KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Ueshima
KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Masuda
KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Matsuda
KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Furuhashi
KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Uchino
KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Kado
KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R Yamato
※KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R
■ホリゾンタルバックリンクリヤサスペンション

* 新しいリヤサスペンションはショックユニットとリンクをスイングアームの 上方に配置。
* スイングアーム上部に配置されたホリゾンタルバックリンクリヤサスペンションは、高荷重設定時にもスムーズな初期作動と路面追従性を実現します。コーナリング時の優れた安定性とフィードバック特性も特徴の一つ。独特の配置によりマスの集中化にも貢献しています。
* スイングアーム下のスペースを占有しないホリゾンタルバックリンクリヤサスペンションの採用により、大容量プレチャンバーの装備が可能となりました。プレチャンバーの大容量化にともないマフラーのショート化も実現し、大幅なマスの集中化を達成しています。
* フレーム側ショックユニット取り付け部(メインフレームの上側クロスメンバー)と、スイングアームピボットとの距離を従来モデルよりも延長。従来モデルでは、その周辺に集中してしまっていた剛性をフレーム全体へと均一化し、最適なシャーシバランスを得ることが可能となりました。
* フルアジャスタブルショックには、ピギーバックリザーバータンクを装備。低速&高速の二系統の圧縮減衰調整が可能で、サーキット走行に対応したチューニングが施されています。
* BPFとホリゾンタルバックリンクリヤサスペンションの組み合わせにより、優れたピッチングコントロール性を実現します。 * エンジンおよび排気系からの熱の影響を最小限に抑えることで、安定したダンピングパフォーマンスを発揮します。

■アルミニウムスイングアーム

* スイングアームは、フレームと同様に鋳造製法で、3つの部品で構成されています。新設計のメインフレームと組み合わせ、最適な剛性バランスとなるようデザインされています。
* 複雑な面で構成されたデザインにより、独創的な外観と高品質なイメージを演出しています。

■シャーシジオメトリー

* クランクシャフト位置:28mmアップ。トランスミッションインプットシャフト位置:107mmアップ。エンジン内部の重量物を上方向へ移動し、車体重心に近づけることでハンドリングを向上させています(車体重心位置は前モデルと比較して4mm下方へ移動)。
* スイングアーム長は、パワー特性、ピボット位置等を考慮した上で、最良のトラクションを得られるよう、設計されています。ニューNinja ZX-10Rは、ロングスイングアーム化による、穏やかな挙動やスムーズな動きよりも、動きの良さによるフィードバック性能の向上を優先し、より短いスイングアームとしました。スムーズなエンジン特性も、ショートスイングアーム化達成の一助となっています。
* より立てられたキャスターと短縮されたトレールが、俊敏なハンドリング性能に貢献しています。
* シャーシジオメトリーの変更により、フロント部のフィーリング向上に大きな効果を得ることができました。コーナリング時のフロント荷重を増やすことが可能となり、安定性が向上。コーナー脱出時にウィリーする傾向も抑えることができました。
* サーキットなど、エキゾートプレチャンバーをはずすことができる環境で使用する場合は、チェーン長をリンク2つ分短縮(ホイールベースを16mm短縮)することも可能。シャーシジオメトリーをライダーの好みに合わせ変更することができます。
※KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R
ニューサスペンション

■BPF(Big Piston Front Fork)

* φ43 mm新型BPFの採用により、さらに安定したブレーキングが可能となりました。同サイズのカートリッジタイプフォークと比較して、メインピストンの受圧面積を約4倍(BPF:12.3cm2 、ZX1000F:3.14 cm2 )に拡大することで、同様の減衰力を保持したまま減衰圧を減らすことが可能になり、より滑らかな作動性を確保しました。特にストローク初期に優れた作動性を発揮し、減速時など荷重が前方に移動するような場合でも、フロントフォークがスムーズにストロークすることで高いコントロール性と安定性を実現します。
* BPFはカートリッジタイプのフォークに使用する多くの内部部品を使用しないシンプルな構造で、フォーク全体の重量を軽量化しています。
* 圧縮側と伸側の減衰力調整スクリューは、フォークチューブ・トップキャップに配されています。プリロードの調整は、フォークチューブの下部で可能です。

■軽量ホイール

* 新デザインのグラビティ鋳造製法3スポークホイールを採用。従来モデルと比較して、フロント:330 g 、リヤ:490 g の軽量化により、バネ下重量を低減しています。

■ブレーキ

* ラジアルポンプブレーキマスターシリンダーとトキコ製ラジアルマウント4ポッドブレーキキャリパーの組み合わせにより、優れたブレーキパフォーマンスを実現。初期制動での繊細なコントロール性と、二次曲線的に立ち上がる強力な制動力が特徴的です。
* φ310 mm フロントペタルディスクは厚さを5.5 mm とし、高い熱容量を特徴としています。サーキット走行などの激しい使用条件下でも、安定したブレーキフィーリングと制動力を発揮。
* フロントディスクには、アルミニウム製インナーローターの採用により、バネ下重量を低減。フローティングピンは高剛性で放熱性に優れた軽量10ピンタイプとし、安定したブレーキパフォーマンスを発揮します。
* リヤブレーキには、φ220 mm ペタルディスクとφ30mmシングルピストンキャリパーを装備。

■バックトルクリミッター

* ライディングスタイルに合わせ調整が可能な、バックトルクリミッターを搭載。スムーズなシフトダウンを可能にするとともに、ハードブレーキング時にもリヤタイヤの挙動を安定させます。
※KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R
* 新しいフューエルタンクは、コーナリング時の前腕と内腿によるマシンホールド性をさらに高めた形状。
* 調整式フットペグを採用。ストリートライディングでは、下側のポジション(15mm下)とすることで、よりリラックスしたポジションが可能。
※KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R
アグレッシブ&エレガントスタイリング

新しいNinja ZX-10R のしなやかなデザインは、優雅さと力強さ、そしてアグレッシブさを持つ黒豹をイメージして造られました。 サイドからのフォルム、低く構えたフロントフェアリング、マスの集中化、高品質なフィット感と仕上げ、細部までこだわり抜いたディテール。 どこから見てもカワサキの最新型フラッグシップスーパースポーツの、魅力的なプロポーションを生み出しています。

■ボディワーク

* 完全新設計となったボディワークは、直線的でエッジを強調したデザインではなく、「しなり」を取り入れ曲面を活かしたデザインを採用。カラードパーツとブラックパーツを効果的に組み合わせることで、シャープでアグレッシブなイメージを生み出しています。
* サイドフェアリングに大きな開 口部を設けることで、エンジン の排熱を促進。
* ラインビームヘッドランプの採用により、フロントカウルをショート化。また、シャープでアグレッシブなデザインにも貢献しています。
* LED(3バルブ)ポジションランプは、ラムエアダクトの上部に配置することで高い被視認性を確保するとともに、アグレッシブなスタイリングパッケージにも貢献。
* 国産量産モデルでは初となるLED(2バルブ)ターンシグナル内蔵ミラーを装備。サーキット走行を考慮し、ターンシグナルの配線をカプラー接続とすることで、ミラーの取り外しを容易にしています。
* 均整のとれたフューエルタンクは、デザインテーマである「しなり」を取り入れた造形としています。容量は17リッターを確保。
* 9つのLEDバルブを装備するコンパクトなテールライトが、精悍な印象を与えます。
* 欧州仕様車にはテールカウル内蔵のターンシグナルを採用。北米仕様車は、リヤフラップにコンパクトなターンシグナルを装備。
* パイプスタイルのステーが特徴的なリヤフラップは、サーキット走行を考慮し、容易に取り外せる構造としています。
* リヤインナーフェンダーはリヤブレーキホースのガイドとしての機能も持たせることで、マシン後部のすっきりとしたデザインに貢献しています。
※KAWASAKI 2011 Model Ninja ZX-10R
先進テクノロジーが限界を探究するライダーをサポート
予測型レースタイプ・トラクションコントロール

■S-KTRC(Sport-Kawasaki TRaction Control)
- MotoGPマシンからフィードバックされた技術をベースに開発
- 高性能トラクションコントロールシステムにより、高い次元の走りをサポート
- トラクション限界域でのライディングを実現し、加速性能を最大限に引き出す
- 前後輪のホイールスピードに加え、車速、エンジン回転数、スロットルポジション などをパラメーターとし、その値と変化率を常に演算処理。 マシンと路面の状況を把握し、即時かつ最適なトラクションを制御
- 1/5,000秒ごとに状況を確認
- パラメーターからのデータを複合的に分析することで、好ましくないトラクション状態に陥る前に感知
- 高度なソフトながらシンプルなハードウェア構成とすることで、重量増を最小限に抑制
- 幅広い状況に対応するモードを3種類設定し、オフ機能も装備

* カワサキ独自のロジックを基に、走行データを複合的に解析。コーナー立ち上がりの加速時に、大きく変化するリヤホイールスリップ率の推移を予測します。過剰なスリップが起こる前に最小限のパワー制御を行い、安定した車体姿勢のまま最大限のトラクションを得ることが可能です。
* S-KTRCはスムーズにフロントホイールが上がっていくパワーリフトと、突然フロントが上がる危険なウィリーの判別が可能。スロットルによるコントロールが可能なパワーリフトは持続できますが、危険なウィリーに対してはシステムが介入します。
* S-KTRCは1/5,000秒毎に演算処理を行い、イグニッションによるパワー制御を行います。
* S-KTRCは、路面状況や走行スタイルなど、様々な状況に適した3つのモードを設定。ライダーの技量や好みに合わせて選択が可能です。全てをコントロールしたい、というライダーのためにシステムをOFFにすることも可能です。
* S-KTRCは高度なプログラムによるソフトウェアで、ハードウェアはエンジンECU及びフロントとリヤのホイールスピードセンサー(ABS用センサーと共用)のみ。重量増加も最小限で、ハンドリングに影響を与えません。
* システムの作動は、インストゥルメントパネルのレベルメーターにより確認することができます。

スーパースポーツ専用・超高精度ABS

■KIBS(Kawasaki Intelligent anti-lock Brake System)
※ZX1000Kのみ
- マルチセンシングシステムにより、高精度な液圧コントロールを実現
・ABS介入時の減圧を最小限に抑制
・ABS作動中でも、ブレーキレバーフィールを維持
・スムーズなABS作動パルス
- スポーツライディング時における利点
・リヤタイヤのリフトを抑制 ・スムーズな作動により、ライダーの平常心を維持させる
・シフトダウン時のリヤブレーキのコントローラビリティを保持
- 世界最小、最軽量のABSユニット
・モーターサイクル用に専用設計されたABSユニット
・従来のユニットよりも45%小型化、800 g 軽量化
・ABS非装備車と比較して、追加重量はわずか3 kg(バッテリー大型化による重量増を含む)
- ユニットを重心マスに近い、左側のエンジンシリンダー後部に装備

* KIBSは、一般的なABSモデルで使用されるフロント&リヤのホイールスピードセンサーからの情報に加え、多くのパラメーターを用いるマルチセンシングシステムを採用しています。KIBSが検知するのは、フロントキャリパーの液圧のほか、スロットルポジション、エンジン回転数、クラッチの断続状況、ギアポジションなどエンジンECUからの様々な情報。KIBSは、これまで全く別々に作動していたエンジンECUとABS ECUが、相互交信により情報を共有する、量産車で初めてのシステムです。
* 緻密に液圧を制御することにより、過剰な液圧低下による制動力の低下を最小限に抑えます。作動時のレバーフィールも繊細で、不安を感じさせるような振動ではなく、液圧の変化によるパルス感をスムーズに感じられるよう設計しています。
* 高精度な液圧制御が、スポーツライディングに多くの恩恵をもたらします。
(1)リヤリフトの抑制
(2)作動時のキックバックを最小化
(3)過剰なバックトルクにも対応
* スーパースポーツモデルは、モーターサイクルの中でも特にピッチングモーションが大きく、ハードブレーキング時には、リヤがリフトしやすいという特徴があります。KIBSはフロントキャリパーの液圧を緻密にコントロールすることにより、リヤのリフトを低減します。一般的なABSシステムと比較して、以下のような状況でKIBSが有効となり、安定したブレーキングが可能です。
(1) ABS作動開始時…急激な液圧上昇により、リヤリフトが起こりやすい。
(2) ABS作動後…リヤホイールのロックを防ぐための急激な減圧により、 リヤリフトが起こりやすい。
* KIBSは、緻密な液圧制御を行うことで、レバーへのキックバックも最小限に留めています。最小限液圧制御によるスムーズな作動で、スポーツライディングにおけるライダーの集中を妨げません。
* KIBSは過剰なバックトルクにも対応し、シフトダウン時のリヤブレーキコントロールを可能にします。KIBSは、スロットルポジション、クラッチの断続状況、ギアポジションを検知するため、バックトルクの原因がシフトダウンによるものなのか、高回転からのスロットルの急閉によるものなのかを判断。急激なエンジンブレーキによる不要なABSシステム作動を抑止します。
* KIBSユニットは世界採用、軽量のボッシュ製。量産車初のモーターサイクル専用ABSユニットです。
* KIBSユニットは、従来モデルのABSユニットよりも約45%小さく、800g も軽量となっており、ABS非搭載モデルからの重量増は3kgとなっています。(3kgのうち1 kg は、容量の大きなバッテリーによるもの)
* KIBSユニットは、エンジンシリンダーの左側後方に配置。重心に近いところに設置することでマスの集中化に貢献しています。

■バリアブルパワーモード

* Ninja ZX-10Rには、3つのパワーモードを設定。ライダーの好みや走行状況に合わせてエンジン特性を選択することが可能です。
(1)FULL フルパワー
(2)MIDDLE スロットル操作により可変
(3)LOW フルパワーの約60%
* 「MIDDLEモード」では、エンジン回転数とスロットル開度によりLOWとFULLの間で出力特性が変化。スロットル開度50%以下では「LOWモード」同様のエンジン特性ですが、スロットルをさらに開けることにより「FULLモード」と同程度まで出力を向上させることができます。

Q:コンセプトの話に戻すと…

上嶋:「エクスプロア・ザ・リミット」。要は限界を探求できるマシン、を作ろうがコンセプトでした。ライダーが攻められる、攻めに集中できるマシン、とっつきやすさにも通じるのですがコントローラブル。高いところを探求するために、いろんなモノを取り込んで作り上げていったというのが今回のこのクルマです。

松田:皆で話し合った。「限界に無謀ではいけないね」「安全であり安心じゃなきゃいけない」等々。先ほど出た「フィアー」という話があったんですけど、これまでのクルマは、刃先が自分の方に向いとったと思うんですね。両刃の剣みたいに。そこで自分の方に向かっている刃のところは削り落として、でも“牙”のところはちゃんと持っていたいので、そこのところは磨き上げる。

あくまでリーディング・エッジするところは磨き込んで、それでいて自分達には扱いやすく。日本刀のように峰の部分がちゃんとある、ヨーロッパみたいに両刃のソードではなくてですね。

限界を攻めていくんだけども安心で入りやすい。そのためにはとっつきやすさが必要ですね。それを実現する技術は何だろうか、と。エンジンも車体も電子制御も。限界性能がカワサキのイメージなんですけど、間口を広げてその手前の人にも一緒に冒険しましょうよというところを目指した、それが「EXPLORE THE LIMIT」なんです。

Q:他のエンジンレイアウトは考えなかったのでしょうか?

上嶋:MotoGPでいろんな爆発の研究をやってきました。今も様々なテストをして我々は膨大な直4のノウハウを持っている。その技術を背景に今回は“スクリーマー”タイプの直4を選んだわけです。いい部分悪い部分当然あるんですが、いい部分を伸ばして悪い部分を極力減らしていく、という方向で取り組みをしました。

スロットルを開けていくところではR1が採用しているクロスプレーンタイプに良いところがあるんですけど、スクリーマータイプでも改良していくことで近づけていくことが出来る。逆に減速部分はスクリーマータイプの方が良い。だから開発では減速から開け始めのところには特に気をつかいました。そして、180度クランクに関しては絶対の自信があります。ノウハウがいっぱいありますから。

松田:V4か、インラインフォーか、公道を度外視した上ではどちらが良いのか結論はまだ出ていないと思うんです。やっぱり良いところと悪いところがあってね。V4っていうのはマスが集中しやすいというメリットがあるんですけど、ウェイトトランスファーにデメリットがある。

インラインが良いのかVがいいのか、断言できないですね。でもカワサキとしては、より多くのライダーに、ということで考えればインラインフォーの方が向いていると思うんです。間口の広さっていうか、乗り味ですね。やっぱり重心がある程度高くてフロントにロードがかけやすいとか、お客さんにもメリットがある。

Y社さんの“クロスプレーン”、我々は“ねじれクランク”と言うんですけど、カワサキも実はずいぶんと昔から研究はやって来ていて、けっして新しい技術じゃないんです。確かに良さはあるんですが、それが一般ユーザーにもメリットになるのか、コストも上がるし重量も重くなるので、みんなが喜ぶことなのかな、とまだクエスチョンがあると思うんですね。我々としてはスクリーマーと呼ばれるインラインフォーにまだまだ伸びシロがあると考えてます。

山戸:前モデルの188馬力でも苦労しました。ピーク出力については、当時行き着くところまではいったなという感じがありました。新型10Rの目標200馬力は正直無理ちゃうかな、と思っていた時期もありましたが、でも1馬力、0.5馬力をくみ取って行こう。その小さな積み重ねと努力が200馬力になったと今は思ってます。

Q:ZX-9Rですとかその前のニンジャ900などはすごく頑丈なエンジンだったと思います。今回のモデルでは軽くなった、コンパクトになった、などと説明されましたが耐久性の面は?

山戸:軽量、高出力化になるにつれて、当然耐久性は厳しい状況にありますが、9Rやニンジャ900等と同等以上をキープしてます。

Q:環境面は?

上嶋:キャタライザーの形状がまったく変わった。チャンバーの中に入れるようになりました(従来はマフラー部分)。触媒の耐久性に関しては、例えばアメリカのレギュレーションでは決められた距離を走行した後に排ガス値をクリアーする必要がある。スロットルボディにアイドルスピードコントロールバルブを付けましたが、更なる厳しい規制に対応するために採用した技術です。

Q:エンジンの開発にプライオリティはあったのですか? 重要なテーマは?

上嶋:プライオリティですか。高出力とコントローラビリティの両立。このふたつがやはり今回のエンジンの2大コンセプトです。

Q:中速域のところが細くなっている?

松田:不必要な中間トルクの山を落とした、絶対値を落としたと言うよりは、山の部分を落とした、削って滑らかにしたと考えてください。要はチューニングなので、どこかに集中させてしまうと、山は出るけど谷も来ますよね。あえて少しずらすことで平滑化したということです。トランジェントという部分ですね。

カワサキの考える制御というのは電気で何もかもすればいいとは思ってないんです。あくまでライダー主体で機械的なところも大事にしたい。トランジェントというのは前の状態と次への操作というものの結果ですが、ベンチでは数値としてハッキリ出なかったりするのです。ただ荒っぽい言い方をすると全開トルクでおかしいところは、パーシャルもおかしいんですよね。なので、よくエンジニアがトルク、トルクといいますが、エンジン担当は全開トルクの話が多いですけど、やっぱりそこの部分である程度キレイに磨いておくと、実際の走行試験でも良い結果が出ますね。

F.I.でやるから何でも出来るって機械屋が適当なことやると、逆にF.I.で出来ることは狭くなってしまうんです。結局使えないものになってしまう。機械屋の仕事のところと電子機器のところのバランスを取る。そこら辺が200馬力へのノウハウに繋がってたりするんですね。

Q:基本的なレイアウトですが。

上嶋:初代10Rは、極力エンジンをコンパクトに作る為に、クラッチ軸を他社とは異なる三角形の下側に配置した。コンパクトに極力軽く小さく作る場合は、そのレイアウトになる。うちのMotoGPマシンもクラッチを下方にレイアウトしてましたので。今回、車全体で重心位置を最適化する為に、クラッチ軸の位置を変更して上に上げたり、クランク軸の位置を持ち上げました。

増田:重心はライダーに出来るだけ近づけたい。マシンの重心位置じゃなく、ライダーが乗ったときの全体の重心位置に近づけるということでマスの集中化を行うようにした。

Q:ライダー込みで重心を考える?

松田:マスの集中というのは複雑な話です。マスの集中化が難しかった時代はマスの集中化といえばフィーチャーになったんですけど、ある程度今は設計もだいぶいろんな材料が揃って、ある範囲で言うとマスを集中させ過ぎるのも良くないんです。

ロール軸という話がありましたが、二次旋回、定常旋回となると大体、中心を一つの線だとしたら路面に対して水平の線になるのですけど、倒し込みの最初の時って言うのは実はそこが軸じゃないんですね。後輪の接地面からだいたいフロントフォークに直角方向になるんですね。その後、軸が寝てくる。そこの、トランジションというのが実は扱いやすさに影響してくるんです。一概に集中と言うことも出来ないんです。エンジンもトランジション、車体もトランジションするのでじゃあどこでどう寄せて、どこで散らしてというバランスが大切です。

クラッチを下にするのがいいのか上にするかは、先にどっちのメリットを取って、後でデメリットに対処するかの順番が変わる。エンジニア次第でしょうか。これは個人の考え方なんですけど、前の10Rのクランク位置は低い位置にあったので、ロール軸に対しては安定方向にあったんですね。下に離れてることで。先ほどの話の、倒し込みのその次の段階ではいいのですけど、そこの部分(倒し始め)に関してはネガがあったはずなんです。

増田:今回のクルマではかなりそれをイメージしています。ライダーは動いてしまうんですけどね。

Q:シート高はちょっと高く?

増田:重心をライダーに集めるというのに関連している。

Q:バランサーを採用してますが?

上嶋:12Rに採用していた1軸2次バランサーを今回採用しました。1軸2次バランサーは、簡単に説明すると、振動をキャンセルするためのシステムではなく、方向を変えるものです。人間が感じやすい上下の振動を前後方向(人間が感じとりにくい)に変える狙いで採用しました。採用にあたっては、議論はかなりやりました、採用した分重たくなったり、エンジンの強度面でも大変になりますが、いろいろな議論の上、つけた時のメリットの方が上回った。振動に関するプロジェクトチームを作って検討、テストをしてそれで採用を敢えて決めました。ハンドルウェイトを軽くでき、ハンドリング面でメリットが大きい。そして、結果的にトータルでは重くなっていないです。

Q:ボア×ストロークは変えていないが。

小嶋:もっと大きいボアも検討しました。当然大きくしていくとメリットとデメリットが出ます。我々がボア×ストロークを考えるときは燃焼ということを一番に考える。ボアが大きくなると、燃焼室のデコボコが大きくなる。1000ccスーパー・スポーツ車では、76mmというのはその点で良い数値だと考えます。高回転、高出力化に関するテストも色々やってるんですけど、初代と同じ76mmという数値でも高回転化出来るという答えが導き出せた。それで76mmに落ち着いたということです。同じボアならこれまでのノウハウも活かせるので。

Q:車体まわりでは?

増田:コンセプトとして“扱いやすさ”があったので、フレームにも素直なねじれをさせたかった。オーソドックスなツインチューブフレームにすると幅は広くなりますが、変曲点のない素直なねじれ方をするような狙いで採用した。ボルトオンじゃなくて一体構造でエンジンを支えている。先代のボルトオンタイプの別体のエンジンマウントは重量の割に剛性が高くないですね。

Q:他社と似てきて個性的でなくなったのでは?

松田:200馬力を受け止めるフレームって何だ、で作った結果。特徴よりも“勝つため”に、で割りきれた。そもそも我々もMotoGPでやってるカタチで真似ではないですし。前の形状は幅が狭くて、横から見ると迂回していますが上から見るとまっすぐに近いですね。縦剛性が出しやすいですけどねじりに弱い。

今回のヤツは縦は出しにくいけどねじりが出しやすい。幅もありますし。モノのカタチを決めるとそれには力があって開発の方向も自動的に変わっていくということがあります。幅が広がった車両にするとブレーキの縦の方が少し苦手になるんですけどねじりは出しやすくて、倒し込みの方が良くなっていく。剛性面ではちょっと不利に働いているんだけど、軸配置によって助けられてくる。要はバランスなんです。どっちがいいかというのは難しい話で、その時はそれでチャレンジして回答を出して、今回もそれで一つの回答を出していると言うことですね。

上嶋:600の開発にも係わってきている話です。

門:6Rの開発のなかで、フレームのクロス形状とかが二次旋回のトラクション部分に効いてくるなど色々な経験をできた。それらも踏まえて10Rの改良していったんです。アッパークロスの位置を動かしたらメリットが大きかったんです。それで今回も何とかものにしたかった。2010年モデルの縦剛性、ブレーキング時の安定性というのはすっごくレベルが高いのでこれも絶対捨てたくはない、ということで何とか継承していこうとトライをしていった結果、進入から旋回、加速まで、全て高次元でバランスが出来たなと思ってます。

Q:スイングアームを短くした?

増田:スイングアームは従来モデルよりも20mm伸ばしてます。元々他社のように長くないですから、スイングアームは伸ばしてもホイールベースは短くしておきたかった。

Q:車体周りを中心に軽量化の話を。

増田:メインフレームではエンジンプレートを一体化して軽くしました。Fフォーク“BPF”はトータルで1.4kg軽量化。ホイールは3本スポーク、中空タイプを採用して前後で800g以上、バッテリーも液入り(ジェルタイプ、YTZ7S)で軽量化。容量も小さくできてます。フレームねじり剛性は7%アップ(エンジン付き)、スイングアーム18%アップできてます。

Q:トラクション・コントロール、ABS関係では?

上嶋:ABSユニットは従来我々が使っていたものに対してかなり小さくなりました。もともと四輪用をベースにしていたのですが、今回は二輪専用にしてかなり小さくできました。

門:こんな小さいモーター、ポンプ、コンパクトなシステムで同じ性能が出せるんですか? いや出せるんですよ! というのが今回のABSのウリだと思います。あくまでABSはABSなんで、けして短く停まるためのもんじゃない。直線での制動をサポートするだけなんですけど、敢えてこのスーパー・スポーツにトライしたというのは、実際に車体につけてもスポーツライディングが楽しめるんだというのをやってみようといことで、今回トライした。

松田:トラクション・コントロールですが、今出ている競合他社のモノはカワサキとしては、トラクション・コントロールとは呼べないと考えています。“トラクション”というのは路面をかんで前に進む力です。加速に繋がらないような制御はトラクション・コントロールじゃない。

これまでのものは、前輪のスピードと後輪のスピードを比較して、前よりも後ろの方が回っているのを“スリップ率”と呼んでますが、このスリップ率を計算してこれがある程度の目標よりも高かったら制御して加速度センサなどで補正しているわけです。

一つめの問題は、二輪ではタイヤが丸いので車体が寝ていくと接地点が変わって、回転半径が変わるわけですよ。寝て行くとタイヤの回転が上がってしまうんです。この見た目のスリップ率の変化をバンク角センサーを使って補正しています。機構上のネガを打ち消すためだけにユーザーがお金を払わされているし、そもそも路面が傾いていたら誤検知してしまう。加速度センサーにしても登りや降りでは重力を拾ってしまう。

しかもこれはトラクションをコントロールしていない。スリップをコントロールしているだけなんですね。これは我々で言えば2000年くらいの技術といっていいです。

じゃあ本当のトラクション・コントロールは何かって言うところです。タイヤはゴムのグリップ力を前に使うか、横に使うか、斜めに使うしかないです。前方向に目一杯使っちゃったら横に力は使えない。簡単にスリップダウンします。横に目一杯使っていると今度は前に進まないんです。その前100%と横100%の中間でオートバイというのは走っているんです。

だからその状態を適切に判断して今どこでどのくらいグリップ力を与えればいいかを考えないとトラクション・コントロールにはならない、ということです。スリップ率だけ見てたらそんなことは出来ないですね。

そこでどうするかというのが実はミソです。もう一つ重要な要素、グリップ力、摩擦量というのはどんどん変わるんです。荷重が抜けると小さくなって荷重が増えると大きくなる。この荷重の大小も分からないとコントロールできないんですね。そんな様々な条件を判断するために“オートバイのモデル”というのが必要なんです。どういう状態で走らすのが一番いいか、分かる範囲のセンサーからの情報で推測するんです。今どのくらいトラクションをかけていいかをですね。

これをシステム屋が生真面目にやろうとすると、センサーいっぱいつけてもう一つECUを積むか、となってしまうわけです。我々は二輪屋なので機械も電気も一体で考える。限られたコストの中でツボを押さえて発想し実現させたのがS-KTRCなんです。

主体的なトラクション・コントロールを実現するには、常に“ベスト・トラクション・エリア”の状態を維持しなければいけない。そのために“バイクモデル”をECUの中に入れたんです。エンジン回転数の情報だとか、スリップ率の変化とか、ライダーの状態、アクセル開度とかをセンシングして、こういう状態だったらコントロールをこれぐらいかける、かけない、といった判断しながらやっている。

刻一刻と変わるオートバイの要求を今持っているセンサー情報だけで推定しているんです。スリップ率という単純なものに甘んじずに、オートバイの要求するトラクションレベルを事前に設定して、まだ我慢できるウチはコントロールをかけないんです。決め手は予測です。ある物理量の変化を読んでその次何が起こるかを判断して、先に先にと手を打ってます。

バンク角センサーや、ジャイロセンサーに頼って判断するとフィルタ処理などで0.1秒近く遅れます。コーナーでの0.1秒というのは大きいでしょ。10メーターくらい走っちゃう。10メーターブレたらもう間に合わない。それを補うためには予測が不可欠なんです。

我々のS-KTRCは5/1000秒単位で新たな状態を判断しオートバイのモデルを使って予測し直すコントロールしています。

予測するための推定ロジック、それが“オートバイのモデル”なんです。モデルをもって推定し、予測した上で、ライダーからの操作情報などを入れて初めてトラクション・コントロールになるのです。

さらに、ウイリー・コントロールも実現出来ています。しかし一方でウイリーしないバイクは遅いのです。ウイリーにも危険なモノと好ましいパワーリフトがある。この二つをチャンと判断して、しかも、コントロールもマイルドにしたりハードにしたり走っている状況に合わせてあげることが肝心です。これがS-KTRCのもう一つの売りです。

お忙しいところ貴重なお時間を頂き、大変ありがとうございました。

       | ZX-10R開発者インタビューのトップページへ | このページのトップへ | Ninja 1000開発者インタビューへ |

       | カワサキ2011年モデルのトップページへ | Ninja 1000のページへ | W800のページへ | カワサキZX-10Rのスペシャルサイトへ |