バイクの英語

第45回「Pull your finger out(プル ヨァ フィンガー アウト)」

 アプリリアのオートバイを日本でもっと流行らせたいと思っている筆者です。
 アプリリアといえば、日本メーカー以外で唯一スクーターからスーパーバイクまでを作る総合メーカーであり、他ブランドも含めたピアジオグループで言えばそのサイズは巨大。イタリアをはじめ欧州メーカーは何かと注目を浴びることが多いけれど、多くのブランドは趣味性が高いプレミアバイクばかりを展開するメーカーであり、実用的な乗り物からモトGPまでをカバーする欧州メーカーとは実はアプリリアだけですね。
 何で日本ではあまり見かけないかといえば、まずは販売網がマダマダだからでしょう。アプリリアの販売店と言われて「あそこにあるな」とすぐに思い浮かぶ人は少ないはず。結構レアです。販売店が少なければそもそも購入が困難で、さらに買った後もどこで面倒を見てくれるのか、もしくはパーツ供給は大丈夫か、などとユーザーは心配になるわけで、そうすると当然だけど売りにくい&買いにくい。
 もう一つには、アプリリアってもの凄くよくできているのが逆の意味で災いしているのじゃないか。BMWならフラットツイン、トライアンフなら3気筒、ドゥカティならデスモ機構の音が盛大なVツインと明確にイメージづけができているのに対し、アプリリアはとにかく優等生。決してポテンシャルは低くないしとても魅力的なモデルが多いのだけど、どこか国産車的万能性を持っているがゆえに趣味のバイクにたくさんのお金を払いたい人にとってはちょっと個性に欠けるというか。せっかくそういったプレミアムなものを買うなら、物怖じするほど個性的なものが欲しいという気持ちもどこかにあるのでしょう。
 しかしアプリリアはやっぱりステキなのです。
 RSVはVツインの時から素晴らしいバイクで、低回転域ではVTRファイヤーストームみたいな扱いやすさがあるのに高回転域は恐ろしく速く、かつ車体もそのまま高いレベルのサーキット走行が可能なまとまり。その後V4になってからはワールドスーパーバイクでの活躍は周知の事実で、それぞれのネイキッド版トゥオーノも公道で乗るには最強の類。
 それの小さい版みたいな750ccのVツインSHIVERもまた名車で、扱いやすさとパンチが上手に両立されて長距離乗っても難しさがない。さらに新型になってからはリアのリム幅を細くするなどマニアをグッと唸らせる変更までされているし、750クラスのネイキッドなのにアプリリアお得意の最新電子機器でパワーモードも搭載する。
 俊足スクーターはSRV850。スクーターなのに850ccのVツインエンジンを搭載し、これが本当に速い! 本当に!! 値も張るが、その速さはスクーターのものではなく、かつコーナーもかなりイケるためオートマチックな二輪車では最強でしょう。
 今はもうラインナップされていないけど、かつてはSXVというモタードモデルもありました。これはバイク史上稀に見る化け物で、上位版の550は120キロの車体に、フルパワー化すれば80馬力近いとされるVツインエンジンを搭載。モタードらしくストロークの長いサスペンションは持っていたものの、リアタイヤは180幅とロードモデルサイズで、実質上はモタードといえどロードモデルに近く、しかもほぼ完全レーサーのまま市販されちゃったから本当に信じられない性能を持ってました。
 どう、アプリリアというメーカーが魅力的に思えてきたでしょう。扱いやすさは確保しつつもチャレンジングなモデルも作ってくれ、しかも海外では日本車と同等の耐久性も評判になっているという(SXVなど一部のほぼレーサーモデルは除くけど)。こんな素敵なメーカーなのに、なんで日本でもっと流行らないか……

 今月の英語はPull your finger out です。直訳すると「指を引っこ抜け」となります。これは何もせずにボサッとしている人や、やるべきことをテキパキとこなさずにダラダラしている人、もしくは思考停止状態で何の役にも立っていない人に向けてかける言葉ですが、一方でフレンドリーな感じで「頼むよ~!」と声をかける時に使ったりもします。

 語源には諸説ありますが有力なのを2つ。

※    ※    ※

その1
 最初に使われたのは二次大戦中の英空軍RAFだという説が有力。兵隊は常に集中力をもって任務に当たらなければならないわけだが、英国というお国柄、飛行中に紅茶とビスケットを嗜み、着陸後は飛行場でクリケットに興じるという責任感の薄い隊員も多かったという。また南仏の戦線では本国ではまずお目にかかれない好天と陽気にすっかり戦意を喪失し、日向ぼっこを楽しむ隊員も少なくなかったとか。こういった状況において上官は「おいおい、しっかりしてくれよ!」という意味でこの言い回しPull your finger outを使ったとされる。ダラダラと紅茶を飲み、日差しを満喫している隊員たちに、ティーカップ、もしくはビスケットの缶から手を出して任務に戻れ! という意味合いで使われ始めたとされる。

その2
 さらに昔の話になるが、かつて海戦で使われた大砲には爆薬を詰めた後、着火する前に爆薬を指でギュッと砲身に押し込む必要があったという。しかし海戦の際にはスピーディにこの作業をこなさなければならず、いつまでものんびりと爆薬を詰め込んでいると、とっくに詰め終わっただろうと思った点火係が点火してしまい指がなくなってしまうことがあったとか。こうして指をなくした人はかなりの間抜けとされ、やはり物事に集中せず、現在の状況を的確に把握できない人に対し「なにやってるんだよ、情けない」という意味を込めて「Pull your finger out」と使うようになったとされる。

※    ※    ※

 いかがですか? 実は他にも淫靡な説もありますが、ここでは控えておきましょう。いずれにせよ、「しっかりしなよ」とか「この現状を見ればもう少し何かできるんじゃないの?」という意味で使いますね。仕事でもツーリングでもサーキットでも「Pull your finger out!」と声をかけたくなるような人や状況が、大人の社会ではままあるでしょう。この言い回しは「何やってんだウスノロ!」という強い感じではなく「おいおーい! たのむよ~」という感じで使われることが多いですが、その軽い感じの中に「いやマジで。ちゃんとしてくれよ」というメッセージも込められている難しい表現です。ま、他の言い回し同様、結局は言い方なんでしょう。


人差し指

人差し指! 中指 中指!!

 さて、アプリリアのファンの僕としては、やはり「おいおーい! たのむよ~」というニュアンスでアプリリアに声をかけたいと思っています。素晴らしいバイクがたくさんあるのに販売店やアフターサービスがイマヒトツ充実していないと感じ、そこがネックになって買うに至っていない筆者のような人がたくさんいるはず。KTMのように積極的に店舗展開やイベント展開して下さいよアプリリアさん、 pull your finger out!


筆者 
マルコメ・ランドーリ

様々なレースに関わってきたベテランイタリアライダー。ヤマハ、BMWと乗り継ぎ、アプリリアに乗ってからの成績も良かったが、今年はまだ鳴かず飛ばず。速さ・強さが気分によって左右されるのは稀勢の里と同じ。実は今のV4よりもVツインのRSVが好きだったとか。ロッシと大の仲良し。


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