780*600 四角形


用途に合わせ、時には用途を新たに作り、ありとあらゆる種類のバイクが用意されていたバイクブームに育った現在40代以上の世代には信じられないことかもしれないが、つい先日までヤマハ現行モデルに、売れ筋の大型ツーリングモデルがラインアップされていなかった。
かといって、膨大な開発費や労力を投入し、ニューモデルを作るということも簡単にできない時代である。
ならばどうするのか? その答えのひとつが2011年9月からレギュラーモデルとして販売が開始されたFZ1 FAZER GTである。
その経緯は次回、開発者インタビューでじっくり読んでもらいたい。まずはその実力を濱矢文夫がインプレッションして解説する。


スーパースポーツではないフルカウル大排気量ロードモデル、一般的にツーリング向けとされるバイクの中で、FZ1 FAZER GTのライバルとなるのは、価格的に近いスズキBANDIT1250F。値段は少し高いが、俗に言うストリートファイター系をベースにしたという同じ成り立ちのカワサキNinja1000。Ninjaと同価格帯のホンダCB1300 SUPER BOL D'OR。国内4メーカーに対抗馬がある。

●エンジン型式:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ●総排気量(内径×行程):998cm3(77×53.6mm)●最高出力:69kw(94ps)/9000rpm●最大トルク:80Nm(8.2kg-m)/7500rpm●圧縮比:10.5●変速機:6段リターン●全長×全幅×全高:2140×770×1205mm●軸距離:1460mm●車両重量:225kg●燃料タンク容量:18L●タイヤ前・後:120/70-17 58W・190/50-17 73W ●車体色:ダルパープリッシュブルーメタリックX●価格:1,134,000円 車体色、価格以外はFZ1 FAZERスタンダードモデルの諸元値です。

この中でスペック的にFZ1 FAZER GTのアピールポイントとなるのは、BANDITとほぼ並ぶリーズナブルな価格と、Ninjaと近い車体重量の軽さになる。


ツーリングで気になる燃料タンク容量は、全車それほど大きな差はない(CBが幾分か多い)。

フルカウル化と大きなスクリーン、ヘルメットホルダーという装備が加わったもので、中身はベースとなっているFZ1 FAZERから基本的に変わっていない。変更箇所はとても少ないけれど、乗ってみると大きな効果を発揮した。

スクリーンとフルカウルは、想像したとおり、高速道路で乗ると違いはてきめん。身長170cm、68kgのライダーが普通に跨って、伏せもせず、気合いも入れず、「今晩の晩飯はなんじゃらほい」などと考えながら流すような状態でも、向かってくる風を防いでくれる。

※スタートボタン通すと動画を見ることが出来ます。見られない場合はYouTubeで直接ご覧ください。Youtubeの動画ページへ

とくに上半身は、スクリーンの上を通った風が、ヘルメットの上や両肩をかすめながら流れていくのが判る。速度を上げてもそれは変わらず、ヘルメットを前から押されるような、身体を後ろに持っていこうとする力がかからない。右向いたり、左向いたり、身体を動かしたりするのが楽だ。

大リーグボール養成ギブスを装着したような(装着したことはないけど)風の抵抗を感じるネイキッドバイクでの高速巡航とは別世界。高速になっても街中走行に近い日常があった。

ちょっと尻上がりで、この身長だと両足裏はベタ着とまではいかないけれど、アップされたハンドルは近いので大きさが気になることはない。YZF-R1のエンジン(現行モデルではない)をベースにしたものをアルミフレームに積み、しっかりした足廻りを与えられた走りは、ワインディングでも俊敏に動ける高い運動性能を持っている。スロットルを積極的に開くような走りをすると楽しい。とにもかくにもフットワークは軽快だ。エンジンはどのギアに入っていてもパワフルで面白いように加速する。

どこからでも加速するという楽しさのためか、トップ6速の80km/hで3千回転、100km/hで4千回転と、若干エンジン回転数が高め。燃費が気になる人や、ゆったり長距離を走りたいという人は気になるところ。6速の変速比が1.208だから、加速の繋がりや、1次/2次減速比との兼ね合いもあるだろうが、6速がもう少し1に近づけばいいかも(具体的には1.1くらい)。それでも高性能ツーリングモデルとしても魅力は充分だけど。

だから私が思ったFZ1 FAZER GTが似合う旅のシチュエーションは、土曜日朝に出発して、高速、ワインディングで走りを堪能して、景色の良い道を楽しみながら露天風呂が気持ちいい宿に一泊、次の日はゆっくり出発して愉快に走って、お土産を買って日が暮れる頃には帰るという使い方。

耐久レースのようにどこまでも止まらずに走る旅より、官能的な走りを楽しんで、美味しいものを食べて、さっと帰る。たぶん、そういう楽しみ方をしているライダーはとても多いと思う。FZ1 FAZER GTはそれにピッタリはまる。

※写真をクリックするとライディングポジションが見られます。

FZ1 FAZER GT

FZ1 FAZER GT

FZ1 FAZER GT

FZ1 FAZER GT

FZ1 FAZER GT

[FZ1 FAZER GT開発者インタビューへ]