MBHCC A-6

かつてミスター・バイクの誌上を彩った数々のグラビアたち。

あるときは驚きを、またあるときは笑いを、そしてまたあるときは怒りさえも呼び込んだ、それらの舞台裏ではなにがあったのか?

1980年代中盤から1990年代、メインカメラマンとして奮闘した謎の写真技師こと、エトさんこと、衛藤達也氏が明かす、撮影にまつわる、今だから話せる(んじゃないかと思うけど、ホントはまずいのかも)あんな話、こんな話。どんな話?

第41回 ブシャー EOSくんとマミヤくん

 
 お久しぶりです。ネタ切れ気味です。夢では「あっ! あのネタあった!」と気がつくのですが、起きるとすっかり忘れているという悪夢に毎晩毎晩うなされております。それでもいしょうけんめいにひり出した、1990年8月号表紙撮影のお話です。

 
 事の発端は、いつものようにシンヤさんでした。
「おう、エトー、表紙ぶんどって来たからよー。今回はバトルスーツ2が出来たことだし、その宣伝兼ねてなっ。大まかに言うと、ツーリングで休憩して冷てぇジュースをだなブシュー(今で言う「梨汁ブシャー」というところでしょうか)っと噴き出して、スカーっとした夏! って感じの男らしい絵を、欲しいってことだ」
 編集会議で「スカっと男らしい夏を表現したい」という表紙案を提出したそうです。
「そんな簡単な絵で表紙貰えたんですか。さすがですね」
「おう。どんな絵になるって言うから『エトーに任せときゃ大丈夫だ、間違いないって』言ったらKドーさんすぐOK出したぞ。後はお前の腕次第だな」
 そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、Kドー編集長は特に何も考えずGOサインを出したに違いありません。編集担当は適当さ加減100倍のO合さんだった記憶があります。

 
「スカっと男らしい夏を感じさせる絵ですか……暑い夏か、暑い暑い、うーん、どうしましょうか」
「エトー、どっかいい砂浜ねーか? 海がきれいで砂もきれいでな」
「そうですね、ちょっと遠くなりますが、白浜あたりは結構どころかかなり期待できますよ。遠いですけど」
「白浜? 紀伊半島か?」
「まさか、伊豆の方ですよ」
 当時、友達とよく海水浴(ナンパではありません)に行きました。伊豆の白浜は距離の割に時間がかかりました。朝5時くらいに東京を出発して、第三京浜、横浜新道、国道1号線、西湘バイパス、真鶴道路、熱海自動車道を通って、国道135号を延々下って到着は10時くらい。距離は170kmくらいしかないのですが4〜5時間くらいかかりました。帰りの渋滞はもっと悲惨で、6時間以上かかることもありました。だから、すごく遠いイメージなのです。
「伊豆だろ? すぐじゃねーか。下田の手前だろ、ぜんぜん遠くない。たいした事ねーじゃねーか」
 しまった、よけいなこと言っちゃった、失敗した、言うんじゃなかったと、深く後悔しました。けれども代替え案は全く浮びません。湘南辺りとはやっぱり海の色が違うのです。スカっとした気持ちいい写真は白浜じゃないと……と頭の中が混乱してしまいました。
「オメーがきれいだというんだから白浜に決定だ。どうせ運転するのは俺様だから任せとけ。時間はお天道様が真上にくるぐらいが、なつーって感じだろ。11時くらいだな」
「は、はい。そ、そうですね」
「俺様の後ろの方にバイクを写し込みたいから積んで行くぞ。あと必要なものあるか?」
「と、特にありません」
「じゃ、編集部7時出発な」
 シンヤさんの即決で、あっという間に打ち合わせは終了しました。

 
 その後はいつものように石川台希望ヶ丘商店街(当時のMB編集部の近く)のパチンコ屋へスロットを打ちに行きました。後にエトー6千万円打法(第37回参照)の開発へとつながる、登場したばかりのスーパープラネット(山佐の3号機)を打ちまくっていました。
 結局6千万円打法は開眼途上で資金が尽き、撮らぬエトーの皮算用となってしまいました。しかし、2年後その店にトライアンフ(タイヨーの3号機)という台が10台ほど入り、エトー虎退治打法が編み出されたのです。
 それは、コインカウンター脇にあった一冊のノートが始まりでした。ちらっと覗くと、どの台が何枚出したという記録が書き込まれていました。ある日、どこかのおっちゃんが堂々とノートを見ていましたが、店員さんはなにもいいません。そこで店に着くとまずはノートを見て、昨日と今日の出玉を確認します。出ていない台はたんまり貯め込んでいるから、そのうち吹く(連チャンする)に違いないと、ノートに番号が書いていない台に行き、リールの隙間からコイン貯まりを見て(確かこの台は隙間から見えた)コインが上の方まで見えたら、打っていました。どうもトライアンフはある一定以上コインが貯まると吐き出す仕組みのようで(これも記憶が定かでないのですが)、結構な確率で吹いていたように記憶しています(記憶は美化されますから、話半分くらいだと思ってください)。 
 おもしろかったのは左右に7が揃うとBIG確定リーチで、真ん中のボタンは適当に押しても揃いました。なので左右に7が揃うと、つぎ込む一方で激熱になっているホヤ坊を呼び、足の親指で7を揃えました。それを見て逆上するホヤ坊を見るのも楽しかった思い出です。



写真


写真
写真探しました。そしたらこんなフォルダが(写真左)。やれやれと中を開けたらこんな紙切れが(写真右)。いったいどこへ貸したんでしょう。資料と写真管理のずさんさは業界トップを未だ独走中。

 
 撮影の話に戻ります。バックをぼかすよう指示が出ていましたから、使用したカメラはMAMIYA RZ6x7。6×7cm(ろくなな)サイズのいわゆるブローニフィルムを使う中判カメラです(前回登場したバイテンは大判)。このカメラ、普通の35mm判と違ってミラーがでかいので、速いシャッタースピードでシャッターを切ってもブレる事がありました。今回は180mmという重いレンズで、ブシャーの瞬間を押さえなければならないので、絶対にブレてはいけません。レンズ留めが必要です。メーカー純正品も発売されているのですが、かなりいいお値段でそんなものを買う余裕はありません。構造自体は簡単なので自作できそうです。ちなみにEOSが高くて買えないころ、FDレンズの300mmでピントを合わせるために、ペンタックス6×7用のピントリングを半分に切ってレンズのピントリングにはさみ、そこから前方フード下までアルミ棒を15センチくらいのばしたものを作りました。フード部分を左手で支えながら、小指でアルミの棒を動かしてピント調整できるようにしたのです。私はこれをEOSくんと命名しました。ETOカッパのように商品化して大儲けを夢見ましたが、あっという間にオートフォーカスのEOSが市場を席巻し、獲れぬエトーの皮算用化したのです。

 
 大まかな設計図をです(図1)。レンズを支えるY字状のものは、すでに解体されていたEOSくんのパーツが180mmの外径にジャストフィットで流用しましたが、肝心の台座になるアルミ板が、さすがのハンズも東宝大工センターにもありませんでした。こういうときはシンヤさんに泣きつくのが一番です。かくかくしかじかとお願いすると、すぐに厚さ8mm、長さ30cmという一般では手に入らないぴったりのアルミ板を手配してくれました。こうしてマミヤくんも無事完成し、撮影するばかりとなりました。



EOSくん


EOSくん
エトー写真製作所製EOSくん。あと10年早く開発していたら御殿が建ったかも。


マミヤくん
図1。マミヤくんの設計図。

 
 撮影当日、編集部に行くとシンヤさん、O合さん、それに見知らぬO合さんの知り合いの役者さんがいました(役者さんでなくても、結果的に誰でもよかったのですが)。私がパチスロを打っている間に「バックにバイクを置いてもおもしろくないから人間入れよう」と話がまとまったそうです。
「ところでエトー、どの辺で撮影するんだ?」
「白浜からもう少し下った所に隠れ家的な海水浴場があるんです。砂浜近くまで車を寄せられます。しかもプライベートビーチじゃないかって思うくらい人がいないし、浜も海もきれいなんです」
「おー、そいつはすげーな!」

 
 第三京浜から熱海までは順調に進みました。この先は片側一車線の国道です。地元のじいちゃんが運転する軽トラがいたりすると、たちまちのろのろの大行列になります。後席が静かだと思えばO合さんはいつものように大口を開けて眠っていました。結局東京を出てから4時間で到着しました。
 砂浜のそばまでハイエースを寄せてバイクを降ろしながらふと思い出しました。
「シンヤさん、向こうに旅館見えるでしょ」
「おう」
「あの旅館、Kドー編集長が若い頃、今の奥さんとデートに来て初めてお泊まりした旅館らしいですよ。N360に乗って来たとか」
「ふーん」
「おもしろくなかったですか? Kドー編集長今でも奥さんと手をつないで寝るらしいですよ」
「エトー、バイク降ろすぞ。どの辺りで撮るんだ? よーく計画してバイク置かねーと砂浜だから地獄みるぞ!」
 シンヤさんがKドー編集長の話に全然食いつかないので、カメラを出して、フレーミングして海がよく見える場所を探しました。
「あそこですね。理想的です。ただ一つ問題が」
「何だよ」
「バイクはシンヤさんの後ろに置きますよね。結構離れています。どーやって持って行きますか」
「なんだ、そんなことか。心配するな。準備はしてある。バイクを降ろす板を二枚持ってきたからなんとかなるだろう」
 この頃バイクをハイエースに積み降ろしするのに長さ2メーター、幅30cmくらいの足場用アルミ板を使っていました。
「なるほど、板を交互に敷いてバイクを押して行くんですね。楽勝ですね」
 しかし、実際にやってみると大変でした。板の上のバイクはいいのですが、足下が砂なので靴が砂に潜り込んで押すポジションがしっくり来ないし、滑って踏ん張り効かないので力が入りません。
「気を抜くとバランス崩して倒れそうです」
「エトー、倒れだしたら踏ん張れねーから反対側に回って支えてくれ」
 そろそろお昼になろうかという頃合いです。天気が良い日差しが暑い中、バイクを左右2人で支え、残る2人がまるでテレビ番組のゲームのように板を順繰りに運びます。嬌声を上げ海水浴を楽しんでいる人たちから、何やってんだあの人たち的視線を浴びながら、ピーンと張りつめた空気の中(4人だけですが)必死の形相で地獄の砂中行軍は続きました。
 やっと撮影地点まで到達しましたが、それで終わりではありません。
「あのー、申し上げにくいのですが……」
「なんだよ、エトー」
「バイクを右向きにしたいんですけど……」
「そんなことか。サイドスタンド軸にして回転すりゃいいだろ」
 シンヤさんは、嫌な顔一つせずサイドスタンドの下に板を敷いて、バイクが回転したら下の板を一緒に動かすように指示しました。
 私はカメラ位置に戻り、ファインダーを覗きながら大声で指示しますが声が届きません。そこで手を大きく振って位置調整してもらいました。後でシンヤさんが言いました。
「エトー、わーいえむしーえーか!!」

 
 カメラ位置も決まったので、海の色をくっきり出すために偏光フィルターをレンズにセットして、ポラを切ってフレーミングを確認したら本番です。
 RZ 6X7は35mmのモータードライブ付きカメラのように、秒間7コマでカシャカシャ撮れません。カシャーーン、ウイーン。カシャーーン、ウイーンと、ワンシャッターの巻き上げに1.2秒位かかるのです。最高のブシャーを押さえるにはシャッタータイミングが勝負になります。
 まず炭酸系ジュースでやってみたのですが、ブシュと一瞬で終わってしまうのです。シャッタータイミングからすると、2枚目を巻き上げる時点ではもう飛び散って跡形もありません。しかも飛び散る水が細すぎるのです。あるだけのジュースで撮影したのですが、手応えがありませんでした。
 これじゃだめだと、とっておきの物を使う事になりました。ブシャーが長く続くビールを使うことにしたのです。今ならコンプライアンス的に絶対NGですが、当時は例え飲んだとしても砂浜でキャンプして翌日帰るから、という設定でOKでした。実際は冷やしてない物をシェークしまくって使うので、飲んでもおいしいわけはありませんが。
「じゃあ、行きますよ。ブシャーと開けてみてください。どのくらい枚数切れるかテストを兼ねてやってみましょう」
 普通にプルトップを開けたら勢いよく泡が飛び出し、思い通りの吹き出し方をしてくれました。しかしやっぱり2枚目を撮る頃には、じじいのしょんべんのような勢いしかありません。これではたいした枚数が撮れません。
「シンヤさん、一気にブシャーではなく、調整しながら出せませんか?」
「おう、指で調整しながら、うまくやってみるか」

 
 シンヤさんのフィンガーテクニックにより撮影は無事に終了しました。撮影終了後はバイクを引き上げです。先ほどと同じ事を繰り返して、バイクをハイエースに積み終わった頃にはみんな無口になっていました。

 
 後日、印刷会社から届いた表紙の初稿を見て、Kドー編集長が一言。
「エトー、スゲーな、グアムまで行ったのか? スゲーかっこいい海の色だな」 
 グアムに行く予算が表紙撮影のために出せるのか! と心でつぶやきながらもにんまりし、足取りも軽くパチスロ屋に向かいました。
 帰り道の足取りが、砂浜でバイクを押していた時よりも重くなったことは、いうまでもないでしょう。


1990/6

衛藤達也
衛藤達也
1959年大分県生まれ。大分県立上野ヶ丘高校卒業後、上京し日本大学芸術学部写真学科卒業。編集プロダクションの石井事務所に就職し、かけだしカメラマン生活がスタート。主に平凡パンチの2輪記事を撮影。写真修行のため株式会社フォトマスで (コマーシャル専門スタジオ)アシスタントに転職。フリーになり東京エディターズの撮影をメインとしながらコマーシャル撮影を少しずつはじめる(読者の方が知っているコマーシャルはKADOYAさんで佐藤信哉氏が制作されたバトルスーツカタログやゴッドスピードジャケットの雑誌広告です)。16年前に大分県に戻り地味にコマーシャル撮影をメインに活動中。小学校の放送部1年先輩は宮崎美子さんです。全く関係ないですが。


●衛藤写真事務所
「ぐるフォト」のサイトを立ち上げました。グーグルマップのストリートヴューをもっと美しく撮影したものがぐるフォトです。これは見た目、普通のパノラマですが前後左右上下をまるでその場に立って いる様に周りをぐるっと見れるバーチャルリアリティ写真です。ぜひ一度ご覧下さい!

http://tailoretoh.web.fc2.com/ 

  

●webサイト http://www1.bbiq.jp/tailoretoh/site/Welcome.html
●メール tatsuyaetoh@gmail.com

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