オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

第39回 オオカミ男の首都圏満喫生活!?- -ツーリング編- 「人口密集地から人の消えた集落へ」

 
 いまだ冷え込む3月中旬の早朝、オレはキャンプ道具一式をリヤに括り付けバイクを走らせた。久しぶりのキャンプツーリングである。目的地は……栃木県のとある場所。オレ自身この時点では詳しくは知らされていなかった。マルちゃんの地元近辺で面白い場所があると聞かされてその話に乗っかっただけであとの道のりなどは人任せである。
 その中で今回のメンバーである吉岡氏とは関越道の花園ICを出たところで待ち合わせる事になっている。圏央道が東名から関越までつながった今となっては川崎ICからダイレクトに向かう事ができる。マシンはセローであるが80キロほどのスピードで走っても2時間もあれば着くであろう。と単純に考えそれに少し余裕を持たせることのできる時間に出発した。
 しかし……川崎ICから東名に入った直後、オレの目に飛び込んできたのは前から後ろまで延々と続く渋滞の列。岡山にいた時の認識をそのまま持ち込んで油断していたため一瞬、マジか!? と思ったが考えてみれば休日に都会から一気に車が流れ出るこのあたりはいつも渋滞している。この車の列もいくらか走れば解けてくるであろうと渋滞の合間をスリ抜けて走った。
 ところが走れど走れど渋滞は解消する気配を見せない。情報表示では渋滞15キロと記されている。おいおい、長すぎるぞ。時折、渋滞の列がほどけて少し流れが良くなる事もあったがセローゆえにスピードを上げて時間を稼ぐ事ができない。しかもそんな高速らしい流れもほんの僅かでその先も渋滞は圏央道の分岐まで延々と続く。そしてさらには圏央道に入ってからも。ここでも車が普通に流れている区間はほんの僅かでスリ抜けの状態が続く。その最中、一瞬、ふとメーターに目をやると普通に走っている時よりもスリ抜けている時の方が速く走っていることに気づいた。まぁ周囲に意識を集中しているとなかなかスピードの事など気にしていられないもんだ。
 それにしても何なんだこの不自然な状況は。関越に合流してもその状況は一向に変わらず(渋滞の事だけいうならばむしろひどくなったと言える)……それでもなんとか約束の時間に待ち合わせ場所に着くことができた。待ち合わせたコンビニの前には吉岡氏のXL250が停まっていた。今ではほとんど見かける事のなくなった2本サスの旧式のオフ車だ。今のマシンのようなコンパクトさなど皆無。しかしそれゆえの力強さがこの年代のマシンにはある。ストリート用のオフ車の中では名車と言われるオレのセローと並べて比較してみても同じクラスでありながらその存在感は圧倒的である。維持するうえで必要なパーツ類に難儀する事さえなければこの手のバイクの方が完全にオレ好みなのであるが。
 さっそくオレ達はさらにこの先、現地で待ち合わせているマルちゃんと合流すべく出発した。この埼玉県北部のエリアは吉岡氏の地元である。車の少ない走りやすい道を選択してストレスのないペースでオレを引っ張ってくれる。さすがに道を知り尽くしている。まぁ彼の場合、ある意味日本全国地元と言っても過言ではないのだが。群馬県に入り伊勢崎の街中を抜けさらに山の方へしばらく走ったところにあるキャンプ場近くのコンビニでマルちゃん、チャンプと合流した。


キャンプ場到着。さてここから今回のツーリングはスタート。あぁ、なんかツーリングって久しぶり
キャンプ場到着。さてここから今回のツーリングはスタート。あぁ、なんかツーリングって久しぶり。

 キャンプ場にテントを張り、いよいよツーリング開始である。どこをどう走ったかについては今回は前述したとおりまったくの人任せでほとんどわからないと言っていいほどだ。目的地である栃木県日光市の足尾町をマルちゃんの先導で目指した。
 途中休憩で自販機コーナーのみが設置されているPAに立ち寄った。まわりには何もなく自販機が置いてあるだけのプレハブ小屋でありながら車の駐車スペースは混雑していてプレハブ内も人で賑わっている。なんなんだろうと中に入ると今ではほとんど見なくなったラーメンやうどん(インスタントではない)の自販機が並んでいた。オレがガキの頃、地元の母校の近くにこの自販機が置いてあって部活の帰りによく食っていたのを覚えている。なんとも懐かしい。聞くとこの自販機コーナー、以前テレビの番組で紹介された事がありそれによってプチブレイクしたらしい。オレにとっては懐かしいものだが若い世代の人たちにとっては逆に新鮮だったりするのかもしれないな。この自販機ラーメンがウマイかどうかは置いておいてオレにとっては懐かしい味を堪能したのちにオレ達は再び目的地を目指した。
 


やたらと賑わっていたPAの自販機コーナー

やたらと賑わっていたPAの自販機コーナー
やたらと賑わっていたPAの自販機コーナー。懐かしの味にちょっとばかし感激。それにしてもやはりTVの影響はデカイですな。

 足尾町に着くまでの道中、やはり山間部という事もあって民家は少なく点在しているといった感じで空家であったり閉所した工場などが目につくようになった。
 足尾町に入ったところに廃校になった小学校があった。廃校と言えば九州の山瀬での集会が思い出されるがあそこのような古い小さな分校といった感じのものではなく実に規模の大きい立派な建物だ。それこそ伸び放題になった雑草などの手入れさえしていればただの休校日なのではないかと思えるほど人の気配が残っている。最盛期ではかなりの生徒数があったのだろう。廃校の少し先にはこれまた廃墟となった大きな工場。そしてそこから少し山の方へ行くと今で言うところの複合施設の跡地。さらには向かいにその歴史をストップし、朽ち果てるのを待つだけ(もう十分朽ち果ててはいたが)の神社がある。鳥居をくぐり奥の方へ進んでいくと祠があるのだがこれがいい感じに風化していてその不気味さというか怪しさは抜群である。写真でも撮ったら何か見ちゃいけないものまでもが写り込んできそうだ。まぁ実際は、何枚も撮りましたが。ちなみに変なものは写っておりませんでした。この神社もかつては祭りの際などは多くの人で賑わっていたのだろう。
 


それほどまでには古めかしさを感じない廃校となった建物。その規模はここがかつては栄えた町である事を物語っている

それほどまでには古めかしさを感じない廃校となった建物。その規模はここがかつては栄えた町である事を物語っている
それほどまでには古めかしさを感じない廃校となった建物。その規模はここがかつては栄えた町である事を物語っている。

だいぶいい感じに朽ちた本堂とも言える祠。かな~り不気味な空気を纏っておりました
だいぶいい感じに朽ちた本堂とも言える祠。かな~り不気味な空気を纏っておりました。

奥にある祠にたどり着くにはこんな所も通らなければならない。そして祠以外の建物は……完全にイッチゃってます

奥にある祠にたどり着くにはこんな所も通らなければならない。そして祠以外の建物は……完全にイッチゃってます
奥にある祠にたどり着くにはこんな所も通らなければならない。そして祠以外の建物は……完全にイッチゃってます。

荒廃した町並みになぜかよく似合う昭和のマシン。結局のところ人が最後の最後に行き着く所ってどこなんだろうね
荒廃した町並みになぜかよく似合う昭和のマシン。結局のところ人が最後の最後に行き着く所ってどこなんだろうね。

 その昔、足尾銅山の銅採掘で賑わい県内で宇都宮市に次ぐ人口を有していたこの街も1973年、足尾銅山の閉山とともに一気に過疎が進み、人口は最盛期の10分の1にまで減少した。今では日光市に合併されているがそれでもこの周辺は閑散としたものだ。山の麓にある大規模な集合住宅はその建屋が時が止まったままのように荒れ放題で残されていてまるで住人のすべてが一斉に夜逃げでもしたかのような有様だ。きっと全国に点在する炭鉱の町なんかもこんな感じなのだろうな。自然の資源を食いつくし利用価値がなくなれば他へ移動して同じことを繰り返す。人間とはまったくもって身勝手な生き物である。石油なんかも含めてすべてを喰いつくし、最後は原子力で自滅ってシナリオが普通に想像できてしまう。まぁオレなんかもバイクに乗る以上は多少なりともその恩恵に預かってるわけで偉そうなことは言えんのだがね。この手の廃墟を見ているとさしたる進歩を見せる事のない人間の未熟さ、不完全さってものを痛感してしまうね。
 昭和の風情を残したままの街並みにバイクを停めてしばらく散策する。その風景にあってやはり吉岡氏のXLは見事なまでにその景色に溶け込んでいる。昭和。色んな意味でこの国が幸せだった時代だ。キャンプ場に戻ったオレ達は真冬のような寒さの中、たき火を前にして遅くまで語り合った。何を語ったかって? そりゃ、時の流れに伴う人の変化についてじゃよ。ははっ。


ただ走るのもいいがやはり最後はコレがあった方がいい。しかし3月の北関東は夜はまだメチャクチャ寒かったです
ただ走るのもいいがやはり最後はコレがあった方がいい。しかし3月の北関東は夜はまだメチャクチャ寒かったです。

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