裏庭の徒然草

バイクを快適に使える・乗れる環境づくりもメーカーの“責任”のひとつですよね?

どうやらミスター・バイクの“墓標”には、西洋の雑貨屋の店主がランチに出かける時、ドアに掛けておく札がぶらさがっていたようだ。

「すぐ帰ってきます」。

ともあれ、こうして発信は続けられている。

その中で、わずかな力であるが、バイクの利用環境改善活動を継続している身として、あらためて感じているのは「つまりは行政が動かないと何も変わらない」という事実だ。

そういう状況下で行政に向けて積極的活動をしているリーダーは「全国オートバイ協同組合連合会」(AJ)だ。全国のバイク店の集まりであることで、駐車スペースなどバイクが置かれた現状の課題解決への切実さはあるにしても、今やバイクをめぐる社会環境改善への道筋はAJなくして語れない。それを駆動していく福田純一会長以下の役員や理事の情熱に加え、AJには福田二朗専務理事という“知恵袋”がいる。行政への適確なタイミング、アプローチ、プラン、リザルト…福田専務理事が先陣を切って、このバイク販売店の団体・AJが諸問題解決に向けて歩を前へ進めている。

あれ、それでは国内4メーカーは? 残念ながら腰が引いているとしか言えない。かつては、あるメーカーのある部署にAJにおける福田氏にあたる人物がいた時期はある。そのY氏は「これから警察庁、通産省(当時)、その他お役所を回ってくるんだ」と会うたびに言っていた。そして私に「真っ当な理論を構築すれば、お役所も必ず納得する。要はバイク界と行政、お互いの“落としどころ”を見いだすことなんだよ」と話してくれ、それが本誌の“社会ネタ記事”のバックボーンのひとつにもなっている。Y氏が去ってから、そのノウハウを継ぐ人材は出なくなってしまったし、Y氏に当たる社内ポジションすら消えてしまったようだ。

今はどうか。「お役所に訴えても、それはバイクを売るためでしょと言われてしまう」と言う。当然のことを言われているのに、それでメーカーはヘコむ(らしい)。NMCA(日本二輪車協会)もメーカー関連の団体で、バイク利用環境改善で調査/活動とユーザーへのアピールをしてはいるが、設立された当初、私は「NMCAは我々の要求を行政に伝えてかなえるロビー団体でもある」と聞いていた。しかし今ひとつ、メーカーの集まりである自動車工業会含め、バイク利用環境改善について行政へダイレクトに積極提起という姿が見えてこない、伝わってこない。

お役所・官僚=霞ヶ関とすると、政治主導方針もあって、今や行政をオンタイムで動かせるのは永田町=政治家だ。民主党、自民党にも“バイク議連”がある。AJのバイク利用環境改善への行動の核を成しているのはこの政治家への積極アプローチだ。それが大きな効果を挙げているのは逐一、本誌でお伝えしてきたとおりだ。

ならばメーカーは? ここでもまったくといっていいほど腰が引けている。「政治家とは付き合いたくない、逆に利用されかねない…」と。しかしAJの活動を通して話した政治家、そして政治に詳しい方々は口を揃えてこう言っていた。「なぜ、メーカーが出てこない。メーカーの“顔”も“考え”も見えない」。行政は民の利便を計るもの。それへの勇気と知恵にあふれた自らの考えもメーカー直では届いてこない、と。それを真剣に考えているメーカー在籍の人がいることも承知しているが、その声や考えがメーカーとして機能・波及・結実していない。

メーカーは、ただ製品を作ればいいというだけではない。その製品をより快適にユーザーに使ってもらうための環境整備への責任があるのではないか。

「責任とは取り外し可能な重荷であり、他者の肩に簡単に転嫁される」(アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』)。

へまな言葉の一例――病人の枕元にかけつけて「よかった! 間に合わないかと思って心配していました」。(『笑死小辞典』)。

思わず、へまな私も、今はそう言いそうだ。メーカー殿、腰を引いている時ではありません!

古・編集・長 近藤健二
古・編集・長 近藤健二
ミスター・バイク本誌の編集長を4代目(1977年9月号~1979年10月号)&7代目(1985年4月号~2000年6月号)の永きにわたり勤め上げた名物編集長。風貌も含め、愛されるキャラクターであり、業界内外に顔が広い「名物編集長」であるところは万人が認める。が、名編集長かといえば万人が苦笑で答える。悠々自適の隠遁生活中かと思えば、二輪業界の社会的地位を向上すべく老体にムチ打って今なお現役活動中(感謝)。ちなみに現在の肩書き?「古・編集・長」は「こ・へんしゅう・ちょう」ではなく「いにしえ・へんしゅう・おさ」と読んでください。

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