Hi-Compression Column

MotoGPはいらんかね


MotoGPにも総重量統一?

(2011.4.6更新)

ヘレスサーキットで行われるスペインGPは、やはり最高に盛り上がる。

今年の観客数は金曜から日曜の3日間総計で23万3932人。

日曜日の決勝レースは当地に珍しい雨の一日になったが、それでも12万3750人が来場。去年の決勝日観客数(12万2048人)よりも増えているところを見ると、つまりこの国のレースファンにしてみれば「現場観戦のためなら天気なんて関係ねえや」ってことなのだろう。

ちなみに昨年の日本GPは3日間総計で6万4823人。スペインGPは、決勝日だけでも日本GP全来場者の倍の観客を集めているわけだ。

もともとロードレース人気が高いお国柄に加えて、現チャンピオンがマヨルカ出身のホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)。

その最大のライバルが、これまたチャンピオン候補と言われて久しいバルセロナ郊外サバデルのダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)なのだから、彼らの姿をひと目見ようと大勢の観客が押し寄せ、国王フアン・カルロス1世が決勝日に会場を訪問して<天覧レース>になるのも当然といえばあまりに当然の成り行きである。

で、MotoGPクラスの決勝レースは大方の予想どおり、ホルヘ・ロレンソが終始安定した走りで昨年同様2年連続の優勝。

昨年のロレンソは、ウィニングランの途中にツナギ姿のままで最終セクションイン側にある池に飛び込んで水泳(水没?)を披露し、会場を大いに沸かせたが、今年も同様のパフォーマンスを実行。

ただし、今回はウェットレースで路面が濡れており、池に向かって勢いよく駆け込む最中にビニールシートに足を滑らせて頭から水中に転落。

見た目以上に天然な一面を満天下にお披露目し、意図せざる爆笑を呼んだのであった。

2位はペドロサ。

昨年骨折した鎖骨のプレートが血流を阻害し、特にラスト10周は左腕のしびれとも戦いながら走るという苦しいレースだったが、開幕戦に続き2戦連続の表彰台。

もともと小柄で体重が軽いこともあって雨が不得意と言われ続けただけに「今回はウェットコンディションで2回目の表彰台で、それが何よりもうれしい」と心底ほっとした様子。

で、軽量といえば、今回は選手の体重に関連するちょっとしたゴシップがあったので、以下でそのエピソードを簡単に紹介したい。

MotoGPでは毎戦、選手有志からなるセーフティコミッションが開催され、開催会場やルール等に関する安全性が協議される。

今回は、「体重が重い選手は燃費面で不利を抱えている。マシンパフォーマンスに差が出るのは不公平ではないか? MotoGPも125ccクラスのように軽量選手にバラストを積んで<マシン+人間>の総重量を統一した方がいいのではないだろうか」というアイディアが出されたという。

じっさいに、前戦カタールでは、大柄なマルコ・シモンチェッリがホンダ陣営で唯一、燃費の不安を訴えるというひと幕もあった(結果的には何も問題は生じなかったようだが、シモンチェッリ自身は「インジェクションを薄めに設定せざるを得なかったので、それが走りに影響した」とも主張している)だけに、今回の動議はちょっとした注目を集めた。

このセーフティコミッションで燃費格差というこの問題を指摘したのはバレンティーノ・ロッシ(ドゥカティ)だとも言われている。

ちなみに、主力選手の公称身長と体重を記しておくと、

バレンティーノ・ロッシ182cm68kg、

ホルヘ・ロレンソ172cm65kg、

ダニ・ペドロサ160cm52kg、

ケーシー・ストーナー171cm60kg、

マルコ・シモンチェッリ183cm77kg。

さて、この提案に対してクラス最軽量選手のペドロサの反応はというと、「大きくなった方がいいなら薬を飲んでバルクアップしますけど」と冗談を飛ばしてから、「となりの芝生は青く見える、っていうでしょ。そもそも僕がMotoGPに昇格したときは、あんなちっこい選手にモンスターマシンを扱うのは無理だろう、ってジャーナリストやファンの人が口を揃えて言ってたんだよ」とバッサリ。

同じく軽量選手のストーナーはというと、「たしかにある意味じゃ興味深いテーマだけど、いちがいにどちらが得をしているとは言えないと思うよ」と指摘。

「軽量選手に有利な面もあるかもしれないけれど、その一方で、体格が大きい選手はトラクションを稼ぎやすいアドバンテージもある。体重の軽重で一概に有利不利は決められないと思うな」と冷静な口調で自身の意見を述べた。

この総重量規制問題だけれども、開幕以来好調な滑り出しを見せているストーナー、ペドロサ、ロレンソという比較的軽量選手たちに較べて、自身はシーズン序盤のマシン仕上がりに不満を抱えるロッシの牽制、と見るのがおそらくは妥当なように思える。

2007年以来(エンジン使用基数規制を除き)同一の現行マシンレギュレーション下で、この問題をいきなり今になって俎上に挙げるのは、少々突飛な印象は拭いきれない。

ライダーの体重差が本当に大きな影響を及ぼす問題ならば、2008年や2009年にルールが改正されていてもおかしくない。

おそらくこの話題は、ドゥカティのマシンパフォーマンスが向上してくれば自然消滅してゆくだろう(だからこそ、ゴシップなのだけれども)。

で、そのドゥカティだけれども、次戦ポルトガルGP後に実施される事後テストでは、ロッシのリクエストを反映し大幅に改良を施したエンジンを持ち込むと噂されている。

今年型のデスモセディチは旋回性に大きな課題を抱え、ロッシは思ったように曲がれないことにかなりの不満を持っている。

旋回性の改善ならば車体の見直し、というのが素人の発想だが、どうやらジェレミー・バージェスとフィリポ・プレツィオージは、エンジンパフォーマンスが車体性能に影響を及ぼしていると考えているようだ。

果たして彼らがどんなアイディアでこの問題を解決してくるのか。そのあたりもシーズン今後の要注目事項である。


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第1戦で全17人のMotoGPライダーが寄せてくれた「頑張れニッポンのエール」を読んでがんばろう!


西村 章
西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した最新著『最後の王者−MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。twitterアカウントは@akyranishimura

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雨が降ろうが槍が降ろうがレースの前にはびくともしない。それがスペイン人レースファンの心意気。
雨が降ろうが槍が降ろうがレースの前にはびくともしない。それがスペイン人レースファンの心意気。

持ち味の安定したペースを発揮した優勝もさることながら、足を滑らせて池に転落するパフォーマンス(??)は必見。
持ち味の安定したペースを発揮した優勝もさることながら、足を滑らせて池に転落するパフォーマンス(??)は必見。

鎖骨の負傷でラスト10周はクラッチの操作ミスとも戦いながら2位。雨のレースで表彰台は今回が2回目。
鎖骨の負傷でラスト10周はクラッチの操作ミスとも戦いながら2位。雨のレースで表彰台は今回が2回目。

最高峰クラス自己ベストの4位フィニッシュ。あと一周あれば3位表彰台は確実だった?
最高峰クラス自己ベストの4位フィニッシュ。あと一周あれば3位表彰台は確実だった?

「うまく走れないんだよお(呆然)」「うーむ……」という吹き出しをつけたくなる一枚であります。
「うまく走れないんだよお(呆然)」「うーむ……」という吹き出しをつけたくなる一枚であります。

こちらも金曜の転倒以来いまひとつリズムに乗りきれないまま、決勝も不完全燃焼でありました。
こちらも金曜の転倒以来いまひとつリズムに乗りきれないまま、決勝も不完全燃焼でありました。

決勝レースはトップ快走中に転倒。初優勝が夢と消える。でも、ポテンシャルは披露した?
決勝レースはトップ快走中に転倒。初優勝が夢と消える。でも、ポテンシャルは披露した?

早ければ第3戦エストリルでの復帰を目指しているとか。幸い、次戦までは4週間の時間があるのであった。
早ければ第3戦エストリルでの復帰を目指しているとか。幸い、次戦までは4週間の時間があるのであった。

ギャル

ピットレーンにて一句。「おねいさん、ああおねいさん、おねいさん」
ピットレーンにて一句。「おねいさん、ああおねいさん、おねいさん」


■第2戦スペインGP

4月3日決勝
ヘレスサーキット 雨
●優勝 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
●2位  ダニ・ペドロサ HONDA
●3位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
●4位 青山博一 HONDA
●5位 バレンティーノ・ロッシ DUCATI
●6位 ヘクト・バルベラ DUCATI
●7位 カレル・アブラハム DUCATI
●8位 カル・クラッチロー YAMAHA
●9位 トニ・エリアス HONDA
●10位 ジョン・ホプキンス SUZUKI
●11位 ロリス・カピロッシ DUCATI
●12位 アンドレア・ドヴィツィオーゾ HONDA
●RT コーリン・エドワーズ YAMAHA
●RT ベン・スピーズ YAMAHA
●RT ランディ・デ・ビュニエ DUCATI
●RT マルコ・シモンチェッリ HONDA
●RT ケーシー・ストーナー HONDA
※小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した西村 彰さんの新作「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)の発刊を記念し、西村さんへのインタビュー記事を近日掲載いたします。新刊の詳細は本サイトのタカハシ商会で。
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