- 衛藤達也
私の恥ずかしい写真 後編
(2011年10月6日更新)
333mから30万円の夜景
『おー、ここだ。どーだ。いいだろう』と連れて行かれた場所は夜なので、ここがどのあたりになるのかさっぱりわからないのですが、辺りには人家がなく街灯もない丘の上でした。道幅は1車線分。
『ここは夜は人が来ない道だから大丈夫だ』
「そうですか。それはともかくここでどーやってジャンプするのですか?』
『工事現場で使う足場があるだろうが、それおよー、ジャンプ台にして、俺様が飛んだところをお前が撮る。どーだ、俺様の計画』
「う〜んっ、一回では、うまくいかないと思うのですが……何回か飛んでいただけますか?』
『わかった。飛ぶよ。お前がOK出すまで飛ぶぜ』
おおーっ、男らしい返事が返ってきた。返事が返ってきたからにはこちらも手を抜けない。
『おう、俺様はジャンプ台を用意するが,他に用意するものはあるか?』
「じゃあ、発電機をお借りできますか? 真っ暗でピントを合わせる事が出来ないので」
『おう、解った。 じゃあ明日の夜遅く撮影しよう。編集部、8時頃集合な』
と、とんとん拍子に段取りは進んだものの、さー困った。1車線では引きがない(要するに被写体とカメラの間に充分なスペースがないということ)。広角レンズでうまく画角に押さえるしかない。
さて、本番である。信哉さんはハイエースから、ジャンプの機材を準備。私はカメラの準備。準備をしながらおそるおそる切り出した。
「あのー、信哉さん、今更なんですが道幅が狭くて引きがとれないので何かいい方法ありませんか?」
『じゃーよお、道路の端っこギリギリにジャンプ台をセットする。着地地点を道路の真ん中にするから少し斜めに飛ぶけど大丈夫か?』
「えっ!? そんな事が出来るのですか??」
『俺様に出来ない事はない。まかせておけ』
これは現場に居た者にしか解らない事ですが、出来るだけ高くジャンプしないと絵にならないんです。
しかも街灯もない丘の上で、頼りになる明かりはカメラのピント用500wの電灯2灯と多分着地地点を照らすためのハイエースのヘッドライトだけ。
よくよく考えなくても凄く危険なのです。そんな状況にもかかわらず、文句一つ言わないで何度も何度もジャンプをしてくれた信哉さん。
フィルム1本分位撮影したので、30回くらい飛んでくれたと思います。今思えばこんな危ない事を平気な顔してやって頂いた信哉さんに感謝してもしきれない思いです。
ジャンプの撮影は無事に終わり次は夜景の撮影です。夜景をぱぱぱっと撮って終了! としたいところですが、この辺りの夜景では街の光が少なすぎて絵にならないのです。
では、どーするか? ジャンプの写真と合う夜景で、目戦の高さもバッチリ来るとなると……それはもうあそこしかないのです。333m。当時日本一から見下ろす夜景。そう東京タワーです。
いつものように撮影許可を取らないでゲリラで……と、近藤さんと信哉さん3人でドキドキしてエレベーターで上っていくと……拍子抜け。展望台ではいろんな人が夜景を撮影しているではないですか。
こそこそっと撮影をして帰ろうと思っていたのに(これはこれで当時やみつきになっていました・笑)。
無事、合成用の夜景も撮って現像が上がったので編集部にチェックに行くと……上がりポジを見て、ある人が光の軌跡が逆になっている事を指摘したのです。
実はジャンプの撮影をしたとき、バイクの軌跡を残そうとシャッタースピードを開けたのは良かったのですが、後幕シンクロが出来ない事をすっかり忘れていて、光の軌跡が前後逆になってしまったのです。
後幕シンクロが出来ないカメラでバイクを追いながら シャッターを切るとこうなってしまうのです。カメラを固定して、シャッターをバルブ(開放)にして画面の真ん中に来た時にストロボを発光させれば軌跡が逆になっていたのに……
言い訳の出来ない完全にわたしのミス。これが、私の恥ずかしい写真の真相なんです。
かくかくしかじかと説明して許してもらいましたが。
ちなみに現在のカメラでもクリップオンストロボの設定を後幕シンクロにしなければこうなるので、夜空を飛んだSDRの写真を撮りたい方はご注意ください。
最後に、ジャンプの写真と夜景の写真の合成作業ですが、この当時まだまだフォトショップの1.0も発売されていなかったと思います。だからこのような合成は印刷会社が持っている専用の機械でやっていたようです。
これは後日談なのですが近藤編集長から『エトー、合成の料金いくらか知ってるか? 請求書が来たから教えてやるよ。30万だとさ』
えっ! かなりびっくり。ホントかどうかは定かではありませんが、自宅のパソコンで誰でも凄い写真が簡単に安く作れちゃう便利な時代になっちゃった今からは考えられません。
デジタル全盛の今日では考えられないくらい、手間も暇もお金もかけた『私の恥ずかしい写真』のお話でした。
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