Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n試乗

Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n試乗

Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n試乗

見応え充分なルックス。

世界一速い市販車。この短い言葉に込められた伝説、伝統は、これを求める人達にとって大切なもの。速度競争は封印された今なお、この世界で高いブランド力を持つカワサキ。彼らの新作こそZX-14Rである。

外観イメージは巧く引き継がれている。ワイドだが天地に薄い印象のフロントカウル、先代同様4灯のヘッドライトが収まり、特等席に逆三角形の大きなエアスクープが開いている。眉間に走る2本のリブやカウルサイドには深くえぐられたライン、エアアウトレットに嵌る4本のルーバーも今までにない意匠だ。とにかく各部に超高速での空気との戦いを熟知したカタチを盛り込み、走らずとも世界一を印象づける力強さはさすが。世界に向けた日本の顔だ。

KAWASAKI Ninja ZX-14R
※スタートボタン通すと、KAWASAKI Ninja ZX-14Rの動画を見ることが出来ます。見られない場合はYouTubeのサイトで直接ご覧ください。http://youtu.be/UNhW17vm10g

ツーリングで味わえるエンジンの質感。

ひとしきり眺め、サドルのような形状になったシートに跨がる。目に入るメーター周りやハンドル周りの質感は高い。トップブリッジの上に取りつけられたハンドルバーやその接合方法、カウル内側の眺めまで計算されスキを見せない。そしてキーを捻ると液晶モニターにZX-14Rの顔のアニメーションが! これをプログラムしたエンジニアはカラー3Dモニターを所望したに違いない。でも、モノクロ2Dでインパクトは充分。

先代から90㏄ほど排気量を増やし1441㏄となったZX-14Rのエンジンは実にスムーズに始動した。世界中で厳しくなる騒音規制のために音を殺した、というのではなく、緻密なパーツでくみ上げられメカノイズが消えている印象なのだ。重すぎず軽すぎずシュワンと回るそれはフラッグシップのエンジンにふさわしい。

西伊豆のワインディングに走り出す。このエンジン、2000rpmですでに9.5kgのトルクを生み出すとあって、回転計の針は3000rpmも回せば全てが事足りる。先代に初めて乗ったとき、4000rpm以下の領域であえてレスポンスを抑え、多少右手をラフに扱ってもぎくしゃくしないおとなしい味付けになっていた部分を感じた。カワサキの親心だったのだろうか。しかし、新型はこの領域でのリニアリティーがぐっと増していて、とにかく右手との一体感が高い。これには新型が採用したトラクションコントロールKTRC、エンジンモード切り替えを備えた恩恵でもあるのだろう。

Ninja ZX-14R試乗

頼りになるデバイスでマッスルがより身近に。

ハンドリングもより軽快で一体感のあるものへと代わっている。50km/h以下で少々重たい手応があり、信号の左折やUターンでは早めにリーンするようコントロールした記憶があるから、このあたりも嬉しい変化だ。

前後のサスペンションは低速から吸収性がよく、前後の姿勢変化を巧く路面の接地感に変換してくれる。伊豆とはいえ気温は低く、日陰の路面温度は推して知るべし。その中世界一のパフォーマンスを持つスポーツバイクを鼻歌交じりで走らせられるのはシャーシ性能の良さがあってこそ。

新たに装備したエンジンモードスイッチはアクセルオフの状態なら走行中でも“フル”と“ロー”の切り替えが可能だ。公道での速度域、日陰に残るウエットパッチなどを考えると、フルよりもロー(これ、ネーミングを“アグレッシブ”と“コンフォート”などにしていただけると胸張ってロー選べますが)、KTRCは最も介入度の高い「3」を選択したほうが気楽に走れた。

ちなみに、KTRCを「3」にすると、路側帯から普通に発進し、白線や小石を踏むような場面でもきちんと作動して「あ、滑るんだ」をライダーに伝えてくれる。パワーをつまむその印象は(今回の状況では)エンジンの出力がゼロになるものではなく、アクセルを少し戻した感じのナチュラルなもの。あえてアクセルをグッと開けて加速をすると介入時間(といってもクラッチを繋ぎリアタイヤが蹴り出すわずかな間だ)が伸びるが、加速感がガクガク変化するものではなかった。

また、スリッパークラッチを備えたことでシフトダウン時も安心感が高まったのが嬉しい。電子やメカニカルなデバイスによるおもてなしは疎ましくも煙たくもない。今や世界のハイエンドクラスではこれが常識なのだ。

身のこなし全てに世界の顔を実感。

ワインディングでの身のこなしも上質さが増していた。自分がコントロールしている感覚どおりの動きをしてくれるので、一体感が高い。結果的に満足度が上がり、乗る歓びが増す上昇スパイラルを描いてくれる。ワイドなスタンスを持つハンドルバーと、ステップ、タンクといったバイクとコンタクトする部分のポジションが良く、ほどよい手応えと旋回性の良さを同時に楽しめるから満足度も高い。この走りならサーキットに連れ込んでフル加速とオーバー200km/hの世界に陶酔しながら、ラインを刻む高速コーナーへの挑戦も楽しいに違いない。

短い時間だがタンデムも試してみた。排気量のなせる技、低い回転、高めのギアでパッセンジャーをぎくしゃくさせない走りをこともなげにこなしてくれるあたりはさすが。リアシートにも乗ったが、サイズ、乗り心地、グラブバーの位置や握り心地にも気配りされている。乗りやすかった。

時速100km/h以下での印象に限る試乗となった今回だが、その先にある広大なZX-14Rの世界に思いを馳せるには充分だった。マッシブなパワーを内包するメガスポーツ。やっぱりファーストクラスに乗ってみたい。そんな夢を特上のもてなしで受け止めてくれるバイクだ。加速、超高速バトルを仕掛けなくてもこのバイクがすばらしい特性を持っていたことを確認できたことは収穫だった。ER-6nやニンジャ650同様、ZX-14Rもモニター上に“ecoマーク”が現れる。それを絶やさぬようにジェントルに走る事すら歓びだったのだから。

(試乗・文:松井 勉)

Block01 Midashi
 カワサキ・フラッグシップの“中興の祖”となるべくZX-14(ZZR1400)が登場したのは2006年。
 トップパフォーマンスモデルのZX-12R、サーキット最速のZX-10R、そしてスーパーツーリングのZZ-R1200という3極体制に細分化されてしまったカワサキのビッグバイク体制に、Z1以来の原点回帰で臨んだのがZX-14だった。
 圧倒的な動力性能と、ビッグバイクでありながら市街地でのショートランからロングツーリングまで、オールマイティに使用することができるスーパースポーツモデル。それこそがカワサキのビッグマシンを支持する多くのライダーたちの求めるものだった。そのリクエストに見事応えた、といえるZX-14だが、今回、久々にモデルチェンジ&フェイスリフトを受けることになった。
 ボア×ストローク、84.0×65.0 mmへとストロークアップすることにより排気量を1,441ccへと拡大し、得られたパワー&トルクは、中低速域での更なる余裕の走りのために配分されたという。現在海外市場で趨勢となろうとしている“200馬力自主規制”に配慮して、スペック上の最高出力は200馬力におさえられることになったが、ラムエアーが効果を発揮する高速域では当然プラスアルファとなる。
 それはともかく、実際に公道での走りを左右する中低速域のパフォーマンスがよりパワフルになるのはライダーにとっては大歓迎だろう。
 新しい顔、新しいサイドビュー、そしてパフォーマンスを誇るかのような押し出しの強いビッグマフラーなど“オープンクラスキング”の名にかけて一歩も譲れない、という意気込みが「R」の車名プラスに現れているとも言える。
Block01 Midashi
 エンジン周りの変更点は、ストローク量を4mm伸ばして排気量を1,441ccへ拡大、従来モデルと比較し、全回転域においてトルクが向上、特に中速回転域から高速回転域において大幅な性能向上を実現。特に4,000回転を超えてからの加速力に顕著に現れているという。

 シリンダーヘッドの燃焼室形状の製作過程を鋳造から切削へと変更、より精巧な造り込みが可能となった。圧縮比も12.0から12.3へとアップ。パフォーマンス向上のため吸排気ポートを改良。吸気はポート形状変更とポリッシュ仕上げの導入、排気はポート直径を拡大、排気性能を高めている。吸排気カムプロフィールも見直された。より強度の高いカムチェーンを採用、新型油圧カムチェーンテンショナーも導入し冷却時のメカニズムノイズも減少させている。ピストン1個あたり約6gの軽量化も実施。

 新たにピストンジェットシステムを採用、エンジン外部に追加した配管を通してオイルをピストン背面に噴射し冷却効率をさらに高めている。エアクリーナーエレメントも面積を拡大、有効濾過面積を約10%増やし、空気の通路抵抗を約60%も改善。ヘッダーパイプ径を38.1mm~42.7mmのテーパータイプへ変更。クラッチにはシリーズ初採用となるバックトルクリミッターが装備された。

 フレームは、基本構造は同一だが、実に半分以上のコンポーネントが変更を受けている。ステアリングヘッド周りの剛性アップに始まり、スイングアームピボット周りの構造変更、モノコックフレームのねじり剛性アップに貢献するエンジンのリジットマウント、エアフィルターのガイドレールを排除することで、より大きなエアフィルターの採用を可能に、モノコックフレームに内蔵されるバッテリーのバックプレートをプラからアルミニウム製に変更することでフレーム剛性のアップなど。

 スイングアームも全長で10mm延長、二次減速比の変更に対応させている。スイングアーム自体にもガセットを追加して強度アップを図っている。

 足回りでは、ホイールデザインの見直しでフロントで360g、リアで1,030g、トータルで1,390gの軽量化を達成。時速300km/hまで対応するハイスピード用ラジアルタイヤを装着した。最新のABSとともに3モードKTRC(Kawasaki TRaction Control)を採用。モード1と2は2011年モデルのZX-10Rに搭載されたS-KTRCと同様、最大限の加速を最優先させるモード、そしてモード3は2010年モデルの1400GTR ABS搭載のKTRCシステムとほぼ同機構の、滑りやすい路面でのスムーズなライディングを実現するものとなっている。
Block01 Midashi
■Ninja ZX-14R〈ABS〉主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,170×770×1,170mm、ホイールベース1,480mm、最低地上高:125mm、シート高:800mm、最小回転半径:3.4m、車両重量:265kg〈ABSは268kg〉、燃料タンク容量:22L●水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、排気量:1,441cc、ボア×ストローク:84.0×65.0mm、圧縮比:12.3:1、燃料供給装置:F.I.+MIKUNIφ44mm×2、点火方式:デジタル、始動方式:セル、潤滑方式:圧送式ウエットサンプ、最高出力:147.2kW(200PS)/10,000rpm(フランス仕様は78.2kW)、ラムエア加圧時は154.5kW(210PS)、最大トルク:162.5N・m(16.6kgf・m)/7,500rpm(フランス仕様は120.1N・m)●常時噛合式6段リターン、1速:2.611、2速:1.947、3速:1.545、4速:1.333、5速:1.154、6速1.036、一次減速比:1.556、二次減速比:2.471●フレーム形式:プレスバックボーン、サスペンション前:φ43mm倒立式テレスコピック、ホイールトラベル117mm、後:スイングアーム、ユニ・トラック(ガス封入式)、ホイールトラベル124mm、キャスター/トレール:23°/93mm、ブレーキ:前φ310mmデュアルディスク、後φ250mmシングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後190/50ZR17M/C 73W●価格:1,566,000円〈ABSは1,632,000円〉
(※出力、トルク値以外はブライト調べ:http://www.bright.ne.jp/

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