圧側の部屋が高圧になる一方、その反対側/伸側の部屋は圧力が下がる。そして車体を切り返すなどして圧力が抜けたとき、圧力が低い反対側の部屋にピストンが吸い寄せられてしまい、車体の反応以上にピストン/サスペンションが(極微少ではあるが)動いてしまう。その動きをライダーは“遊びがある”と判断するのだという。

 一般的なシングルシリンダーを持つサスペンションの場合、圧側と伸側の部屋はピストンで遮られていて、減衰力を生み出すサスペンションオイルは、ピストンの動きに連動して圧側と伸側の部屋を行き来している。したがってピストンの動きによって一方の部屋は圧力が高まり、その反対側は圧力が下がるという現象が起きるのだ。

 しかしバランスフリーテクノロジーを用いると、ピストンによって押し出されたオイルは別経路から反対の部屋/伸側に戻すことができ、その結果、伸側の部屋の圧力を、ピストンの動きに左右されることなくほぼ一定に保つことができるというのだ。そして切り返し時にも、ピストンの動きに応じた減衰力がすぐに起ち上がり、ライダーが“遊び”を感じることが少ないというわけだ。

 リアサスペンションについても同様のバランスフリーテクノロジーを採用。すでにHONDA CBR1000RRに採用されている。今回発表した「バランスフリーリアクッション-ライト」はダンパーサイズを小型化軽量化したプロトタイプモデルとなる。

 フロントフォークのアクスルシャフト脇に装着した赤いサブタンクは、いままでリアクッションで採用してきたサブタンク付サスペンション技術の応用。ダンパーを加圧することにより、圧力変動によって発生するフォークオイルのキャビテーション(気泡/減衰力の発生を妨げる)を抑え、バランスフリーテクノロジーの効果をさらに高めることができるという。

 SHOWAは、車体を切り返したときの応答性がサスペンションの性能に大きく影響し、乗り心地を変化させると考えている。バランスフリーテクノロジーは、サスペンションのポテンシャルを高めるためにSHOWAが導き出したテクノロジーであり、今後さらに多くの市販車に装着する事を目標としている。
 

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■デュアルベンディングバルブ

 広く普及しているフリーバルブ式のフロントフォークは、シリンダー内のピストンが上下し、その動きに合わせてフォークオイルがオリフィスと呼ばれるバルブを通過するときの抵抗を利用し、減衰力を生み出している。

 しかしそれは、ピストンスピードに対して二乗的にしか減衰が出せない。したがってピストンのストロークスピードが遅いときには、求める減衰力が発生しづらい特性を持っていた。

 デュアルベンディングバルブは、カートリッジフォークに採用されるシム(板バルブ)を利用した独自のバルブ機構を開発。それを積層(二段重ね)にすることで、ピストンスピードに比例したリニアな減衰力を発生させる、カートリッジタイプ同等の性能を実現。しかもインナーチューブのボトム部分にこの機構を格納することができ、この部分のみの機構を入れ替えるだけで性能を発揮できることから、簡素かつローコストで性能改善が出来るのだという。

 積層したバルブは片方が圧側、片方が伸び側を受け持ち、オイル経路の反対側にあるワンウェイバルブを利用し、オイルの流路が逆になるとそれぞれの機構を介さずオイルが開放される。

 最大のメリットは、カートリッジタイプのフォークと同様の性能が得られると同時に、ピストンの受圧サイズが大きく、そこで実績のあるSHOWA独自のフロントフォーク技術/ビッグピストンフロントフォークの技術を応用することが出来ること。ピストンサイズを大きくすることにより減衰力の応答性が向上し、高い性能を発揮させることが出来るのだ。

 デュアルベンディングバルブは、正立フォークを採用しているネイキッドやクルーザーモデルへの装着を予定している。そこでは乗り味が大幅に改善され、とくに直進安定性やブレーキング時の安定性が向上しているという。

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■SFF-BP Lite(Separate-Function Front Fork with lite design Big Piston)

 競技用オフロードモデルに採用されている、フロントフォークの片側に分離加圧ダンパーを、もう一方にスプリング機構を持たせ、機能を分担させることにより高い性能を発揮させることが出来るS.F.F.(セパレートファンクションフロントフォーク)構造と、スーパースポーツモデルなどに多く採用されている、ピストンサイズを大きくすることにより減衰力の応答性が向上し高い性能を発揮させることが出来るビッグピストンフロントフォーク構造を合わせた新しいフロントフォーク。

 したがってフロントフォーク片側にビッグピストンフロントフォーク構造を持つ減衰機構を配置し、もう片側はスプリングのみ。これにより軽量化と低コスト化を実現。750~1000ccなどのネイキッドスポーツモデルへの装着を想定している。
 

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■SSIF(Showa Smart Inverted Fork)

 小排気量モデル用倒立フォークに採用を想定。フロントフォークの片側にダンパーを、もう一方にスプリング機構を持S.F.F.構造を採用しつつ、正立フォークの製造が中心の東南アジア工場において、その生産ラインでの製造を前提に開発されている。もちろん、単純に上下を逆転しただけでは到達できない高いサスペンション性能を実現しつつ、製造効率を高めるために様々な技術革新が達成されている。
 

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■SFF(Separate Function Fork)

 150cc以下の小排気量モデルへの装着を前提に開発されたフロントフォーク。セパレートファンクション構造をさらに進化させた、ダンパーとスプリングをフロントフォーク片側に集約し、もう片側はスライダー構造のみとしたフロントフォーク。重量はもちろん、片側に機能を集約しながら左右均等に性能を発揮させるために、レースや多種多様なバイク用サスペンション開発で培ったSHOWAのテクノロジーが集約されているという。
 

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■ダカール車両

 2013年からダカールに参戦しているHRCのマシン「CRF450Rally」にサスペンションを供給しているSHOWA。そこで得たノウハウは、他のカデゴリーはもちろん、レース以外の様々なサスペンション開発に活かされている。

 ダカールは走行時間が長い特殊なレースである。そこで得たSHOWAの結論は、フリクションを減らし、よく動くサスを造ること。それにより走破性を高め車体が持つポテンシャルを最大限に高めると同時に、ライダーの負担を軽減し長丁場で戦うマシンとライダーのポテンシャルを高い次元でキープできるのだという。

 そこで2014年仕様のフロントフォークは、カートリッジや内部構造は大幅改良して適切な減衰力や剛性などを確保するラリースペシャルとして仕立てると同時に、徹底的にフリクションを軽減。EICMA会場では2014年仕様と2013年仕様のフロントフォークに直接触れることができたが、その違いは“バネレートが違うのでは?”と疑ってしまうほどの差。2014年仕様は、とにかく動きがしなやかなのだ。

 両者の違いは、あくまでもフリクション周りの見直しを行っただけだという。しかし単純にフリクション軽減を追求したのではなく、ひとつひとつの部品を確認しながら、必要な減衰を確保した上で慎重に作業を進めたのだという。

 そのフリクションロス軽減の技術を活かし開発したのが、次世代のモトクロス用フロントフォーク/SFF-Airだ。
 

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■SFF-Air(Separate Function Front Fork – Air)

 エアサスペンションを開発するに当たって、ガスを封入して反力を生み出すと、シールのフリクションが強くなり、スムーズな動きが損なわれる。そこでフリクション低減技術を投入し、初期のフリクションロスを軽減。既存のダンパーと遜色ない性能とスムーズさを実現したという。

 エアサスペンションを採用する最大のメリットは軽さ。反力を生み出すためのエアサスペンション構造が新たに必要となるが、スプリングを持たないことから約1kgの軽量化が実現。すでに“SFF-AIR TAC”と言う名前でモトクロスシーンでは実戦投入し開発を進めているという。

 “TAC”とはトリプル・エア・チャンバーの略。3つの部屋に分けてエアを封入し、スプリング同様の反力を生み出している。メインのインナーチューブ内にある“インサイドチャンバー”のエア圧を高めるとバネレートを上げた時と同様の効果が得られるが、それだけだと金属バネと同等のフィーリングが得られないという。

 そこでアウターチューブの内側に“アウトサイドチャンバー”を、そしてアクスルシャフト近くに外付けの“リバウンドチャンバー”を配置している。このリバウンドチャンバーはスプリング式サスペンションのリバウンドスプリングに近い特性を生み出し、エアサスペンションにとってもっとも重要な部分であるという。

 そしてセパレートファンクション構造によってフォーク片側にエアサスペンション機構を、もう一方に減衰機構を集約しているという。

 エアサスペンションのメリットは軽さだけではない。バネレートの異なるスプリングへの交換やイニシャル調整のようなセッティング変更が、空気入れのような加圧器で内圧を調整するだけで、簡単に行えるのだという。

 もちろん現状ではワークスチームなどへのサポートが中心で、それらの調整はエンジニアが行っている。しかし市販モトクロッサーなどに装着される場合は、エンドユーザーに対してどのようなサポートが必要になるのか、その検討も含め、今後の課題となるという。

(取材&レポート:河野正士)
 


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