タイトル


HONDA CRF250X

●試乗・文ー濱矢文夫●撮影─中村浩史

ホンダからエンデューロレース専用車「CRF250X」が受注期間限定で発売された。
モトクロス用レーシングモデルであるCRF250Rをベースにエンデューロレースに求められるモディファイを多数施したもので、2004年から海外では売られていた。
それが今回、国内初投入となったのである。
晩秋の11月上旬に福島県にあるチーズナッツパークでこのCRF250Xのプレス向け試乗会が催され、走りを体験してきた。
試乗した濱矢文夫にはこのモデルに特別な思いがあった、それは……。

まずは、エンデューロって何? って人へ

CRF250X


オフロードにちょっとでも触れたことがある人なら説明の必要はないからここは読まずにすっ飛ばしても良いだろう。

「オンロード最高っす」とばかりにオフにはまったく興味がなかった人や、バイク生活ぴかぴかの一年生、さらに何となくクリックしてたまたまこのページに辿り着いてしまった人にはモトクロスだ、エンデューロだ、「X」だ「R」だと言われても判らないと思うので、ちょっとばかり説明しよう。

モトクロスっていうのは、土をもったりして人工的に作られた障害物のあるコースを大きくジャンプしたりしながら周回する競技。CRF250Rはこの競技用に開発され販売されているレーシングモデル(公道使用不可)。

エンデューロってのは、同じ土を走るのだけど、自然の地形を利用したコースも走る。木や石もあるし、急な坂や傾斜面を横切ったりして走ったりするレース。CRF250Xはこの競技用に作られたバイク。

陸上競技に例えると、モトクロスはトラックを走る競技。エンデューロはマラソンやクロスカントリーマラソン。ヘッドライトなど付いているけれどナンバー登録は出来ない。

ちなみに、岩や急坂をクリアする様に「人じゃねー!」と叫びたくなる競技はトライアル。

林道に行ったり、街で使ったりとナンバーが付いて公道を走れるバイクはトレールモデルと呼ばれることが多い。XR230などはこれになる。オフロードと言ってもいろいろあるのだ。実際はそれぞれのカテゴリーの中でさらに細分化されている。

「そこから説明かい!」とツッコミが入りそうだけど、確かにCRF250Xに興味を持ち購入を考慮する人にこんな説明はいらない。けれどここは誰でも気軽に読めるし、知識は邪魔にならないので、オフに興味がなくてお話のネタとして一読して下さいな。

パワーを優しさに。Rとは似て異なるX

CRF250X

国内で販売されることになったCRF250Xに乗るのをずっと楽しみにしていた。なぜなら──────ボクはCRF250Xを持っているからだ。

アメリカで発売された2004年の初期型を昨年手に入れ、エンデューロレースに出ている(戦績は聞かないでちょーだい、ションボリするから)。自分が持っているバイクの試乗会に出るという不思議な感じ。

早速、試乗車に跨って走りだす。

エンジンは唐突にパワーが出るような性格ではなく、あくまでもフラットにパワーが持続する。モトクロッサーであるCRF250Rは高レスポンスでちょっとラフにスロットルを絞るとガツン! とパワーが出てカンタンにフロントアップするが、CRF250Xは穏やかだ。

カムシャフトや吸排気で低速トルクを重視した味付け。さらにフライホイールが「R」に比べて重くなっているから低回転で粘る。カンタンにエンストしないでトコトコと前に進んでいく。使い倒されている自分の2004年モデルと比べるのはなんだけど、この性格は変わらない。

CRF250X

最高出力は「R」に比べ確実に「X」の方が小さい。はっきり言って「R」のようなパンチ力はない。

だけどこの特性が山の中で待ちかまえるいろんなシーンで助けてくれる。ヌチャヌチャ水分を含んだ滑りやすい軟土の登りでもリアタイヤは空転して地面をかきにくく、トラクションしやすい。「X」のエンジンはとにかく扱いやすさ優先だ。

この優しさは車体にも言えることで、スピードレンジが高く、大きなジャンプもこなさないといけないCRF250Rより足廻りはかなりしなやか。それほど速度を出していなくてもデコボコ路面に追従して動く。乗り心地はソフトだ。

モトクロスより長時間になるエンデューロレースではこの優しさが効く。

CRF250XはCRF250Rを少しイジっただけのモデルではない。まったく別のバイクなのである。

装備の中で個人的にいちばん役に立っているのがセルスターター。本当に助かる。

以前出たレースで急斜面の途中でエンジンをストップしてしまった時、足場はおぼつかなくキックだとかなり難儀したであろうが、セルでいとも簡単に再始動できた。無駄な体力をそがれない。そのレースではそこに多くのバイクが登れず酒池肉林──────ではなく地獄絵図のようになったっけ。

私のCRF250X。
ちゃんと撮ったことがないからこんな写真でメンゴ(死語)。

エンデューロレースで速い人はどんなところでもスロットルを大きく開けて走れ、止まることもほとんどないから、パワーがある方を選択するが、多くの人は扱いやすい方が結果的に速く走れて疲れない。CRF250Xはエンデューロレースへ入ったばかりの人でも恐れることなく乗れるだろう。

誕生してからエンジンを中心に改良されてきたが、装備など全体をマクロの視点で見ると大きくは変わっていない。乗ってみても自分のバイクとの大きな違いはないと感じた。それほど熟成されてきたモデルと言えよう。

裏を返せば、キャブレターではなく電子制御燃料噴射装置 (PGM-FI)で、プログレッシブステアリングダンパーが付いた(エンデューロレースで必要かどうかは別だけど)最新のCRF250RをベースにしたCRF250Xの夢を見てしまう。

右
左
正面
真後ろ
足つき
シート高958mm。身長170cmのライダー(ちょっと短足)では当然のことながら両足は地面につかない。足つきとトレードオフで、良く動く追従性の良い足廻りと、最低地上高346mmという走破性を手に入れている。
エンジン
エンジンは4ストロークになってからずっと採用されているユニカムバルブトレインのCRF250Rベースながら、専用カムシャフトを採用。エキゾーストパイプも専用。何よりCRF250Rにはないセルモーターを装備。メインボア37mmのケーヒンFCR-MXキャブレターを装着。一般的なFCRとは違い、スロットルや加速ポンプ部に装着された泥から護るカバーやスターター(チョーク)などが付いている。ミッションはCRF250Rよりワイドレシオの5速。
タンク
樹脂製の燃料タンクはCRF250Rより大容量な7.3L。アルミツインチューブフレームは適度なしなりを持たせコーナーリング特性を良くしている。左サイドカバー後方内側にラジエターのリザーバータンクが付いているのもCRF250Rとは違うところ。
サイドスタンド
CRF250Xの大きな特徴のひとつであるサイドスタンド。ボルト2本でマウントから外れるので取り外しが素早く楽。前後のサスペンションはCRF250Rよりソフトな設定だ。
バッテリー
ヘッドランプやセルモーターを装備していることもあり「X」はシート下にバッテリーを積んでいる。エアクリーナーも「R」より容量が少なく空気取り入れ口が小さいまったくの別物(中へのアクセスはサイドから)。
ヘッドライト
ヘッドランプは35W。公道モデルのようにハイ・ローの切り替えはない。
テールランプ
LEDテールランプにブレーキランプの機能はない。言わばポジションランプ。
リア
CRF250Rのリアホイールは19インチだが、CRF250Xではクッション性に優れたハイトの高いリアタイヤを履く18インチに変更。ブロックの高さが13mm以下と決められているFIM規定にそったエンデューロレース用リアタイヤの多くは18インチ。試乗車が履いていたタイヤのサイズは100/100-18。エンデューロタイヤなら120/90-18が適性サイズ。
セル
難所でエンジンストップしてもセルスターターのボタンを押せば楽にエンジン始動できる。ハンドル左側にはホットスターターのレバーも付く。
メーター
小さなトリップメーターを標準装備。

CRF250X

●エンジン型式:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ●総排気量(内径×行程):249.4cm3(78×52.2mm)
●最高出力:-ps/-rpm●最大トルク:-kg-m/-rpm●圧縮比:12.9●変速機:5段リターン
●全長×全幅×全高:2174×827×1261mm●軸距離:1481mm●車両重量:106kg●燃料タンク容量:7.3L
●タイヤ前・後:80/100-21 51M・100/100-18 59M ●車体色:エクストリームレッド1●価格:699,300円


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