Hi-Compression Column

順逆無一文

“犯分乱理”

(9月27日更新)

今年の8月29日に名古屋で牛乳配達の女性が、道路に張られたナイロン製のロープで転倒、怪我を負った事件があったことを覚えていられるだろうか。その事件の容疑者の少年達が逮捕されたという。

ロープを道路に張る行為は、“往来妨害罪”あたり、法定刑では2年以下の懲役、または20万円以下の罰金が課せられることになっている。

バイクで通りかかった場合は、“妨害”されただけでは済まず、たいがいは引っかかって転倒、怪我をさせられたり、引っかかった場所が悪ければ、不幸にも死亡というケースもあるわけだが、その場合は、“傷害罪”や“傷害致死罪”になるのだという。

喧嘩やトラブルでの傷害罪や傷害致死罪と同じ犯罪として裁かれるというのがなんだか腑に落ちないが、往来妨害罪という犯罪はあくまで、公共の交通に対する妨害行為そのものを罰することが趣旨の法律だからそうなるのだそうだ。

具体的には、負傷したり死亡した場合は、往来妨害罪と、傷害罪、傷害致死罪とを比較して、より重い方の刑により処断されることになるという。

第十一章 往来を妨害する罪
(往来妨害及び同致死傷)
第百四十二条 陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

第二十七章 傷害の罪
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(傷害致死)
第二百五条  身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

※ちなみに傷害罪は“故意犯”なので、「知らなかった」「思わなかった」などという“耳たこ”の言い訳で、判決の軽重が変わることなどはないと信じたいが。本当のところはどうなのだろう。

道路にロープを張るという行為の結果は、普通の頭で普通に考えれば明らかだと思うのだが。そこを通る人間が引っかかって怪我をする、バイクの場合は、かつて現実にあったように死亡してしまうケースさえも予想される。

それでも、同様の事件が跡を絶たないのは、そこまで考えられない人間か、元々犯罪指向の人間が多いということか。

事件が報道されればされるほど、模倣犯というか、安易な気持ちでマネをする人間も出てくる。少なくとも他人に怪我をさせる可能性大、ということぐらいは判断出来ると思うのだが、それが出来ない人間が増えてしまってしまっている。

そして万が一にも“犯人”が捕まることがあるとすれば異口同音に「そんなことになるなんて知らなかった」「人が死ぬなんて思わなかった!」の決まり文句だろう。

過去のロープ張り事件を調べてみたが、それで引っかかったのは、事件のその後、だった。事件発生を報道する記事は山ほど出てくるが、犯人が捕まり、裁判を受け、これこれの判決が出た、という情報がほとんどない。

あったとしても、ちょっと唖然とするしかない“執行猶予”付き判決が目立つ。

「殺人未遂も視野に入れた捜索」のお題目はいったいなんなのだろう。ライダーの不安に対する警察のガス抜きか、と勘ぐるしかない。

曰く「面白いから」、「困る顔を見たくて」そんな安易な行動で殺されてしまってはたまったもんじゃない。本当に殺人罪の適用を考えるべきだろう。

第二十六章 殺人の罪
(殺人)
第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

※ロープ事件で最近よく聞かれるようになった「殺人未遂も視野に入れて捜索」の言葉だが、殺人罪とは人を殺すことによって成立する犯罪。故意による殺人のみを殺人罪とするので、人を死に至らしめる故意があったのかを実証するのはとても難しく、実際にローブ張り事件でも判決で殺人罪が成立したケースは皆無ではないかと思う。「そんなことないよ」という事例をご存じの法曹関係者の方がいらしたらご指摘をお願いしたい。

これでは、自分のやっている行為が本当は殺人と同じ行為なのだという認識を持たすことは出来ないだろうから、事件は起こるべくして起こっている、とさえいえる。

小宮山幸雄
komiyama
“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は“閼伽の本人”。


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明らかに殺人に繋がる行為だと言うことを知らしめれば、少なくもと本当の犯罪資質を持つごくごく一部の人間しかこんなロープ事件などというばかげた、それでいて結果は悲惨な事件を起こすことなどなくなるはずなのではないだろうか。

■過去のロープ張り事件

1983年5月22日、午前5時30分ころ、東京都江戸川区平井の荒川土手に張られた路上駐車締め出し用の幅6.3mのロープに、プレス工(39)がバイクで走行中、首を引っかけられ死亡するという事故があった。こちらはロープを張った近所の老人が名乗り出ている。

1984年5月24日、午後11時40分ころ、東京都葛飾区の都立水元公園で、250ccバイクに乗った定時制高校の男子生徒が路上に張られた高さ1mのナイロンロープに首をひっかけて死亡する事件が発生。公園には夜間、暴走族などが入り込んで住民を悩ましていたといい、ロープも彼らの行為に腹を立てた住民が張ったものではないかともいわれたが、犯人は明らかになっていない。走り屋同士のトラブルの可能性も指摘されている。ちなみに死亡した男子生徒は暴走族には属していなかったという。当時大変な話題となったロープ張り事件。

2002年5月23日、午前6時ころ、秋田市仁井田本町の書店駐車場で、同市将軍野東の会社員(25)のバイクが、入り口の高さ70cmに張られたワイヤロープに衝突。 工藤さんはロープで首を切り即死した。秋田署の調べでは、国道13号を茨島交差点方向から河辺町方向に走行していた会社員が、道路右側にある駐車場に入ろうとしてロープに気付かないまま進行、ロープに首が引っ掛かる形となった。

2006年10月18日、午前3時半ころ、和歌山市の高校1年の少年(15)と無職の少年(16)、少年(17)が、同市塩屋の市道上に高さ約1.3mにロープを張るなどして通行を妨害。同市の会社員の男性(25)運転の乗用車のフロントガラスなどに傷を付けた。捜査した和歌山西署が11月1日、無職少年を器物損壊の容疑で逮捕している。付近では19月中旬から付近で同様の行為が繰り返されていたという。

2009年8月13日、午後11時ごろ、東京都武蔵村山市の路上で、女性(23)が乗った原付きバイクが道路に張られたロープにひっかかり転倒。女性は病院に運ばれたが、頭蓋骨を骨折する重傷を負った。ロープは現場前の倉庫の出入り口にかけられていたものが、およそ5メートルの道路の端と端をつなぐように張り直されていた。警視庁は「何者かが故意にロープを張ったとみて、殺人未遂も視野に捜査」。

2009年10月11日、午前3時ごろ、茨城県笠間市下郷の県道で、女性(45)が倒れているのを笠間署員が発見。笠間署によると、女性はミニバイクで新聞配達の途中、道路の高さ約1.2mの位置に張られていたロープに引っ掛かり転倒。頭部打撲の軽傷を負っていた。通行する車両を狙った往来妨害致傷の疑いがあるとみて調べている。ロープは太さ約1cmのナイロン製。幅約6mの道路を遮るように張られていた。現場は夜間、人通りが少ないという。

2010年6月、愛知県豊川市の県道で、新聞配達アルバイトの男性がミニバイクで走行中、路上に張られた直径1cmのナイロン製ロープにひっかかって転倒し、一時意識を失うなど重傷を負った。

2011年6月16日、未明、大阪府東大阪市の市道で、自転車の女性会社員が道を横切るように張られた細いひもに接触し、鼻と首に軽傷を負った。河内署は「殺人未遂容疑で捜査」している。

2011年7月15日、午前4時ごろ、大阪府堺市堺区香ケ丘町の路上で、自転車に乗った7、8人の若い男が、自転車に乗った無職の男性(70)と擦れ違いざまに、二手に分かれてロープを張り、首に引っ掛けた。男性は首に軽いけがを負い、男らは現場から逃走。大阪府警が「殺人未遂容疑で捜査」。約15km離れた同府東大阪市でも1ヵ月前の6月15日未明に、自転車の女性(23)が路上に張られたひもに当たり、首と鼻に軽傷を負う事件が起こっている。

ちなみに犯人が判明し、さらに判決を受けた数少ない事例は、2009年の武蔵村山市の重傷事件がある。2010年11月12日、東京地裁立川支部で行われた判決公判で裁判長は、傷害と往来妨害の罪に問われた米軍横田基地所属の米兵の子、無職少年(19)に対して、懲役2年執行猶予3年(求刑懲役2年以上3年以下)を言い渡した。同時に逮捕された別の3人は、すでに不起訴処分としてアメリカ当局に身柄を引き渡している。

このような判決が続く限りロープ張り事件はなくならない、ということだろう。単に面白半分で他人に頭部骨折の重傷を負わせた結果がこれなのだ。裁判員裁判ならもっと市民感情に即した判決が下せるはず。

ちなみに当初言われた“殺人未遂”容疑での送致を見送ったことについて、地検立川支部は「犯行の経緯などから殺意を認定できなかった」と説明。他の3人の仲間の不起訴については「親が米兵で、予告なく国外に異動する可能性があり、日本の保護処分になじまない」と、米兵の家族であることを考慮した処分だったと明らかにし、被害者の無念さにさらに追い打ちをかけるような発表をしている。

ずるずると骨抜き化させてしまっている“共同危険行為”の成立要件といい、やはり裁判員裁判で市民感情に合った厳然たる判決が望まれるとこだろう。

ライダーの皆さん、決して人ごとではありませんよ!

           (小宮山幸雄)



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