順逆無一文

第58回『ETC非装着車は通れません』

 皆様のバイクにETC装置は取り付けているのでしょうか。ツーリングが趣味、などという方なら当然いち早く付けられたのでしょうけど、身近な周りのライダーさんたちを見ると、愛車にETC装置を取り付けている方は、まだまだ少数派だと思います。
 
 その、ETC装置が義務化されそうな雲行きです。
 
 産経のWEBサイトが伝えたニュースによれば、国交省がETCシステム全体の“損得勘定”を試算。その結果、ETC装置を取り付けていない利用車は、すでに全体の1割程度に減り、その1割の非装着車のために現金払いレーンの人件費や、整備費に3千億円程度の経費がかかっている計算なのだとか。そこでETC装置の非装着利用車の料金をこれまで以上に大幅に値上げするか、装着を義務化するかの対策が必要、と考えているのだそうです。
 
--以下産経ニュースから--

『高速道路、完全ETC化で3千億円のコスト削減可能 国交省が試算 非搭載車はわずか1割』
 
 高速道路を通行するすべての自動車が自動料金収受システム(ETC)を搭載した場合、現金専用レーンの建設費や人件費などのコストを3千億円前後削減できるとの試算を、国土交通省がまとめたことが11日、わかった。国交省は来年度にも首都圏の高速道路で、ETCを搭載しない「現金車」を対象に通行料金を値上げする方向で検討中で、将来的には搭載の義務化も視野に入れている。わずか1割の現金車がもたらす「不公平感」を数値化することで、そうした施策への理解を得たい考えだ。
 
 試算は東日本、中日本、西日本、本州四国連絡、首都、阪神の6つの高速道路について行った。6高速の料金所には計6937本のレーンがあるが、このうち4割近く(2560本)を占める現金車専用レーンがなくなった場合、現金を扱う機器の設置費などがなくなり、レーンの建設費は4320億円から4割減の2750億円にまで下がることが判明した。
 
 また、現金車に対応するための人件費は昨年度、計786億円に上った。現金車がなくなればこの人件費も数百億円程度削減される見通しで、レーン建設費と合わせて3千億円前後のコスト削減効果が見込まれる計算だ。
 
 現在、高速道路を利用する車の9割がETCを搭載しているものの、残り1割の現金車にはETC車の5倍ものコストがかかっている。国交省は「今回の試算が、現金車が負担すべきコストまでETC車が負担している現状の理解の一助になれば」(道路局)と話している。

--以上産経ニュース(2015年7日13日 9時30分更新)--
 
 産経ばかりじゃなく、朝日も国交省のETC非装着車のネガティブイメージキャンペーンをバックアップしているようです。
 
--以下朝日新聞デジタルより--

『高速料金所、現金よりETCレーン優先に 本線へ直進』
 
 国土交通省は高速道路の料金所について、遠回りせず本線に直進できる優先レーンをETC専用に変える方針を決めた。より便利にすることで現状9割の利用率のアップを目指す。首都高速で始め、阪神高速など全国への拡大を検討する。
 
 首都高速では7月下旬、三軒茶屋入り口(東京都世田谷区)で現金支払いとETC専用レーンを入れ替えた。首都高では、現金支払いレーン(ETCと併用も含む)が優先され、ETC専用レーンに遠回りさせる料金所が28ヵ所あり、2~3年で全て切り替える。
 
 国交省は都市部を中心に各地の料金所のレーン入れ替えを進める。全国の高速道の料金所では、1日あたり約644万台がETCを使い、利用率は90.1%。高速道路会社が負担するコストは、現金支払い車は人件費がかさみ1台あたり182円だが、ETC車は36円で、ETC車の普及を目指している。

--以上朝日新聞デジタル(2015年8月3日 8時50分配信)
 
 報道された内容は、何の気なしに読んでしまうとただの現状報告と思えてしまいますが、その報道の裏に潜む、ETC非装着車が社会の迷惑かのような論調が気になりました。もともとETCシステムを前提に高速道路が作られたのであれば、ETC装置を付けていないことなどは、とんでもないことでしょうけど、経営的判断から料金収受を合理化するために一方的に普及させたシステムです。ましてやETC非装着車だからといって料金を払わないわけじゃなし、ETCの非装着を非難されるいわれはありません。ETC非装着車が新たに余計な経費を作り出したわけじゃなく、ETC装置をユーザーの自腹で取り付けさせた見返りに、3千億円どころではない、その一桁も二桁も違う大きな経費節減ができたと言うことでしょう。
 
 料金所の渋滞解消のためだった? それだって利用者全体が引き起こしている問題です。国交省の発表の根底に見え隠れするETC非装着車排除の意志がそのまま報道姿勢に伝わっているかのようです。一私企業の発想ならともかく、国のやることでしょうか。弱者であったり、マイノリティに対する配慮というものがまったく感じられません。
 
 ETCシステムが導入されてからすでに15年も経ちました。システムを改善してよりよい方向に発展させる、それは当然のことでしょう。が、だからといって“切り捨て”の理論を公然と推進するのはいかがなものでしょう。
 
 ETCシステム導入で料金所の渋滞を解消させたのは確かに大きなメリットでしたが、同時に料金収受を自動化したことで大きな利益を得たのも確かでしょう。人件費や経費等の削減で生まれた利益は、自腹を切ってETCシステム導入に貢献した利用者に還元するべきでしょう。実際に導入直後はあれやこれやの割引でETC装置搭載車を優遇していたではありませんか。首都高速など、ETCの非装着車と言うだけで最短区間の利用でも全線利用と同じ上限額を徴収されます。すてにこの時点で非装着車は冷遇されています。その上、非装着車をネガティブな存在として世論を誘導しようなどというのは、国のやることとして根本的に間違っているのではないでしょうか。
 
 一私企業なら利益を最大限に追求するのは当然でしょうが、国交省とあろうものがそういった発想で今回のように報道機関を誘導しているのであったら信じがたいことです。すでにETC装置を導入している多くの方々が、こういった発表記事をそのまま鵜呑みにし、「そうだそうだ、非装着車は値上げだ!」「義務化だ!」という声をネットで上げていたりするそうですが、冷静に考えてみてください。
 
 このままだと早晩、ETC装置を取り付けていないなら利用させない、ってことにもなるのでしょう。安売りモデルも多く出回って安易に付けられたクルマならともかく、二輪車用のETC装置は安売りもなければ、まして取り付けるところにも困るモデルも結構あります。「社会インフラ整備のためですからなんとか頑張ってETC装置を付けましょうよ」という働きかけならともかく、例によって交通社会のお荷物、厄介者扱いして世論を誘導、はじき出そうという発想、おかしくないですか。
 
 それに、すでにETC装置を導入しているから関係ないや、などという“9割の方々”にもさらなる出費が控えているって、ご存じでしょうか。国交省はETC装置の義務化ばかりではなく、さらなる効率的な高速道路交通システムの発展に合わせて導入を開始した、次世代型ETCといえる「ETC 2.0」の本格的な普及に対する画策を始めています。
 
 ETC 2.0というのは、すでに2011年から運用自体は始まっているのでご存じの方もいるかと思いますが、現状の単なる自動料金収受システムであるETCをベースにさらに発展させ、渋滞を回避した場合に料金を割引く、逆に渋滞路線を通った場合には割増にする、などといった緻密で高度な料金設定が可能となるという。
 
 また、より多くの情報を送受信することが可能となって、渋滞情報や安全運転を支援する機能なども取り入れた総合的な高度道路交通システムの構築にも役立つという装置。全国におよそ160ヵ所に設置されているという「ITSスポット」と車両が通信し、その車両の直近80km区間での、経路、スピードなど走行データをビッグデータとして回収し解析。それを元にリアルタイムでより精度の高い交通情報や、事故、積雪などの安全情報なども車両に情報として提供ができるようなるという。そのほか、駐車場での料金支払い、ドライブスルーの決済手段などの情報も取り入れ、民間企業と連携したサービスまで計画されているという。使いやすく便利になるのは確かでしょうが、またまた自己負担で買い換えを、というわけですね。
 
 ちなみに現在、ETC 2.0機器の市場での価格は、最安でも2万プラス、一般的には3万円プラス+工賃の負担を覚悟しなければなりませんね。まあ、現行のETC装着車でも、ETC非装着車と違っていきなり「通行できません!」ってことにはならないでしょうから、絶対的な負担増しということではありませんが。
 
 国交省でもETC 2.0機器がいまだ高価なことは認識しており、高速道路の料金を割り引くなど、新たな制度を導入することなどで利用促進を図る計画なのだとか。
 
 またまた、二輪は「蚊帳の外」。存在すら意識されていない、の話題でした。
 
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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