順逆無一文

第56回『深謀遠慮』

 ちょっと気になって調べてみたら、高速道路の二輪車の2人乗りが解禁されたのは今からちょうど10年前、2005年の4月1日のことでした。まだ10年しかたっていなかったんですね。あっという間の10年といっていいのか、微妙なところではありますが。ちなみに、二輪車で高速道路の2人乗りができるのは、運転者の年齢が20歳以上で、かつ大型二輪免許または普通二輪免許を受けていた期間が通算3年以上という新たな規定もこの時にスタートしています。一般道での2人乗りには年齢制限はなく、免許期間が1年以上あればOKです。ご存じですよね。
 
 久々に高速道路の二輪車2人乗り規制で不便な思いをする機会がありました。常日頃無意識に便利に利用させてもらっている高速道路ですが、二輪車2人乗り規制を解除させた当事者の皆さんの努力と英断…、反面、安易な二輪車規制を導入してきた公安委員会に対する怒りの気持ちも忘れてはいけませんな。
 
 駒形の知人宅へ妻を迎えに行ったのですが、首都高速の6号向島線は、この駒形の一つ先(上り方面で言うと一つ手前)、向島の出入り口から都心方面にかけてが規制対象区間となっていたんですね。日頃まったく意識することが無くなってきていた高速道路の二輪車2人乗り。しかし首都高速ではゾンビのように2人乗り規制が生き残っているんです。いざ、という時に二輪車2人乗り規制の存在を思い出しました。駒形から横浜といっても首都高速使えばあっという間、と単純に思ってた皮算用は見事にご破算になりました…。
 
 駒形から首都高速に乗ることはあきらめて、延々下道を2人乗りで都心を通り抜け、芝浦から1号羽田線に乗るか、さもなければ駒形から向島まで下道を走って、向島の入口から帰宅とは反対方向の下り線に乗って、C2中央環状線と合流する堀切ジャンクションまで北上、そこからC2を延々と南下。葛西ジャンクションでB高速湾岸線西行きへ。あとはそのまま湾岸線か、途中で神奈川1号横羽線に乗り換えて、の大迂回コースで帰るかです。
 
 首都高速の二輪車2人乗り規制なんてシロモノ、すっかり忘れていたのは、それだけバイクで都心部に近付く機会がどんどん減ってきているためでしょう。まさに二輪車を都市交通から駆逐しようとやっきになっている警察当局の思う壺だったんですね。二輪車駐車規制の存在に無意識のうちにもしっかり影響されていたというわけです。
 
 都心部の友人宅にも、最近はどんどん足が遠のいてしまっています。周りに合法的に駐めるところがないのですから。歩ける範囲に有料の二輪車駐車場など皆無。立ち寄って顔見せて、が困難になってきた。ちょっと寄って馬鹿話のひとつでも、もしてやいられない。用事がある時だけピューッと行って、さっさと帰ってくる。
 
 さすがは深慮遠謀の計画の下行われている、二輪車駆逐作戦にすっかり生活パターンを犯されています。いやはや頭の良い方々のやることは違う。目先の不利益にあ~だ、こ~だ不平言ってるだけのバイク乗りとは、人間の出来が違うということでしょう。
 
 ちなみに最近開通したC2中央環状線ですが、これまでのC2中央環状線の東側部分と同様、二輪車2人乗りはなんとか規制されずに済みましたので、グルッと都心部を迂回することは可能となりました。さすがにここを規制してしまうと、これまでみたいに東名や中央高速などに乗り継ぐために一度下道に降りなければ連絡できない、ということになってしまい、二輪車差別が見え見えになってしまうからでしょうね。
 
 それでなくとも、ユーザーにETC端末の費用負担を全額押しつけて料金徴収システムを一気に合理化できたはずなのに、それを機に軽自動車枠や二輪車枠といったきめ細かい料金制を導入するそぶりすら見せなかった首都高速です。これ以上の“二輪車いじめ”はさすがに遠慮したと言うところでしょうか。
 
「料金所で停車しないですむ」などとユーザーのメリットばかりを喧伝してましたが、実際には、ETCの導入による料金徴収コストの削減こそが最大のメリット。そんなメリットを全て搾取していないで、もっと利用者に還元するべきですね。○○分以上の渋滞が発生したときは料金を割り引く、などのきめ細かいサービスだってETCシステムがあれば可能です。曲がりなりにも民営化されたのですから利益追求と同時にユーザーサービスも同様に真剣に考えるのが真っ当な企業というものです。
 
 それにしても、なぜ首都高速だけ自動二輪車2人乗り規制が残ってしまったのでしょう。2004年12月10日の東京都公安委員会決定ということですから、警視庁が主導したのはもちろんです。当時の高速道路二輪車2人乗り規制解除の報道記事を追ってみると、都公安委から「首都高速はオートバイ事故が多く、2人乗りの全面解禁は危険」と横やりが入った、という記事が報道されています。この時点で、都心環状、八重洲、上野、目黒、深川、台場の各線全線と、羽田、渋谷、新宿、池袋、向島、小松川の各線の一部。距離にして都内の首都高速全178.6kmのうち34.5%にあたる61.6km、なんのことはない都心部の重要な部分はすべて二輪車2人乗り禁止区間として残されることになってしまったわけです。
 
 乗用車の事故は、いくら起きようと通行止めになんかするわけがありませんよね。それに対して、二輪車は複数件死亡事故が起きようものなら即「走らせない」と通行規制。日本の警察の発想は、毎度のことならがら無謀な運転をするごくごく一部のドライバー、ライダーに合わせて基準、規制を作る。そのおかげで、無謀な運転などとは縁のない、事故を起こさないように注意をはらっているその他大多数の一般ドライバー、ライダーが不自由、不便な思いをする、そのパターンの繰り返しで、特に二輪車の利便性を次々と削いできたのが我が国の規制の歴史です。
 
 ひとつひとつ問題の芽を摘むのは手間が掛かかります。そこで面倒、とばかりとりあえず全面規制、排除してしまう。暴音族や無謀な走りをするライダーは、TV取材でも入った時じゃないと本気で取り締まらない。警察官といえども少人数では、相手は凶暴、怖いからとやりたい放題を見過ごし、その代わりちゃんと取り締まりをしてますとの帳尻合わせに、電柱の陰に隠れて一時停止違反を取り締まる。裏道でついうっかりだったりで一時停止違反をしてしまう市民を待ちかまえてキップ切ってる暇があったら、爆走して自滅するドライバーや音の暴力を振りまいて我が物顔のあんちゃんを厳しく取り締まるべきですね。一般市民のうっかりミスや違反を取り締まるのと違って、かなり難しいことでしょうが、まさにそういった社会の元凶こそを一つずつ潰していく努力を警察はして欲しいと一般市民は思っているのです。本気で壊滅を図る、という決意があるのなら我々もドライブレコーダーのデータを供出するなり協力できることは山ほどあります。
 
 例によって話が飛びました。気になって調べたついでに、高速道路の二輪車2人乗り規制が施行されたのはいつかと探して見たら、なんとそれは1965年なんですね。実に40年もかかってやっと解禁となったわけです。すっかり忘れてました。規制するのはいとも簡単ですが、一度できてしまった規制を解除するには、どれだけの“無駄”な歳月と労力が必要となることでしょう。
 
 安易な通行規制はただの怠慢です。通れなくしてしまえば、当然事故も起きようがない。だからといって事故がないということで警察が頑張ってる、などとは誰も思いません。場当たり主義の手法しか思いつかないような公安委員会なら、もう時代に合わなくなってきている、ということでしょう。
 
                ※
 
 一般社団法人 日本二輪車普及安全協会が、首都高速に限らず全国の「二輪車通行規制区間情報」のページを公開しています。時間があったら参照してみてください。(http://www.jmpsa.or.jp/society/roadinfo/
 
 ここでは、その中から全国の二輪車通行規制の件数を拾ってみました。その数、全国で700路線あまり。いかに規制に頼る“手抜き対策”が横行してきたかの参考になると思います。そしてこれら県ごとの規制の多い少ないは、無関係の善良な一般ライダーが被る多大な不利益など知った事じゃない、と考えている度合いの目安でもあるわけですね。

●北海道地方
北海道  -(-は規制路線無しです)
●東北地方
青森県  -
岩手県  -
宮城県  23路線 ※22ヵ所は栗原市で高速幹線道路で原付・自動二輪(125cc以下)規制
           残り1ヵ所は石巻市で原付を規制
秋田県  -
山形県  -
福島県  -
●関東地方
茨城県  14路線 ※原付・自動二輪、と二輪車全てを締め出し式の規制が多い
栃木県  14路線 ※国道408号バイパスで原付・自動二輪(125cc以下)の規制が中心
群馬県  -
埼玉県  88路線 ※族対策で自動二輪(250cc超)の締め出し規制が多い
          日曜・祝日の0:00~5:00という規制内容が目につく
千葉県  -
東京都  69路線 ※立体やアンダーパスなどで原付を規制
           それと明らかに暴音族対策として布かれた規制が多数残っている
神奈川県 10路線 ※意外「3ない運動で」で悪名を馳せた神奈川がわずか10件
          箱根町の県道732号は原付・自動二輪(550cc未満)の排気量枠規制
●中部地方
新潟県  45路線 ※数は多いが、5件を除き国道7号、8号での原付終日規制
富山県  2路線 ※22:00~5:00の原付規制
石川県  15路線 ※全て国道159号の原付・自動二輪終日規制
福井県  -
山梨県  -
長野県  -
岐阜県  -
静岡県  4路線 ※走り屋対策、原付・自動二輪規制
愛知県  3路線 ※国道23号線の原付終日規制
●近畿地方
三重県  -
滋賀県  1路線 ※奥比叡参詣自動車道で自動二輪を日曜・祝日規制
京都府  4路線 ※原付・自動二輪の終日規制、渋谷蹴上線の9:00~7:00、土・日・祝日終日
大阪府  128路線 ※原付の終日規制と原付・自動二輪の日・祝0:00~6:00規制がメイン
兵庫県  39路線 ※六甲や芦屋ドライブウェイ等の規制とバイパスの規制
奈良県  6路線 ※「全二輪車」を規制対象に終日
和歌山県 1路線 ※有田市の市道、原付・自動二輪を07:30~08:30分、通学対策
●中国地方
鳥取県  -
島根県  -
岡山県  -
広島県  2路線 ※福山市18:00~7:00と広島市の竜王己斐道路22:00~6:00
山口県  -
●四国地方
徳島県  -
香川県  -
愛媛県  -
高知県  -
●九州地方
福岡県  215路線 ※福岡市内、久留米市内が大半で自動二輪(250cc超)
           日曜・祝日の0:00~6:00を規制と暴音族対策
佐賀県  1路線 ※主要地方道佐賀停車場線で250cc超を日曜・祝日0:00~5:00規制
長崎県  1路線 ※長崎市の区市町村道で原付・自動二輪を終日規制
熊本県  6路線 ※熊本市で終日原付規制など
大分県  2路線 ※大分市で原付の終日と22:00~5:00自動二輪(250cc以上)を規制
宮崎県  3路線 ※延岡インター線で終日原付・自動二輪(125cc以下)を規制
鹿児島県 8路線 ※鹿児島市の終日原付・自動二輪(125cc以下)
薩摩川内市で22:00~5:00原付・自動二輪規制
●沖縄地方
沖縄県  5路線 ※中頭郡で0:00~6:00、国頭郡で22:00~4:00原付・自動二輪規制
 
(※以上、日本二輪車普及安全協会のWEBサイトより、2013年11月30日現在)

 
 二輪車の通行規制路線の件数は、「3無い運動」や「暴音族問題」が話題になった東京都や神奈川県が多いんだろうなと思いきや、なんと福岡県がダントツの215路線でトップでした。大阪府が128路線で2位に続き、3位にやっと東日本勢の埼玉県が88路線で入ってます。
 
 注目の東京都は69路線で4位。新潟県の45路線、兵庫県の39路線、宮城県23路線。石川県15路線、茨城県、栃木県が同数の14路線、なんと予想を覆して神奈川県はわずか10路線でぎりぎり二桁グループの11位でした。
 
 二輪車規制が0路線の道県は、良識のある公安委員会が存在する県なのでしょう。暴音族のために一般市民が不自由な思いをすることなどあってはならない、と安易な規制に走らなかったのだと推測します。暴音族もヤクザと一緒、徹底的に個別に検挙して潰して行くことで根絶させる、そういった努力を惜しんで、とりあえず二輪を全面禁止にしてしまえば市民からの苦情もこなくなるという、実に安易な規制が今になっても亡霊のように残ってしまっている現状。皆さんはどのように思いますか。
 
 ちなみに、一般社団法人 日本二輪車普及安全協会では、この二輪差別規制に対して「ライダーの声を収集」して警察庁、警視庁、県警本部に情報提供するシステム、というのもWEBサイトで運営しているので、協力してみてはいかがでしょうか。ただ不満に思って、文句を言ってるだけでは何も変わらないのですから。
 
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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