裏庭の徒然草

必罰・原付、野放し・自転車の「取り締まられ」差から、
この国のいいかげんなコミューター観が見える



  • ●飲酒運転→5年以下の懲役、または100万円以下の罰金。
  • ●夜間、前照灯及び尾灯(または反射器材)をつけない→5万円以下の罰金。
  • ●一時停止標識違反、狭い道から広い道に出るときの徐行違反→3カ月以下の懲役、または5万円以下の罰金。

これらは道路交通法(道交法)で自転車に科せられた罰則だ。しかし自転車の通行違反に罰則があることを理解している人は、そう多くはないかもしれない。

今、バイクやクルマで走行していて「ヒヤリ/ハット」(ヒヤリとしたり、ハッとしたりする)体験で、その相手に自転車が多いのは実感としてあるのではないだろうか。

道交法で軽車両と位置付けられている自転車には上記の他にも様々な通行違反罰則がある。


  • ●歩道と車道の区別がある場合、原則は車道通行。違反すると→3カ月以下の懲役、または5万円以下の罰金。

これは原則なのだが逆にいえば、道路標識等で指定された場合と13歳未満の子供と70歳以上の高齢者、身体が不自由な方、車道や交通の状況からみてやむを得ない場合以外、通常では原付1種と同じく自転車は車道の左側に寄って通行しないと上記の罰則が科せられるのだ。

その他にも——

  • ●二人乗り→2万円以下の罰金、または科料。
  • ●並進(2台以上が横に広がって通行)→2万円以下の罰金、または科料。
  • ●信号を守らない→3カ月以下の懲役、または5万円以下の罰金。

そして道交法では決められていないが、多くの自治体が交通規則として定めているのが

  • ●携帯電話を使用しながら、あるいは傘を差しながら(手放し)運転→5万円以下の罰金(東京都の場合)。
  • ●傘を自転車に固定して運転は積載違反→2万円以下の罰金、または科料(東京都の場合)。

まだまだこの他にも他の車両と同じく、自転車の通行で違反すると細かく罰則が定められているのだが、さらに知りたい方は警察庁や各自治体の警察HPを検索していただきたい。

で! その自転車通行者が罰則、例えば違反キップを切られている現場を見た、あるいは自ら体験した方はいるだろうか?

去る夕刻、警察官が街角で無灯火の自転車通行者を止めているのを見た。取り締まりですか、と聞くと「いや、指導警告です」とのこと。

「明らかに違反なのにキップは切らないのですか?」

「いや、あまりに多くて。何で自分だけなのかとも言われますし」。

以前に原付を運転して取り締まられた友人が「他車だって違反している。なぜ私だけ?」と言ったところ警察官から返ってきたのは「そうであっても、あなたが違反したのは事実でしょ」と言われたという…。

そこでどれくらいの自転車が取り締まられ、罰則を受けたのか、参考までに「原付」が付くが「自転車」の名称が与えられている原動機付自転車(原付)1種の取り締まり件数を含めて調べてみた。

ここで難関だったのは原付1種の取り締まり件数。警察庁は意図的なのか最近統計を出す時に、原付/自動2輪を分けないで、多くは「オートバイ」でひとくくりして公表するのだ。

しかしこの数字は盟友・二輪ジャーナリストの橋本輝さんが探し出してくれた。

このような状況なので、所出年が異なっているのをお断りしておくが、年次の近さから、その違いで大差は出ないと考える。そして出てきた数字に驚かされた。


  • ●原付1種(小型特殊含む)道交法違反取り締まり件数:77万7249件(2008年・交通事故統計年報/警察庁)
  • ●原付1種保有台数:約770万台(2009年4月1日現在/総務省)
  • ●自転車交通違反取り締まり検挙件数:1326件(2009年/警察庁)
  • ●自転車保有台数:約6909万9千台(2008年/自転車協会)

自転車の取り締まり件数の単位が違っているのではない。

1年で、全国で1326件。

これでは自転車がキップを切られている現場に通常、遭遇するワケがない。

念のため付け加えておくと、自転車は指導警告件数というのも出されていて、これは216万5759件(2008年/警察庁)。自転車にはバイクやクルマのような反則金制度(通称、青キップ)がなく、いきなり罰金刑(通称、赤キップ)=前科、ということで、指導警告に留めている? という“酌量”もあるのか。

ちなみに取り締まられ件数率は原付1種が約10台に1台、一方自転車は約5万2千台に1台。指導警告も約32台に1台だ。

お断りしておくが、だから「自転車をもっと取り締まりなさい」と言っているのが本論ではない。もちろん反則金制度導入や、あるいは様々な違反(無謀)自転車“対策”は議論すべきだろう。

むしろなぜ原付1種が自転車に較べてこれほどまでに過酷に? 取り締まられるのか、目の敵? にされているのかとは言っておきたいとは思うが。

交通機動隊のことを論評したあるHPには「ノルマ(警察はその存在を否定しているが)達成で原付はカモ」「小魚の一本釣り」「交通機動隊の全取り締まりの約4割は原付」といった文字が並んでいた。

今日も道路では、時速30km、2段階右折、ヘルメット着用、技能講習義務化、厳しい環境対応を求められる原付が、同じ車道の左側(今やそこが自転車レーンになっていることも多い。そこを原付自転車が走れるのか一部現場では混乱している話もある。これは後日触れよう)で自転車に追い抜かれながら“働いて”いる。そして道ばたに立つ警察官は原付の違反ばかりを虎視眈々と注視している。

西洋の古い言い習わしに「合法的というのは司法権を握っている人間の意志と矛盾しないこと」というのがある。

このことなのか?

そうではないだろう。

自転車、電動アシスト自転車、新規参入する原付電動バイク、そしてガソリンエンジンの原付…。

今やコミューターのカオス。だからこそここらで日本の庶民の足であるコミューターを各々キチンと位置付けてルールや法的に、適正な取り締まりも含めて「洗濯し直す」時期にきているのではないだろうか。

今の、未来への展望がまったく見えない、法の下でのいびつな取り締まりを知って、ますますそう思った。

(2010.8.6更新)

古・編集・長 近藤健二
古・編集・長 近藤健二
ミスター・バイク本誌の編集長を4代目(1977年9月号~1979年10月号)&7代目(1985年4月号~2000年6月号)の永きにわたり勤め上げた名物編集長。風貌も含め、愛されるキャラクターであり、業界内外に顔が広い「名物編集長」であるところは万人が認める。が、名編集長かといえば万人が苦笑で答える。悠々自適の隠遁生活中かと思えば、二輪業界の社会的地位を向上すべく老体にムチ打って今なお現役活動中(感謝)。ちなみに現在の肩書き?「古・編集・長」は「こ・へんしゅう・ちょう」ではなく「いにしえ・へんしゅう・おさ」と読んでください。

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