Hi-Compression Column

MotoGPはいらんかね

■第10戦チェコGP速報
(2010.8.17更新しました)


MotoGPはいらんかね

約2週間のサマーブレイクを経て、チェコ共和国のブルノサーキットから第10戦が再開したMotoGP。

今大会は、決勝直後にバレンティーノ・ロッシの2011年ドゥカティ移籍が発表になったほか、2012年から変更になるMotoGPクラス新レギュレーションの詳細、そして、以前から噂されていた125ccに代わる新クラスMoto3の2012年導入など、将来のレース界の方向性に関わる大きなニュースが相次いだ。


2011年からドゥカティ移籍を発表したロッシ。一部の噂では、フィアットもロッシについて移籍するのでは、と囁かれているとかいないとか。

レースはJ・ロレンソ(フィアット・ヤマハ)が今季7勝目を挙げて、D・ペドロサ(レプソル・ホンダ)が2位。C・ストーナー(ドゥカティ)が3位という淡々とした内容。

なので、今回はレースそのもののレポートというよりも、このレギュレーション変更にまつわるあれこれ、特にMotoGPクラスの将来について、ちょこっと解説のようなものをしてみたい。

 

第10戦で今季7勝目を達成したロレンソ。ウィニングランでは、ゴルフのパフォーマンスを披露。でも、第2戦で見せた水泳と比べると、面白さは数段オチる。

ポイントランキングはトップと77点差のペドロサ。自力優勝は事実上潰えてしまった……。

来季はホンダワークスへ移籍するストーナー。チーフメカニックも帯同するとかしないとか。

ご存じのとおり、現在のMotoGPは排気量800ccのエンジンで争われている。

これが2012年からは「1,000cc以下(up to 1,000cc)」と変更になる。

 

この変更については、すでに今年2月に概要が発表されているのだが、まずは確認も兼ねてその内容を簡単に整理しておこう。

重要なのは、上記文言の「以下(up to)」という部分だ。

MotoGPクラスが始まった2002年から2006年までは990cc、2007年から来年2011年までは800cc、と各マニュファクチュアラーとも単一の排気量で争われた。ところが、このルールによると、2012年からは、エンジン設計に関する限り、1000cc以下ならどのような排気量を選択するのも各マニュファクチュアラーの自由裁量、ということになる。

つまり、複数の排気量が混在することになるわけだが、とはいっても、何をやってもいいというわけではもちろんなくて、「最大4気筒、最大ボアφ81mm、燃料タンク21リットル、ライダー一名あたりの年間エンジン使用数は6基」という制約がある。

おそらく新レギュレーション下で使用されるエンジンは、現行ルール下で使用中の800ccか、あるいは上記の条件で新規に設計される1,000cc、という選択肢になるのだろう。

「800cc以下は150kg、800cc以上は153kg」という重量制限に関する文言からも、おそらくは運営側も同様に判断しているであろうことが窺える。

このエンジンに関する新ルールだが、さらに重要な要素がある。「クレーミングルールチーム(CRT)」という新しい定義だ。



西村 章
西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社等にも幅広くMotoGP 関連記事を寄稿。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマ ンスライディングテクニック』等。twitterアカウントは@akyranishimura。





このCRTに承認されたチームは、「年間使用台数は12基、燃料タンク容量は24リットル」とエンジンに関する制限が大幅に緩和されることになる。

これら上記の各種条件に続き、今回の発表では、CRTに関して以下のような文言が付け加わることになった。

「CRTの選定は、グランプリコミッションの全会一致によって決定されるものとする。チームの行為を理由とするCRTからの除外に関しては、グランプリコミッ ションの多数決が必要となる」

法律文の例に漏れず、なんだかもってまわったような言い回しだが、噛み砕いて説明すれば、要はこういうこと(↓)だ。

「CRTに選定する場合は全会一致じゃないとダメだけど、チームの行動に問題があってCRTから除外する場合は多数決で決めちゃうよ」

では、CRT(Claiming Rule Team)っていったい何だよ、ってことになるのだが、これ、簡単に言うと、要するに「買い取り規定適用チーム」ということである。全日本ロードレース選手権の買い取り制度をご存じの方は、それを連想するとわかりやすいかもしれない。

「CRTに選定されたチームは、上で説明したとおり緩やかな制約で(≒ぶっちゃけ、量産エンジンをベースとした)レーシングエンジンを製作してもいいよ。ただし、そのエンジンでいい成績を収めた場合には買い取り規定を適用するから、そのつもりでひとつよろしく。この規定に応じようとしない場合(ってのがつまり、上記文言の『チームの行為を理由とする』って部分ね)には、CRTという有利な条件を剥奪しちゃうよ」

とまあ、身も蓋もないいいかたをしてしまえば、要はそういうことである。さらに平べったいいいかたをすると、『プライベーターさん、どないでっしゃ ろ。参戦してもらうためにかなり魅力的なインセンティブやおまへんやろか』ってわけである。

もうひとつ、2012年のルール改正に関する今回の発表では、こんな項目もある。

「MotoGPクラスに新たに参戦し、CRTに選定されていないマニュファクチュアラーは、最初の1年は6基ではなく9基のエンジンを使用できるものとする」

これはつまり、BMWやアプリリアなど、新規参入が噂されているマニュファクチュアラーに対して、ワークスチームといえども敷居を下げて参入障壁を取り除き、門戸を広く開放しよう、という意味である(と思う)。

さらにもうひとつ。

「MSMA(MotoGPに参戦するメーカー団体)のメンバーで、2008年と2009年にドライコンディションで最低2勝を挙げていないマニュファクチュアラーは、2010年は6基ではなく9基のエンジンを使用しても良い」

という文章、これはすなわち、スズキがんばれ、という言葉の法律用語的表現である。


がんばれ。とにかくスズキがんばれ。エンジン9基フル回転でがんばれ。


てなわけで、今回はここまで。Moto3クラスの規定については、次回以降に解説することにしたい。一度にあれやこれやと説明しても、かえって頭がごちゃごちゃになるだけだからね(何言ってやがるんだい、ただおまえが混乱してるだけだろ、なんて突っ込まないように)。

さて、次回は第11戦インディアナポリスGP。できれば今回みたいなヘコ難しいテーマではなく、もっと軽やかで楽しい話題にしたいと思っております。じゃあまた。


2011年、プラマックレーシングからの電撃参戦を発表した子供。欧州のジャーナリストたちの間では、ロッシ最大のライバルとも噂されている。

■第10戦チェコGP

8月15日決勝 ブルノサーキット 雨/晴れ
MotoGP(完走のみ)

●優勝 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
●2位 ダニ・ペドロサ HONDA
●3位 ケーシー・ストーナー DUCATI
●4位 ベン・スピーズ YAMAHA
●5位 バレンティーノ・ロッシ YAMAHA
●6位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
●7位 コーリン・エドワーズ YAMAHA
●8位 マルコ・ メランドリ HONDA
●9位 ヘクト・バルベラ DUCATI
●10位 ランディ・デ・ビュニエ HONDA
●11位 マルコ・シモンチェリ HONDA
●12位 アレックス・エスパルガロ DUCATI
●13位 アレックス・デ・アンジェリス HONDA

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