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ヤマハ

 来たな、3気筒。MT-09のティーザーが出始めた頃、ムフフと思った記憶がある。かつてヤマハの国内フラッグシップがGX750だったころ、そのカフェレーサー風スタイルや、チェーンドライブしか見た事のない十代の僕は、加速するとテールがぴょんと持ち上がるシャフトドライブらしい挙動に憧れた。そしてフォーンじゃなくてバーンといって吹け上がるボーカル感、そのどれもに、ヤマハは人と同じコトをしないメーカーなんだ、という思いがあった。
 
 その後、RZやVMAXで強烈な商品魅力をぶち上げ、650ベースのXJ750の登場でも、威風堂々さを打ち出すライバルに比べ、その小ぶりな体躯など一切気にせず走りでライバルの裏を搔く……、その後のジェネシスエンジンのFZ750へと突き進む独自性は今思い出してもかっこいい。
 
 なるほど、人と違う。大きい、速いがエライ、という回路しかまだ無かった自分にも、それらは刺さった。
 
 だから今やトライアンフが打ち出す並列3気筒グループにヤマハがMT-09をねじ込んできたときも、きっとこのバイクは違うんだろう、と勝手に妄想していたのだ。
 
 MT-09はその通りだった。走ると3気筒の個性が濃厚。今日、いくらでも操作できる電子制御が進んだなかにあって、あえて手強さを残した濃いキャラ造りをしたヤマハは「感動創造企業」を名乗るだけの事はある、と一目置く。個性派コンダクター健在を思わせ、その実、周到なマーケティングの裏打ちをしてくるのも彼ら流だ。

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ライダーの身長は183cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます)

 最初に言っておこう。MT-09は長所が短所で、短所が長所のようなバイクだ。そのエンジン特性は、撮影用の広報車を借りて半日だけを共にするなら、もっと滑らかな特性が好ましい。3つ選べるエンジンマップのSTDのアクセル開け始め部分で感じるドン付きをマイルドに、Aモードで感じるパーシャルから開けた時にフロントフォークの伸び減衰をもう少し効かせ接地感を出したいし、着座位置もあと数センチ前に出し、荷重を前輪に寄せたい。マイルドなBモードは、アクセル開け始めのマイルド感は良いが、それに意を借りてアクセルを捻ってゆくと、途中からスロットルバルブがひょいっと開くような出遅れる印象があって、リニアさが欲しい・・・・・。となる。 
 しかし丸一日つきあうとその印象は激変する。ワイドなテーパーバー、そしてホイールベースの中であえてやや後方に着座するライダーの位置は、3気筒エンジンのトルク感を強烈に感じさせてくれることに気が付く。穏やかにピッチングするストロークの長い前後サスは、うっかりすると、勝手に前輪が浮き上がり「お前はRZ350か!」と絶叫したい気分になっても、右手を緩める気になれないほどファン要素がつまっている。これを境に自分のスイッチが入ると、Aモードで訪れる前輪離陸する瞬間すら待ち遠しくなる。この路上無重力感覚は忘れていた何かを揺り起こす。
 
 そう、午前中とは真逆にそれを楽しんでいる自分がいるのだ。気分がノっている時に走らせるMT-09とそうではない時に乗る時でこの印象がこれほどまでに違うのだ。このバイクを走らせること、それはスポーツだ。深呼吸あたりから始め、関節や筋をほぐし、心の集中を高めてから走り出すぐらいの準備が必要だ。
 
 しかし、二日目の後半になると、その刺激と特性になれてきた。それだけにBモードとSTDモードをちょっと磨いてもらえたより嬉しい、とも。
 

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 ワイド目のハンドルバーとステップ、シートで作るポジションは、適度な前傾姿勢とオフ車的高めの着座感、そしてスポーツモデルらしく後退したステップ位置が印象的。オフセットされたメーターは小さく、正直、タコメーターの数値を瞬時に読み取るのは難しい。特に僕の座高、シートポジションだと数字そのものがメーター枠に隠れてよく見えない。
 
 でも、これもヤマハのメッセージの一つだと思う。回転計じゃない。ドントルック、フィール! だとMT-09のエンジンは語りかける。実際、エンジン特性は解りやすく、右手の開度とシフト操作の組み合わせがそれを引き出すこと、それが何よりの対話だ。むかし、ロードレースをかじったバイク乗りに「なぜレーサーなのにモトクロッサーにはタコメーターすらない?、おかしくないか。」と聞かれたことがある。路面とモトクロッサーのパワーと闘ったら、仮にタコメーターなんてあったって見る必用が無いのは体験すれば一発で解るのに……。という記憶が蘇った。見るんじゃない、感じるんだ、と。
 
 ハンドリングは意外にも穏やか。急の付く倒れ込みや切れ込みは皆無。かといっておっとり系ではなくタイト感をもった手応えを持つ。市街地では大人びた部分で200キロを大きく切る車重から想像するより落ち着きがある。長いストロークを持つサスペンションのピッチングは大きめに出るが、後輪のブレーキを活かし、巧くそれを抑える術を知るライダーなら、路面の吸収性の良さやしっとりとピッチングさせながら泳ぐことも簡単。
 
 高速道路の移動でも路面吸収性が良く、快適な乗り心地だ。やや高めの着座位置、低いハンドルで自然な前傾を取れる分、まるで空飛ぶ絨毯にでも乗っているのか、と思う場面もある。
 
 ワインディングでバンク角が深くなり、アクセルを開けながら走るような上りでは、一定のラインを描きやすく、弱アンダーのまま気持ち良く抜けられる。その時、キューンと吹き上がる3気筒ワールドに浸ることができた。以前、サーキットを走らせたとき、サスのピッチングとアクセル操作に対するレスポンスの神経質さに、大きな挙動を招き、手を焼いた。が、減速をスムーズに、ツッコミでがんばり過ぎないというロジックで走れば、MT-09は次第に我が物となって走ってくれる。
 
 余談だが、今回のテスト車はABS付きだったが、このシャーシ特性では時折リアがホッピング気味になる場面もあり、ABSは心強かった。また、加速中、フロントサスが伸びている最中に急減速を強いられる場面を想像すれば、ABSはやはり心強い。赤外線だ、レーザーだ、で勝手に急ブレーキが掛かるクルマがわんさか登場している今、コチラも装備を固める必要性はあるだろう、とABS信者の僕は思う。
 
 まとめるとMT-09は確かにマニアックな面もある。が、この価格で質感、個性、走りの魅力など輸入車と比較しても色濃く楽しめるモデルで、国産は刺激が少なくて、と思っている人に自信をもって薦められる。例えるならこのバイクはトムヤンクンだ。酸味と辛み、そしてパクチーの香りにハマル人ならきっと病みつきだ。普通の辛さのタイカレーは許容、という向きには同時にMT-07も検討する事をオススメしたい。いずれ劣らぬエスニックな(刺激の)魅力に溢れたヤマハだからである。
 
<試乗:松井 勉>
 

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メインフレームに負けずとも劣らないスイングアームのアート感。ダイキャスト製による自在感を持ったデザインが特徴だ。リアショックユニットは路面に対し水平に近い角度でマウントされている。リアブレーキはピンスライドキャリパーとφ245mmディスクプレートを合わせている。試乗車にはブリヂストンのバトラックスS20を履いていた。 MT-09の並列3気筒エンジンはパワープラントであり外観意匠としてこのバイクをスパイシーなものにしている。右側カムチェーンとしたこのエンジンは、どこから見ても抜かりないディテールを見せる。ホース類、配線なども注意深く配置され、雑然さがない。また、ダイキャストフレームもスタイルに影響を与えているのが解る。 フロントフォークはφ41mmのインナーチューブを持つ。ストロークは137mm。ラジアルマウントの対向4ピストンキャリパーを備えるブレーキ、ディスクプレートはφ298mmとなる。10本スポークのキャストホイールにはオレンジのストライプが入る。
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ウインカーの位置などから低くマウントされたヘッドライトは精悍さを印象づける。オフセットされた小ぶりなメーターユニットもMT-09の特徴だ。 車体色に用意されたオレンジは荒いフレークが陽光にキラめいているのが特徴。ボディーカラーはパープル、そしてグレートシルバーのマットが用意される。カラーリングによってフロントフォークやホイールの色を換えるあたりも悩ましい。黒のラインが引き締めるが、造型にもデザイン力が込められている。 ボディー上部にインジケーター類、ギアポジション、速度、燃料計、モード、回転などを表示する他、外気温、水温、平均燃費、瞬間燃費などを切り替えで表示するモニター。機能表示の切り替えは是非手元でしたいもの。また、アクセルオフ時にしかモードが切り替わらないのも不満。セレクト後、アクセルを閉じる、クラッチを切るなどでアクティブになるよう変更できないだろうか? スイッチの位置も扱いやすいとは言い切れない。MT-09というより国産モデルに共通した操作性への不満でもある。
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前端が絞られ着座部分のフォーム厚をしっかり確保し、ホールド感と長距離での快適性を確保したライダーシート、リアシートはややコンパクトに見えるが、サイズ的には充分なものだろう。 テール回りのすっきり感もMT-09の魅力だ。リアシートにそのままテールランプを取りつけたようなすっぱり切り落とした短さ、後方にむけ、あえて伸ばした印象を持たせるナンバーステーなど、思い切ったスタイルだ。MT-01、MT-03当たりと比べても思い切りのよさでは一番な印象だ。
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■YAMAHA MT-09〈MT-09 ABS〉(EBL-RN34J)主要諸元

●全長×全幅×全高:2,075×815×1,135m、ホイールベース:1,440mm、最低地上高:135mm、シート高:815mm、車両重量:188〈191〉kg、燃料消費率:定地燃費27.3km/L(60km/h)、WMTCモード値19.4km/L(クラス3、サブクラス3-2)●エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ、総排気量:846cm3、ボア×ストローク:78.0×59.0mm、最高出力:81kW(110PS)/9,000rpm、最大トルク:88N・m(9.0kgf-m)/8,500rpm、燃料供給:F.I.、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:14L、変速機形式:常時噛合式6段リターン式●タイヤ(前+後):120/70ZR17M/C 58W+180/55ZR17M/C 73W、ブレーキ(前+後):油圧式ダブルディスク+油圧式シングルディスク〈ABS〉、懸架方式(前+後):テレスコピック式+スイングアーム(リンク式)、フレーム形式:ダイヤモンド
●メーカー希望小売価格:849,960円(本体価格 787,000円)〈899,640円(本体価格 833,000円)〉


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