(2011.6.17更新)
いやホントに寒かった。
前戦カタルーニャGPも季節の割には涼しいウィークだったけれども、第7戦イギリスGPの苛酷さったらあなた、6月も半ばだというのに毎日サーキットを往復するレンタカーの車内でも暖房を入れないと耐えられないくらいの寒さである。
余談になるけれども、この厳しい自然がイギリス独特の豊かな文化を育んだ一因なのだろうな、とサーキットへ向かう道路の両脇にときおり広がる『原子心母』のような風景を眺めながら、なんとなくそんなことを朝夕考えていた。
冷たく澄んだ空気のせいか、あるいは植生そのものが欧州大陸とやや異なる傾向があるためか、イギリスの風景は総じて緑が濃い印象が強い。牧草の色も、まばらに聳える常緑樹の灌木も、瑞々しく深い色合いをたたえているように見えるのは、あながち気のせいばかりでもないと思う。
そんな環境の中に身を置くと、ピーター・ガブリエル時代のGenesisや、あるいはRenaissanceが叙情性の強い楽曲群を次々と生み出していった背景を皮膚感覚で理解できるように思えてくる。
コンクリートで固められた高速道路を走っていてさえ、Marillionが生み出した奇跡的な傑作「Brave」の物語に紛れ込んでしまったような、そんな錯覚を憶えるほどだ。
とまあ、そういう余計な話はこっちにおいといて、シルバーストーンのイギリスGPがどうしようもなく寒かった、という話である。
公式発表によると、MotoGP決勝時刻の現地気温は11℃、路面は10℃。ブリヂストン計測でも、気温・路面ともに13℃。ひらべったく言えば、要は日本の真冬である。しかも雨。もともとギャップの多いフラットなコース特性の路面に水が溜まり、決勝レースではトップグループを走る選手たちがひとりまたひとりと文字どおり足もとをすくわれて転倒し、脱落していった。
じつは今回、ヤマハファクトリーレーシングの企画で、現チャンピオンのホルヘ・ロレンソとチーム監督ウィルコ・ズィーレンバーグの先導でスクーターに乗ってコースを周回し、各コーナーの特徴やライン取りなどの解説を聞いたうえで質疑応答を行う、という企画が金曜夕刻に行われた。
参加したのは各国ジャーナリスト16人。
この日は午後2時からのMotoGPクラスフリープラクティスが雨のセッションになったのだが、午後8時近くになっても路面のギャップに水たまりが残り、コース上をスクーターで走行していてさえ冷たい風が身を切るような状況だった。ましてや日曜の凍てつく氷雨の中を時速300kmで走行する決勝レースの苛酷さたるや、推して知るべし。
そういえば、英国冒険小説の巨匠、アリステア・マクリーンの『ナバロンの要塞』では、主人公のキース・マロリーたちが冷たい雨の中、不屈の闘志で断崖をよじ登るシーンがあったっけね。これぞまさにジョンブル魂、ってやつである。
あるいは、こういう不条理な自然と向き合う日々を過ごしていれば、アラン・シリトーの『長距離走者の孤独』のような、反逆心と怒りを心中に燃やす若者が育つ理由もすとんと胸に落ちる気がする。
あるいは、そんな不条理への怒りがひねくれたユーモアという表現形態をとると、モンティ・パイソンやダグラス・アダムスの作品群のような形になるのかもしれない。
えー、どうにも閑話休題しまくっておりますが、何が言いたいかというと、要はそれくらい理不尽に寒かった、と。6月も半ばだというのに。とはいえ、それがイギリスと言ってしまえばそれまでのことではありますのだが。
で、レース結果はというと、すでに皆様ご存じのとおり、ケーシー・ストーナー(レプソル・ホンダ)が抜群の安定感を発揮してフランスGPから連続3連勝。今季4勝目で、ランキングでも今回転倒ノーポイントのロレンソを抜いて首位に立った。優勝するのも当然といえば当然である。ドライセッションとはいえ相変わらず寒かった土曜日には、全選手がリア用に柔らかめコンパウンドのタイヤを入れて走行していたのに、ケーシーだけは硬めを入れても平然と速いタイムを記録していたくらいなんだから。
さて、次回のオランダGPは伝統のダッチTT。決勝は土曜日なのでお間違えなきよう。こちらもまた悪名高い「ダッチウェザー」で天候不順は容易に予測されるところだけれども、果たしてどうなりますやら。お楽しみに。