Hi-Compression Column

MotoGPはいらんかね

(2010.10.5更新)


第14戦日本GP・速報

エイヤフィヤトラヨークトル。

アルファベットで記載すると"Eyjafjallajokull"。これが何かわかる人、手を挙げて!

すでに忘れちゃってる人も多いと思うけど、4月に噴火して欧州の航空便発着に多大な影響を与えたアイスランド南部にある火山の名称である。

この火山噴火が招いた混乱は遙か極東の地にもおよび、4月下旬にシーズン第2戦として開催が予定されていたMotoGPは、10月3日決勝の第14戦へ延期されることになった。

で、シーズンも大詰めを迎えた今回の開催となったわけだが、ここに至るまでの推移を思い返してみると、今季は誰も予想しないいくつもの波瀾万丈が怒濤のように連続した一年であった。

たとえばバレンティーノ・ロッシの右脚骨折と劇的な復帰。そして、ドゥカティへの移籍発表。

青山博一は脊椎を圧迫骨折し、休養とリハビリを経て復活を果たした。

あるいは、富沢祥也の訃報という悲しい出来事もあった。

そんなこんながあって、この時期に日本GPが開催となったのは、あくまで結果論ではあるけれども、いいタイミングになったように思う。

日本の関係者やファンは、皆が気持ちをひとつにして富沢選手を追悼できたわけだし、チャンピオンシップに目を向けてみると、ランキング争いがいよいよ緊迫感を増す状況を後景としながら、激しい争いを文字どおり眼前で堪能できるわけだから。

MotoGPクラスのポイントリーダーはホルヘ・ロレンソ(フィアット・ヤマハ)。

ランキング2位のダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)に56ポイント差をつけた状態で日本入りした。

シーズン後半戦に入った段階で、ペドロサの自力優勝の目はすでになくなっており、逆転チャンプの可能性はロレンソの結果次第、という状態になってはいたものの、ここ数戦は明らかに上り調子で絶好調。

2位−優勝−優勝−2位、という流れで、ツインリンクもてぎでもこの波に乗って、ホンダワークス悲願の優勝をもぎとりそうな勢いを感じさせた。

じっさいに、山野一彦HRC総監督はレース前に、

「シーズン序盤の開催だと、マシンの仕様が定まりきらない状態で厳しいレースを強いられたと思うが、現在はすでに100パーセント固まっている。ライダーもマシンの特性を活かす乗り方を体得しているので今までにない勝算を見込める」


と語り、ペドロサ自身も、

「今は非常にいい状態で、この流れを最大限に活かしたい。もてぎでは2008年と09年に表彰台を獲得しているものの勝ててはいないので、今度こそ優勝したい」


と意気込んで、今回のレースウィークを迎えたのであった。

で、金曜午後のフリープラクティス1回目に意気揚々と臨んだわけだけれども……。

プラクティス開始早々に、ペドロサがV字コーナーで転倒。左鎖骨を2箇所骨折して、以後のセッションをすべてキャンセル。その日の夜に成田からスペインへ戻って手術を実施した。

あっちゃー、と思ったのはHRC関係者だけではないはずだ。

これで事実上、チャンピオンシップはロレンソに確定したことになる。

ヤマハ関係者は、うっひょー、と思ったにちがいない。

ところが、そうそう思ったとおりに事が運ばないのが世の常である。

日曜の決勝レースは、ケーシー・ストーナー(ドゥカティ)が優勝。ポールポジションスタートのアンドレア・ドヴィツィオーゾは、ストーナーにしぶとく食い下がったものの、バトルに持ち込むまでには至らず2位フィニッシュ。

で、3位争いが熾烈を極めた。

ロッシとロレンソのフィアット・ヤマハ、チームメイト対決はガチンコの白熱バトル。

特にラスト2周は、一歩も引かない両者のマシンがぶつかりあい、インに無理やりねじ込んだかと思うとクロスラインで抜き返すという意地と意地の真っ向勝負が繰り広げられた。 

こんな戦いを目の前で見せられれば、観客も盛り上がらないわけがない。

最後はロッシがこの勝負をおさえて3位に入り、ロレンソは4位フィニッシュで2戦連続表彰台を逃すことに。ヤマハの関係者は

「いやもうまったくあのバトルの最中はどうなることかと思って気が気じゃなかった」


とホッとしたのか複雑な心境なのか、引きつった頬が緩まないヘンな笑みを浮かべていたけれども、レースを観ているほうとしては、こういうバトルはむしろ大歓迎である。

で、この結果、ランキング首位のロレンソと次戦も欠場が決定的なペドロサのポイント差は69に広がった。

次戦マレーシアGP終了段階でふたりの差が75であれば、ロレンソの2010年度チャンピオンが確定する。

ロレンソとしては、次のレースで6ポイントを獲得、つまり、10位以上に入ればいい、という計算だ。これは次で決まる確度がかなり高い、といっていい数字である。

つうわけで、来週の今ごろは灼熱のセパンからチャンピオン報告、ということになるのかな。

まあ、レースは何があっても不思議じゃないけど、たぶんそういうことになるんだろうな、という気がする。

というわけで、これからマレーシアに行ってきます。

じゃあね。



■第14戦日本GP

10月3日決勝 ツインリンクもてぎ 晴れ
MotoGP(完走のみ)

●優勝 ケーシー・ストーナー DUCATI
●2位 アンドレア・ドヴィツィオーゾ HONDA
●3位 バレンティーノ・ロッシ YAMAHA
●4位 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
●5位 コーリン・エドワーズ YAMAHA
●6位 マルコ・シモンチェリ HONDA
●7位 アルバロ・バウティスタ SUZUKI
●8位 ベン・スピーズ YAMAHA
●9位 ランディ・デ・ビュニエ HONDA
●10位 青山博一 HONDA
●11位 マルコ・メランドリ HONDA
●12位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
●13位 ヘクト・バルベラ DUCATI
●14位 アレックス・エスパルガロ DUCATI
●15位 ミカ・カリオ DUCATI

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西村 章
西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社等にも幅広くMotoGP 関連記事を寄稿。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマ ンスライディングテクニック』等。twitterアカウントは@akyranishimura。 第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作『最後の王者』の年内刊行に向け て、現在鋭意加筆作業中。






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  • ダニ

    バルセロナでの手術は無事成功。第16戦オーストラリアGPでの復帰を目標にしたい、と語るが……。



  • ライダーとコミュニケーションできる数少ないチャンスにファンが殺到。ニッキー(上)とドビ(下)も次々とサインに応じる。



  • あちらこちらに日本人選手を応援する横断幕。観客戦が閑散としているのは、金曜日の早い時間だからです。


  • 志半ばで逝った富沢祥也選手への献花は、いつまでも尽きることがなかった。



  • トークショーも花盛り。ブリヂストン山田宏氏とマルコ・シモンチェッリの対談テーマは「わたしと育毛」(嘘です。ホントはタイヤマネージメントについて真剣に語っていました)。


  • 日本人ならヒロシを応援しろッ。サムライだろッ。ということで今回登場したサムライ仕様のヘルメット。


  • ランキングトップを独走するこの人もスペシャルヘルメットを着用。


  • バトルの強さではやはり天下一品。ライバルを蹴散らす方法を協議中。


  • 後半戦になって確実にシングルフィニッシュをキープ。来季の飛躍が楽しみ。


  • 日本人選手にちなんだメニューも豊富。なかでもチャーシュー丼は美味です。




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