(2011.10.19更新)
ケーシー・ストーナー(レプソル・ホンダ)が第16戦オーストラリアGPで2011年の年間総合優勝を決めた翌日、オーストラリア・ヴィクトリア州の人気タブロイド紙『ヘラルド・サン』紙の一面は、全ページ下半分を表彰台でガッツポーズを示すストーナーの写真に割き、その勇姿の隣には大きな級数でこんな文字が躍っていた。
- 「ケーシー・ストーナー、我らの世界王者」
国を挙げての祝賀ムードに満ちたこういう記事を見ると、チャンピオンを獲得するというのは本当に素晴らしいことなのだな、と改めて思う。たしか彼が2007年にドゥカティでチャンピオンを決めたのはツインリンクもてぎだったと記憶しているけれども、大勢の地元の人々に祝福されてチャンピオンを決めた今年のほうが、ストーナーの笑顔のほころびかたも周囲の華やぎかたも、数段違っていることが皮膚感覚レベルでよくわかる。
ホームコースのフィリップアイランドで4年連続ポールトゥウィンの5年連勝、しかも自らの26回目の誕生日に王座を決める、というストーナーのこのど派手なリザルトのおかげで、今年のオーストラリアGPはそれ以外のことがすっかりかすんでしまったような印象もあるが、Moto2のレースも、どうしてなかなか、強い印象の残るレースではあった。
金曜のフリー走行で、チェッカー後のクールダウンラップの最中にラタパーク・ウィライローの背後から魚雷で直撃するような追突をしてしまい、ウィライローを欠場に追い込んでしまったマルク・マルケスは、予選タイムに1分加算のペナルティを与えられて最後尾スタート。普通ならこれでぐだぐだになってしまいかねないところだけれども、さすがスペインの次代を担うヤングスター。1周目ですでに18台をごぼう抜きにし、4周目には10番手、10周目には6番手、そして最後は3位表彰台を獲得してしまった。「あれよあれよ」なんて常套句を挟んでいるヒマもない。すごいね、なんとも。おそらく、彼のレースキャリアでも屈指のレースだったのではないだろうか。
その結果、チャンピオンシップでも直近のライバル、ランキングトップのステファン・ブラドルからわずか3点ビハインド、という僅差でシーズン最後の2戦を迎えることになった。どちらがチャンピオンを獲っても不思議ではない展開とはいえ、マルケスのこの勢いたるや、なんというかもう高速ラムジェット推進超素粒子加速、みたいな状態である。
で、そのマルケスだけれども、来年からMotoGPにステップアップするのではないか、と水面下でずっと囁かれてきた噂が、次戦のマレーシアGPでようやくひとまずの決着をみせそうな気配だ。実際のところ、マルケスをここまで育成してきたエミリオ・アルサモラが、来季に向けて水面下での交渉を進めていたのはどうやら事実のようだが、今週の土曜にセパンサーキットで記者会見を開く模様だ。マルケスがMotoGPにステップアップすると仮定してみて、ではどのような体制で?? ということがずっと注目されてきたわけだけれども、その場合はおそらくルーチョ・チェッキネロ率いるLCR Honda MotoGPだろう、と推測するのはかなり面白い見方だろうと思う。LCRに入るとすれば、来季はファクトリーバイク4台体制といわれるホンダのマシン供給数とも符合する(レプソル2台、グレシーニ1台、LCR1台)し、MotoGPクラスに初めて参戦する選手はファクトリーチームに所属できないという、いわゆる<ルーキールール>にも抵触しない。さらに、来季のLCRのライダーは、ここに至るまで様々な選手の名前が取り沙汰されてきたが、マルケスが同チームの選手に収まるとすれば、上記の2点以外にもいろんな面でチーム側と選手の利害がうまく一致するだろうからだ。とはいえ、実際のところは、「来年もMoto2クラスに残留します」という<大山鳴動して鼠一匹>な結論に落ち着く可能性もかなりの確度で考えられるわけだけれども。
それにしても、2008年に125ccでグランプリデビューを果たして2010年に同クラスチャンピオンを獲得。Moto2にステップアップした今年はさっそくチャンピオン争いを繰り広げ、あまつさえ来季のMotoGPステップアップまでも強く噂される……という彼の姿は、ものすごい才能がものすごいスピードで成長していく様子を目の当たりにして、ちょっと気圧されてしまうような感すらある。世に人材の種は尽きまじ、というスペインや恐るべし、である。
というわけで、マルケスの来季去就に関する詳細は次回お知らせするとしてじつは今回は、来季からMotoGPクラスに加わることになるCRT(Claiming rule Team)についてちょいと考察してみようとも思っていたのだけれども、文字量的にここまで消費してしまったので、これについても次回以降の宿題にしたいと思います。
じゃあ、今週末の第17戦マレーシアGPもよろしく哀愁。ではでは。