■ミュージシャンになるべく
夢抱き上京したバカ編 その6
え〜、前回は締め切りをブッチ切りまくるわ、冒頭の内容があまりにアレなために編集部で物議を醸し出し、アップされるのが予定より1週間も遅れて、しかもズラを養護する? 読者ちゃんから恐ろしい(楽しい?)お手紙まで頂いて、いやはやなんとも、心から反省しているアッキーです。
しかし! どーだ!! 今月はちゃんと締め切りに間に合わせたぞ!!! と威張れることでは全然ないのだが(反省)、さて、前回までタラタラと上京前のお話ばっかりしてきたが、ついにバンドマン上京編に本格突入なのであるっ!!
さあ、あれは東京に出てきて1年チョイのこと。まあ色んなコトがあった(頭脳警察ファンよ、そちら系の話は今しばらくお待ちアレ)のだが、なんとかオレも、ひょんな事からベーシストとしてバンドに参加できることとなった。
バンド名は『AMTRAX』。意味とかはもう忘れたが、とりあえずツインギターにドラム、そして女性ヴォーカルにオレというアンサンブルで、演奏するのはオリジナルのハード・ロックンロール。「目指すはガンズだぜ!」(時代を感じる…)と張り切ってスタートしたのだが…。
さて、新しく結成されたこのバンドメンバー、まずは全員オレより年上。それはまだいい。色々教えて貰えるからね。しかし問題は、メインギターの『マーちゃん』(仮名・実名出したらマジでボコられる。理由は後ほど)、そしてその彼女であるヴォーカリストの『あっちゃん』(これも仮名・理由は同上)であった。
マーちゃんは、関東でかなりの勢力を誇っていた某暴走族グループ出身。そして、彼女のあっちゃんもまた、バリバリのレディース上がりだったのであるからして、もう大変だったのだ(しかしあっちゃんに関しては、普段はとても優しい女性で、元レディースなどという匂いは微塵も感じさせなかったのだが……)。
ギターのマーちゃんは、そらもう音楽に対しては本当に厳しい人だった。上手くやればその頃すでにスタジオミュージシャンかなんかのプロになれる腕前だったのに、「手前ぇのやりたくもねぇ音楽なんかクソだ!」という、ロックンロールが骨の髄までしみこんでいた人なので、まだインディーズ止まりだったのだ。
しかしそのこだわりはハンパではなく、オレなんかもうリズムがダメだとか前ノリがどーとか、それまで軟弱な軟式野球部でヘラヘラしていたら甲子園レベルの高校に入学して死ぬほど野球部でシゴかれているようなものである。
で、そんなこんなで毎週、練習スタジオに入っていたある晩、事件は起こった。
その時、ヴォーカルのあっちゃんは声の調子が悪く、いつもより音程が外れていた。それをマーちゃんは許せず、演奏を中断させては「お前ぇ、音ハズれてんだよ! 分かってんのかクソアマ!!」と暴言を吐く(オレは何も言えず)。
それに対しあっちゃんは「ゴメン・・・」と謝るばかりだったのだが、そんなこんなが数回続いただろうか。
またあっちゃんが音程を外した時、マーちゃんは手にしていた高〜いギブソンのトラ目レスポールをスタジオの端へぶん投げたかと思うと、「てめぇ、オレの言ってること理解してねーだろがっ!」と言いながらあっちゃんの目前へ近寄ると、いきなり『バコーン』と顔面パンチをくらわしちゃったのである!!
未だにオレは覚えている。パンチを食らって後ろに吹っ飛ぶ(マジ!)あっちゃん、そしてゆっくりと宙を舞う鼻血と折れた前歯・・・・。
「こりゃヤバい! 止めなければ!!」
オレはベースギターをほっぽり、マーちゃんを後ろから羽交い締めにして、なんとか動けないようにした。「気持ちは分かるけど、女の子殴っちゃダメだよ!」と言い聞かせ続ける。
ここで、殴られたのがフツーの女の子だったら、ヨヨヨと泣き崩れ、「殴るなんて酷いじゃない」、となることだろう。オレもその時は、そうなることを望んでいた。
しかし、オレがまーちゃんを後ろから羽交い締めにして動けなくした次の瞬間、世にも信じられない光景がオレの目の前で起きた!
「てめぇ、ざけてんじゃねーよっ!!!」
そう叫びながら、身動き取れないマーちゃんの顔面に、肘をえぐるようにパンチをぶちかましたのは、他でもないあっちゃんだった。
その俊敏なパンチの連続は、とても普通の女性とは思えない。さすがはレディース上がり、数々の修羅場をくぐりぬけてきたのであろう。
だが、そんなコトを感心している場合ではない。マーちゃんを羽交い締めにするだけで精一杯のオレは、あっちゃんまで制止できない。
てゆーか、オレが押さえ込んで反撃できないマーちゃんは、あっちゃんにやられたい放題であり、そんなコトが続けば、後になってオレがマーちゃんに報復を受けること間違いナシだ。
オレは、一人でボーっとその光景を眺めているもう一人のギター、とおるちゃんに「あっちゃんを止めて!」と叫ぶ。彼はいつものんきな性格なので「う〜ん、分かった」といいながら、あっちゃんの目の前にハタと立ちはだかった。
別に不良などではないが、妙に体を鍛えていたとおるちゃんは、あっちゃんの両肩をがっしり掴んで、とりあえず動けないようにする。嗚呼、これで竜虎の戦いは静まった。と気を緩めるオレ。しかし、それがまた甘かった!
「てめぇ、よくもやってくれやがったなっ!」
マーちゃん、気を許したオレの手を離れ、再び彼女への攻撃再開。のんきなとおるちゃんはそれを見て素直に横へ逃げてしまったため、もはや二人の間に障害などなくなってしまった。
その筆舌にしがたい光景を敢えて表現するなら、激戦に激戦を重ねる矢吹ジョーとカーロス・リベラのごとくだったといえよう。
しかし、いくらあっちゃんがレディース上がりとはいえ、女性なのである。殴り合いで男に勝てるワケがないのである。これはなんとしてでも止めるしかないのである。
ということで、オレは意を決し、熾烈な戦いを続けるアムロとシャアの間に入るララァ・スンのように(マニアックな例えですんません)、身を投げ入れて、なんとか戦いを止めた。
こうして殴り合いはなんとか収まったものの、怒りは全く静まらない両者。この時、正直オレは覚悟した。
「嗚呼、この二人がここまでケンカしちゃったら、バンドも解散だなぁ」
ミュージシャンになるため上京し、初めて組んだバンド。いつも週末のスタジオ練習日が待ち遠しくて、キツいビル掃除のバイトだってそれを思えば頑張れる、とオレは喜んでいた。しかし、わずか1年足らずで解散とは……。これもまた、運命というものなのだろうか。
次の週、案の定スタジオ練習は中止となった。“もう二度と、あのメンバーで演奏することはないんだ”と覚悟を決めたオレ。しかしそれから数日後、マーちゃんから突如、ジリジリとオレの家に電話がかかってきた。
「あ〜、あっちゃんと別れてバンドも解散するつもりなんだな」
そう思いながらやけに重い黒電話の受話器を取ると、向こうはなんかご機嫌なマーちゃんの声。すると、世にも信じられない言葉が、次の瞬間、受話器の向こうから聞こえてきた!
「お−、アキ。オレとあいつよ、結婚することになったから。披露宴の司会者、頼むぜ!」
えええええっ! 2週間前には鼻血吹き出して前歯折るようなケンカしたのに、結婚!? 元暴走族とレディースが!? どんな家庭になっちゃうの!? と頭の中を様々な妄想がかけめぐるが、とりあえずめでたいことなのであった(もちろんバンドはそのまま存続)。
う〜む、なんだかバンドの話を書いているつもりだったが、気がつけば何故かバイオレンスアクション物になってしまった今回のコラム。う〜む、バイクも出てこなけりゃ音楽話にもならない。いいのだろうか、これで……。
(まだまだつづく)
- アッキー加藤
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