2018年4月20日

MBHCC D3 小宮山幸雄 順逆無一文

第82回「通達」

順逆無一文


第82回『通達』

 警察庁が4月16日付けで、警視庁交通部長や各道府県の警察本部長あてに一通の通達を出しました。
「自動二輪車等に係る駐車環境の整備の推進について」と題されたもので、バイクの駐車環境改善、整備をさらに進めるように、という内容なのですが…。
 
 すでに2010年3月にも同じような題名で「自動二輪車に係る駐車対策等の推進について」という通達を出したことがあるのですが、ご記憶にあるでしょうか。そんな通達が出たことで、その後の二輪車の駐車環境がどうなったかといえば、バイクを使って生活されている方なら身に染みてお分かりですよね。その後もほとんど変わっていない、改善など感じられない。駅周辺など、特に目立つところでは一部に駐車スペースができた、など、改善してきているという実績作りは行われているが…、というのが実感でしょう。本当に必要な、身近な生活環境の中で二輪車の駐車場などは、相も変わらず望むべくもない。新築マンションに駐輪場はあっても、バイク駐車場など端から考慮されていない。そんな状況に置かれているライダー達の不満のガス抜きのためなのでしょうか、再度の通達は。
 
 通達では「自動二輪車が駐車可能な駐車場は増加傾向にある」とか「地域の交通実態に応じて自動二輪車等に係る駐車禁止規制の緩和も進められてきた」との文言が盛り込まれているのですが、実際にバイクに乗っている人間からすれば、「本当に?」「規制緩和ってどこの話?」であって、駐車環境の改善の実感は全くないと言っていいでしょうね。
 もともと好き勝手に駐車していたバイクの一掃を目的に、ある日突然にバイクの駐車環境を壊滅させたことが始まりでした。街中のちょっとした空きスペースに停められたバイクであろうがそこが駐車場でなければキッチリ違反車両として取り締まり。もともと二輪車駐車場などそれ以前の日本には存在しなかったのですから、都市部で二輪車を使った生活は全くといっていいほどできなくなってしまった。
 
 確かに規制以前の“停め放題”“勝手放題”はライダーから見ても目に余るところだったので、なんとかしないとと思っていた矢先の二輪車一斉の締め出しでした。駐車場があるのにそこに停めない違法駐車ならばそれはどんどん厳しく取り締まるべきですが、そもそも停めるべき駐車場が皆無とさえ言えたところに、前日までは軒先やちょっとした空きスペースに遠慮しながら停めていたバイクも、一切合切すべて違法、駐車禁止で取り締まり、を行ったのですから。これは都市部のバイクを根絶させようという意図以外の何物でもないでしょう。
 それゆえ、いくら今回のような通達を出されようと、都市圏でのバイク生活を破壊されたライダーの一人としては「改善に向けていまも努力しています」をアピールするだけの、ただのポーズとしか思えないのが今回の通達です。
 
 以下に、皆さんがご自分で判断いただけるように、通達の全文を掲載しておきます。
                ※

警視庁交通部長 殿
各道府県警察本部長 殿
 
警察庁丁規発第52号
平成30年4月16日
警察庁交通局交通規制課長
 
 
  自動二輪車等に係る駐車環境の推進について
 
 みだしの件については、これまで、「自動二輪車に係る駐車対策等の推進について」(平成22年3月4日付け警察庁丁規発第18号、丁交指発第28号。以下「前通達」という。)に基づき取組を行ってきたところである。前通達の発出後、自動二輪車が駐車可能な駐車場は増加傾向にあるほか、地域の交通実態に応じて自動二輪車等に係る駐車禁止規制の緩和も進められてきたところであるが、自動二輪車の保有台数当たりの駐車場台数を見ると、依然として自動車(四輪車)に比べて少ない水準にあり、特に大都市において自動二輪車等の駐車場が不足している状況にある。
 そこで、交通の安全の確保に最大限配慮するとともに、他の交通の妨害にならないことを前提に、下記の点に留意し、引き続き、関係機関等と連携・協力しながら、自動二輪車等に係る駐車環境の整備を推進されたい。
 なお、前通達については廃止する。
 
                記
 
1 駐車場の整備に向けた働き掛けの推進
 
 交通の安全と円滑の確保を担う交通警察としても、自動二輪車又は原動機付自転車(以下「自動二輪車等」という。)が駐車可能な駐車場の整備は重要な課題であることから、自動二輪車等の駐車場需要や地域の交通実態を踏まえ、地方公共団体、道路管理者、民間事業者等に対して、自動二輪車等の駐車需要が認められる場所において、既存路外駐車場における自動二輪車等の利用を可能とする設備等の整備や自動二輪車等が駐車可能な路外駐車場の新設が図られるよう働きかけること。
 また、市区町村に対して、自動二輪車等が駐車可能な駐車場の附置に係る条例の整備について働きかけること。
 
2 自動二輪車等に配意した駐車規制の見直しの推進
 
 自動二輪車等を対象から除外しない駐車禁止規制を行っている路線のうち、自動二輪車等の駐車需要が高いと認められるにもかかわらず、周辺に自動二輪車等が駐車可能な駐車場が十分に整備されていないものについて、一般に自動二輪車等の車体は四輪車と比べて小さいことを踏まえつつ、駐車禁止規制の対象から自動二輪車等を除外する見直しが可能かどうかを検討すること。また、当該路線の交通実態に応じて、駐車禁止規制の廃止、自動二輪車等を対象とする駐車可規制及び駐車方法の指定、自動二輪車等を対象とする時間制限州茶区間規制の実施等による見直しの可否についても検討すること。
 なお、点検にあたっては、自動二輪車等の駐車需要がより高いと認められる路線及び歩車道の区別のある路線から優先的に点検を実施すること。また、駐車禁止規制の廃止又は変更を行うこととなった場合には、必要な道路標識等の整備を行うとともに、地域の実情に応じ、自動二輪車等の利用者に向けた広報を実施すること。
 
3 留意事項
 
 本通達は、現に必要があって自動二輪車等を含む駐車禁止規制を実施している場所における自動二輪車等に対する交通指導取締りの取扱いを変更するものではないことに留意すること。
 また、本通達の取組結果については、別途指示する年度末報告等により、警察庁交通局交通規制課宛てに報告すること。
 
             ※(以上、通達)
 

 一度出来てしまった二輪車に対する規制が緩和されたり、廃止されたりすることなどは極々稀で、しかも緩和されたとしても実際には規制の意味がすでに無くなってしまっていたり、また緩和されるまでには長期の歳月がかかること、などはライダーの皆さんなら身に染みてご存じのはず。
 失礼だがこんな紙っ切れ一片の通達が出たところで、うるさい、危ない、迷惑…な存在であるバイクを追い払えた当局の皆さんが、いまさら進んでバイクの駐車環境の改善に本気で乗り出すとは到底思えないですね。今のままの方が爆音をまき散らすバイクや、傍若無人な走り方をするライダーを生活環境から効率的に遠避けられているのですから。あえて現状を変える行動を、それも民間事業者にまでも要請するなど、どれだけ実効性を持った通達なのかが分かろうかというもの。
 
 現実のバイクの駐車環境の実態を知りたければ、当局の皆さんも1週間なり、1か月なり毎日、公共交通機関を使わず実際にバイクのみを使って都市部で生活をしてみていただければはっきりと理解できるはず。
 すぐさま違反者の仲間入りとなり、遵法であろうとすれば行動範囲の大半を諦めることになり、いかに社会から疎外されている存在なのかを実感されるはず。こんな状況でもクルマと同様に各種の自動車関連の税金を負担させられてることの意味すら考えさせられることになるでしょう。
 
 考えてほしいのは駐車問題だけじゃない。バイクに対する矛先が駐車規制だけで済んでいる思っているのなら、それはちょっと甘いのではないでしょうか。確かにこれはこれでバイクの生活権を脅かす重大問題ではありますが、すでに用意されていると思われる第二の矢は、傍若無人なすり抜けライダーの存在でしょう。事故の多発を口実に、幹線道路からの二輪車締め出しもこのままでは十分に考えられますね。事故防止のお題目を持ってすれば実現不可能なことなど何も無いでしょう。実際に駐車規制でバイク締め出しを実現させているのですから。かつて、たかが数百の暴音族を個々に取り締まる手間を惜しんで、無謀にも全ての二輪車の通行規制を行った前科のある当局のことですから。バイク駆逐への次なる一手を考えていない、などと思っていられる方が不思議です。
 
「たまの休日に、観光地までツーリングするのが楽しみ」。そんなバイクの使い方のみが許される時代が来るのでしょうか。高速道路の乗り放題プランなどもそんな趣味の使い方としてのバイクを後押ししていますね。都心部に乗り入れさせない駐車規制で生活バイクは極力排除し、バイクはあくまで趣味の世界だけに閉じ込めておけばいい。そんな意図まで感じてしまった今回の“通達”でした。
 
(小宮山幸雄)
 


小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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