Hi-Compression Column

バイクの英語

今月の一言

“Pulling your leg”


(プリング ヨア レッグ)

(2011年11月15日更新)

オレはちゃんとやってるのにアイツのせいで。

これだけやってるのに周りがついてこない。

無能ばかりでこちらも引きずり込まれる。

というのは、日本で言う「足を引っ張られる」という言葉。

英語では全然違う意味なのが不思議。  


足を引っ張る話は世の中に溢れている。というか、すべてにおいて足をひっぱりあいながら世の中が成り立っているといってもいいんじゃないでしょうか。

東京モーターショーのホンダの出品マシンが発表になりました。筆者が大注目してきた「650だか750の並列ツイン」がついにお目見え。

結果は700cc弱のキャパシティで、スクーターモデル、ネイキッドモデル、デュアルパーパスモデルの3機種展開。

これは良いと思う。

コストも抑えて、かつホンダなんだから乗ってみれば十分な性能と納得のハンドリングなど提供してくれることでしょう。

さらには従来のタンクスペースにヘルメットが収まる収納スペースがつきました。うーん、素晴らしい。


だ・け・ど。


筆者はツインが大好きで、スズキSVなんかが理想のバイクだと思っています。

650ccぐらいでタイヤは細め。馬力は60~70馬力という十分なものがあって、車体は軽量コンパクトだからいつでも気軽に乗り出せる。

構えることなく「ちょっとバイクに乗ろうかな」という気にさせるし、いざ走り出せば趣味性を求めた使い方にも十分に応えてくれる性能を持っている。

SVで唯一嫌だったのは2分割のシートかな。

これはタンデム時に良くないし、荷物の積載もやりにくい。国内ではカウル無しの方がとても少なかったのもマイナスポイントでしたね。400はともかく650のノンカウルは特に少なかった。やっぱりアップハンじゃないと。楽速が一番です。

しかしそんな気持ちもグラディウスの登場で解消。アップハンだしシートはつながってるし、アレはイイでしょう!

もう一台気になってしょうがないのがカワサキのヴェルシス。

ニンジャ400と同じカタチした650ccの輸出仕様ER6Fと同じ、並列ツインエンジンを積んだデュアルパーパス的なモデルで、これが激烈にいいんです。

車体は何してもビクともしませんし、足周りも柔らかめで道を選びません。ポジションは楽でどこまででも行けそうですし、最高速もちょうど200キロぐらいですから過不足ないと筆者は感じます。

最近新型も出ましたが、本当に素晴らしいバイクですね。欧州ではそのコンセプトが受け入れられているのでしょう、新たにニンジャ1000をベースにした「ヴェルシス1000」が発表になったぐらいですから。


そんな中でホンダの700。残念ながら50馬力ありません。

えぇ? ないの!? 

ありません! ……。

トルクはそれなりにありますし、最高回転数が6000チョイしか回らないから馬力は期待できないのは知っていたけれど、やっぱり寂しい。

コレは新たな世界戦略車だから、きっと共通の仕様を世界中で売ろうというモデル。そうなると日本の厳しい排ガス・騒音規制にも通さなければいけないですし、確かフランスだったと思いますがヨーロッパでも厳しい規制値をもつ国々もあって、そこにも対応しなければいけないわけです。

よって、そういった様々な事情に「足を引っ張られ」、その中でなんとかいいモデルを作っていこうというわけですよ。


金かければいいモデルができる? 確かにそうかもしれませんが、そうするとコストというものに足を引っ張られる。安く作れば品質に足を引っ張られ、速く作れば汎用性に足を引っ張られ、質実剛健に作れば趣味性に足を引っ張られる。そんな引っ張り合いの中で各モデルは登場してくるんですね。



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英語の「Pulling your leg」は全く意味が違います。ということはここまでのトークは意味があったのか? 

うん、ほぼありません。ごめんなさい。

英語の「Pulling your leg」とは「からかう」ことを指します。語源には諸説ありますが、ここでは有力なものを一つ。

   ※    ※    ※

このコラムに登場する多くの言い回し同様に、この言い回しもマン島から始まったとされている。1907年に第1回目のマン島TTレースが行われた際、コースは現在の1周60キロもあるものではなく、ほとんどが未舗装路の、丘陵地を横切る短めのものだった。  

今では信じられないかもしれないがコース上に農場を分ける柵があり、レース中でも各農場の羊が交じり合わないよう、柵に設けられたゲートを通り抜けなければならなかった。この柵の幅は小型の馬車が通れるようシックスフィート、約1.8メートルに設定されており、レース中であってもこれを通り抜けるためには一度マシンから降り、ゲートを開け、マシンを通し、再び閉めに行く必要があった。

この行為、当時は特に珍しいものではなかったのだが、問題は閉めにいっているときのマシンのアイドリングであった。当時なりのレースチューンが施されたこれらマシンたちは必ずしもアイドリングはせずにエンストする車両も多く、また農場のぬかるみにサイドスタンドを立てるため、スタンドがめり込んでタチゴケするマシンも多かった。こうなるとオーバーフローしたマシンを再び始動させる作業があり、これに苦労するライダーが多かったのだ。

短めに設定されていたコースとはいえ、丘陵地帯のアップダウンがあり、そのため当時のマシンはオシガケではなくしっかりとキックスターターが装着されていた。このキックを柵の向こう側でキックしまくるライダーが多く、ここでの始動性がレースの結果を大きく左右したといってもいい。まさに、モータリゼーション前夜の総合性能競争の意味合いを持ったレースだったといえるエピソードだ。マン島で勝てばそのマシンは売れる、というのは、スピードだけでなく信頼性や始動性も含めた意味合いがあったのである。

さて、こういったこともあったためメインストレートを通り過ぎる時には激しく順位が入れ替わってることも多かった。今まで上位を走っていた選手が突如順位を落とした際、「何やってんだ」と訴えかけるピットスタッフに対してライダーは走りながらズボンのスソを掴む動作をして、マシンの不調により柵のところでたくさんキックしていて足が痛い! と訴えたそうだ。

これが始まりとなり、しばらくはズボンのスソを引っ張る動作はライダーとピットの意思疎通のためのサインとして使われたが、もちろんマン島TTは急速に整備されて柵の開閉は必要がなくなった。さらにはセルモーターの装着により不意のトラブルでもキックによるエンジン始動は求められなくなった。しかしそのサインは懐かしい動作として継承され、実際のサインとしてではなく、ペースの上がらないライダーに対してピットクルーが、もしくは観客がズボンのスソをつかみ「どうしたんだ、マシンの調子でも悪いのかよ!」とからかうように使うようになったそうだ。

   ※    ※    ※

いかがでしょうか。これなら現在も使えそうですね。

仲間をブッチギル際、抜きながらスソを掴んで「どうしたどうしたぁ!」とからかうように使ってもいいですし、ロードレースでは速すぎてライダーに伝えにくいサインかもしれませんが、オフロードのエンデューロレースなどではピットクルーとライダーの間で使えそうですね。

あ、エンデューロでしたら今もキックを使うから本来の意味も引っ掛けられますねぇ!

使い方としては

A「今度のZX-14Rは240馬力だってよ」

B「本当かよ!」

C「まさか!AはPulling your legしてるだけだよ」

と使います。

僕は新しいホンダの700が50馬力無いと聞いたときはPulling my legされているのかと思いましたが、その数値はどうやら事実。

しかしトルク値ではそんなに低くないので、やっぱり乗ってみるまではなんとも言えないな、と思っています。


Pulling your legのバリエーションとしてPulling your pisserというのがあります。

Pisserとはpiss(おしっこ)するもの、すなわちチンチンのことですが、女性に性的にからかわれている場合にこういう言い方をしますね。

言い回しと言うよりこちらはスラングですが。



ジミー・フェリズ
バイクの英語
 ヤマハ5バルブに惚れこみ、80年代にはFZ750でデイトナに参戦。しかしあまり結果は残せず、5バルブがますます好きになって来日。「5バルブなら何でもいい」とTRX850を買ったら今度はパラツイン好きに。全くポリシーの無いフリーライターへと成長(?)した。


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