Hi-Compression Column

アッキーがキタ

■ミュージシャンになるべく夢抱き上京したバカ編その8

(2011.10.14更新)

さあって、今月の更新も遅れに遅れまくってオレのライター的信用もかなり下がってしまいそうな今日この頃。いや、サボっていたワケではなくイロイロと・・・とまあ、このコラムを楽しみに待っていてくれる全国推定3千万(確定7名)の方々、今回はまたしてもミュージシャン編、そしてコアなロックファンが泣いて喜ぶ『頭脳警察ローディ編』なのであるっ!

頭脳警察ってのは前にも書いたけど、左翼思想系の日本初のパンクバンドと呼ばれ(ファースト、セカンドアルバムは歌詞の過激さから発売禁止)、ヴォーカリストのパンタ氏を中心としたグループ。その再結成(1991年)の時、オレはローディ(楽器の整備から付き人、夜のお手配まで…をする立場)をこなしていた。当初はまあガッチガチに緊張しまくりであったが、それも半年ほどたてば慣れてくる。しかし、人間その「慣れてきた」時が一番危ない、というのを、身をもって知ったのがある事件だった。

あれは確か、大阪でのライブのこと。いつも通りステージにマイクやアンプ類を並べてセッティングし終えると、あとはバンドのメンバーさんをお呼びしてリハーサル。とりあえずその時はほとんどやることがないのだが、なんとなくパンタ氏の後ろ側に立ってモニタースピーカーの音質はどうかとかチェックしている「フリ」をする(念のために言うが、年期の入った本当のローディさんはちゃんとチェックする)。

んでもって、ついに開場時間となり、ワラワラとお客さんの入場。そしてまもなくライブはスタートし、まあ若いのからオッサンまでが食い入るようにパンタ氏のパフォーマンスに見入り、そして体を揺らす。当時は大体、オープニングは『銃を取れ!』という曲(これを知らない頭脳ファンはいない)だったのだが、まあその盛り上がりようったらありゃしないのだ。

んでまあ、「そこそこローディ仕事にも慣れてきた」オレにとって、この本番中にやることは、基本的に次の通りだった。

(1)ステージに客が乱入してこないか、もし上がってきたら丁重にぶん殴って客席へ投げる。

(2)ギターアンプから音が出なくなるなどのトラブルが起きたら速攻でステージに出て、その原因を探る。が、プラグが抜けてたりスイッチがオフになっているなど初心者的トラブルはともかく、深刻な問題に対処できる能力はないので、その時は(いる場合のみ)先輩に頼む。

(3)しかし先輩ですら解決出来ないときはステージ上で「これはアンプが壊れた」的なジェスチャーを大ぶりに二人で行い、あくまでこのトラブルはオレたちローディの責任ではないことを客へ大々的にアピールする。

(4)ステージで演奏するミュージシャン達の目配せなどで何を欲しているのか察し、ドリンクを持って行くなどする。これが結構難しい。

ざっと、基本的にはこんくらい(注:本格的なローディさんは当然、もっとやるべきことは沢山ある)。ま、アンプがトラブル起こしたりしなければ大した問題ではない。しかしライブ中盤、ステージでパンタ氏が一人で弾き語りを始めると、ベース担当の下山氏(元ビリケン)が、オレの方に向かって小声でささやいた。

「アキ、パンタの足下のカンペ、見栄え悪いから取って来いよ」

カンペ、すなわちカンニング・ペーパー。パンタ氏ほどのキャリアがあると持ち歌は100曲を軽く超えるため、はっきり言って歌詞の全てを完璧には覚えていられない。そのため当時、ステージに立つ彼の足下にはその日に歌う曲の歌詞を手書きしたカンペが大量に積まれ、曲が終わる度にパンタ氏が自ら一枚一枚ひっぺがしていた。その、引っぺがされてくしゃくしゃになったカンペが、低めのステージでは目立ってしまうというのだ。うむ、それは確かにいえる。


右上へ

そこでオレは、弾き語りの曲が終わるやいなやステージ中央まで中腰のまま突っ走り(あくまでローディは黒子なのである)、パンタ氏の足下にある紙くずをぐしゃっとわしづかみにすると、速攻で舞台袖へ引っ込んだ。「よしゃ! まるで今のスピードはF1のピット作業のごとし!!」と自らの行為に酔いしれていると、次に始まったのはなかなか普段、頭脳警察のライブでも演奏されない曲『イライラ』。ジャンジャカジャンジャカ、とスピーディなギターリフとリズムが鳴り始めるのだが、ん? と気づくと、いつまでたってもイントロから先へ進まない。つーか、パンタ氏が歌い出そうとしない。

「どうしたんだ? なんか調子悪いんか?」

と思いながら彼の顔を見ると、何かオレに向かって大声を上げている。しかし大音量のライブステージ上でその声が聞こえるわけはなく、口の動きを読むしか、オレには手段がない!

「は?ん?ぺ? はんぺんがどしたのだ?」

そう思いながらもイントロが2分以上続き、かつパンタ氏が必死に伝えようとする言葉の意味が分からないオレ。急にはんぺんが食いたくなったのか? それとも、極左的思想家であるパンタ、何かの暗号か!? と思った瞬間、ステージ脇にいるオレと一番近いベースの下山氏が、こっちに寄ってきてオレの耳元で叫んだ。

「カンペだよ! カンペ!!」

いやいやいやいやいや、さっきアナタが言った通りにカンペは撤収しましたよ、と思いながらふと己の両手に持ったカンペを見るオレ。当然、そこにはすでに「歌い終わった後」の歌詞ばかりがあるはずだが、何枚か見てみるとそこには『イライラ』と書いてある! オーマイガー!! つまりオレは、今まさにパンタ氏が歌おうとしている曲のカンペまで、焦るあまり引きはがして持ってきてしまったのである・・・・・

結果、この頭脳警察の曲『イライラ』は、サビのみがヴォーカル入りで、あとはインストゥルメンタル(楽器のみ)で演奏されるという、前代未聞の事態で収束となり、後々ファンの間で語り継がれる(?)出来事となった。もちろん、ライブが終わった後に速攻で、オレがパンタ氏に土下座して謝ったことは言うまでもない。しかし、ジェントルな彼は怒るどころか「あんなコト、2度とないだろうな〜」と大笑いして許してくれ、落ち込んだオレの肩を叩いてくれたのである。そうして「ああ、なんて素晴らしい。さすがロックンロールの世界、洒落が通じるんだな〜」と安堵の息を吐き、早々と機材をかたづけていると、業界では顔の広いカメラマンさんが近寄ってきてオレにこう言った。

「良かったよな、アキ。これが長渕とか永ちゃんとかだったら……ただじゃすまないぜ」

一瞬、背筋が凍り付くオレ。もし職にあぶれ、他のミュージシャンのローディになる時には慎重に仕事先を選ぼう、と思ったのだった。

(パンタ様。勝手に書いちゃいました。ごめんなさい勘弁してください怒らないでください)


ってコトで最後にいきなりですが、微々たるものの被災地支援を続けさせていただいてるオレから、読者様へのお願い。被災地へ旬の野菜を届けようと動いている「プロジェクト・ビタミン・東北」に、ちょっとでいいから協力してくれると嬉しいです。一度、ホームページを見てくれるだけでもいいです。ヨロシク!!

●Project Vitamin Tohoku
http://project-vitamin-tohoku.blogspot.com

アッキー加藤
アッキー加藤
アメリカン、チョッパーなどそっち方面が主戦場のフリーライター。愛車の1台は写真の750ニンジャというマニアックな一面も合わせ持ち、アメリカン以外のジャンルもほほいのほい。見かけはご覧のようにとっつきにくそうが、礼節をわきまえつつ、締切も絶対に守り、かつ大胆に切り込んでいく真摯な取材姿勢で業界内外で信頼が篤い。ここまで書くとかなりウソくさいが、締切うんぬん以外はウソでもない。

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