湯めぐりみしゅら~ん

第51湯:ようこそ! ホンダ400X

 8年間寄り添ってきたジェベル250XCが同僚のもとへと旅立ち、私の新たな相棒としてホンダ400Xを迎え入れた。今まで200〜250ccのオフ車しか乗ったことのなかった私にとって、400ccのオンロードバイクは教習車以来。期待と不安が入り乱れる中、酷暑の8月初めに納車された。納車まで2週間ほど待ったが、納車の瞬間はいつも楽しい。

 前回「自分の希望どおりの、これ以上はない出物」と書いたが、キャンプツーリングが多い私にとって、「荷物がたくさん載せられる」ことがバイクの購入条件だった。新車、中古車を問わず、この条件に合致するバイクはそう多くはない。実はホンダ400Xは、リアキャリアが標準装備されていないので、ノーマルのままではあまり多くの荷物が載せられない。ノーマルでの積載量で比較すれば、リアキャリアのあるジェベル250XCのほうが上だ。オプションのトップケースやパニアケースを装着すれば載せられるが、全部セットで購入すると、それ相応の費用がかかる。中古車を探すと、ほぼすべての車両が、トップケースやパニアケースはおろか、リアキャリアブラケットも装着されていない「吊るし」のままだった。できれば初期投資は抑えたかった私にとって、ホンダ400Xを購入するのに悩んだのはこの点だった。

 そんな私の悩みをいとも簡単に吹っ飛ばし、購入に踏み切らせたのが、今回見つけたマシンだった。2014年式で走行距離約5,900km、トップケース、パニアケース、リアキャリアブラケットはもちろん、憧れだったグリップヒーター、ハイウインドスクリーン、フォグランプなど、あらゆるオプションパーツが付属していた。まるでカタログに載っているかのようなスタイルで、最初に写真を見た時は思わず疑ってしまった。私が探した限りでは、ここまでオプションが付属したマシンは発見できなかった。それでいながら、値段はホンダ400Xの中古車の価格帯とそんなに大差ないという、まさに出物だった。

 現物を見て即決。オプションのナックルガードを装着してもらい、ジェベル250XCからETCを移植して納車完了。約1ヶ月前に広報車に乗ってしまったので、跨っても驚くほどの感動はなかったが、まさか1ヵ月後にオーナーになっているとは、自分自身予想していなかった。行き当たりばったりの人生のほうに驚きを感じてしまった。納車当日に、慣らしついでにちょっとツーリングに行ってみようかと思ったが、あまりの暑さに途中で断念。お店から自宅までちょっとだけ高速道路を走ったが、マシンの素性のよさを感じることができた。狭い場所での取り回しも問題なかった。ただ、シフトチェンジのタイミングは慣れが必要だと痛感した。

 翌日、昨日の欲求不満がたまってどうしても出かけたくなり、慣らしついでに出かけることにした。いろいろ考えた挙句、手馴れた中央自動車道を使って長野県駒ヶ根市に行くことに決めた。納車翌日に、いきなり片道200km以上とは無謀かと思ったが、いずれは走る距離だし、ホンダ400Xなら楽勝だろう。

 午前8時30分に自宅を出発。天気は晴れ。朝から暑いが、ゴールデンウィーク以来のツーリング、しかもニューマシンなので心が躍る。中央自動車道に入り、スロットルをちょっと煽っただけでスピードが出る。ジェベル250XCでは必死だった100km/h巡航が楽々できるマシンにカルチャーショックを受ける。小仏トンネルや笹子トンネルなど、登りが続く道も難なくこなす。その様子におそらく私の顔はにやけていたはずだ。途中双葉SAで休憩。中央自動車道はよく通るが、マシンが変わるだけで気分も景色も変わる。

 岡谷JCTから飯田・小牧方面に進み、アップダウンが続く山岳セクションから、右側に木曽駒ケ岳(中央アルプス)が見える平坦で快適な道に変わる。出発してから3時間ほどで駒ヶ根ICに到着。ここから県道75号線を木曽駒ケ岳方面に進み、一般通行が禁止されているエリアの直前にある「早太郎(はやたろう)温泉 こまくさの湯」に向かった。

 「早太郎温泉 こまくさの湯」は長野県駒ヶ根市赤穂にある日帰り入浴施設だ。入湯料は610円。シーズンということもあり、木曽駒ケ岳への登山客で館内は賑わっている。浴室は開放感があり、中央アルプスの山々が見える。お湯は無色透明。適温で肌触りもいい。「東駒の湯」と名づけられた細長い露天風呂には、眼前の山の名前がわかるようにプレートが設置されており、思わず見入ってしまった。都心に比べて涼しく、露天風呂に浸かっていると気持ちよすぎて、時が経つのを忘れてしまった。

 心地よかった「早太郎温泉 こまくさの湯」をあとにして、もう1湯入湯してから帰ろうと思い、県道75号線から国道153号線に入り、伊那市方面に向かう。伊那市に入って国道361号線を権兵衛トンネル方面に向かい、伊那西部広域農道を伊北IC方面に進んだ先にある「大芝高原温泉 大芝の湯」に入ろうと思った。しかし、入口を過ぎたところで以前入湯したことを思い出した。最近、こういううっかりが多発して我ながら困っているのだが、700湯以上、特に群馬県、長野県、山梨県は入湯数が多いので、仕方ないと言えば仕方ない。事前にチェックしておくことが必要かもしれない。

 「大芝高原温泉 大芝の湯」を回避して次に向かったのは、そこからほど近い「羽広温泉 みはらしの湯」だ。「羽広温泉 みはらしの湯」は長野県伊那市西箕輪にある日帰り入浴施設だ。入湯料は600円。建物はやや高台にあり、伊那市をはじめ南アルプスが見渡せる。見晴らしのいい浴室は広々としており、内風呂も大きい。お湯は無色透明。内風呂以上に露天風呂からは周囲の景色が一望でき、ゆったりくつろげる。夏もいいが、冬になれば澄んだ空気が、美しい山々の景色を際立たせそうだ。都心に比べれば気温が低いものの、日差しは夏そのもの。束の間の夏休みを楽しんで長野県をあとにした。

 納車翌日に、往復約450kmの日帰りツーリングとは自分でも無謀かと思った。しかし、帰宅後に疲れがあまり出ず、乗り心地の違いを実感した。その後は、近年稀にみる天候不順続きと、仕事の忙しさで普段乗りはもちろん、ツーリングどころではなかった。天候がよかったシルバーウィーク中にどうしても乗りたくなり、群馬県までちょっと出かけたが、本格的な湯巡りツーリングはしばらくお預けとなった。

 今年も残すところあと2ヶ月ほど。ライダーにとって厳しい冬がやってくるが、グリップヒーターの威力を早く試してみたい。年内に絶対湯巡りに行ってやるぞ!


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初私の新たな相棒となったホンダ400X。オプション満載で、特別編で乗ったノーマルの広報車に比べると、旅仕様感がアップしている
私の新たな相棒となったホンダ400X。オプション満載で、特別編で乗ったノーマルの広報車に比べると、旅仕様感がアップしている。
トップケース、リアキャリアブラケットに加えてパニアケースも装備されており、ジェベル250XCより積載量がグンとアップした
トップケース、リアキャリアブラケットに加えてパニアケースも装備されており、ジェベル250XCより積載量がグンとアップした。
冬場に欠かせないグリップヒーターが装備されていたものポイントのひとつ。ナックルガードは私が購入時に装着してもらった
冬場に欠かせないグリップヒーターが装備されていたのもポイントのひとつ。ナックルガードは私が購入時に装着してもらった。
2アドベンチャーバイク感を漂わせるフォグランプとフロントサイトパイプ。街灯のない峠道などで威力を発揮しそうだ
アドベンチャーバイク感を漂わせるフォグランプとフロントサイドパイプ。街灯のない峠道などで威力を発揮しそうだ。
2納車翌日にいきなりツーリングを決行。中央自動車道辰野PAで食べた伊那市の名物「ローメン」。太めの麺とマトンか醸し出す濃い目の味が魅力的
納車翌日にいきなりツーリングを決行。中央自動車道辰野PAで食べた伊那市の名物「ローメン」。太めの麺とマトンか醸し出す濃い目の味が魅力的。
第1湯目の「早太郎温泉 こまくさの湯」。木曽駒ケ岳の入口にあり、登山客の休憩所としても活用されている
第1湯目の「早太郎温泉 こまくさの湯」。木曽駒ケ岳の入口にあり、登山客の休憩所としても活用されている。
2湯目に選んだのは伊那市にある「羽広温泉 みはらしの湯」。建物は高台にあり、その名のとおり見晴らしがいい
2湯目に選んだのは伊那市にある「羽広温泉 みはらしの湯」。建物は高台にあり、その名のとおり見晴らしがいい。
「羽広温泉 みはらしの湯」の近くから伊那市を見渡す。青い空に白い雲、そして緑の山々。まさに「ニッポンの夏」といった風景
「羽広温泉 みはらしの湯」の近くから伊那市を見渡す。青い空に白い雲、そして緑の山々。まさに「ニッポンの夏」といった風景。

ブースカ的温泉評価
早太郎温泉こまくさの湯 ★★★★★
登山客に愛される木曽駒ケ岳の玄関口にある温泉。
羽広温泉みはらしの湯  ★★★★★
伊那市を見渡す高台にある眺望バツグンの温泉。

毛野ブースカ毛野ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は723湯。湯巡りツーリングの相棒はホンダ・400X。ちなみにマイカーはスズキのエスクードだ。


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