Hi-Compression Column

順逆無一文

“千里同風”

(5月30日更新)

バイクの任意保険の「更新のお知らせ」をいただいた。いつもならそのまま“前年と同等設計プラン”でお願いしてしまうのだが、今年はなぜか、ちょっとひっかかった。

いやというほどTVで自動車保険のコマーシャルが流れているおかげか、潜在意識が「いつもの“お任せ”で本当にいいのかい」と作用したのだろう。確かに毎年“同等設計プラン”でお願いしていると(無事故ならば)保険料は下がってくれるのでそのまま更新してしまいがちだが、もともとが割高の保険料を払っているのじゃないだろうか、本当にこの保険会社で万が一の時にも安心なのか、などという漠然とした疑心の様なものが湧いたからかもしれない。

で、さっそく自動車保険をネットで調べてみた。しっかし、保険の比較サイトの多いこと多いこと。ここまで“繁盛”してるとは思わなかった。確か2000年頃までは比較サイトは数社で、こんな便利なサイトを作ってアクセス数や取次料で稼ぐことを考えた人は実に頭がいいなと感心したものだったが。その当時と比べると、やたらめったら出てくる。いったいいくつ保険サイトがあることやら。

人気度ランキングや事故対応ランキング、満足度ランキング、と基本は損保各社を比較するのが主なコンテンツ。でもそれぞれの保険会社へのリンクがあったり広告が入っていたりする手前、比較といっても良くも悪くも“穏当”なことしか書いてない。その反面、保険会社を告発するかのような“酷い目に遭いました”的ブログの数も半端じゃない。クレーム内容は基本的には担当者の対応、相手方との交渉能力、保険金の支払、といったところだろうか。

そんな告発サイトの多さに呼応するかのように保険会社側のサイトでは、事故や故障時の対応能力の高さをアピールしたり、専任担当者制をウリにしたり、と保険本来の補償内容の説明よりも大きく扱っているくらい。裏を返せば、それほど問題が多いのだろうか…。

ユーザー側は万が一の時の頼みの綱として大枚をはたいているのに、その万が一の時に役に立たないのでは保険をかけている意味がない。クレームをつけているサイトの方々の無念さはそれが事実なら当然だろう。担当者に交渉力が無くてあきれて自分で相手と話し合ったとか、不利な過失割合になってしまった、等々の深刻な告発も多い。保険会社の方々には、万が一の時には“プロ”の味方がついている、という安心感こそがなによりも任意保険の存在意義と考えてもらいたいもの。保険なのだからきちんと補償されるのは当たり前。

今や旧聞に属してしまうが、2006年には大手損害保険会社を含めた国内損保26社(ってほとんどの会社だろう)が、自動車保険の特約を中心とした保険金の不適切な不払いを常習的に行なっていたことが明るみに出たことがあった。

不払いの数、なんと約32万件、金額にして約188億円。さらに2008年には、自動車保険において約68万件、約43億円分の過徴収も発生していたという。何をか況や、だ。

小宮山幸雄
komiyama
“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。


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保険会社本来の役目である保険金の不払いなどという、まさに存亡の危機を招きかねない問題行為を行っていたというのだから開いた口がふさがらない。専任の担当者だの、きめ細やか事故対応うんぬん以前の問題だろう。知れば知るほどなんだか保険というものに対する理念が欠けているんじゃないかと思ってしまう。やはりお金を扱う業界ならではの儲け主義に陥ってしまっているのだろうか。

ま、それはともかく一口に自動車保険といってもクルマとバイク向けでは違いがあるのはご存じだろうか(任意保険としての自動車保険です。ここでは自賠責保険と任意保険の違いは取り上げないので、そこから分からない方は保険のお勉強サイトで)。

いわゆるバイク保険も、クルマにかけているのと同じ自動車保険の一種だ。が、バイクの方が相対的に保険料は安い。バイク=危険=事故のイメージが強いハズのになぜなのだろう。

その理由としてクルマ用の自動車保険をベースにいくつかの制限が加えられているから、と解説しているサイトが多い。基本的にバイク保険は加入できる保険のタイプが限られている。

また、クルマでは当たり前に利用している車両保険だが、バイクではお薦めプランには車両保険を組み入れていないところが多い。特にWEBサイトでは車両保険の存在そのものが表示されていなかったりするので、個々に問い合わせをしなければならないケースがほとんど。そして車両保険が利用できたとしても、転倒などの単独事故は支払の対象外としている。またバイクではもう一つの心配事項である盗難被害の場合も補償対象から除外されていることが多いのでご注意を。

搭乗者傷害補償保険に関しても、自動車保険であれば無制限までかけられるのが一般的なのに対して、バイク保険ではきっちり上限が設けられている。

ちょっとした転倒などでも簡単に壊れ、そして怪我をする。油断するとすぐに盗まれてもしまう。それら、バイク故の大きなリスクまでは面倒見てられないというのが保険会社のスタンスだろう。

保険というものは、確率は低いが起こることは必然、という事態についてその損失を皆で負担しあう相互扶助的なシステムだ。その負担=保険料というものは原則として保険金×保険事故を元に計算されるのだから、どんどん条件を付けてリスクを避けていけば必然的に保険料は安くできる。これがリスク細分型保険が安い理由のひとつだが、なんか虫が良すぎるような気がしてしまうのは俺だけか?

実際にはそれだけでなく、保険会社の経費や将来的な事故予測なども勘案されて保険料が決まるわけで、いろいろと制約をつけられている分バイク保険の方が安くても成り立つという仕組みだ。とは言ってもバイク本体の価格に対して考えると割高なのでクルマほどには普及しない、ということだろう。

最後に脅かす訳じゃないが覚えておきたいのは、多くの損保会社で用意している弁護士費用補償特約には注意が必要だ。停車中に追突されたなどというケースのように、こちら側の過失割合がゼロの場合はこの特約は役に立たない。「相談はさせていただきます」とは言ってくれるが、こちらにいくらかの過失がなければ弁護士に交渉等をお願いできないことになっている。相手がゴネてこちらから裁判でも起こさない限り補償してくれない、というような一番弁護士に入って欲しいようなケースでもまったく役に立たないのだ。

            *

事故をせず毎年きちんと継続してくれるのがいいお客さん。万が一とはいえ事故を起こすようなお客は収益を悪化させる“お荷物”さん。ちょっとでも対応に文句をつければクレーマーさん扱い。で、いとも簡単に「次回の更新はお断りします」と宣告されてしまった、などと告発サイトに載ってるのはごくごく希なケースなのだとは思いたいが。

まあ、なんだかんだ言ってもこの一年間、保険のお世話になる事態に遭遇しなかったことに感謝して“前年と同等プラン”で継続してしまうんでしょうな。

                 (小宮山幸雄)



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