Hi-Compression Column

バイクの英語

今月の一言

“Hitch-Hike”


(ヒッチハイク)

(2011年9月13日更新)

こんな言葉知ってるよ、なんて言わずに。だってその語源は知らないでしょう? ヒッチハイク文化はけっこう古くからあるものなんですよ。


基本的にテレビはモトGPとF1以外は全然見ないのですが、最近バラエティに元猿岩石の有吉が出ているのを見て、彼の出ている番組を見るようになりました。言いたいこと言ってるようで、絶妙にその場の空気を気遣っている感じに好感が持てるし、夜中にやってる「怒り新党」という、マツコ・デラックスと一緒にやってるやつに出てる夏目三久という女の子が恐ろしく可愛くてくぎづけです。あの娘、本当にかわいいなぁ! 芸能人には疎くてテレビに出てくる人の9割は名前も知らないけれど、あの娘は思わず名前を調べてかつユーチューブで探しちゃったもんね!

あぁ、違いました。話したかったのは有吉の方です。

猿岩石時代は大変に盛り上がったけれどヒッチハイクの途中でズルしたりして非難を浴びたりもしましたね。だけど重度のヒッチハイキストである筆者は、彼らの成し遂げたヒッチハイク旅を大変に尊敬しています。もちろん、番組の一部としてやってるのだから色々保証されているのでしょうけれど、そんなことはおいておいてもヒッチハイクってかなり勇気の要る競技(?)なんですよ。

筆者が最初にヒッチハイクをしたのはイギリスの、ケンブリッジ郊外でした。お世話になっていた家から最寄の交差点(ラウンダバウト!)まで歩いていき、旅の目的地はヨーロッパだったため、ドーバー海峡方面へと親指を突き出したわけです。

これがなかなか勇気が要る!

比較的ヒッチハイクが浸透しているイギリスでも通り過ぎる車が野次を飛ばしたり、中指を立てたり、クラクションを鳴らして手を振ったり。そこでリュックをしょって親指を出し、立ち尽くしているという行為が、なんだか辱めを受けているように感じてくるもんなんですね。ただ道端に立って親指を出すというだけなのにこんなに恥ずかしいというか、勇気の要ることなんだとそのとき初めて気づき、だったら駅などで一人でパフォーマンスをしている人なんて本当に勇気があるな、と、今でもそういう人を筆者は尊敬しています。


結局そのあとヒッチハイクは順調に進み、イギリス全土を周りきった後にフランスへと渡り、ヨーロッパでもこの競技(?)を楽しみました。いつかは本にまとめたいなと思っていますが、いくつかエピソードを紹介しましょうか。


■イギリス南部にて

コーンウォール地方から東へ抜けるハイウェーにて、恐ろしいほどの急停車で停まってくれたのはプジョーの406エンジ色。駆け寄ってみたら運転席には巨漢の黒人男性が「よく乗り込めましたね」と言いたくなるぐらいギュウギュウに納まっていて、長い髭とやくざ風スーツでどう見てもギャングかマフィアの、しかも偉い人にしか見えない。口には葉巻をくわえていて、彼のせいで極度に狭く見える車の中は煙で充満していた。ヒッチハイクには乗る勇気と乗らない勇気が必要だけど、今回は乗るほうの勇気を選んで乗り込んだ。

絶対マフィアなこの人物、何の話をしていいのかわからずに、単純に筆者が興味をもっていた406について話を振ってみたらこれがオオアタリ。彼にとっては大変自慢の一台だったらしく、「これは406でも上級バージョンでV6エンジンで速いんだ」といって突然飛ばし始めた。これが一般道なのに200キロを越える飛ばしっぷりでコーナーも全く容赦ない。あまりに激しい運転でその後の顛末を覚えていないが、今こうしてこの話を書いているということは事故はしなかったようだ。


■フランスの片田舎にて

フランス人はとにかく飛ばしやで、ヒッチハイカーを拾うと先述の406氏のように車の性能自慢をしたがる人も多いのだが、一方で田舎に行けば2CVにじいさんばあさんが6人ぐらい乗っていて、ワインを飲みながら運転しているという光景にも出くわす。そんなこと許されるのか!? いやいや、日本だってうるさく言うのは都心部だけで田舎では(飲酒&過積載はともかくとして)驚くような事柄が展開されていることもある。だってカブまでだったらヘルメットの変わりに農協の帽子をかぶっておけばOKみたいな暗黙のルールがありますからね……。(あるのか?)



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フランスで拾ってくれたこの人は飛ばし屋タイプではなく、後者ののんびり楽しもうの田舎タイプ。乗せてもらったのは夕方で、その夜の宿と決めていたユースホステルに筆者は向かいたかった。しかしこの運転手の好青年、ヒトコトも英語を話せず、筆者もヒトコトもフランス語を喋れない。「ユースホステルに行きたい」と言っても彼は全然わからない様子で「オーベールジュ・デ・ジュネス」と言う。きっと「君の言っていることはわからない」と言う意味だろうと解釈した筆者は「お金」「安い」「寝る」などとジェスチャーすると、彼は繰り返し「オーベールジュ・デ・ジュネス」「オーベールジュ・デ・ジュネス」という。あぁ困った「ユースホステルだってば!」としまいには日本語で言う。ちょっと休むところではなく、一晩寝たいんだと伝えたいのだけど、身振り手振りで一番伝えにくいのは時間。二人の会話は全くの平行線のまま車は進み、ユースホステルどころか方角すらも諦めた筆者はただこの車に揺られた。あわよくばこの人、今夜泊めてくれないかなぁなどと考えていたら、どうやら目的地に到着した様子。……ちゃーんとユースホステルについてるじゃないか!! この時点で運転手も筆者も気づいた。「オーベールジュ・デ・ジュネス」はフランス語の「ユースホステル」、「ユースホステル」は「オーベールジュ・デ・ジュネス」の英語だと言うことを! 二人は大笑いして硬く握手をした。


他にもヒッチハイクにまつわる様々なエピソードはあるのですが、先に言ったようにいつかは本にしたいと思っているので、これを読んでもっと読みたいと思ってくれた人は「是非その本を出版してくれ」と編集部にメールしてください。

一応語源を説明することになっている当コーナー。ヒッチハイクという言葉の語源をお教えしましょう。

   ※    ※    ※

「ハイク」とはハイキングなどと一緒で「歩くこと」を指します。そして「ヒッチ」とは「引っ掛ける」などの意味を持ちます。トレーラーを車につなぐ時に、車側に設置するあの部品は「ヒッチメンバー」と言いますよね。ではなぜ引っ掛けることと歩くことをつなげて「乗せてもらう」という意味になったのか。

もともとは一頭の馬で二人で長距離の旅をすることから始まりました。だけど馬に二人乗りして行ったら馬が疲れてしまう。そこで一人が馬に乗り荷物を担当し、もう一人は歩きでしばらく進む。馬の人は決められた一定区間を走破したら、パブなど馬の面倒を見てくれるところに馬を止め、荷物を降ろし、馬に休憩を取らせる。それまで馬に乗っていた人はそこからポクポク歩き始め、反対に最初に歩いていた人がしばらくして馬が保管されているとことにたどり着く。たどり着いた頃には馬もリフレッシュしていて、今度はこの人が馬に乗って次の休憩地点まで進む。当然途中で最初の人を追い越すのだが、そのときに水分など必要なものを渡すわけだ。こうすることで歩く人は大きな荷物を抱えずに進むことができ、馬のほうも適度に休憩を取りながら長旅を続けられるというシステムなのである。

歩くから「ハイク」はわかるが、じゃあ「ヒッチ」は? これは馬の手綱をつなぎとめる器具が「ヒッチ」と呼ばれているから。

しばらく歩いて、そして馬に乗せてもらう。これがヒッチハイクの正しい語源です。諸説在りません。乗せてもらうときに親指を出すしぐさには2説あり、手綱を引っ掛けた「ヒッチ」をイメージしたものというものと、行きたい方角を指すというものがあるけれど、どちらも間違っていないと思う。日本ではまだまだ少ないヒッチハイカーだけど、やる人は遠くに行く人が多いみたいで行き先を書いたダンボールなど出している人が多い。しかし西洋では「ちょっとそこまで」でもヒッチハイクをする人がいて、ヒッチハイクと親指がリンクしているためか「サム・イット」という呼び方もする。Thumb(サム)とは親指のことで、どこかに行くのに「Oh I’ll Thumb it」(あぁ、親指で行くよ)と使ったりする。


カワイイ子には旅をさせろって言いますが、その裏には「多少危険な目にも会っておくべきだ」という意味も含まれていると思います。ヒッチハイクはもちろん、リスキーな部分もあります。しかしやればやるほどハマッてしまい、いろんな出会いや楽しい思い出もできるし、よくわからない自信もつきます。もちろん、危ない目にも会いましたよ。でもそれもまた楽しかったりするわけです。ヘルメットを抱えてバイクヒッチハイクなんてやってみたいなぁ! いや、それは危なすぎるか……


ネバー・ネバー・パサット
バイクの英語
国際的ヒッチハイカーとして各国でヒッチハイクをしてきたヒマなライター。数々の面白体験を何とかお金に換えたい……。経験からVW車が停まってくれる確立は非常に少ないと学び、さらにパサットに乗っている人は絶対に停まらないどころかヒッチハイカーと目も合わさないことを知った。以降、パサットには親指の合図を送らないようにしている。落ち込むから。


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