おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第50回 八幡平アスピーテライン



MAP


岩手県道/秋田県道23号線。その延長は47km余り。そのうちの岩手県八幡平市緑ヶ丘~秋田県の国道341号線までの区間が「八幡平アスピーテライン」と称されている。ダイナミックな眺望を楽しみながら爽快に走れる山岳ワインディングで、距離も30km以上と長く走り応えがある。日本百名道にも選定されており、東北地方屈指の絶景道路として知られる。かつては有料だったが92年4月に無料開放。冬季(11月初旬から4月下旬)は閉鎖される。

 東北地方を初めて走ったのは70年代の半ばだった。北海道ツーリングへ出かけたとき、縦断した。一度目は無理がたたって、青森・岩手県境手前で、居眠りで転倒し、1週間ほど現地で入院するハメになった。翌年、同じコースをたどって青函フェリーで北海道に上陸し、念願を果たした。以前にも書いたが70年代末には当時付き合っていた女性と2台のバイク(俺がGS750EⅡ、彼女がGX400)で東北1周ツーリングをした。ただ、そのときはまだ八幡平アスピーテラインは有料で通行料金が高かったため、乗り入れなかったように記憶する。

 80年代以降、東北には仕事でもプライベートでも何度もツーリングに出かけている。ただし、東北地方は南北に長い地理なので、青森はもちろん、岩手、秋田まで足を伸ばすことは稀で、福島、宮城、山形までがほとんどだった。歳を取ると記憶が曖昧で、アスピーテラインを走ったこともおぼろげになってしまっている。80年代の前半か後半か。いや90年前後かも…。プライベートのツーリングでも仕事でも1度ずつ走ったはずだが、時期が定かでない。

 でも、その道のよさ、景色の素晴らしさは脳裏にしっかり刻まれた。2度ともに岩手県側から入り、岩手山を眺めながら勇壮かつ開放的な景色のなかを快走。伊豆スカイラインや磐梯吾妻スカイラインほか日本各地にスカイラインと名のつくグッドロードはいくつもあるが、この道も八幡平スカイライン、と呼んでもいいほどだ。八幡平はアスピーテ=楯状火山なので、急峻な山とは異なり、八幡平の名が示すようになだらかな高原状だが、全体的に高地で頂上付近の標高は約1600mもある。だから天空を走っているような感覚を味わえる。

 岩手県側は中高速コーナーが多くヘアピンカーブがほとんどない。秋田県側は岩手県側ほどダイナミックではなくて、九十九折の区間もあるが、勾配もRもあまりきつくないので走りやすい。もちろん、景色のよさは岩手県側に負けない。県境の見返峠には駐車場やレストハウスがあり、そこからの眺望も素晴らしい、の一語に尽きる。見返峠からは八幡平山頂までの登山道が伸びていて、付近の沼などを見ながら散策できる遊歩道もある。俺が行ったときは時間に余裕がなかったので、遊歩道にも足を踏み入れることはなかったが…。



秋田県側


秋田県側
八幡平アスピーテラインの秋田側の入口はちょうど北緯40°にあたる。R341沿いには強酸性の温泉地帯が連なる。●撮影-舟橋 朗

 90年代後半から、年に1回の頻度で山形にいる友達のところにツーリングしながら遊びに行くようになった。基本的にはソロだったが、長男と2台(俺はサンダーバード、息子はNSR250Rなど)で行ったことも何度かあり、三男を後ろに乗せて訪れたこともある。山形に行くたびに、もう少し足を伸ばして、八幡平アスピーテラインをまた走りたいなあ…と思った。しかし、かの友人宅は山形県南部で、同じ東北とはいえ八幡平までは距離があり過ぎる。それで再訪したいと思いつつ実現できないでいた。

 5年前の夏休みだった。NSR250Rに乗っていた長男と5泊6日の日程で東北ツーリングに出かけた(これも以前、記したが…)。まずは山形の友人宅まで。翌日は十和田湖畔の宿を目指し、憧れの道、八幡平アスピーテラインを久々に走るつもりだった。新庄市を経由して横手へ。B級グルメで知られる焼きそばで昼食。その後田沢湖に向かうが、土砂降りに。雨の中、国道341号線を北上する。宝仙湖を過ぎると雨は上がったが、まだ雲は厚く道は濡れていた。

 さらに北上するとT字路が現れ、右折すれば八幡平アスピーテラインだ。バイクを停めてしばし思案。予想していたより距離があり、また雨に降られたことで時間が押していた。十和田湖の宿には遅くても6時くらいには着きたかった。アスピーテラインを経由するとかなり遠回りになる。雲が厚く、路面は濡れている。今ここでは雨は止んでいるが、登っていけば雨か霧だろう。素晴らしい景色を眺めるのは難しそうだ。ウエット路面ではコーナリングも楽しめない。そんな状況だったから、とっても楽しみにしていたアスピーテラインだったが断念。

 鹿角から国道103号線に入り、十和田湖畔の宿に5時半頃着いた。青空が見え、路面もドライになっていた。翌日は奥入瀬渓流沿いを走って八甲田山に赴いた。お天気にも恵まれた。だが、1日経っても、アスピーテラインを走れなかったことが残念でならなかった。その日は陸前高田に宿を取っていた。ルートを変更してアスピーテライン経由で、とも考えたが、うまくつながる道は見つからず、予定どおり、久慈まで行って、その後海岸線を南下して陸前高田まで。それでも距離を甘く見過ぎたため、宿に着いたときは暗くなっていた。



岩手県側


岩手県側
岩手県側には東北自動車道、R262とJR花輪線が組んずほぐれつ併走する。著名なスキー場も多い。●撮影─越美 南

 そんなわけで、結局、八幡平アスピーテラインを久しぶりに走ることはかなわなかった。だから、数年のうちにぜひ走りたいと思う。来年夏は還暦の記念に久々に北海道ツーリングを、と考えているが、片道はフェリーを利用するとして、往路か復路は陸走し、そのとき八幡平にぜひ寄りたいと思っている。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、18年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万5000km。

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