(2011.9.1更新)
気がつけばもうシーズン2/3の12戦を消化。毎年思うことながら、早いものである。今年は特に、日本人にとって複雑な心境で迎える開幕戦になっただけに、一戦一戦の経過やこのシーズン2/3を消化するまでの様々な出来事は、例年以上にずっしりと重みのあるものだったようにも思う。とはいえ、チャンピオン争いはここから先6戦のシーズン終盤が最大の山場だ。
で、第12戦のインディアナポリスGPである。<ブリックヤード>という名称でも知られるアメリカンモータースポーツの聖地だが、今年は、インフィールド部分に再舗装が施され、セッションごとに変化する路面状態への対応がレースウィークの展開を大きく左右した。
金曜午前の走り出しでは、全選手があまりの滑りやすさに閉口気味だったものの、走行を重ねるにつれて路面にラバーが付着し、ライン上の状態はどんどん改善されていった。リアのグリップが良くなると、今度はリアタイヤがフロントを押すような状態になって、フロントタイヤへの負荷が大きくなり摩耗が激しくなる。土曜以降はほとんどの陣営がこの事象への対応を迫られた。
タイヤの組み合わせで見ると、選手の好み云々以前の問題として、今回は上記のような路面コンディションであることから、全選手がフロントに硬め、リアは柔らかめという組み合わせを選ぶであろうことは、ほぼ明らかだった。ところが、レース開始時に配布された各選手のタイヤ選択表(というものがあるのです)を見ると、ニッキー・ヘイデン(ドゥカティ)だけがフロントに柔らかめを装着していることが判明。おそらくこれを見た全員が「エッ!?」と驚いたと思う。路面温度51℃、という状況からしても「それはないだろう」というのが大方の意見だったような気がする。実際に、ニッキーは序盤周回こそ快調に走行していたものの、8周も経過した頃からみるみる順位を下げはじめ、やがて他よりも5秒以上遅いタイムに落ち込んで最後尾に……。ニッキーの出身地、ケンタッキー州オウウェンズボロは、ここインディアナポリスから車で3時間半ほどの距離。まさに地元である。それだけに、今回のような結果になってしまうのは、見ている側にとってもなんだかとても辛く痛々しいものがある。
一方のチームメイト、バレンティーノ・ロッシも問題大あり、の一戦だった。今シーズンからドゥカティに移籍して以来、やることなすことダメダメ尽くしで、まるでいいところを見せられないでいる。今回は、土曜の予選で転倒してリズムを崩し、日曜の決勝レースではギア抜けに悩まされ続けてオーバーラン。その影響で一時は最後尾に沈んでしまうものの、いつもの接地感のなさにも悩まされつつもそこからなんとか這い上がって、最後はなんとか10位でフィニッシュ。ドゥカティワークスにとっては、かなり苦しい第12戦になってしまった。
彼らの苦戦については、その原因や対応策がいろいろと取り沙汰されているが、その最大の要因のひとつ、とも言われてきた現在のカーボンファイバーフレームの是非については、ドゥカティ自身も真剣に再検討に入っているようだ。かつての彼らのトレードマークであったコンベンショナルなパイプフレームへ戻すことは、もはや時間の問題、なのかもしれない。ロッシ自身は、「技術的な細かい仕様は僕が決めることではない」と明快な発言を避けているものの、ピットボックスの中ではじつはパイプフレームを切望し、来年仕様のGP12はその方向で開発に入った、という情報もある。
MotoGPに参戦する唯一のイタリアメーカーであるドゥカティは、日本のホンダやヤマハと比較するとはるかに小さな規模の企業だ。ワークスマシン開発も、陣頭指揮を執るフィリポ・プレツィオージの下には、各ライダーに対して6〜7名の開発エンジニアしかいないとも言う。これがイタリア人独特のユーモラスな誇張であったとしても、日本企業のように数十人単位のスタッフが関わる大規模陣容でないことは確かだ。ただ、人海戦術的な戦い方では劣るとしても、人数の少なさは迅速な意思決定や個人の裁量範囲が大きいという利点もある。今季の劣勢がもはや覆しがたいところまで来てしまったのはいたしかたないとしても、今後数戦のパフォーマンス、あるいは来年に向けた活動のなかで、「山椒は小粒でピリリと辛い」ところを見せてほしいものだ。なんてったって赤いしね。当たれば抜群に辛いはずだと思うのだが。