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ブースカ

第10湯
紀伊半島の温泉(第1日目)

痛ましい震災から2ヶ月が経ち、家庭の事情も一段落したので、少ない休みをこじ開けて、ゴールデンウィーク前半に久々のロングツーリングを敢行することにした。

振り返れば正月休み以来、まともなツーリングに行っていない。行きたくて仕方なかったのだが、震災や家庭の事情があって行けなかった。

実は、大震災が起こる前は、ゴールデンウィークを利用して東北地方にツーリングに行く予定だった。大震災により東北方面は候補から消え、そうなると西日本方面へのツーリングとなる。いろいろ考えた結果、紀伊半島をグルッと回ることにした。

紀伊半島は3年前に三重県から入って新宮市までは行ったのだが、その先は未踏だった。

今回は新宮市から紀伊勝浦、南紀白浜を通り、最終的に大阪から東京に帰るというルートにした。日程は最終日は夜通し走って帰るので2泊4日、出発は4月30日の早朝に決めた。

出発前日に準備を済ませ、2時間ほど仮眠してから午前3時に出発。連休前半とはいえ、この時間はさすがに道路は空いていた。

朝を迎えたところで愛知県に入り、伊勢湾岸自動車道を走り、最初の目的地である勢和多気インターに到着。

ここから国道166号線を通って奈良県に入り、さらに国道169号線から新宮市・熊野市方面に向けてひたすら進み、この日のうちに和歌山県に入る想定だった。

とにかく時間が読めなかったので、朝風呂代わりの温泉には入らずに、できるだけ距離を稼ぐことにした。

午後1時を回ったところで、さすがに朝から走りっぱなしだったので、休憩がてら第1湯目に入ることにした。選んだのは「下北山温泉 きなりの湯」だ。

下北山温泉は奈良県と和歌山県の県境の奈良県吉野郡の下北山スポーツ公園内にある温泉だ。料金は600円。場内はひろびろとしており、地元の人で賑わっていた。

無色透明で、ちょっとヌルスベ感のあるお湯は肌触りよく、疲れた身体にちょうどいい。露天風呂も完備されており、ゆったりくつろげる。

しばし身体を休めたところで、再び新宮市方面に向けて走り始めた。途中、道を間違えたのか国道169号線から外れてしまい、国道311号線を通って熊野市に出た。

とりあえず太平洋岸には出たが、熊野市は三重県だったりする。ここから海岸線沿いの国道42号線を走って新宮市方面に向かった。

ようやく和歌山県の新宮市に入ったのが16時を過ぎていた。予想通り時間がかかり、そろそろ今晩のキャンプ地を決めなければならない。

新宮市より先だと串本市近くまで行かなければならず、時間的に厳しい。悩んだ挙句、3年前にキャンプした川湯温泉近くのキャンプ場に決めた。

国道168号線から川湯・熊野大社方面に向けて進んでいく途中、湯に浸りたい気分には勝てず、国道168号線からちょっと入ったところにある「雲取温泉 高田グリーンランド」に入ることにした。

雲取温泉は和歌山県新宮市高田にある温泉だ。場内には温泉施設の他にスポーツ施設などが併設されており、宿泊もできる。

湯船に注がれるお湯はやや白濁しており、和歌山県では珍しいとのこと。アルカリ単純泉なので入りやすく、湯疲れしない感じ。露天風呂は浴室からちょっと離れたところにあり、川の流れる音と回りの山々を眺めながら入れる。

温泉から上がると、17時近くになっていた。日が長いとはいえ早くテントを張りたいので、ちょっとペースを上げて川湯温泉を目指した。

国道168号線から川湯方面に向かい、前回キャンプした川湯野営場・木魂の里は先客が多かったので今回はパス。渡瀬温泉方面に向かったところで「熊野瀬温泉キャンプ場」と書かれた看板を見つけたので行ってみることにした。

案内に沿って行ってみると、民家の庭先のような場所に出たが、テントが数張立っていたのでキャンプ場だと分かった。近くで芝刈りをしていた管理人に料金1000円を払い、場内に温泉があることを知らされた。想定外だったので嬉しかった。

そそくさとテントを張って、川湯温泉まで飲み物を調達するついでに、川湯温泉の共同浴場に入ることにした。

川湯温泉といえば、お湯が湧き出る川をせき止めて作る「千人風呂」が有名だ。しかし期間が11月から2月までとなっており、前回は始まる1週間前に行って入れなかった。そして今回も入れず、何ともタイミングが悪い。共同浴場は温泉街の中心にある。

料金は良心的な250円。いかにも共同浴場然のこじんまりした湯船だが、優しい肌触りの無色透明の湯加減はなんとも絶妙。源泉が引かれて、加水・加温していないことが多い共同浴場に入れば、その温泉の特徴が分かるというのが持論なのだが、さすが川湯温泉は和歌山県を代表する温泉だと感じた。千人風呂にいつか入ってみたい。

川湯温泉からキャンプ場に戻り、夕食を食べてから、いよいよ場内の熊野瀬温泉に入ることにした。テントからわずか20秒もかからずに温泉に入れるとは、何とも贅沢。浴室のある小屋はあまりお洒落じゃないが、湯船は石造りの凝った作り。お湯は加温・循環式と思われるが、常に湯船に注がれている。湯加減はちょうどいい。寒い日のキャンプだったら、たまらなく嬉しいはずだ。

しばしお湯に浸かった後、朝から走って疲れたのか眠気が強烈に襲ってきて、テントに戻ったらすぐに寝てしまった。途中夜中に目が覚めると、外は雨が降り始めていた。

翌朝、どんよりした雲が空を覆っていた。雨は降ったり止んだり。雨が止んだその隙にテントを撤収してキャンプ場をあとにした。

2日目はひたすら海岸線沿いを走り、行けるところまで行ってからキャンプすることに決めた。まずは川湯温泉からほど近い熊野本宮大社に寄り、道中の安全を祈願してからスタートした。しかしこの後、我がツーリングの歴史に残るハプニングが起こるとは、自分自身も思っていなかった…。(つづく)


ブースカ的評価
(5段階評価)

●下北山温泉
★★★
ヌルスベ感のある肌当りの優しいお湯でゆっくりくつろげる
●雲取温泉
★★★★
この地域では珍しい白濁したお湯は長時間入りたくなる
●川湯温泉
★★★★★
和歌山県を代表する名湯。いつか千人風呂に入ってみたい
●熊野瀬温泉
★★★★
キャンプ場利用者以外は入れない温泉。ある意味で貴重

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毛野ブースカ
ブースカ
トイガンとミリタリーの最新情報誌『月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は479湯。湯巡りツーリングの相棒はスズキ・ジェベル250XC。ちなみにマイカーもスズキのエスクードというスズキスト。


↓写真をクリックすると大きなサイズになります。

(2011.5.23更新)



伊勢湾岸道路の安濃サービスエリアで朝食代わりに食べた「津ぎょうざ」。カレーパンほどの大きさがあり、具がたっぷり入っている。価格もビッグで1個260円なり

伊勢湾岸道路の安濃サービスエリアで朝食代わりに食べた「津ぎょうざ」。カレーパンほどの大きさがあり、具がたっぷり入っている。価格もビッグで1個260円なり


下北山スポーツ公園内にある「下北山温泉 きなりの湯」。館内は広々としており、ちょっとヌルスベ感のある優しいお湯だった

下北山スポーツ公園内にある「下北山温泉 きなりの湯」。館内は広々としており、ちょっとヌルスベ感のある優しいお湯だった




和歌山県に入って最初のお湯だった「雲取温泉 高田グリーンランド」。和歌山県方面では珍しいという白濁したお湯だった

和歌山県に入って最初のお湯だった「雲取温泉 高田グリーンランド」。和歌山県方面では珍しいという白濁したお湯だった




テントを張った後に訪れた川湯温泉の共同浴場。川湯温泉は今回で2回目。またしても川湯温泉の名物「千人風呂」は入れなかった

テントを張った後に訪れた川湯温泉の共同浴場。川湯温泉は今回で2回目。またしても川湯温泉の名物「千人風呂」は入れなかった




今回キャンプした渡瀬温泉近くの熊野瀬温泉キャンプ場。民家の庭先のようなキャンプ場だったが、この日も何組かがキャンプしていた

今回キャンプした渡瀬温泉近くの熊野瀬温泉キャンプ場。民家の庭先のようなキャンプ場だったが、この日も何組かがキャンプしていた




キャンプ場に併設されている温泉。歩いて数十秒もかからずには入れる温泉好きには理想のキャンプ場だ。小屋風の外観はシンプルでそっけないが…

キャンプ場に併設されている温泉。歩いて数十秒もかからずに入れる温泉好きには理想のキャンプ場だ。小屋風の外観はシンプルでそっけないが…




浴室を見ると湯船がしっかり作ってあり、オーナーのこだわりを感じる。お湯も常に注がれている。いい意味で期待を裏切ってくれた

浴室を見ると湯船がしっかり作ってあり、オーナーのこだわりを感じる。お湯も常に注がれている。いい意味で期待を裏切ってくれた




今回で2度目の訪問となる熊野本宮大社。朝もやの中、人影もまばらで荘厳な雰囲気を漂わせる。そういえば3年前に来た時も雨だった…

今回で2度目の訪問となる熊野本宮大社。朝もやの中、人影もまばらで荘厳な雰囲気を漂わせる。そういえば3年前に来た時も雨だった…




まさに山紫水明といった風情の国道168号線から見る世界遺産となっている熊野の山々。しかしこの後、予想もしないハプニングが待ち受ける

まさに山紫水明といった風情の国道168号線から見る世界遺産となっている熊野の山々。しかしこの後、予想もしないハプニングが待ち受ける




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[第10湯 紀伊半島 その1]
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