バイクの英語

第46回
「Get Stuck In(ゲット・スタック・イン)」

 集中すれば物事はさっさと終わるでしょうよ! って思うことは多々あります。もう、はっきり言って日常的に、というか一日のうち何回も思ったりする筆者です。どちらかというとデッドライン前に物事を済ませてしまって、あとは余裕を持ちたいタイプ。片づけるべきことが予定より早く終わったなら、さっさと帰宅してビール飲んで漫画や映画で夕べを楽しみたい。

 ところが世の中そうではないようで。
「時給制」というのはイギリスで始まったそうですね。何かを生産する仕事ではなく、その場に必ずいなければいけないけれど、特に何も生み出していない、といった職場においては非常にわかりやすいシステムとして受け入れられた「時給制」。しかし同時に「仕事をしてもしなくても、ここにいればお金がもらえるんだから」と怠惰な人たちも、ま、当然ながら出現します。

 日本では皆さん真面目だから比較的そういうスタンスの人は少ないと思いますが、それでも勤務時間は必ず会社にいて、その勤務時間内になんとなくやるべきことがまとまりを見せそうだ、という作業効率でやってる人も多いように思います。

 だってさ、「残業しないとローンが払えない」なんて言う人がいますもの大企業でも。それってなんだか滑稽で、「残業しないと仕事が終わらない」ならまだわかるものの、ローンが払えないってことはわざと残業してるわけでしょう? もしかしたら本来は時間内で終わるものを、あえて引き伸ばして残業代を稼ごうってわけだから、やっぱり「時給制」を利用した、ちょっとズルい考え方は日本にもあるのでしょう。

 残業の話はともかく、やるべきタスクがスムーズに進まないのは色んな誘惑があることも関係しているでしょう。今は特にインターネットですね。仕事をしているつもりでパソコンに向かっているのに、ちょっと息抜きに誰かのブログを読んでみたりネットオークションをチェックしてみたり……そんなことしているうちに息抜きが1時間ぐらいになってたりします。他では「ちょっとコーヒー」とか「ちょっとタバコ」とか。

 そんな息抜きも時として必要ですし、仕事に関しては皆さん各々のペースがあることでしょう。なので、筆者としてはチャッチャとやっちゃいたいタイプ、ってだけで、それが正しいとも限りませんね。ギリギリまで引き延ばしたことでもっといいアイディアが浮かぶかもしれませんし、人生を変えるような出会いもあるかもしれません。

 オートバイもしかりでしょう。バイクが好きでツーリングに行くのに、せっかく出かけても休んでばっかりの人たちがけっこういますし、そんなツーリングももちろん否定はしないのですが、筆者はガンガン走りたいタイプ! 早朝に出発して、ワンタンク分ぐらいは激走したうえで朝食。さらにもうワンタンク分ぐらい激走し、お昼を食べたらあとは高速でのんびり帰ってくる、みたいなツーリングが好きです。短期集中型といいましょうか。反対に最初からのんびり行く人もいることでしょう。

 サーキット走行も同じです。アサイチの走行で集中力を高めて、最初の2本ぐらいでカッチリとベストタイムを出す。反対にお昼を食べた後は満腹感から集中力がそがれるのでしょうね、決していいタイムは出ません……。あ、これは短期集中型の悪い例か。サーキットはしつこくセッティングを煮つめたりする方が着実なタイムアップが望めますもんね。

 今月の英語ですが、Get Stuck In、ゲット・スタック・インと読みます。直接的な意味はあのスポーツメーカーのコピー「ジャスドゥイッ」(いいから黙ってやれよ、の意)と一緒ですが、それがなぜスタック・インとなるのか。諸説ありますが有力なのを一つ。

※    ※    ※

 炭鉱が最盛期の時代の話である。
 機械化により世界が小さくなった産業革命後、蒸気機関により鉄道がひかれ、そして様々なものが機械化され、農夫たちをはじめ多くの人々が職を失った。その代りに蒸気機関を動かす原料として石炭が大変重宝がられ、世界中で炭鉱が盛んになっていた。そしてこれら炭鉱には職を失った農夫などが多く働きにくるようになった。
 スタインベックの「怒りの葡萄」でカルフォルニアが一種の楽園として描かれるように、職にあぶれた人たちは金払いがいいとされていた炭鉱で働くことを夢見て集まってきたという。しかし怒りの葡萄でのカルフォルニアが楽園ではなかったように、やはり炭鉱も楽園ではなかった。炭鉱は文明から離れた場所にあり、炭鉱で働くにはその炭鉱が用意する宿舎に入る必要があった。そして食品、衣料についても、その炭鉱が用意するお店にて調達するほかなかったのである。
 いかに給料が良くても、衣食住が完全に炭鉱側の言い値である以上、生活が楽になることはない。有名なカントリー&ウェスタンの曲にも「毎日毎日働くしかないのさ、魂までをカンパニーストアに担保にとられてるからな」という歌詞があるほどで、これら炭鉱労働者たちは実質上ほぼタダ働きをさせられていたとされている。

※    ※    ※

 スタック・インとは、炭鉱の「中に・とどまる」という意味、すなわち他のことは考えずにそれだけをやれ、ということなのです。悲しい話ですね……。
 今では「集中して取り組め」「よく考えてベストを尽くせ」といった意味合いの他、単純に「がんばれ」などという意味でも使います。先に書いたように筆者は短期集中型で、高い効率をヨシとするけれど実際に頑張っている時間は短いタイプ。しつこくしつこくやる人もいるので、ま、人それぞれでしょう。皆さんそれぞれの「Stuck In」のしかたで、仕事にプライベートに楽しんでもらいたいものです。
 今月の英語の使い方。そうですね、モトGP観戦時にヒイキの選手がイマイチ善戦していない時に「ほらーっ!何やってるんだよ~! Get Stuck In!」とか、立ち合いの気が抜けてる力士に「しっかり当たっていけよ!Get Stuck In!」とか、そんな時でしょう。語源はちょっと寂しいですが、現代は「がんばれよ」「集中していけ」ってなニュアンスで使うのが吉かと思います。よかったらどーぞ。


筆者 
アンドレア・ドウモドーゾ

結婚して子供もいるが、それを特に意味もなく仲間に隠し通していたドゥカティライダー。短期集中型で口癖は「準備八割」。なんでもパッパッと片付けていきたいタイプながら、サーキット走行においては綿密にセッティングを進めて一歩一歩着実に前進するタイプという相反する面も持つ。うさぎ年。


[第45回へ|第46回|第47回]
[バイクの英語バックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]