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ホンダ

振動や雑音も抑えられ、ミニマム・コミューターとしてはパワフル

 生まれて初めて運転したスクーターは、叔父が持っていた真っ赤な初代タクト(二年間で72万台を販売した大ヒットモデル)だった。高校の同級生はテールランプがVT250Fみたいな三代目タクトに乗ってたっけ。スタンドアップ機構は付いていなかったけど、友人の五代目タクトをしばらく借りて乗っていたこともあった。おそらく、私の世代(40代中盤以降)にとってタクトはバイクブームなどもあり、自転車のように身近な存在だった。ちょっと下の世代になると「ディオ」なのかもしれないが、私にとってはホンダのスクーターの代名詞的存在と言えば「タクト」である。

 1982年のリード50から採用される、ホンダの原付一種(原一)スクーターの型式を表す「AF」として75番目にあたる新型タクト(八代目)、ベースとなっているのは昨年、原一スクーターとして12年ぶりに車体からエンジンまでオールニュー・モデルとして発売された「ダンク」だ。

 ダンクが若年層の男性をターゲットとしていたのに対し、新型タクトは幅広い層をターゲットとした造りに。スタイルを重視したことでダンクには設定のなかった前後バスケットをオプションで用意するなど、原一スクーターで用途的ニーズの高い”お買い物バイク”として最も重要とも言える機能を充実させている。また、他社製原一スクーターに対しパワフルな水冷エンジン、しっかりとした足周りを装備しながら価格は抑えられ、コストパフォーマンスは高い。

 もっともこのクラス、購入も”自転車感覚”なので、性能が優れていることにこしたことはないが、車両価格が安ければ安いほどユーザーの目がそちらに向いてしまう傾向にあるのは仕方が無いこと。新型タクトにはアイドリングストップ機能を省くなどでさらに価格を抑え、シートを低くした”ベーシック”モデルをラインナップするなど万全の体制を敷く。カラーバリエーションが豊富なので、ベーシック・モデルの方が主力商品なのかもしれない。

 ダンクとは対照的に、見た目はやや保守的に感じられる新型タクトに触れると、最初に感じることが軽さ。男性ならアームを踏むだけでセンタースタンドが掛けられるほど、とにかく軽い。車体もコンパクトだ。これ、女性ユーザーの多い原一スクーターにとってとても重要なこと。現在、男性が乗ってもポジションに余裕があったリードのようなモデルが市場から姿を消してしまっていることからも分かる通り、このクラスは女性に加え、高年齢層がターゲット。かつてホンダには車両重量37kgの「イブ」というスクーターがあったほどだから、多くの原一スクーター・ユーザーにとって車両重量は軽ければ軽いほどいい。

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ユーザーの性別、年齢、特定の流行に偏らないシンプルなフォルムを目指したという新型タクト。フロアスペースは最短部でも220mm確保される。車体色はキャンディーノーブルレッド。ライダーの身長は173cm。

 29年ぶりの4ストローク・エンジン搭載となる新型タクト、走り出すと50ccというミニマム・コミューターとしてはパワフル。振動や雑音も抑えられ、とても快適だ。足周りはさすが原付二種(51~125cc。原二)クラスと較べると見た目は華奢ながら、安定感・安心感はしっかり確保されていた。原二以上のバイクを体感している人にとっては最初、非力に感じるかもしれないが、乗り慣れてくると、小さなキャパシティのユニットが高回転まで一気に回っていく感覚は新鮮で楽しい。メーターも大きく視認性は高い。同価格帯のスクーターでは稀な時計を装備しているのもポイントだ。

 コンパクトな車体は女性にとって不安は少ないだろうし、平均的身長の男性なら窮屈ではない。近所までの買い物といった足としては充分以上。このクラスだからこその小回り性や軽さといった光る部分があり、駐車スペースも少なくて済む。とにかく「手軽さ」が魅力で「1台あるといいな」と思わせる。

 今回、片道17キロほどの通勤を想定した使い方で140キロほど走行。とうしても高回転まで回し気味になってしまうので、さぞや悪いかと思いきや燃費は55.27km/L(満タン計測)と、ほぼWMTCモード(56.4km/L)と同等の結果であった。ただ、最寄の駅や買い物など、近距離移動の頻繁な使い方では燃費の数値は当然ながら悪化するだろう。

 交通量が多く、道路の構造も複雑な都心部では30km/hの制限速度、二段階右折といった制約が多く、普通二輪小型限定以上の免許を持っている人にとって原付一種バイクは、通勤ラッシュ時間帯に場所によってはバス専用レーンを走行できる以外にメリットは少ないだろう。一方、郊外や地方部では軽自動車まで必要はないが、通勤・通学の手軽な乗り物として特に女性や高齢者に依然として高い需要があり、無くてはならない乗り物であることも事実。そんな原一クラスで、価格以上の”+α”を求める人に新型タクトはオススメの1台と言える。

(試乗:高橋二朗)

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ダンクでは設定の無かったフロントバスケットが装着可能に。フェンダーを別体とし、フロントカバーの角度を立たせ、バスケットの取り付け位置を車体中心に近づけるなど、取り回しやすさも配慮。 リアキャリアは標準装備。スタンドを掛ける際のグリップが備わり、Uロックも装着できる形状。もちろん、装着可能なバスケットもオプションで用意されている。 大きく見やすいスピードメーターに時計、エンジンオイルの交換時期、トリップ/オド、燃料残量を表示するLCDディスプレイを装備。
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タクト(写真)にはダブルステッチで立体縫製されたシートを採用。タクト・ベーシックのシートはクッション厚を確保しながらシート高が15mm下げられる。シート下容量はタクトが20L、タクト・ベーシックは19L。 フロントインナーラックは500mlのペットボトルが収まる容量を確保。持ち手の太いバッグもかけられる折りたたみ式の大型フックも装備。 燃料タンクはフロア下にレイアウト。容量はこのクラスとしては標準的な4.5L。キャップはプッシュロック式。
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ホンダ独自のコンビブレーキを採用。リアブレーキレバーには、今から35年前の初代タクトから装備されている便利なロック機構も備わる。軽量化の追及か、肉抜きされたレバーもカッコイイ。 タクトとしては初となるテレスコピック式のフロントサスを採用。ダンクと同じ油圧式で、上質な作動が特徴。タイヤはダンクよりひとサイズナローな80/100の10インチとなる。 ダンク同様、水冷4ストロークの50cc版eSPエンジンを搭載。定地燃費はダンクを上回る80km/Lを達成。タクト・ベーシックにはアイドリングストップ・システムは備わらない。
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●タクト〔タクト・ベーシック〕主要諸元

■型式:JBH-AF75
■全長×全幅×全高:1,675×670×1,035mm、ホイールベース:1,180mm、最低地上高:105mm、シート高:720〔705〕mm、燃料消費率 :80.0km/L(国土交通省届出値 30km/h定地燃費値 1名乗車時)56.4km/L(WMTCモード値 クラス1 1名乗車時)、最小回転半径:1.8m、車両重量:79〔78〕kg、燃料タンク容量:4.5L
■エンジン種類:水冷4ストロークOHC単気筒、総排気量:49cm3、ボア×ストローク:39.5×40.2mm、圧縮比:12.0 、燃料供給装置:PGM-FI、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、始動方式:セルフ式(キック式併設)、最高出力:3.3kw[4.5PS]/8,000rpm、最大トルク:4.1N・m[0.42kgf]/7,500rpm
■変速機形式:無段変速式(Vマチック)、ブレーキ(前/後):機械式リーディング・トレーリング/機械式リーディング・トレーリング、タイヤ(前/後):80/100-10 46J/80/100-10 46J、懸架方式(前/後):テレスコピック式/ユニットスイング式
■車体色:キャンディーノーブルレッド、パールジャスミンホワイト、ポセイドンブラックメタリック〔デリケートブルーメタリック、フォースシルバーメタリック、マホガニーブラウンメタリック、ポセイドンブラックメタリック〕
■メーカー希望小売価格(消費税込み):172,800〔159,840〕円


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