KTM 990 SM-T Title

KTM 990 SM-T midashi

KTM 990 SM-T

バイクに跨ってから、左右についたパニアケースを後ろ手に軽くなでる。

うっかりどこかにぶつけないためのお祈りだ。自宅から20分。渋滞気味の道を離れ、帝釈天を左手にみながら土手沿いの道を進む。 「今日は寒いでしょう」──そんな予報に今年初めての冬装束。

路線バスを先頭に続く川沿いの道。のんびりした車列の中にあって30日ほど季節先取りに見えるに違いない。

信号で止まる。アディダスの靴で蹴り、iPodから伸びたイヤホンで自分の世界に入り、オークリーのサングラスで外界と遮断した人が土手の上を走って行く。その反対からベルのヘルメットの人が、マングースの MTBで上流に向かって走って行く。

そんな光景を僅かな停止時間に見る僕はオーストリア製のKTMのクラッチをつないだところだ。

外環に上がった。澄んだ空気が関東平野を縁取る山の稜線をいつもより近くに見せているように思えた。

冬じゃん。濃い空気の中を990SM-Tは快調に走る。

スムーズさと鼓動感、それにレスポンスの良さを持ち合わせている。2000rpmちょっと回していれば、あとは9000rpm+まで欲しいだけの加速を提供してくれるそのエンジンは、実に多才だ。

クロモリパイプを使ったスペースフレームにWPサスペンションの取り合わせとそのエンジンは高度にチューニングされていて、ものすごく調和している。

例えばエンジンの特性だ。右手の開け方一つでいかようにでも調整ができ、二人乗りで後ろの人に催眠術をかけるような走りも出来るし、サーキットをアグレッシブに走ることもできる。これはKTM製ストリートバイクに共通する旨味だ。

ロングスクリーンと快適なシートに交換されたことで、よりツーリング対応となった990SM-Tは実に乗り心地がいい。そして走行風に抗して疲れることもなく目的のインターチェンジまでたどり着いた。

道はすぐさま標高を上げて行く。パニアケースが付いていることをわすれるほど気分良く駆け抜ける。

スーパーモトTの由来はツーリング、すなわち旅から来ている。でも、このバイクは「ツアラーなんだからさぁ」と、決して乗り手を縛らない。

気温はぐっと下がる。メーターにある外気温計は5度。でも走り続けたいという気持ちが、穏やかに体温を上げて行く。

KTMが言う“READY TO RACE”って、ライバルを打ちのめすという血なまぐさいことよりも、むしろ乗り手の内面をハッピーにするスローガンなんだと思う。

※KTM 990 SM-T

オフロードレースで磨き上げた速さとは、乗りやすさだと思う。

滑るオフの上でビビるような乗り味では、ライバルの前に自分に負けてしまう。だからこそ楽しくなるような高性能をバイクに封入したのだ。結果的に速さに変換する術はどのKTMにも受け継がれた美点だ。

晩秋というか初冬の軽井沢まで走った一日、990SM-Tから降りた時の充実感を分析したら、僕の中に残った上澄みはつまりそういうことだったのである。

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