オオカミ男のひとりごと


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳

職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。

時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。

愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ900。

第42回 さらば横浜、真夏の帰郷 オオカミ男の凱旋、そしてついに・・・

 
 暑い。暑すぎる。着衣はすでに汗でグチャグチャな状態だ。同じ動作を繰り返し、これで何度目になるだろうか。ギアは3速、セローの車体を勢いをつけて前に押し出す。十分に勢いがついたところで車体に飛び乗りクラッチを繋ぐ。今度は良い手応えだ。その感触を逃さないようにアクセルを開けるとセローのエンジンは一気に息を吹き返した。よかったぁ~。
 これから700キロもの距離を走って岡山まで帰らなければならないというのにいきなりバッテリーあがりとはこれ以上ないくらいに幸先が悪い。確かに4月のダイヤモンド富士からほとんど走らせていなかったのだが冬ならいざ知らず5月からどんどん暑くなっていく季節にまさかバッテリーがあがってしまうとは思ってもみなかった。油断大敵である。まったく出発前にシャワーを浴びてさっぱりして出てきたのが台無しだ。おまけにたっぷりの時間と体力をロスしてしまった。

 
 しかし、あまりのんびりもしていられない。帰路の途中に頼まれものを渡すため沼津のベティの所へも立ち寄る事になっている。バッテリーは走っていればいくらかは復活してくれるだろう。川崎ICのゲートを出るとそこには車の列ができていた。まぁいつもの事だ。そしてその列がこれまたいつものように延々と続く。そしていつものようにその列の合間を縫ってオレは走った。だがそのオレが走る空間の暑さたるや尋常ではない。気温にして50度ちかくあるのではないだろうか。もう、死にそう、とかではない。そこにずっといたらリアルに死んでしまうんじゃないかと思えてしまう。さらにはセローの状態も心配だ。ただでさえ熱に弱いとされる心臓を持つマシンゆえに速度には必要以上に気を遣う。 
 圏央道を過ぎたところで渋滞は解消した。ひとまずPAに入って休憩をとる。自身の体をクールダウンさせ、いざ再スタートという場面でセルが回らない。何だかんだで2時間近く走ったのにバッテリーは復活の兆しさえみせないとは・・・なんてこった。完全に死んでいやがる。こりゃ停まるたびに押し掛けかい!? ちょっと動いただけでも汗が出る気温の中、パンチングメッシュとはいえレザーを着込んだ状態で荷物満載のセローの押し掛けはかなりツライ。これでは休憩にもならない。



何とか渋滞を抜けPAで休憩。でもね、いざ出発って時にセルが回らんのですよ。前にも言ったかもしれないけバイクは長い事ほったらかすとスネます
何とか渋滞を抜けPAで休憩。でもね、いざ出発って時にセルが回らんのですよ。前にも言ったかもしれないけれどバイクは長い事ほったらかすとスネます。

 ひとまずは沼津を降りたところでベティと待ち合わせるためにガソリンスタンドで給油。そこでベティと合流し、ここでまたしても押し掛け。あぁ。走っているぶんには問題ないのだが残りの距離を考えたらこのままではひじょうにマズイ・・・というか、ツライ。まずは・・・エアコンの効いたベティの車で店を2軒ほどまわりバッテリーを購入。そしてとりあえず昼食をとりセローのバッテリーを交換。少々、予定外な出費になってしまったがこれでまぁなんとか一安心である。あとは・・・日が暮れるまで待機である。気温が35度を超える猛暑の中、いきなりスタートを最悪の形でしくじったオレのモチベーションがある一定の水準に復元するのにはそれくらいの時間が必要だったのですよ。 
 そして夜になった。夜にしては蒸し暑いが日中のあの暴力的な暑さに比べたら楽勝だ。夜の9時を過ぎた頃、沼津ICのゲートをくぐり再びオレは西へ向け帰路についた。十分に休息はとった。まだ600キロ近くあるがなんてことはない。帰った先には世にもレアなオレのニューマシンが乗り手の到着を首を長くして待っている。そう考えるとこの走りに対するモチベーションはもうワンランク上がる。地味に淡々と走る事、9時間(なんせセローですから)、オレは岡山の自宅に舞い戻った。
 その翌日、オレはセローのオイル交換を兼ねてバイク屋へ向かった。いよいよ、ニューマシンとご対面だ。意外なことにこの時のオレは妙に冷静にその事を考えていた。楽しみなのは間違いないのだが必要以上にドキドキしたりとかはない。ネットの画像でその姿を見てからというもの今日まで一度も現物を目の当たりにする事がなかったというのにその事に対する不安というものがないのだ。実際、オレは画像を見たところで確信のようなものを持っていた。コイツがオレの期待を裏切る事はない、と。そして・・・ついにご対面である。
 カスタムショップ“ホワイトハウス”制作のコンプリートマシン、CB750カフェレーサー。多くの教習所で採用されていたホンダCB750をベースに70年代ヨーロッパ耐久レースを席巻した不沈艦RCB1000をモチーフにハンドメイドで再現した珠玉の一台である。


シートポジションはかなり後ろでハンドルは遠い。しかし走り出すとそのキツさは思ったほどではない
シートポジションはかなり後ろでハンドルは遠い。しかし走り出すとそのキツさは思ったほどではない。

 当時のイメージカラーであるトリコロールにカラーリングされた車体のクオリティーは予想以上。とにかく・・・・・美しい!! 見れば見るほど細部にわたってその作り込みは完璧である。この時、オレはいったいどんな顔をしていたのだろうか。自分の感覚としては表情筋のすべてが緩んでいたように思う。
 一部、追加したいものとかあるにはあるがそれはまた後の話だ。その追加点についてはオレはバイク屋に頼んでホワイトハウスの方に問い合わせをしてもらっていた。そしてそのやり取りの中で面白い事実がわかった。元々、このCB750カフェレーサーは雑誌の企画でホワイトハウスが制作したのが始まりなのだが実はオレが購入したヤツはそのホワイトハウスが一般ユーザー向けに発売した第一号機なのだという。他にも驚かされる事は多々あるが四の五の言うのはもうよそう。あとは走ってどうなんだって事だ。
 とりあえず跨ってみる。現行のマシンでは在り得ないほどのロングタンクにセパハン。レーシングマシンのテイストだけにかなりキツめのポジションだ。ハンドルを左右に振ってみると思った以上にハンドルは切れる。実はこのハンドルの切れ角、ベースとなっているCB750の切れ角のままなのだという。スバラシイ!! イグニッションをオンにしてエンジン始動。大きすぎず、小さすぎず、心地良い空冷ナナハンのサウンドが響き渡る。


ステンレス製のマフラーは水圧で膨らませてこの形に立体形成されている。そのサウンドは実に心地良い
ステンレス製のマフラーは水圧で膨らませてこの形に立体形成されている。そのサウンドは実に心地良い。

 かつてこの750ccと言う排気量は日本国内の規格としては頂点の最大排気量だった。昨今のビックバイクの中にあってはもはや中間排気量と言っても差し支えないものではあるがオレ達の世代ではこのナナハンと言う言葉は特別の響きを持つ。車種を示す呼び名でテンとかイレブンと言った呼ばれ方をする車両は幾つもあるが排気量だけを指す呼び名で定着したものはナナハン以外には存在しない。たかがナナハン、されどナナハン。いざ、スタート!



待ち焦がれたこの瞬間。オオカミ男歴代最高グレードのマシン、ついに発進!!


待ち焦がれたこの瞬間。オオカミ男歴代最高グレードのマシン、ついに発進!!
待ち焦がれたこの瞬間。オオカミ男歴代最高グレードのマシン、ついに発進!!

 うん、・・・・遅い。
 はは、勘違いしないでくれ。あくまでもこれはホーネット900と同じ感覚でアクセルを開けたせいだ。排気量も、当然馬力もトルクも小さいのだから当たり前だ。ならば・・・もっと開ければよろしい。そしてナナハンと言う排気量は公道レベルの話ならそれに十分応えてくれる。そしてステージは峠道へ。街中を抜け、山道の入り口に差し掛かり迫りくるコーナーに身構える。なるほど、跨っただけの時はかなりキツく思えたポジションもタンクに身を預けるようにすると腕や肩が力む事がなく自然に戦闘態勢ができあがる。
 まずはスピードは抑えぎみに大きなモーションはつけず基本通りにマシンを倒し込む。ははっ、こいつは予想に反して何の問題もなくライン通りに曲がってくれる。CB750の基本的な操縦性はまったく失われていないという事か。スバラシスギル!! 
 徐々に調子づいてきたオレはペースを上げた。少しモーションを大きくしてコーナーを回ってみる。違うな。あからさまなハング・オンはこいつには似合わない。少し肩を入れるようにしてリーン・ウィズ、モーションをつけるとしてもケツ半分ずらすくらいが無理なく気持ちよく曲がっていけるし切り返しもスムーズ。ぐふふっ、超楽しいんですけど。実際、フレーム、足回りなど限界性能はそれほど高いとは言えない。だがそれがオレにはちょうどいい。 
 ホーネットもそうだったのだが最近のマシンはそのあたりの性能が飛躍的に向上していて少々スピードを出したぐらいでは不安を感じる事はない。普通に走っていて気が付きゃとんでもないスピードが出てたなんて話もよく聞く。その出来の良さを安心感を捉える人もいるだろう。しかし・・・安心感と言うのはいき過ぎると感覚的に危機感の欠如となる。このCB750カフェはいき過ぎない出来の良さとでも言えばいいか、そんな感じである。そこから先は、乗り手が何とかすればよろしい。マシンの性能と乗り手の能力のバランスこそが走る姿のカッコよさを決める。こんなマシンを手にするとオレ自身にも少々、プレッシャーがかかるのでは・・・んっ!? いや、あまり気にならんな。今はただ、いまだかつてない満足感があるのみ。
 さて少々、大人げないが見せびらかせに行こうかね。やはりお披露目には人が多い方がいい。時は夏真っ只中の8月。ならば・・・あそこだな。


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