日本で一番多い名字は佐藤さん（2015年4月現在、私がちゃちゃっとネット調べ）。どれくらい多いかと申しますと、10人くらいしかいない私の友人に佐藤さんがいるくらいです。目と目がクロスする渋谷駅前スクランブル交差点で「さとうさ〜ん、100万円あげますよ〜」と呼べば、ほとんどの人が振り返ることでしょう。
　第2位は鈴木さん。MotoGPに復帰を果たしたスズキの会長さんも鈴木さんです。第3位は高橋さん。おなじみピンキー大統領も高橋さんです。第4位は田中さん。「まぁ、その〜ぉ」でおなじみ浦佐駅前に屋根付きの銅像のある田中角栄元首相が代表でしょう。ちなみに1位の佐藤さんも、2位の鈴木さんも、3位の高橋さんも歴代総理大臣に存在します。以下、第5位伊藤さん。6位渡辺さん、7位山本さん、8位中村さん、9位小林さん、10位加藤さん、11位吉田さん、そして12位が山田さんと続きます。
　山田さんが12位？　山田さんといえば各種用紙の記入例、山田太郎&山田花子でおなじみですから、もっと上位かと思いました。少なくとも吉田さんに負けているとは意外でした。
　が、歴代総理大臣に吉田さんはいても、山田さんはいません。が、JRに山田線はあっても吉田線はありません。が、同じくJRに吉田駅はあっても山田駅はありません。世の中うまくバランスがとれています（何かの）。

　吉田といえば、忘れちゃいけないのが最近（でもないけど）メジャーな吉田うどん。対する山田といえば、かかしマークの山田うどん（このコラムのあってないような、現役店は一部イニシャルにするというルールを破っていますが、ある理由によりイニシャルではなく実名です。その理由は後ほど）。吉田にうどん屋さんが何件あるのかは知りませんが、山田うどんは東京都20店、神奈川県10店、千葉県11店、群馬県16店、茨城県16店、栃木県7店、そして埼玉県には、なんと86店の計166店舗を展開しています（2015年4月現在。※休業中の店舗も含む山田うどんの公式サイトで数えましたが、ご存じのようにバカなので数え間違いがあるかもしれません。以下同。）。ちなみに立喰・ソ三大チェーンは、名代F士そば105店、K諸そば85店、ゆでT郎155店（台湾店含む）です。さらに東日本エリアの駅そばを牛耳る立喰・ソ業界最大手（たぶん）のNRストランEンタープライズですら154店なのですから、山田うどんがいかにずば抜けているか、おわかりいただけるでしょう。

　え？　山田うどんをご存じない？　これだけ大規模に展開しているのですが、そ〜うなんです。集中的に出店している埼玉と関東圏のごく一部以外ほぼ知られていないと言ってもいいかもしれません（埼玉県でも山田うどんがない蕨、桶川、北本、鴻巣、富士見、ふじみ野、坂戸、飯能、日高、三郷、幸手、本庄、秩父の各市ではどうなんでしょう？）。
　と、その前にひとつ。実名の理由ですが、山田うどんは立喰・ソではないと思うのです。もっとも山田うどん自体、私は立喰・ソだ！　と名乗っているわけではありません。それはとりあえず置いておかないと、ここで話が頓挫してしまいますので、まるまる棚の上に上げます。

　
　かつては山田うどんにもスタンド形式の立喰・ソ系もあったとのことです（AB君談）。現在の主流は郊外に駐車場付店舗という、まさにファミレスと言ったほうが的確かもしれません。ならば「ヤマーズ」とか「やまらーく」とか、うどんにこだわらずに脱麺路線へシフトしても不思議ではないのですが、依然としてかかしマークと山田うどんを貫くブレない姿勢が（メニューはブレブレとの噂も高いのでが、それも魅力のようです）、多くの山田者（山田うどん愛好者をこう呼ぶそうです。ちなみに最近の若人は「だうどん」と呼ぶそうですが、山田うどん原理主義の保守系山田者は苦々しく思っているとかいないとか）に支持される理由のひとつであることに間違いないでしょう。などと、恥ずかしながら食べた記憶すらあやふやなのに偉そうに分析なんぞすると、大目玉をくらいますのでこのへんでやめておきます。

　ちなみに全ソ連唯一の会員であるおなじみABくんは、今は幻である新井薬師店の店長さんとねんごろ、じゃなくて仲がよかったそうです。ならばと山田うどんについて尋ねたら「パンチとカレーはよく食べたけれど、うどんはね、まあ、ほら、あれはね、うどんだから」と、なぜかお茶を濁しました。さらに問い詰めると「うーーーーん、うまいか、マズイか。困った……好意を持てるか、どうか。なら、持てます。地域、地元、ドライバーには親しまれている。浸透している。埼玉県といえば、山田うどん、弁当は若菜、スーパーはヤオコー、服はしまむら、みたいな、そういう捉え方でよろしいのでは。かかしのマークを見たら、一服つけるみたいな。店舗によっては、働いているおばちゃんたちも気さくで心地よく、好意をもてます。 うまいかどうか、という判断とは別物の価値観を持つ存在だと思います。個人的には、好きです」と、本質には言及しない政治家のような答弁で逃げられました。

　ちなみに、山田うどんの本店でファンのつどいなる催し物を行ったところ、山田者160人あまりが集結したそうです。やる方もすごいですが、来場者のコメントもまたすごい。ほとんどがABくんのような感じで、うどん自体を褒めないらしいのです。照れや愛情表現の裏返しかもしれませんが、惜しまれつつ閉店した神田そばだってソがおいしくて、おやっさんとおかみさんがものすごくいい人、優しい人だからこそ稀代の大名店だったのです。どちらかが欠けていたら、どうだったでしょう。まあ、そういう立喰・ソも、それはそれで愛しかったりするのですが。

　近くにあればちょくちょく行くに違いありません。けれど、まあ、ほら、ウは毎日たべなくてもいいかなと、山田者のやにもなれない私ですら自然に思っている、そんな自分に驚きます。山田うどん、奥が深いです。

　その山田うどんとは縁もゆかりもない（と思ったら、実はそうでもないようです）、幻になってしまった方の山田うどんを今回のお話にさせていただくつもりでしたが、山田うどんのことばっかり綴っていたら、残念ながら時間切れになってしまいました（←もちろんただの言い訳）。幻山田うどんは、次回に書かせていただこうかと思う次第であります。いつもに増して、オチもキレもなんもなくてすみません。