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衛藤達也
ギャラリーとか個展とかアトリエとか、そういう分野とは縁がないと思っている方、多いんじゃないでしょうか。それはともかく、バイクのイラストとか写真とかだって立派な芸術です。このコーナーでは、そんなみなさまの作品を紹介させていただくギャラリーです。じっくりとご覧下さいませ。
(2011年2月18日更新)
現地集合、現地解散
ドイツ5日間、200台撮影の旅 その1
あれは1992年の冬だった。前回紹介したアメリカに渡ってから5年後の話だ。
またまた、I井さんから「エトー。今度、わしタルガっていう車の編集部に転属になったわけ。それで、2ヶ月に渡ってドイツの博物館特集やることになったわけ。で、だ、ドイツ行きたくねーか?」と、どっかで聞いたことある台詞が再び出た。
タルガ(TARGA)とは、ミスター・バイクを作っている東京エディターズが編集し、モーターマガジン社から1991年7月に創刊されたおしゃれな車雑誌だ。
これが海外取材の2本目。前回の経験を生かして? 英語はなんとかなるだろうが、ドイツ語は「ダンケシェン」(だっけ?)だけしか知らない。
明らかに戸惑う私にI井さんは顔を怪物くん(ウィキペディア参照)(ちなみに怪物ランド(ウィキペディア参照)とは違います。どっちも懐!)のようにこすりながら笑って、「大丈夫、一人じゃないし、ケンオー(加藤顕央でぐぐってみよう! びっくりするぞぉ)も一緒に行くから」。
ケンオーとは彼が学生の頃、毎月ミスター・バイク誌上で「知ったかハウツーウソホント」という色々な無茶苦茶な実験をI井さんにやらされる企画を一緒にやっていたので、もちろん知らない仲じゃない。
そう言えばケンオーで思い出したが、彼は私より多分10歳くらい年下だったが、撮影中に、解らない素朴な疑問を色々彼に質問をするとケンオーはやさしく微笑みながら「いーですか、エトーさん。良ーく考えてくださいね。これは、かくかくしかじかで、うんたらかんたら〜なんです。そうでしょ、ね!」と解りやすく丁寧に説明してくれた。
学生時代から、知識(特に自動車関係)はものすごく深く、とにかく頭の切れる男だ。
しかし、微笑むやさしい目の奥は『あんた、いい大人なのにこんなことも知らないんですか……ちょっとおかしんじゃないですか? 脳みそダイジョーブですか。中学生でもしってますよ。常識ですよ……』と語っている様に感じてしまったのは私のひがみでしょうか。
それはさておき、I井さんからのリクエストは
「博物館に展示してある車を全部撮影してくる」
「表に出せる車はイメージ写真を撮る」
の2つ。
しかも、「内容はケンオーが把握しているから彼のいう通りに撮影していけばうまく行くわけ」と。気心の知れたケンオーと二人なら、観光気分で楽勝だなと思っていると、続けておっしゃった。
「展示してある車はおよそ200台をすべて撮る」
「イメージ写真(いわゆるお芸術=前号参照)も撮る」
「現地滞在は5日間」
へーっ、5日もあるんですか。と思ったものの、冷静になって計算してみると200割る5で1日40台。
一台10分かかるとして1時間に6台。
撮影できるのは9時から17時迄の8時間。
途中の休憩を1時間として、実働7時間ということは1日42台。
単純計算では辻褄が合うが、これではイメージ写真を撮る時間がない。
イメージ撮影は、車を移動させてセッティングしなければならないため、さすがに10分では無理。どう考えても最低2日は必要。
ということは3日で200台撮らなければならないことになる。
つまり1日(休み無しで8時間)で66.6台も撮らなければならない。480分割る66.6=1台約7.2分。
とてもじゃないが大型ストロボライトを組んでいる時間はない。
どうしよう……出発前からかなりのプッレッシャーがかかる。
またもや、失敗が許されない。便利なデジカメなんてない当時、撮影してすぐチェックなんてできないし、一台づつポラを切る時間もない(昔はまずポラロイドで撮影して、調子を見てから本撮影していた)。もし失敗しても再撮する時間はないし距離的にも無理。ああ、胃が痛くなってきた。
「クリップオンストロボでは光量が足りないだろうから、メインはグリップストロボに傘つけて、サブでクリップオンを使えば何とかなるだろう」
「ストロボの電池がなくなったら大変だからAC電源を持って行こう。ドイツって何ボルトだったっけ? 変換アダプターも必要だな」
シミュレーションをして万全の準備をして行けばなんとかなるだろうと、パニック寸前でいろんなことを考えていると、I井さんはなんでもないように言った
「ケンオーとは現地集合なわけ。エトーはとりあえず、成田から一人でフランクフルトに飛んで、空港でこのメモをタクシー運転手に渡せばホテルまで連れて行ってくれるわけ。着いた次の日の夕方7時頃ケンオーが車で迎えにくるから。朝からフランクフルト観光でもしていて」とホテルの住所を書いた小さなメモをくれた。
撮影の手順だけでも手一杯なのに、この一言で頭の中は真っ白。
「冗談ですよね。一人じゃないっすよね。ドイツですよ。ドイツ語知らないんですよ……」
私の心は崖の底に落とされた獅子の子供。心配性の私は、出発の日まで胃がキリキリと痛み、眠れぬ日が続くのだった。
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