1983年東京モーターショー

第30回東京モーターショーホンダ二輪車ブースのテーマは「モーターサイクル。輝く」。

この年のホンダブースには、水素燃料バッテリーと超伝導モーターを組み合わせた未来のスポーツバイク、フューチャースポーツES21、屋根付きスクーターCS-301(後にキャビーナとして市販)、ホンダ初の電動スクーターとして後にリース販売されたCUV-ES、フュージョンをベースにした初期救急活動バイクレスキューフュージョンなどのコンセプトモデルや、V25マグナ、RVF750(RC45)、RVF(400)、トランザルプ400V、DioBAJAなどの市販予定ニューモデルなど全51台が所狭しと展示された。

配置図
1993年東京モーターショーホンダ二輪車ブースの配置図。赤丸で囲った部分がスーパーカブの晴れ舞台。センターにC100、その左前がポストオフィスカブ、以下時計回りにカブラS、カブラL、東京モーターショースペシャル(スポーティ)、東京モーターショースペシャル(60's)、プレスカブ、スーパーカブ100カスタム、シティカブと配置された。

その一角にスーパーカブの誕生35周年を記念し、スーパーカブだけのスペシャルブースが設置されていた。モーターショー史上でも、スーパーカブ史上でも、スーパーカブオンリーのステージの設置は史上初の快挙であった。

華のステージ、堂々のセンターはもちろん初代スーパーカブC100(総選挙で選ばれたわけではない!)。

周りをかためるのはスーパーカブをベースにしたライトカスタムモデルたち。その前には、スーパーカブ史上おそらく初めて製作された近未来のコンセプトモデルであるシティカブが展示され、多くの観客の注目を集めた。

馬力よりもトルクよりも燃費が売りになるこの時代。1993年の夢舞台が再び再現されることは、あるやもしれない(その時はEVが主役かもしれないが……)。

初代スーパーカブ C100

初代スーパーカブ C100

「1958年の発売以来、世界でロングセラーを続けているスーパーカブシリーズの初代モデル。発売当時は、実用的で耐久性や操縦性にも優れ、小型で強力なエンジンを搭載するスポーティで高性能なミニマム・トランスポーターとして、画期的なコンセプトを持ったモデルとして広く受け入れられました。」※以下紹介文は当時のプレスリリースに書かれていたものです。

オーストラリア・ポストオフィスカブ

オーストラリア・ポストオフィスカブ

「オーストラリアで活躍している郵便配達専用車。高い経済性と耐久性を誇るCT110に自動遠心式クラッチと4速ギアミッションを組み合わせて採用するとともに、フロントとリアに大型バスケットを装備。さらに、スピーディな郵便物の配達を可能にするために、左右両側にサイドスタンドを装着するなどの工夫を凝らしています。」


これだけのカスタム&コンセプトモデルに囲まれながらもまったく引けを取らない初代C100の存在感は、今更だがさすがというより他はない。世界的な大ヒットとなったのもうなずける。1993年にデビューしたオーストラリア郵便仕様は、20年近く経過した今でも並行ものの新車が手に入る稀少なモデル。CT110との違いは、郵便配達用装備の他、12V電装、ヘッドライトと別体のスピードメーター、副変速機なしなど。

スーパーカブTOKYO MOTOR SHOWスペシャル(60‘S)

スーパーカブTOKYO MOTOR SHOWスペシャル(60‘S)

「現在ではビジネス車として愛用されているスーパーカブ。その原点モデルは、多くの人たちに愛されるスポーティで高性能な次世代コミューターをめざした提案でした。そこで、現代の若者が知らない‘60年代のテイストを現代風にアレンジし、明るく高級感のあるカラーリングデザインに加え、メッキモールなどの高品位パーツを装着することによって、ゴージャスでファッショナブルな雰囲気を演出しています。」

スーパーカブTOKYO MOTOR SHOWスペシャル(スポーティ)

スーパーカブTOKYO MOTOR SHOWスペシャル(スポーティ)

「現代のスーパーカブの性能はそのままに、発売当時のスマート&スポーティなイメージを現代風にアレンジした明るく、クリーンでポップなカラーリングのプレゼンテーションモデルです。」


アメリカで一大旋風を巻き起こしたダブルシートの初代輸出仕様CA100をイメージした`60Sは、二人乗り仕様のためスーパーカブ90がベース。フロント部分には「おっぱいかぶ」と言われた1966年モデル風のカバーを付けるなど、歴代モデルのリミックスバージョンでもあった。右のスポーティは小型のリアキャリアが、後のストリートバージョンのご先祖とも言える。

プレスカブ

プレスカブ

「宅配業務や街のビジネスシーンで圧倒的な信頼を獲得し、世界中で愛され続けている「スーパーカブ」をベースに、新聞販売店における使い勝手を踏まえて開発されたプレスカブのレッグシールド部に“Press”のロゴを大胆にデザインし、おしゃれにドレスアップした新聞配達専用のカラーリングプレゼンテーションモデルです。優れた経済性と耐久性、信頼性で高い評価を得ている、空冷・4サイクル・単気筒エンジンのスペックはそのままに、新聞サイズに合わせた大型フロントバスケットに加え、大型リアキャリアを装着し、さらにフロント・バスケット前部にヘッドライトを装着するなど、早朝や夜間の集配業務の使い勝手を考慮したモデルです。」

スーパーカブ100カスタム

スーパーカブ100カスタム

「タイで生産している100カスタムに、国内での使い勝手を考慮して仕様追加を施したスーパーカブシリーズの最上級モデルです。エンジンには、空冷・4サイクル・OHC・単気筒を搭載し、余裕の7.5馬力を発揮、始動方式はセル/キック併用式とし容易な始動を可能としたほか、滑らかな発進とスムーズな加速フィーリングをもたらす分離・独立式の自動遠心クラッチに4速ロータリーチェンジ機構を組み合わせて装備するなど、ゆとりの走りを実現しています。さらに本格的な足周りで快適な乗車フィーリングを実現したほか、国内のビジネスユースに合わせた実用的な装備を施しています。」


1991年にマイナーチェンジしたプレスカブのレッグシールドに文字を入れただけでオシャレ指数が3割増。このまま市販されてもよさそうに思えたが……。タイカブは翌年1月に輸入販売された。重箱の隅を突くと、東京モーターショーに出品されたこのモデルと市販バージョンではフロントキャリアの取付部分がやや異なっていた。この頃は、まさかタイ生産モデルのスーパーカブが国内でも主流になると思っている人は少なかったはず。

カブラ・L

カブラ・L

「現行スーパーカブにボルトオンキットを組み込み、使い勝手の向上を図りながらも、高品位なイメージにアレンジしました。」

カブラ・S

カブラ・S

「現行スーパーカブにボルトオンキットを組み込み、ヨーロピアンイメージを取り入れた、おしゃれでスポーティなスタイルにアレンジしました。」


ホンダアクセスから1993年4月に発売されたスーパーカブ用のキットパーツ「カブラ」(カブラについては次週号で紹介予定)のアレンジモデル。このパーツのうちいくつかは後に市販化されている。スーパーカブの特徴の一つであるレッグシールドをカットしたフォルムは、若者向けカスタムの定番となった。それにしてもビジネスシーンは言うに及ばず、幅広いカスタム指向にフィットするスーパーカブの懐のでかさには改めて驚かざるを得ない。

シティカブ
シティカブ


「スーパーカブの原点に立ち帰った上で、ホンダの先進テクノロジーを注ぎ込んだパーソナルコミューターとしてのスーパーカブの姿の新たな提案。片持ちフロントフォークに片持ちリアスイングアームをはじめ、オートマチックトランスミッションにベルトドライブを組み合わせ、高い静粛性と優れたメンテナンス性を目指しています。また、スタイリングもスーパーカブらしさを強調しながら近未来デザインを採用したコンセプトモデルです。」


この写真はGOGGLE1994年2月号「TOKYO散歩物語」で特撮されたもの。モーターショー直後、しかも門外不出のコンセプトモデルが貸し出されたことは異例中の異例。当時GOGGLE編集長だった中尾祥司(現本誌編集長)によれば「ダメ元で企画を出したらすんなりOKが出た」とのこと。1990年代初頭は、まだまだおおらかな時代だったのだ。エンジンは当時の現行スーパーカブのものと思われるが、前後片持ち、デジタルメーター、ケーブル類はビルトイン? という先進的な手法も取り入れられていた。スーパーカブのイメージをトレースしつつも、未来的なイメージとなったフォルムデザインは、このまま次世代のスーパーカブとして通用する秀逸なものであった。このモデルは現在も保管されているようなので、スーパーカブ100周年の時にはお目にかかれるかも知れない(あと46年後ですが……)。

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